第37話 魔人ミーナ

「確かにミーナお姉様なら同盟にも乗ってくれるかもしれないのだー」


 リザードマンの発言に隣にいたリリムは「うんうん」と頷く。


「そのミーナというのはどんな魔人なんだ?」


 問いかけるオレに対し、リザードマンは少し考えるようにして答える。


「そうですね。一言で言えば真面目でしょうか。彼女は亡きガルナザーク様の意思を最も尊重した魔人と言われており、そのために自らがこの魔国統一を成し遂げようとしています。その統一も粗野な支配などではなく厳粛な管理体制と聞きます。また仲間同士の裏切りを嫌悪するという武人のような気質も持っております。戦いも正面から堂々。このためミーナ様の配下にいる魔物達の結束はとても強いのです」


 へえ、魔人にもそんな奴がいるのか。

 聞く限りじゃ立派に王として自分の領土を管理しているみたいだな。


「ちなみにそのミーナって魔人は人間に対してはどうだ? 好戦的なのか?」


 だが、問題はここだ。

 魔王の魂を取り込み、魔王の称号を持っているとは言え、オレはあくまでも人間。それにそのミーナって魔人が人間に対し敵対的ならば魔国を統一したあとは必ず人間の領土にも侵攻するだろう。

 そうさせないためにもまずはミーナの人間に対する感情を聞いておかないと。

 しかし、オレの質問に対しリザードマンはなぜだか首を傾げる。


「それが……よくわからないのです」


「? どういうことだ」


「ミーナ様は先代魔王様を慕っておりました。そのため、人間に対する復讐や恨みの感情はおそらくあるとは思うのですが……あまりそういうのを表に出さないタイプでして……。ただ人間に対して魔人達の中で最もよく勉強しておりました。それこそ人間側の知識や考え方、どういった社会構造をして、彼らの歴史にどういったものがあったのか。現在の六魔人の中で最も人間に精通しているのは間違いなくミーナ様です。現にそうして得られた人間側の知識を使い、ミーナ様は自らの領土における様々な掟や鉄則を作り、それによってあのお方が治めるイゼル領土は魔国にあって最も安定した領土と言われております」


 ほお、なるほど。

 だから統治もしっかりとしているというわけか。

 確かに人間社会における知識を蓄えているのなら、厳粛な管理体制というのも頷ける。

 聞く限りこのウルドよりも、そのミーナとやらが治めるイゼルの方がよっぽど住みやすそうだ。

 というか、このウルドの管理ってどうなってるんだ? と思わずリリムに聞くと。


「にゃははー! 基本放置なのだー! 下の魔物達は大体好き勝手させているぞー! とはいえ、中層以上はあまり勝手をしないよう注意はしてあるのだ。けれど、それ以外の連中は放任だから、たまーに人間領土に襲いに行く連中もいるのだー」


 ああ、なるほどね……。むしろ、これが正しい魔国の統治なのね。

 うん。とりあえずこのウルドの管理に関してはリリムよりもオレやイストとかがした方がマシになりそうな自信が出てきた。


「お父様ひどいのだー! 私はアホの子じゃないのだー!!」


 とそんなことを思っていたら心読まれてツッコまれた。

 あかん。読心術相手にやっぱうかつなことは思えないわ。


「それで話を戻すが、そのミーナという魔人は儂らが同盟を持ちかければ、それに合意して休戦協定も結ぶと思うか?」


 一方で先程の話に戻すべくイストがリザードマンにそう質問する。


「おそらく可能性は高いかと。ミーナ様は合理的判断を下せる方です。我々の戦力が加われば、目下最大の敵勢力アゼルを上回る戦力となります。停戦の条約につきましても先ほど言った通り、ミーナ様は生真面目な方ですので我々と結んだ条約を一方的に破棄することはないでしょう」


「なるほど。確かに魔国において、自らそのような法や掟を作っている者じゃ。それを破るようなことはせぬか」


 リザードマンからの返答に頷くそうイスト。

 他のブラックや裕次郎達も納得したように頷いている。


「というわけじゃが、お主はどうするユウキ? 言っておくが儂は先程のお主の提案を支持する。そちらのリザードマンからの情報を鑑みて、ミーナとやらと協定を結ぶのは大いにありじゃと思うが」


「オレは難しいことは分かんないっすけど、ユウキ様の作戦には従うっすよ」


「ですね。私も主様の策を遂行するべきかと。同盟後、アゼルを滅ぼした後、連中が牙を向いてくるようなら、即座に寝首をかけばいいだけです」


「そうですね。少なくとも正面から二国にぶつかるよりはユウキ様の作戦を遂行する方がこのウルドのためになるかもしれません」


「にゃはははー、そういうことなのだなー。私もお父様の作戦に従うのだー」


 イスト達の他にもリザードマン含む魔物達が頷く。

 というか何げにブラックが黒いことを言っていて怖いんだが。


「分かった。それじゃあ、まずはイゼル領土を治める魔人ミーナと会い、彼女と直接協定を結ぼう」


◇  ◇  ◇


「ここがイゼル領土か……」


「ほえ~、すっごい高い壁がずらりと並んでるっすねぇ~……あれってまるで万里の長城っすよ」


 そう言って目の前の巨大な壁を眺める裕次郎。

 彼の言うとおり、今オレ達の前に万里の長城とも呼ぶべき地平線に広がる巨大な壁。石造りの城が存在した。


 リリムとリザードマンに案内され、イゼル領土に来たオレ達であったが、イゼル領土は山をそのまま城としたウルドとは異なり全長およそ150メートルはある巨大な壁のような石造りの建物が地平線の彼方までずらりと並んでいる。

 高さはおおよそ150くらいだとしても横の長さは不明である。というか目視できないほど広がっている。幅は不明だが、リリム曰く幅もそこそこあるが、イゼルの特徴はこの横の長さ。

 ウルドが山脈そのものを領土としているのに対して、果てのない横の長さの城、領土を実現したのがイゼルと言われ、このためイゼル城のどの部分に何があるのかが不明。攻めようにもミーナがいる場所がこのだだっ広い壁のどこにいるのかが分からないため、ある意味難攻不落の城、領土となっているらしい。

 うーむ。魔国は本当に変わった国を形成してるんだなと感心する。

 そうこうしているとオレ達の方へと数人の魔物達がやってくる。

 見ると全員青白い肌に背中から黒い羽を生やしたいかにも魔族と言った出で立ちの人物であった。

 だが、奇妙なことに全員なぜか中国服――というかチャイナ服、アオザイと呼ばれる服を身にまとっていた。


「ようこそ。話は書状にて伺っております。我らの王ミーナ様に同盟の話があるとのことですが」


「ああ。オレはユウキ。現在はここにいるリリムに変わってウルドの支配者となっている。君達ならすでにわかっているかもしれないがオレは魔王の称号を持っている。その上で君達の王である魔人リリムと同盟に関する話し合いをしたい。お願いできるか?」


「にゃははー、私からもぜひ頼むのだー」


 オレとリリムがそう言うと迎えの者達は懐からなにやら護符のようなものを取り出すとそれを地面に向けて放り投げる。すると、そこに魔法陣が描かれ淡い光が宙を舞う。


「この陣の中へどうぞ。ミーナ様からのご命令で皆様を迎えるよう仰せつかっております。この転移陣の先にミーナ様がおわす玉座の間につながっております」


 そう言ってオレ達に頭を垂れる案内人達。

 とはいえ、素直にこの中に入っていいものか。一瞬罠の可能性がオレの頭をよぎる。


「だ、大丈夫っすかね~……。これ中に入った途端、オレら襲われないっすか?」


 とオレと全く同じことを思ったのか裕次郎がそう呟く。

 しかし、それを即座にリザードマンが否定する。


「いえ、それはないでしょう。今回我々はあくまでも会談のためにここへ趣いただけです。向こうもそれを承知した上で受け入れています。相手は自らが定めた法や掟を第一とする魔人ミーナ様です。我々から手を出さない限り、仮に協定が結ばれなかったとしてもその席で襲いかかるような蛮行はしないでしょう」


 確かに……そんなことをすればこれまで自分が築き上げたルールを自ら破壊するようなもの。一気に自国での信頼を失う。

 下手をすれば、部下の信頼を失って敵国のアゼル領土に戦力が流れるかもしれないんだ、そんなリスクを犯すほどバカではないということか。

 だが、油断は禁物。

 果たして相手がどのような魔人であるかはこの目でしっかりと確認しなければならない。

 相手が協定を受け入れる以上にオレ達の側も、相手が協定を結ぶに足る人物であるのか、その見極めをしなければならない。

 そう思いながらもオレは目の前の魔法陣を見て、背後にいる皆の顔を見て静かに頷く。


「よし――それじゃあ、行くぞ」


 オレのその合図と共に全員が魔法陣の中に入る。

 一瞬、体がぶれるような感覚と共に目の前の景色が変わる。

 そこは先程までの外の風景とは全く違う、まるで中国ドラマに出てくる宮廷のような場所。

 豪華絢爛な壁や装飾、天井が施されたまさに皇帝が座する玉座の間。

 そんな目を奪われるような景色にて一人の少女が玉座に座っていた。

 燃えるような真っ赤な髪。煌びやかな中国衣装を身にまとったその少女はまるで天女のような美しさを秘め、オレ達が現れると同時に静かにその口を開く。


「よく来たアルな。私がこのイゼル領土を治める王。ミーナ=ミーナ、アルね」

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