第35話 魔王宣言

「ここが上層エリアか」


 リリムに案内されたそこはまさに白亜の宮殿とも呼べる美しい場所。

 一面真っ白な通路が広がり、通路のいたるところには部屋への扉があり、試しに扉の一つを開けてみると、まるで王城の個室のような豪勢な部屋があった。下手をしたら人間の王城よりも、荘厳な作りではないかと思ってしまう。

 またそこに住んでいる魔物達も下層エリアにいた魔物達と比べ、明らかにレベルの高い個体ばかりであり、彼らはオレやリリムの姿を見るとその場で直立不動の敬礼をする。

 その様はまるで王国を守護する騎士団のようだ。さすがに上級の魔物となると品性も高くなっているようだ。

 さしずめ魔物騎士団と言ったところか。


「にゃははは、さて、それではどこに案内しようか。なんだったら、このまま玉座に座ってもらって、私達の指揮をしてくれても構わないのだ」


「いや、リリム。オレはここに先代の魔王が封じたという封印の間を開けるために来たんだ。まずはそこに案内してくれないか?」


「にゃはは、そういえばそうだったのだな。でも、あそこはそう簡単には入れないのだよ」


「? どういうことだ?」


「口で言うよりも見た方が早いのだ」


 そう言ってリリムは意味深な笑みを浮かべながらオレ達を封印の間へと案内するのだった。


◇  ◇  ◇


「ここが封印の間なのだ」


 そう言って案内されたのは上層エリアの最上階。

 そこには巨大な扉がそびえ立っている。

 この先にファナを救えるかもしれない“虚ろ”の情報がある。

 オレは固唾を呑み、そのまま扉を開けようとするが――


「……あ、あれ?」


 開かない。どういうことかオレが力いっぱい押しても引いてもまるでビクともしない。これは一体……?


「にゃははー。そういうことなのだー。その扉には特殊な封印が施されて普通のやり方ではどうやっても開かないのだ」


 とオレの様子を見ていたリリムがそう告げる。

 なるほど。だから封印の間ということか。


「それじゃあ、どうすればこの封印を解くことが出来るんだ?」


「それには先代の魔王ガルナザークから封印の印を受け取った三人の子の解除が必要なのだ」


「三人の子?」


「そうなのだ。魔王ガルナザーク――つまりお父様は勇者に敗れる前、万が一自分が敗れた際、この封印の扉の奥に関する情報が他に渡らないよう、その当時いた三人の子供達にこの扉の封印術式を与えたのだ。で、そのうちの一人が私、リリムなのだ」


「なるほど。つまり、この扉を開くには残り二人のガルナザークの子が持つ封印の印が必要だと」


「そうなのだ」


「で、聞くがその残りの二人ってのはどこにいるんだ?」


「にゃははー、実はそれが問題なのだー」


 オレが問いかけるとリリムは困ったように笑い、ついで傍にいたリザードマンが告げる。


「ユウキ様。この『魔国』では魔人同士による内乱が勃発しております」


「ああ、そんな風な話は聞いた」


「問題はその内乱の首謀者達なのです。現在、この『魔国』は大きく三つの勢力に分かれております。一つは我らウルド領土を勢力とするウルド勢力。次にアゼル領土を勢力とするアゼル勢力。最後にイゼル領土を勢力とするイゼル勢力。これら三大勢力によって魔国は覇権を争い合い、そのトップに立つのが先代魔王ガルナザーク様の子にして三人の魔人なのです」


「ちなみにアゼル領土を治めるのが『第一位』の魔人、長男ベルクール。イゼル領土を治めるのが『第二位』の魔人、長女ミーナ・ミーナ。そして、このウルド領土を治めるのが私、次女のリリムなのだ」


 なるほど。そういうことだったのか。

 しかし、となると数が合わないな。残りの第四位、第五位の魔人はどうしてるんだ?


「残りの魔人はどうなっているんだ? 確か魔人は全部で六人いるんだろう?」


「はい。実はそれが問題となっているのです」


「? というと」


「『第一位』の魔人ベルクールの元には『第五位』の魔人がついており、『第二位』の魔人ミーナには『第四位』の魔人がついているのです。つまり、これによって第一位と第二位の戦力差を傍に控える魔人の実力で補っているのです、更に所有している軍隊の数からも戦力差はほぼありません。事実上、この二国のどちらかが魔国を支配すると言われています」


「ということはこのウルドは……?」


「にゃははー、ご察しの通りなのだー。私の実力は『第三位』、そのため私につく魔人はなく、戦力も兄様達には遠く及ばないのだ。三国による緊張状態と言えば聞こえがいいが、現状、アゼルとイゼルが睨み合いが続いて、その間に我々ウルドが挟まっている状態なのだ。もしも両国が全面戦争に乗り出せばウルドはその勢いに飲まれるのだ」


「リリム様の言うとおりです。魔物の数や兵力においても我々ウルド領土は他の二国に対して大きく劣っています……。しかし、ここにいま三国の緊張を破る戦力が我々につきました」


 そう言ってリザードマンはオレを見る。


「ユウキ様。あなたの実力は紛れもなく魔人の中でもトップクラス。いえ、すでに事実上の魔王様そのもの。あなた様が我らを率いれば三国の勢力図に大きな変化が現れます。アゼルとイゼルもこのウルドが自分達に匹敵する戦力を持ったとすれば迂闊には動けなくなります。さすればどちらかの隙をついて、どちらを取り込めば、それでこのウルドが魔国全土を支配することも可能となります」


 そういうことだったのか。だからリザードマンやリリムはオレを仲間に引き入れようとしたのか。

 少し前のオレでだったら、いくら魔王の称号を持っているとはいえ、こんな魔国の事情に介入しようとは思わなかったであろう。だが、


「……その二国のトップ。お前と同じガルナザークの血を引く二人の魔人を倒して、この場に引っ張ってこないと封印の扉は開かずファナを救う手段も分からないってことか」


「にゃはははー、そうなるのだなー」


 まるで仕組まれたような運命のレールにオレは思わずため息をこぼす。

 やれやれ、イストが言っていたが称号を持つと、その運命に寄り添うような形になるとはよく言ったものだ。

 オレは自由気ままにこの異世界での生活を満喫するはずが、気づけば魔国という魔物の国に来て、そんな彼らを率いて『魔王』として君臨するはめになるとは。

 それにオレが持つもうひとつの称号『勇者』に関しても、争いが起きているこの魔国の戦乱状態をオレの参戦で止めようというのだから、これがうまくいけば魔国に平穏が訪れることになる。

 それはある意味で『勇者』の使命である『世界の平穏』に貢献しているとも言える。

 とはいえ、オレは別に自分の称号に従い、この道を歩くわけではない。

 これはあくまでもオレの自由意思。

 オレの大事な娘ファナを救うための選択。

 そのための戦いなのだ。


「分かった」


 言ってオレは扉を前に宣言する。


「これよりこのウルドの地はオレが魔王となり、それを支配下に置く。とはいえ、これはあくまでもアゼルとイゼルの魔人を倒し魔国を統一するまでだ。そのあとの事はその時に改めて考える。それでいいな、リリム」


「勿論なのだ!」


「このリザードマン。魔王様の命令とあらば、いかなる指示にも従う次第です」


「やれやれ、魔王ノーライフキングの魂を取り込み、さらに二人の魔人を倒したあとは魔国統一か。お主といるとつくづく飽きないのぉ」


「私は主様の眷属。主様が魔王となり、その道を歩むというのなら私は主様に付き従います」


「勿論オレも手伝うっすよ! っていうか魔王とかユウキさん超かっけーっす!」


 オレの宣言にこの場にいた全員が頷き、賛同する。

 方針は決まった。目的も定まった。

 あとはそれを貫くためにひたすら万進するだけだ。

 オレはブラックの背で未だ眠りについているファナの横顔を見ながら、彼女を救うため魔国統一のために魔王となる誓いをここに立てるのであった。

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