1-2変化×軋轢×和解


 その日を境にマヌルトとグラッタは友達になりました。

 マヌルトは広場の友達と一緒におもちゃで遊ぶようになります。


 グラッタはマヌルトを連れて、作った本を読み聞かせに町を回りました。

 グラッタが人を集めて、マヌルトが書いたお話をします。グラッタが話しだすと、観客は彼にくぎ付け。グラッタの目まぐるしく変わる表情と、まるでお話の世界が見えるかのような、身ぶり手ぶりに、見ている人の顔もコロコロ変わっていきます。黙っている時でさえ目が離せません。マヌルトはグラッタの話にいつも驚かされました。お話を終えた後、本を買ってくれる人が少しずつ増えていきました。マヌルトとグラッタの興行は盛況でした。その名声はついに隣町まで伝わります。マヌルトの話を楽しみにしてる人は、もうグラッタだけじゃありません。



 グラッタはマヌルトの家に遊びに行きました。お母さんのマリータがグラッタを歓迎しました。


「あなたがグラッタね!最近のマヌルトはあなたの話ばかり。『グラッタはすごいんだ!』『グラッタと隣町まで、お話に行ったんだ!』って。マヌルトと仲良くしてくれてありがとう」


「ハハハ。お母様、こちらこそ。僕も楽しいんで」


「母さん!またお話書いたんだ!」

「フフフ。私が話の中に出てくるんだ。」


 マヌルトは机に走っていった。


「グラッタ。画用紙に絵の具。ごめんなさいね」


「とんでもない。これはマヌルトが手に入れたものです。本と交換したんです。どうか、気にしないでください」







 しかし、しばらく経つと二人の間に変化が起こります。


 マヌルトはグラッタを避けるようになりました。グラッタが話しかけても、ムスッとした返事ばかりです。みんなとおもちゃで遊ばなくなりました。さらにマヌルトはグラッタの語り聞かせの誘いを断るようになりました。


 グラッタが家に帰っていると、帰り道にある公園でマヌルトが地面に絵をかいています。



 グラッタは苛立って、マヌルトのもとに駆け寄りました。


「なぁマヌルト、僕は君に何かしたか?教えてくれよ」



「何もしてないよ」



「画用紙を使って書かないの?」



「いいじゃないか。何に描いたって僕の勝手だろ?地面に描きたい日だってあるよ」



「僕とお話を読みに行くの、いやになったの?」



「僕には合わないんだ。にぎやかすぎるのも、みんなの前に立つのも。静かな一日を送るほうが好きなのさ」



「そうかい。でもなんで僕に怒ってるのさ?」



「怒ってない。いや、わからない。でも...何か...嫌なんだよ。君が近くにいると悲しい気持ちになるんだ。むかつくんだ」



「むかつく...?何もしてないのにこんなの...僕だってむかつくよ!何でこんなに冷たくされるのさ?」




 マヌルトは書くのやめて立ち上がり、グラッタを睨みつけて強い調子で答えました。



「君と一緒にいると、僕が僕のことを嫌いになるんだよ!



 君はみんなが持ってるおもちゃを全部持ってる。僕は最近母さんが買ってくれた一つだけ。


 いや、君は何かを欲しいと思えば、手に入れられる。僕に画用紙や鉛筆を送ることだってできる。

 でも僕にはそんなことはできない。いや、そんなこと、考えもつかない。


 君はいつも友達の真ん中にいて、僕はその外にいる。


 僕が作った話を君が話すと、みんなが夢中になる。僕が話しても何も起きない。だいたい、話を聞かせに回るなんて、思いついたって僕には出来やしない。


 僕は自分のことで頭がいっぱいなのに、君は他の人のことを考えることができる。人にやさしくできる。君はなんていうか...僕よりずっと大人びてる。


 わかる?君と一緒にいると自分のことが嫌になってしまうんだ。するとなぜだか、君のことまでどんどん嫌になってくる。苦しいんだよ...

 」




「...そうか。


 ...ぼくだって君をうらやむよ。きみは人を楽しませる話が作れる。君はすでに君を活かす道を1つ、みつけてるじゃないか?僕にはそういうものがない。


 君は自分が好きなものを大切にできる。君はお話を書き続けてる。でも僕はすぐに退屈してしまうから、すぐ新しいおもちゃが欲しくなるし、別の遊びを探してしまう。」



「それにだよ...僕のおもちゃだって、見方を変えれば、別に僕が頑張って何かして手に入れたものじゃない。パパとママのおかげさ。


 人にやさしくできるも違うよ。自分のことばかり考えてるけど、自分のことに真面目じゃないんだよ、たぶん。だから人のことに、目が行っちゃうんだよ。それに、誰かに何かしてあげるって、僕には楽しいし、気持ちいんだよ。僕は自分が楽しくなりたいから、気持ちよくなりたいからやってるだけなんだろうさ。ほら、他人のためじゃなさそうでしょ?...結局退屈しのぎなのさ、僕なんて...

 」



「そんなことないさ」


「...あぁっ!僕って何もない!」


 グラッタはうわんうわんと泣き始めました。「僕はこれができない」「あれができない」と挙げていきます。



 マヌルトはグラッタに申し訳なくなりました。

 マヌルトは、小さくなったグラッタの隣に座って、うなずきながら落ち着くのを待ちました。



「君の足跡は丸くて魅力的なのに、僕のは細長くて、何だかそれがいじわるなコックに見えてしまうんだ。うわぁぁ...


 ....ふぅ。スッキリした。何の話だっけ?



 そうだ。



 マヌルト。つらいなら無理に友達でいることないよ。

 でもね、勘違いや、言葉が足りないってだけで、友達じゃ無くなるのは嫌だ。だから僕の話を聞いてくれ。」




「君は僕たちが友達じゃないための『わけ』が欲しいわけじゃないよね?」



「ちがうよ」



「『わけ』があったら僕たちはお互いを気づかえない?」



「...ちがうよ」



「ぼくは本当は君をねたみたくない。僕は君ができることを喜びたい。」



「ぼくもさ」



「マヌルト。僕たちはこれからもいろんな事を知ったり、信じさせられたりして、頭がごちゃごちゃしていく。そうなると、目が曇ってしまって大事なものがぼやけて見えなくなっていくみたいなんだ。


 僕たちはできることできないこと、もってるものもってないものに、心を攫われてしまうこともある。大事なものにくらべたら、数も沢山にみえてしまう。今は少しだけ、目が曇ってしまってるだけさ。でもこうして話せばわかってくるじゃないか?


 どれも僕たちが友達でなくなるほどの『わけ』になったかい?気持ちを話し合うと楽になったろ?


 今を一緒に過ごしたい。それだけで十分さ。


 目には見えないから、信じることが難しい時もある。でも大事なものはたぶん、思ってるよりずっと近くにあるんだ



「...僕、自信ないよ。僕が君を羨ましがったり、妬んだりすることはなくならないと思う。あるいは逆だってありえるよ。僕が持ってて、君が持ってないものがあったとき、僕はそれに喜びを感じてしまうことが、ほんの一瞬でも、あるかもしれない」



「君と僕が考えていることを話し合って乗り越えられる。話し合った結果、何が起こるかはわからない。でも言葉を交わそうとすることさえ止めなければ、僕たちは大丈夫だよ」



「...かなり面倒くさそうだね」



「本当だね。ハハハ。」


「フフフ」

笑いだしたグラッタを見て、マヌルトも思わず笑ってしまいました。



 「さて。いっぱい話したらお腹が空いたよ」



「...僕んちで食べてく?」



「うん。パパたちに伝えたらすぐいくよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キッサマス! 松川 真 @kanari_garusia

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ