第33話 魔皇女

「か、勝ったのか……? あのとんでもない魔人相手に……?」


「す、すごい……すごいっすよー!」


「さすがは主様です!」


 リリムを倒すと同時にそれまで戦いを見ていたイスト達が一斉に歓声を上げながらこちらに近づく。

 だが、オレは目の前で倒れたままのリリムを眺めたまま動かない。

 先程の一撃でリリムは戦闘不能状態へと追いやった。

 だが、それでもまだ死んではいない。止めを刺すならば今しかないが……とオレがそう思った瞬間であった。


『――待て。殺すな』


「え?」


 突然、オレの中で何かが囁いた。

 今の声は……まさか、ノーライフキング?

 いやだが、仮にそうだとしたらなぜあいつがトドメを刺すのを制止する? あいつの性格上、誰かを生かそうなんてしないはずだが……?


「お待ちください!」


 オレがそんなことを思っているうちに聞き覚えのある声が届く。

 見るとそこにはザラカス砦であったあのリザードマンがいた。


「お前……」


「お待ちください、魔王様。その方を……あなた様の娘を殺めないでください」


「はい? 娘?」


 突然のリザードマンのその発言にオレは目を丸くする。

 無論、それはオレだけでなくイスト達も同様であった。


「リリム様。もうこれくらいでよろしいでしょう。彼らの、いえあの方の実力はこれでハッキリしたはずです」


「……にゃははは、それもそうだな。これは私の完敗のようだし、素直に認めるのだ」


 そう言って倒れたままのリリムがむくりと起き上がる。

 これは一体どういうことだ?

 戸惑うオレ達にリザードマンが事情を説明する。


「申し訳ありません。魔王様。あなた様がこの魔国へ来ることは分かっていました。そこで我々はあなた様を迎える準備をしておりました。ですが、現在我らを率いる王……もとい魔人リリム様が自分を従えるのに相応しい王であるか直接拳を交えて確認したいというので、このような手段を取らせていただきました。ですが結果はあなた様の勝利。これでリリム様もあなた様の配下になることを受け入れてくださいます」


「にゃははは、まあそういうことなのだ。本当はある程度試して終えるつもりだったのだが、やってるうちに楽しくなってな。ついつい最後までやってしまったのだ。とはいえ、全力を出して私は負けたのだ。さすがは父様の魂を吸収した人物なのだ。これならば文句なく雑用でもなんでもやるのだ。にゃははは」


「え、ちょっと待って!? その父様ってまさか!?」


「ん? 今、お前の中にある魂。魔王ガルナザークのことなのだ。言っていなかったか? 私は先代の魔王の娘の一人“魔皇女”リリムなのだ」


 マジかよ。道理であの強さだったわけだ。

 ということはさっきガルナザークがオレを制止させたのは、こいつが自分の娘でそれを殺されるのを見たくなかったからなのか?

 思わぬリリムの正体に驚くオレ達であったが、そんな驚きも束の間、リザードマンとリリムはオレ達を前に膝を折る。


「魔王様。あなた様のご帰還をお祝い致します。これからは我々を従え、他の魔人達を打倒し、この魔国をあなた様の手で統一してくださいませ」


「にゃはははー、そういうわけなのだー。お願いするのだー、お父様ー」


「ちょ、ま、待ってよ! 統一って、オレはそういうつもりでこの国に来たんじゃないんだよ!」


 なんだか思わぬ方向に話が言っているので慌てて二人の会話を制止させる。

 するとリザードマンもリリムも不思議そうな顔でオレを見る。


「? では一体、なぜ魔国にいらっしゃったのですか?」


「それは……」


 リザードマンに問われ、オレは言いよどむ。

 どうする、言うべきか?

 だが、魔国のどこに行けばファナを助けられるのかは分かっていない。

 もしも、こいつらの協力を得られるのならば、それはかなり頼もしい。

 オレはイスト達の方を見るが、彼女達はオレに任せるといった様子だった。

 目の前のリザードマン、リリムの顔を見るが、彼女達の顔は真剣であり、少なくともオレを騙そうとしている雰囲気はない。

 それになぜだかは分からないが目の前のリリムに対し、オレはこの子のことを信用してもいいと思ってきている。

 これがオレの中に潜むガルナザークの影響か、魔王の称号によるものかは分からない。

 が、ここは覚悟を決め、オレがこの魔国に訪れた理由を話すことにした。


「実は――」


◇  ◇  ◇


「にゃるほど。“虚ろ”についての記述を探しに来たのだなー」


「何か知っているのか、リリム!?」


 オレからの説明を聞いて「うんうん」と頷くリリムに尋ねる。


「ううん! 全然知らないのだー!」


 が、続くリリムの発言にオレは肩からずり落ちる。期待させるなよ。


「しかし“虚ろ”ですか。確か先代の魔王様がそのようなものを調べていた記憶はございます」


「マジか? ってかお前、先代の魔王のこと知ってるのか?」


「はい。私は先代から仕えている存在です」


 そうだったのか。ってことは結構な古参だな。

 とはいえ、現状やはり“虚ろ”に関する情報はないかと諦めかけた時、


「そういえば前にお父様がある秘密を城にある封印の間に封じた記憶があるのだー。もしかしたら、そこに虚ろに関する記述があるかもなのだ」


「マジか! なら、そこに案内してもらえないか?」


「にゃはは、当然なのだ。むしろお父様が私達の城に来てくれるのは大歓迎なのだー」


 そう言って笑いながらオレを案内し始めるリリムとリザードマン。

 その後ろをオレやイスト達がついていくが、その際イストがオレにだけ聞こえる声で呟く。


「……おい、ユウキよ。本当にこやつらを信頼していいのか?」


「ああ、まあ、そうだな……。けど、他にオレ達には行くあてがないし。魔国って言っても領土はかなり広いんだろう? なら、あいつらの城に案内してもらうのは悪くはないだろう。仮にそれが罠だとしてもオレがイスト達皆を守るよ」


「ううむ……」


「にゃはははー、安心するのだー。罠ではないのだー。ただまあ、我々の領土も今は色々と危ないからなー。お父様が来てくれると嬉しいというか、個人的には我々の方がお父様に助けて欲しいくらいなのだー」


 そう言ってこちらの声が聞こえたのか、あるいは例の読心術で読んだのかリリムはそう呟く。

 というか、助けてくれとはどういうことだ?

 先ほどオレに魔国を統一してくれという言葉も気になっていたが、明らかにリリムはオレの力を頼りとしている。

 だが、あれほどの力を持つリリムがオレに一体なんの力を求めているんだ?

 そんな疑惑を持ちつつもオレ達は彼女達の案内に従い、魔国領土の奥へと踏み入れるのだった。

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