第32話 お前が挑むは無限のオレ達。さあ、体力の貯蔵は十分か?

「な、なにいいいいいいいいいいい!!?」


 驚きの叫び声をあげるイスト。

 それもそうだろう。いくら万能錬金術とはいえ、いきなり生命――それも自分自身を生み出し戦わせるなど。

 しかし、これが意外と出来た。無論出来たのは自分をベースにした自分だからこそ。とはいえMP消費はかかるし、ホムンクルスを生み出し、操作している間はその分、魔力も消費される。だが、生み出されたホムンクルスは独自の意思を持っており、本体であるオレの考えとも同調してくれる。

 なので先程の戦闘の際、リリムが読んでいたオレの思考は彼女が戦っていたホムンクルスの思考のみ。

 本体であるオレは土煙に潜み、リリムがホムンクルスを倒した際の隙に乗じてトドメを刺すはずであったが、それは途中で気づかれたために決めきれなかった。とはいえ、傷を与えることには成功した。

 ならば次はこれをもっと応用すればいいだけのこと。

 無論オレがそう思っていることはリリムにも伝わっている。


「にゃははは、自分をもうひとり創造するなんて、さすがに予想できなかったのだ。全くとんでもない奴なのだ。だが、それなら次はお前本体とホムンクルス二人の意識を読めばいいことだなのだ。こう見えて私は最大七人までの思考を同時に読むことが出来るのだ!」


「へえ、なるほど。そりゃ確かにすごい。普通に戦えばまず勝ち目はないな」


「そういうことなのだ。降参するなら今のうち――」


「なら、今度は十人で行かせてもらうよ」


「……にゃんだと?」


 オレの宣言に呆気に取られるリリム。

 だが次の瞬間、ほんの瞬きの間にそれは起きた。

 賢者の石を輝かせると同時に、オレの周囲に現れたのは――都合十人の『オレ』。

 無論、その全てがオレと同じレベル、能力を有したもうひとりのオレ達。

 全てが本物でもあり、また偽物とも言える彼ら。

 そして、そんなオレ達を前にさしものリリムも引きつった笑みを浮かべ、それを後ろで見ていたイスト達に至っては唖然とした表情で目の前の光景を見ていた。


『さあて、ご覧のとおりお前が挑むのは十人のオレ達。確かに一対一ではまず勝てないだろう。だが、一対十ならどうかな? レベルが30近くも離れていても、これだけの数がいればさすがに相手になるんじゃないのか?』


「うっ、くっ……!?」


 オレ達の宣言に冷や汗を流すリリム。

 それもそうだろう。戦闘前にリリム自身が言っていた。後ろの三人がオレと同じレベルを持っていたら勝負はわからなかったと。

 つまりレベルが離れていても、これだけの数の実力者がいれば勝負は分からなくなる。

 しかも、それが四人ではなく十人。


『さあ、それじゃあ改めて勝負と行こうか。オレ達十人の思考、読めるものなら読んでみな!!』


「くっ!?」


 宣言と同時にオレ達は飛び出す。

 無論、十人全員がそれぞれ異なる思考を元に行動、戦闘を行う。

 それらを必死に読心術によって読み取り、オレ達の動きに対応しようとするリリムであったが――


(まずはオレが接近して奴に隙を作る。聖剣エーヴァンテインによる勇者スキル『双連双牙』、続いて勇者スキル『咆哮一閃』、更に勇者スキル『無双剣戟乱舞』! 一秒間に数百の斬撃を与える剣戟! レベル差があっても、これなら十分足止め可能!)


(更にオレが後ろからスキル『鉱物化』と『龍鱗化』によって強化した両腕による格闘戦を行う! スキル『連撃連打』! スキル『百花繚乱』! スキル『金剛無双掌』! こちらも打撃系スキルにおける勇者が持つ最上位のスキル! 前方のオレと合わせて後方から同時に仕掛ける!)


(二人のオレが仕掛けている横でオレはDのオレと合わせて遠距離からの攻撃! 万能錬金術によって聖剣エーヴァンテインを遠距離用の武器、弓矢に変える。その名も聖弓エーヴァンテイン! ここから放たれる光の矢一発一発が以前魔人ゾルアークに放った聖剣一発一発の威力と同等! 更に弓スキル『千弓瞬矢』で一秒間で千発同時の連射だ!)


(Cのオレが弓矢による遠距離攻撃を仕掛けると同時にオレは魔法に遠距離攻撃を仕掛ける! シャドウフレア……だとAとBのオレを巻き込む。ならばシャドウフレアを万能錬金術で魔法を新しく変換、創造する! イメージは手のひらに収まる弾丸。見た目はBB弾くらいの小さな弾だが一発一発がシャドウフレアの威力を持ち、それらがオレの意思で自由自在に動き回る魔法。名づけてアサルトシャドウフレア! この小さな無数の黒炎で三人の援護をする!)


(と、四人のオレがリリムに攻撃を仕掛けているのでオレはバフ担当でもしますかね。四人の魔力、攻撃力をオレの補助魔法で強化! 身体能力、魔力全てをブースト! オレは他のオレの能力を上昇させる援護役に徹する!)


(更にオレはリリムにデバフ担当! 攻撃力ダウン、防御力ダウン。なんなら重力操作や石化、魅了、麻痺あらゆるデバフをかけ続ける! バッドステータス系の異常は弾かれるだろうが、それでもこれを毎秒毎秒かけられるのはうざいはず! 少しでもリリムの邪魔をして他のオレを援護! このオレはデバフ担当もとい、嫌がらせ担当しまくってやる!)


(いやー、他のオレマジで頑張ってるわー。つーか、さすがに十人も出すと本体のMPがゴリゴリ削れて、維持するのも結構疲れるだろうなー。つーか、オレも腹減ってきたなー。本体からも魔力消費による空腹が伝わるしー。いやー、これ終わったらさっさと飯食いたいわー。裕次郎のスキル『通販』でコンビニ弁当買いまくろう。昨日は天丼食べたし、今日は牛丼と麻婆豆腐……あっ、寿司もいいかも。つーかデザートには杏仁豆腐とタピオカ、それからクレープも一緒に注文しようー)


「にゃはははははは! 確かにこれではいくら思考を読んでも追いつかないのだー! というか、明らかに一人どうでもいいことを考えている奴がいるのだー!!」


 ある者は剣戟戦、ある者は打撃戦、ある者は魔法戦、ある者は補助、ある者はからめ手、ある者は武器生成からの投射、ある者は――

 それぞれが今のオレの中にある最大級のスキル、能力を駆使しながらリリムへと挑む。

 うちのいくつかはリリムの読心術によって防御され、反撃を受けるが、その全てをリリムがさばく事は出来ない。

 いや、仮にこの場にいる全員のオレの思考が読めたとしても、その全てを対処することは物量的に不可能。

 もはやここまで来ればレベル差などは関係ない。文字通りオレは『オレ自身』という物量によってリリムを圧倒していく。


「どうだ? これだけの数のオレがいるなら、さすがにこいつは――奇跡と言ってもいいだろう?」


「く、ぐううううううううぅっ!?」


 さっき言った「読まれても避けられない攻撃」。

 それを物量によって実現したオレ達の攻撃を前にリリムは徐々に押されていく。

 やがて、一人のオレが彼女の脇腹に龍鱗化によってブーストされた拳の一撃を叩き込むと、彼女に隙が生まれた。


「がはっ!?」


「隙が出来たぜ。魔人リリム!」


 その叫びと共に正面のオレが聖剣を掲げ必殺の一撃を放つ。が、それに対しリリムは即座に態勢を立て直し、右手に全エネルギーを集中させる。


「にゃははは……まだだ、魔人リリムちゃんを舐めるななのだーーー!!」


 手刀に全魔力を注ぐリリム。

 その一撃は聖剣を放ったオレの一撃を粉砕し、その先にいるオレの胸を貫く。


「にゃははは、まずは一人なのだ! 確かに物量は恐ろしいが、それなら一人一人こうやって確実に倒していけばいいだけなのだー!!」


 確かに物量に対し、各個撃破で仕留めていくのは常套。

 だが、それは無論仕掛けるオレ達も理解しており、むしろ、これをこそオレ達は待っていた。


「――ああ、だろうな」


「ッ!?」


 胸を貫かれたオレ。だが、オレはそのままリリムの腕を掴んで離さない。

 そして、その後ろではもうひとりのオレ――いや、“本物のオレ”が龍鱗化を解いて、右手に聖剣エーヴァンテインを握り迫る。


「!? しまった!? 本物は初めから私の後ろに!?」


 慌てて後ろを振り向こうとするリリム。

 だが、それは正面で胸を貫かれたままのオレが彼女の動きを止め、更に両端にいるオレ達が彼女の行動を阻害し、その邪魔をする。

 徹底した妨害、邪魔、嫌がらせとも言える物量による戦術。

 レベル差などを埋め尽くす奇跡。

 それを前に魔人リリムは初めて焦りの表情を浮かべ、叫ぶ。


「というわけだ。魔人リリム。確かにお前は強かった。オレ一人じゃ勝てないほどに。だが、残念だったな。お前が挑んだのはただのオレじゃない。無限のオレを内包させた無限のオレ達だったのさ!」


 その一言と共にオレは聖剣エーヴァンテインに持ちうる全て――いや、他のオレ達による全魔力のバックアップを受ける。

 それはただの強化魔法の域を越え、聖剣を神剣に変えるほどのブースト!

 その一撃、まさに奇跡と呼んでいい一刀。

 レベル差などものともしない一撃をリリムへと与える。そして、


「――にゃはは、確かにこれは……奇跡、というほか、ないのだな……」


 その一言を呟き、リリムは屈託ない笑みを浮かべ、地面に倒れ伏すのだった。

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