第39話 第四位の魔人と第五位の魔人

「人間の国に認められる……? それは一体どういう意味だ?」


「まあ、一言で言うのも難しいアル。私が人間の国に認めてもらうと言っても、それは国そのものというよりもその国に住む人間達に認められるという意味ネ。ちなみに何を持って認められるかは具体的には指示されてないアル。ただ一つ、その方法において『魔人の驚異』として認められることは論外ネ。つまりは力づくや恐怖などではなく、もっと人が人を認めるような行為……お前達の社会で言う勇者とか英雄みたいな感じアル。そのような感じで私が一つの国に認められれば、私の『天命』は果たされるアル」


 なるほど。つまりは人間社会において、その存在が英雄的あるいはそれに近い形で認められなければいけないのか。

 そして、その手段として『魔人』という驚異で認められても意味がない。

 これは確かに『天命』というだけはあって、かなりの無理難題だ。


 そもそも相手は魔人。

 一目見ても目の前の少女ミーナが人ではない異形の力を持った存在であることは分かる。

 これは恐らく彼女が『魔人』という称号を持っているせいだろう。おそらくそのおかげで人間からすれば彼女の存在は一目で自分達に害をなす魔人であるとバレる。

 その上で、彼女を人間社会において真っ当な評価を与え認めさせる。

 普通に考えれば不可能だ。

 というか、彼女が単身人間の国に降り立てば、それだけでその国はパニックになる。

 まず受け入れるというその第一関門がそもそも成り立つのかどうか……。こいつは想像以上に厳しいことになりそうだ。

 そんなオレの苦悩を知ってか知らずか、ミーナはオレを見ながら問いかける。


「それでどうするアルか? 協力するか、それとも同盟はなしにするアルか?」


 こちらを試すように問いかけるミーナ。

 とはいえ、こうなった以上は仕方がない。


「……分かった。できる限り協力するよ」


「さすがネ。では、同盟成立アル」


 そう言ってミーナはすぐさま部下に契約書のようなものを持たせるとそれに自らの血によるサインを記す。

 するとサインになにやら魔力のようなものが込められ、それがミーナと結ばれたのが確認できた。


「これは魔国の契約書。これに血を持って契約すれば、この契約書における誓いは破れなくなるアル。さ、お前もするアル」


 見ると契約書にはオレ達ウルド領と同盟を結ぶこと。その間、互いの領土に手を出さないことが記されている。

 他にもなにかないか確認したが特にあやしい1文はなかった。

 念の為にリリムにもサインの確認とミーナの心を読んでもらったが何かを企んでいる様子はないとのこと。

 さすがにここで小細工はしないようだ。噂通り、こうした契約には誠実な魔人のようで助かる。

 しかし、意外だったのが契約の内容にミーナの『天命』を果たすことが書かれていないことであった。


「ミーナ。この契約書には『天命』についての記載がないがいいのか? これだとオレ達が途中でお前の『天命』協力を最後までするかどうか分からないぞ」


「それならそれで構わないアル。そもそも私のこの『天命』が本当に果たされるかどうかは分からないから、それを条件に付け加えるのはフェアじゃないある。とりあえずはお前の頑張りに期待するアルけど、もしもダメならその時はその時アル」


 意外にもミーナはこちらに協力を頼む割には『天命』を果たせるかどうかの自信はないようだ。

 もしかして、人間のオレ達が協力してくれるからそれで一応試そうという程度のものなのだろうか?

 まあ、先ほどミーナも言っていたが『天命』はむしろ果たされない方が多いらしいからな。むしろ魔国を統一しても魔王の称号は得られるわけだから、彼女からしてみれば魔王への昇格は魔国を統一する前か後かの違いくらいしかないか。


「さて、それじゃあ同盟も締結したアルから早速行動開始アルよ」


「え、もしかして今からもう人間の国に向かうのか?」


 オレが血の契約を済ませるや否や、即座に立ち上がるミーナ。

 まあ、一応空間転移のスキルがあるから、すぐにでも人間の領土に戻ることは可能だが……。


「違うアルよ。まあ、人間に国にもすぐに行くつもりアルが……そうすると私もお前達もいなくなって、ウルドとイゼルの守りが薄くなるアルよ。だからその前に敵に牽制を仕掛けておくアル」


「牽制……?」


「分からないアルか? これからベルクール兄上に会いに行くアルよ」


◇  ◇  ◇


「にゃはははー。まさかミーナお姉様と会ってすぐにベルクール兄様にも挨拶に行くとは思わなかったのだー」


 そのミーナの発言通り、現在オレ達はミーナと共にここアゼル領土へと来ていた。


 そこは領土と呼ぶにはあまりに奇怪な場所であった。

 なぜなら目の前にあるのは巨大な穴。

 それこそ東京ドームの倍以上はある巨大な穴。

 底が見えないほど深く、広い穴が地面に穿たれており、その穴には無数の窓、光が点っている。

 どうやら穴の周囲に円状の空間、通路などが形成されており、それが地下深くまで無数に広がっている。


 言うなればこれはアンダーグラウンド。

 ウルドが山を土壌とした天へと登るほどの領土だとするなら、イゼルは果てしなく横に広がる領土。

 そして、このアゼルは地下深く広がる無限の領土。

 それぞれに異なる領土の幅を見せ、つくづく魔国における国や領土の体制というものは面白いと感心する。


「ベルクール兄上はこのアゼルの最下層にいるアル。と言っても普通の方法では会えないアルから、向こうから使者を送ってもらうアルよ」


「使者って……大丈夫なのか? アゼルとイゼルは今どちらが魔国の支配を握るかで争っているんだろう? そこにイゼルの支配者である君が来たら……」


「大丈夫アル。すでにベルクール兄上にはあくまでも話し合いのために来たと言っているアル。向こうもいきなりそこで決着はつけるつもりはないアルよ。それに、そのためにお前達や私、更には私が抱える『第四位』の魔人にも来てもらったネ」


 そのミーナの発言と同時にであった。

 彼女の背後よりミーナより小柄な少女が姿を現したのは。


「ふっふっふっ。はじめまして、皆さん、それからそっちのお兄ちゃん」


 それは金の髪をなびかせるミーナとは全く違う衣装を身にまとった少女。

 ミーナが中華をイメージしたチャイナ服なのに対し、少女の服装は西洋のドレス。それもいわゆるゴスロリと呼ばれるドレスを着込んでおり、あまつさえその手にはフリルのついた傘まで握っている始末。

 普通ならそれほどの派手な服を着れば、逆に衣装負けしてしまうところだが、少女の透き通るような白い肌と金のツインテール。更には幼いながらも、それに不釣合いな美貌を宿した顔は衣装負けしないどころか、まるでその服を服従させているかのように似合い、蠱惑的な笑みを浮かべオレを見つめる。


「アタシの名前はソフィア。こう見えて『第四位』の魔人でミーナ様の副官です。これからよろしくね。特にそっちのお兄ちゃん」


 そう言ってソフィアと名乗った少女はなぜだかオレに顔を近づけ、耳元で舌なめずりしてくる。

 な、何なんだこの子。えらくオレを意識してくるな。

 というか気のせいだろう。この子とは初対面のはずなのだが、どこかで会ったような印象がある。

 そんな奇妙な感覚にオレが囚われていると突然背後より声がかかる。


「あー、マジでこれ来ちゃってるしー。超だるいんですけどー。つーか、イゼル&ウルド魔人勢ぞろいしてて草なんですけどー。うち、帰っていいっすかー」


 なにやら独特……というか明らかにギャル系みたいな声が聞こえ、慌ててそちらを振り向くと、そこにはとんがり帽子に黒ローブとまるでイストのような魔女の服装をした女性が立っていた。

 ただし、その体型はかなりグラマスというか足はモデル並に長く、ミニスカートの今にも見えそうなきわどい服で目のやり場に困る。


「えーと、き、君は?」


「あー、うち? ベルクール様よりアンタ達の案内役を任された『第五位』の魔人リアみたいなー。っていうかー、そこにうちの知り合いがいてマジうけるー、みたいなー」


 と自らを『第五位』の魔人と名乗った女性リアはオレの隣に立つイストを指して、そう告げるのであった。

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