第36話 協定

「それでまずはこれからどうするのじゃ?」


 ウルド城にある会議室にて。

 あれからオレ達とリリム、それに彼女の側近とされる数人の魔物達を含めてこの場で会議をしていた。

 無論、会議の内容はこの魔国にあるアゼル領とイゼル領にいる魔人に対し、どう対処していくかだ。


「にゃははー。それなら今いる我々の戦力でアゼル領かイゼル領のどちらかに戦争を吹っかければいいのではないのかー? 以前までならともかく今はお父様もいるのだー! 私とお父様の二人でならたとえ私よりも格上の魔人がいる領土でもなんとかなるのではないのかー?」


 確かにそれもある。

 リリムが言うことが本当なら、相手の領土にはどちらも二人の魔人がいる。そのどちらともリリムよりも格上の一位と二位が支配しており、その下に副官として四位、五位の魔人がいる。

 オレが一位あるいは二位の相手をして、リリムが副官の相手をすればオレ達の勝算はかなりあるはず……だが。


「却下じゃ」


「ええー、なんでなのだー」


 リリムの意見をスパっと切り捨てるイスト。

 まあ、これは少し考えればオレでも分かる。


「よいか。今のように均衡する三つの勢力がある際、一つの勢力が一つの勢力に対して全面戦争を起こすのは愚策中の愚策じゃ」


「なんでなのだー?」


「たとえば我々とイゼル領土が全面戦争したとする。結果はまあ、おそらく我々が勝つかもしれん。だが、問題はそのあとじゃ。完全に疲弊しきった我々に対し、残った無傷のアゼル領土の全戦力が襲いかかる。いくらお主やユウキがいても、魔人を倒した直後、そこを同格の魔人達に襲われればひとたまりもない。さらにお主達だけではなくこのウルドの戦力も問題じゃ。立て続けに二国との戦争をする戦力数はあるまい。つまり、仮にどちらかの領土を落とせても、その直後残ったもう片方の領土が我々と我々が奪った領土を奪い、その領土の一人勝ちとなるのじゃ。故に三国の戦力が均衡している内は下手に戦を仕掛けぬこと。それは常識じゃ」


「なるほどー! 確かにその通りなのだー! 言われてみれば私以外のウルドの戦力も他の二国に負けているし、それだと全滅するのだー! にゃははははー!」


 本当にわかっているのかどうか怪しくなる笑い声を上げながらリリムは頷く。


「しかし、そうなると現状手の出し様がありませんな? 小競り合いでどちらかの戦力を日に日に僅かに奪っていくことくらいしかできないのでは?」


「そうじゃな……。とはいえ、それ以外に大きな動きをすれば他の二国が黙ってはおらぬし。最悪なのは儂らの小競り合いにアゼル領とイゼル領の魔人が手を組み、先にこちらを潰すということをすることじゃ。さすがにこれをされれば儂らのいるこのウルドに勝ち目はなくなる」


 イストのその発言にはリザードマン含む、他の魔物達も息を呑む。

 確かに、現状オレという戦力がこのウルドに来たことでようやく他の二国と戦力が均衡しているんだ。

 もしも、それに他の二国が気づいて協定とかを結ばれて、オレ達の敵になられても困る。


「にゃははは、それなら大丈夫なのだー。ベルクール兄様もミーナお姉さまも両方ともプライドが高いので、あの二人が手を組むなどありえないのだー。むしろ、二人共どちらがお互いを潰すか、それを持ってこの魔国における新たなる魔王宣言をするつもりでいるのだからー」


「そうなのか?」


「そうなのだー。なので、私はそのあとに適当に処分するつもりで見逃されてるのだー。にゃはははー」


 そうなのか。というかさらりと眼中にされてないとかカミングアウトしているが大丈夫なのか? リリム。

 兄妹の中でこのリリムがそういう扱いをされているのか、それともその二人の魔人の強さがこのリリムよりも更に圧倒的なのか判断はしかねるな。

 とはいえ、アゼルとイゼルの領土が手を組む可能性は低いということか。

 それが分かっただけでも安心できる。

 ……いや、だが、待てよ。


「なあ、それって逆にオレ達が出来ないか?」


「? どういうことじゃ?」


 オレの発言にイストを含む全員が奇妙な面持ちで見る。


「つまりさ、そのアゼル領土とイゼル領土のどちらかと協定を結ぶんだ。停戦条約を含む協力体制を」


「しかし、ユウキ様。それではたとえばアゼル領土と組んだ際、イゼルを滅ぼしたとしてもアゼル領はそのまま残った我々に牙を剥くのでは?」


「それならそれで構わないさ。現状、アゼル領もイゼル領もお互いの領土が倒すべき最優先の敵として認識しているんだろう? 実際、オレ達もアゼルとイゼル。二つの勢力がある状態じゃ、どちらかに侵攻するなんて出来ない。なら、いっそのことどちらかに協力して三国の内の一つを倒した後、残った二つの国で雌雄を決した方が早いだろう」


「ふむ……」


 オレの提案にリザードマンは考え込むような仕草を見せるが、それを聞いたイストはすぐさま頷く。


「儂は賛成じゃな。現状、アゼルもイゼルもこのウルドは二の次と思っておるのじゃろう? ならばそれを逆手に取ればいい。同盟を持ちかければおそらくどちらも頷くはず。理由はそれでアゼルとイゼルの均衡が敗れるからじゃ。そして、もう一つの理由としてはアゼルとイゼルのどちらかを滅ぼした際、残る戦力は我々だけとなるが、向こうからすれば我々の戦力を潰すくらい造作もないと考えるじゃろう。そこを逆手にとってうまく立ち回ればいいのじゃ」


「なるほどー! 確かにそれもそうなのだー! 侮られているのをむしろ利用するなんて思いもしなかったのだー!」


 イストの説明に頷くリリム。

 この会議室に集まった他の魔物達もほとんどが賛同するような意見を口にする。


「しかし、そうなると問題はどちらの勢力と組むか、ですな」


「それなんだよなぁ。一応組むのなら信頼できる相手が好ましい。協力体制の時にいきなり後ろから刺されたらせっかくの同盟が無駄になる。少なくともオレ達と同盟を結んでる際は停戦条約を守る相手に同盟を持ちかけたいが……その場合、アゼルとイゼル。どちらと手を組むべきだ?」


 そう言ってオレはリリムとリザードマン達に問いかける。

 正直、これに関しては魔国に精通した者達でなければ答えられない。

 現在、アゼルとイゼルを統治する二人の魔人。それらはリリムの肉親でもある。

 ならば、ここはリリムとそれを傍で見てきたリザードマンの意見が最も信頼できるはず。


「そうですね……。どちらもそれなりに陰謀を張り巡らすタイプではありますが、ベルクール様は中でも底の見えない御方。私もあの御方の真意については未だわからないことが多いです……」


「あー、ベルクールお兄様かー。確かになー。お兄様の思考はよくわからない上に脳内ジャミングで私も心が読めないからなー。あれは難しいのだー」


「となると、やはり同盟を組むのならあの御方でしょうか」


 そう言って考え込むような仕草の後、リザードマンが告げる。


「先代魔王ガルナザーク様の子にしてリリム様の姉、『第二位』の魔人“魔装姫”ミーナ・ミーナ様。イゼル領を治めるあの御方となら同盟関係を結べるかもしれません」

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