第38話 天命

「それで同盟についての話アルな」


「ああ、オレの名前はユウキ。今はこっちにいるリリムからウルド領の支配を委任された魔王だ」


「そうみたいアルな」


 オレ達の姿を確認するとミーナは用意させていた椅子とテーブルに座るようオレ達に促す。

 オレ達が座ると傍に控えさせていた侍女らしき者達にお茶を用意させる。どうやら、噂通りミーナは礼節を持った魔人のようだ。

 まあ、先程から語尾が少し気になってはいるが……。アルって。


「それで同盟の話アルな」


「あ、ああ。先に書状で伝えたとおり、オレ達ウルドは君達イゼル領土と手を組む。その後、アゼルとの戦争にも協力したいと思う。無論、その間はイゼルもウルドも両勢力とも停戦条約を結んでアゼルを倒すまではお互いの勢力に攻撃を仕掛けない。そうした同盟を結びたいがいかがだろうか?」


「ふむ。確かにそちらの提案は魅力的アル。現状、私達とアゼルの勢力はほぼ互角ネ。そこにお前達の戦力が加わればアゼルと言えども落とせる可能性は高いアル」


 オレの提案に魔人ミーナは考えるような素振りを見せる。

 やがて、何かに納得したのか頷くようにミーナは告げる。


「いいアル。その同盟結んでもいいアルよ」


「本当か! なら、早速――」


「ただし、条件がアルね」


 ミーナからの承諾を受けて、ほっとするオレ達であったが、続く彼女のセリフに固まる。


「条件……?」


「そうネ。これを飲めれば同盟を締結するアル」


「……どんな条件だ?」


 ミーナからの条件に思わず構えるオレ。だが、次に告げられたセリフにオレは思わず首を傾げる。


「私の『天命』を果たす協力をするアル。それが条件ネ」


「天命……?」


 なんだろうかそれは? 思わず聞き覚えのない単語に首を傾げるオレであったが、それを聞いた瞬間、リリム含むリザードマンやウルドの魔物達の表情が変わる。


「なっ!? ミーナ様、正気ですか!? 天命を果たすつもりですか!?」


「にゃははははー、やっぱりタダでは同盟を飲んでくれないとは思っていたのだがー『天命』とはー。さすがはミーナお姉様なのだー。抜け目ないというか、滅茶苦茶な協力なのだー」


「当然アル。この同盟が終われば、次に戦うのはお前達になるアル。最もその戦に対し負けるつもりはないアルが、私は万全を期す。この条件を満たし、私自身の立場と力を強化してからこの魔国を統一するアル」


 なにやら口々にミーナが告げた『天命』という単語に対し、反応を示すリリム達。

 だが、オレを含むイストや裕次郎達には一体何のことかさっぱりである。


「すまないが、魔人ミーナ。その『天命』というのはなんなんだ?」


「なんだ、お前。魔王の称号を持っているのに天命について知らないアルか? ……まあ、確かに最初から魔王の称号を持っていれば、そこに至るための経緯を知らなくても仕方ないアルか」


 そう問いかけるオレにミーナは意外そうな顔をするがすぐに解説をしてくれた。


「『天命』とはその名の通り、その者に与えられた試練。天よりの命令アル。これは『魔人』の称号を得た者が与えられる試練ネ」


「試練?」


「そうアル。お前、なぜ私達、魔人が人間の領土を襲ったり、この魔国を統一するために内乱をしているか分かるアルか?」


「なぜって……そりゃ、人間を襲うのは魔人というか魔物の本能みたいなものだろう? この魔国統一にしても自分が王になりたいからとか……」


「それもあるが一番は魔人の上にある称号『魔王』になるためネ」


「魔王に?」


 その単語にはオレも思わず反応する。


「そうネ。魔王になるための手段はいくつかアルね。たとえば魔人の称号を持つ者がある一定以上のレベルに到達すること。とはいえ、これは非常に難しいアル。私もそこにいるミーナもレベルはすでに二百を超えているアル。けれど、未だに魔王に到達するにはレベルが足りないアル。当然ながらレベルが高くなればなるほど、次のレベルに上がるのは難しいアル。多くの魔人が自分のレベルを上げるために人間の領土を襲い、そこにいる人間の英雄達を殺すのは自らのレベルを上げて魔王に到達するためネ。前にお前達の領土を襲った魔人ゾルアーク。あいつがそのいい例ネ。あいつは独自に魔王になるのを目指し、そのための手段としてレベルアップを目指して単独で人間の領土を襲っていたアル。まあ、結果は返り討ちだったみたいネ」


 そういうことだったのか。だから、あの魔人は人間側の領土に侵攻して、砦にいた人間を襲い、あまつさえその血や肉を喰らうようなことをしていたのか。

 あれは単なる虐殺ではなく、自分のレベルを上げて魔王に到達するための手段の一つだったのか。


「ちなみに二つ目の方法はこの魔国の統一アル。この魔国を一人の魔人が支配した時、その魔人は魔国という領土そのものに認められ、その結果として『魔王』の称号を得られるアル。だから今、私もベルクール兄様も互いに魔国統一のために争っているアル。これは魔国を統一するだけではなく魔王へ進化するための手段でもアルからネ」


「なるほど。確かにそれならレベルアップを目指すより魔国を統一した方が魔王の称号も得られるから結果としてはスムーズか」


「まあ、けれどその魔国統一も簡単ではないアル。魔人は必ず同時期に複数現れる仕組みになっていて、これも『天命』の一種と言われているアル。つまり、レベルアップも他の魔人を押しのけて魔国を統一するのもどちらも相応に大変ってことアルよ。けれど、この二つ以外にもう一つ簡単に『魔王』になれる手段がアルね。それが『天命』ね」


「その『天命』ってのは一体なんなんだ?」


「要するに“その者にとって最も困難な課題”。それを達成した時、その者は無条件で『魔王』の称号を得られるアル。それもレベルアップや魔国統一をしなくてもネ」


 マジか。つまり『天命』ってのは最短で魔王の称号を得られる試練みたいなものか?

 それはすごい。ちまちまレベルアップや他の魔人を倒して魔国を統一しなくても魔王になれるんだろう。なら、皆その『天命』ってのを果たせばいいんじゃないのか? そうオレが思うとそれに気づいたのかミーナが首を振る。


「けれど、その『天命』を果たすのは簡単なことではないアル。これはその者によって課せられる『天命』の内容が異なるアル。そして、その全てが“その者に取って一番の困難な課題”アル。人によって『天命』を果たすよりも地道にレベルアップを目指したり、魔国統一をした方が早いと感じるネ。実際、歴代の魔王の称号を得た魔人達もこの『天命』によって魔王になったのは数えるほどしかいないアル」


「つまり、それほどの無理難題が『天命』ってことか」


「そういうことアル」


 で、それをオレらが手伝うのが条件だと。

 こいつは参ったな。聞く限り、それを手伝うのは魔国統一以上に厄介な内容になりそうだ。しかも、それを果たせば目の前にいるミーナの称号は魔人から魔王に進化する。それはつまりオレと同等……いや、下手したらそれ以上の存在になるということ。

 なるほど。さっきリリム達がごねていた理由が分かった。

 そうなってしまえば、仮にこいつと協力してアゼルを倒しても、オレ達は自分達で育てた最強の敵を相手にしないとならなくなる。難儀なことだ……。


「どうするか? この条件を呑むなら同盟締結アル。無論、お前達に危害は加えないアル。なんなら、魔国統一後もウルドは独自の勢力としてその存在を認めてやってもいいアル。リリムも私に歯向かわないなら見逃すネ」


「にゃはははー、さすがはお姉様なのだー。一応心読んだけど、これマジで言ってるのだー」


 それは恐らく魔王となった自分にそれほどの自信があるということだろう。

 正直、その条件で手を組むのはこちらとしては色々と不安がある。が、仮にここでアゼルと手を組むことになっても似たような条件を出される可能性も高い。

 現状オレ達の戦力ではアゼルとイゼルにまともにぶつかるわけにはいかない。

 となれば、やはり彼女と組むしかないか。幸いというべきか、リリムが心を読んでくれたおかげで仮に彼女が魔国を統一してもウルドを滅ぼす気はないと分かったのだから。


「……分かった。その条件で同盟を結ぼう。けれど、その前に一つ。こちらも伺いたい。その肝心の君の『天命』の内容について教えてくれないか? その内容次第ではオレ達では力になれないこともある」


「それなら安心するアル。これはむしろお前達でなければ協力出来ない内容アルよ」


「? どういうことだ?」


 ミーナの意外な一言に疑問符を浮かべるオレ達。

 だが、その答えはすぐさま告げられた。


「私に課せられた『天命』の内容。それは――『人間の国に認められることアル』」

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