第31話 VS魔人リリム

「さあ、かかってくるのだ。ちなみに出し惜しみなどせず全力で来るのをおすすめするのだ」


 そう言って仁王立ちのまま、こちらの出方を見るリリム。

 なるほど。読心術を持っているから、こちらがどんな攻撃しても対処できる自信があるということか。

 まあ、そういうことならこちらもそれなりのスキルでやらせてもらおう。


「ドラゴンブレス!!」


 スキルを発動すると同時に、オレの口からこの地一帯を焼き尽くすほどの灼熱の炎を吐き出される。

 おおー、マジで口から炎吐けるよ、このスキル。

 絵面があれだったのでこれまで使うの控えていたけれど、これすごいな。

 熱量に関してはシャドウフレアと同じぐらいかもしれない。

 ちなみにオレが放ったドラゴンブレスはリリムを瞬時に飲み込み、その視界すら塞いだ。

 さて、これで終わりとは思わないが、次に彼女が何を仕掛けるか。

 今度はオレが彼女の出方を見ようと構えを解いた瞬間であった。


『愚か者が! さっさと防御しろ!!』


「――!?」


 オレの頭に響く声。

 気づくとオレはその声に従うよう全身を鉱物化によって身を固める。それに一瞬遅れるようにオレの腹部に強烈な打撃が入る。


「にゃははは、いい反応なのだ。私の動きは見えなかったはずなのに咄嗟に防御するとはなかなか鋭いカンをしているのだ! 褒めてやるのだ」


 聞こえたリリムの声。

 次の瞬間、オレは数十メートル先にある岩壁にぶつかる。


「がはっ!」


「なっ、ユウキー!」


「主様!」


「ユウキ様ー!!」


 三人がオレの名を叫ぶと同時にオレの口から血が流れる。

 ……血? ダメージ?

 慌ててオレは自身のHPゲージを見る。すると、なんと二割近いゲージが一気に消失し、明確なダメージを受けていた。

 嘘だろう? 今の蹴り一つで?

 唖然とするオレにリリムと名乗った魔人は告げる。


「にゃははは、言っただろう。私はゾルアークとは違うと。あいつは魔人の中でも最弱だと。我ら六魔人には明確に強さの順があるのだ。最初に言ったのだ。私は『第三位』、ゾルアークは『第六位』。私は魔人の中でも三番目の実力者なのだぞ」


 そう告げたリリムの体から溢れる魔力は確かにあのゾルアークとは比べ物にならない圧力であった。

 下手をすればノーライフキング、あの魔王ガルナザークにも匹敵する魔力量。

 なるほど、こいつは少し甘く見ていた。

 この子に言われたとおり、ちゃんと実力を出すべきだったな。

 そう思いながらオレはゆっくりと立ち上がり、右手に聖剣エーヴァンテインを生み出す。


「にゃははは、だから言ったのだ。それでは改めてお前の実力を見せてもらうのだ」


「オーケー。それじゃあ、改めて本番と行こうか」


 口元から流れる血を拭い、不敵に笑みを浮かべるオレ。

 そんなオレに対しリリムもまた笑みを返し、間合いを詰める。

 互いにギリギリの距離を保ち、相手の出方を伺う。

 先程の攻撃からもリリムの実力は確かなもの。下手に仕掛ければ逆撃を受けて、こちらのHPが減少する。

 となれば、まずは遠距離からの攻撃で隙を作るか? そうオレが考えていた瞬間であった。


「時にお前、レベルは181あるみたいなのだな」


「まあな」


 突然のリリムがオレにそう確認をしてきて、オレはそれに対し素直に頷く。

 実は前に魔人ゾルアークを倒した際、オレのレベルは181に上昇していた。

 やはり腐っても魔人ということもあってか、それまでメタルスライム以外では上昇しなかったオレのレベルが上昇したので奴も結構なレベルを持っていたのだろう。

 あるいはこの世界の場合は相手を殺した方が経験値を多めにもらえるのかもしれない。

 黒竜は気絶だし、ノーライフキングは殺したわけではなく取り込んだわけだしなぁ。

 まあ、いずれにしてもオレのレベルは以前よりも上昇し、能力値も成長している。が、そんなオレを前にしてもリリムは余裕の笑みを見せている。


「にゃははは、なるほど。まあ、確かにそれだけのレベルがあればゾルアークを倒せても当然なのだ。なにせ奴のレベルは140ちょい。お前とは30以上もの差があったのだ。それだけのレベル差があればまず負けることはないのだ」


「それで?」


 何が言いたいのかとリリムに尋ねると彼女は満面の笑みで告げる。


「教えてやろう、ユウキとやら。私のレベルは――210なのだ」


 なん、だと……?

 オレのレベルと30近くの開きがある……?

 その宣言にはオレだけでなく背後にいたイスト達すら息を飲んでいた。


「にゃははは、ここまで言えば分かるだろう? つまり今の私とお前との差は以前のお前とゾルアークとの差があるのだ。この世界において30以上もレベルが離れた相手に勝つには普通の手段では不可能なのだ。それこそ伝説の武器や防具でそれを補う手があるが、それをしても互角の勝負に持ち込むのがせいぜい。あるいは後ろの三人がお前と同レベルだったら勝負は分からなかったのだ」


 そう言ってオレの背後にいるイスト達を見るリリム。

 なるほど。確かにレベル差が離れた相手に対し、最も有効な対策手段は数を揃えて挑むこと。とはいえ、ただ数を揃えるだけでは意味がない。

 ある程度のレベルを持った仲間数人でレベルが離れたボス敵と対峙する。

 ここらへんはRPGなんかでよくやる戦術の一つだな。

 さっきリリムが言っていた強い武器で仲間の戦力を補充するのもそうだ。

 つまり、現状のオレには武器による戦力強化が出来ても、仲間のレベルがそれに伴っていないからレベル差の離れた相手と戦う際はその差を埋める決定的な要素にはならないということか。


「そういうことなのだ。まあ、奇跡でも起こらない限り、私を倒すのは不可能なのだ!」


「それじゃあ、奇跡を起こせればお前を倒せるってわけだな」


「にゃはははは! 簡単に言うのだ! そうそう起こらないから奇跡は奇跡というのだ!」


「それはどうかな……案外、起こるかもしれないぜ」


 その宣言と共にオレは瞬時に大地をかける。

 リリムの周囲を音速を超えた速度で駆け回り、常人なら視認不可能なレベルで動きを読まれないようかく乱する。が、それはあくまでも格下相手に通じる手段。

 レベル210を宣言するリリムの前ではそのような動きなど無意味であり、彼女は先ほどからのオレの動きを全て目で捉えている。

 やはり正攻法では無理か。ならばとオレは地面を拳で打ち付け、土煙を発生させる。

 さらにノーライフキングが使っていた霧の魔術でこの地一帯を覆う。

 これで視界は完全に防いだ! 普通ならば、この目くらましに乗じて攻撃を仕掛けられるはず、なのだが。


「にゃははは、そのとおり。発想は良かったがそれは私には通じないのだ。なぜなら私には読心術がある。つまりお前の動きが見なくても私には全て筒抜けなのだ。たとえば、後方からの剣の一突き。次に斜め後ろからの回し蹴り、足元の地面を砕いて、岩を投げつけてからの一閃。さらにそれら全てを囮にした上空からのシャドウフレア。手の内は全てお見通しなのだ」


 リリムの言うとおり、オレが仕掛けた攻撃は全て彼女の宣言通り回避あるいは防御される。

 マジかよ。視界を防いだ上、この連携すら防ぐのか。

 冗談きつすぎるぜ。

 素のレベルで負けている上に相手の読心術があるんじゃ、もはや手の内ようがない。これは事実上、詰んでいるのでは?


「そのとおり。だから言ったのだ、奇跡など起こらぬと」


「どうかな……それなら、読まれていても避けられない攻撃をすればいいだけだろう!」


 余裕の表情を見せるリリムめがけ、オレは真正面から突撃する。

 文字通り全身全霊を込めた突貫。回避や防御させる暇も与えない全力の一撃! これならばどうだ!

 捨て身の覚悟で放ったオレの全力の一撃。だがしかし、


「無駄なのだ。そういうのは最低でも同じレベルの相手にしか通じないのだ」


 オレが全力を込めた一撃をリリムはこともなげに避けた。

 素のレベルにおける身体能力の差、更にどこから攻撃が来るのか事前に読める読心術。

 それらを前にすればオレの全力の一撃を避けることはそう難しいことではなく、オレの一撃を避けると同時にリリムはオレの背後を取り、その背中目掛け手刀の一撃を放つ。


「残念だったのだな。やはり奇跡は起こらぬのだ」


「――!」


 その宣言と同時にリリムの手刀はオレの背中を貫く。


「なっ! ユウキー!」


「あ、主様ー!!」


「ユウキ様ー!!」


 そんなオレの体がリリムの手刀によって貫かれる様を見ていたイスト達が叫ぶ。

 リリムはどこか複雑そうな表情をしたまま手刀を抜き去る。

 胸に空いた穴からとめどない血を流しながら、オレはそのまま地面に倒れる。

 致命傷だ。これは助からない。

 はは、マジかよ。こんなアッサリ死ぬなんて。

 そんなどこか他人事のような感情を覚え、オレはそのまま静かに目を閉じた。


「――残念なのだ。魔王様の魂を取り込んだ人物と聞いて期待していたのだが……どのみち、ここで私に敗れるようではこの先の魔国では生き残れないのだ」


 そう言って地面に倒れるオレの死体に一瞥を送るリリム。

 そうして周囲に舞った土煙と霧の魔術が晴れた瞬間、それを見ていたイスト達が息を呑む。

 それは地面に転がるオレの死体を見たことにではない。

 リリムの前に転がるオレの死体。

 それとは別の“もう一人のオレ”がリリムの背後より迫り、聖剣の一撃を放とうとしていたからだ。


「!? なんだと!?」


 瞬間、リリムは慌てて『オレ』の方を振り返る。

 チッ、惜しい。さすがは読心術持ち。イスト達の思考を読んだか、あるいはこちら側のオレの意識を読んだか。

 だが、ここからの反応ならまだ間に合う!

 オレは全力を込めた聖剣による一撃を放ち、それをなんとか防御するリリム。

 だが、咄嗟のことでリリムの防御は完全には間に合わず、聖剣の一撃によってリリムの腕は切り裂かれ、彼女に明確なダメージを負わせた。


「……ッ!」


 右腕に致命的なダメージが入るとリリムは慌てたように後ろに下がる。


「ふうー、さすがは伝説の聖剣。これならレベル差が開いていてもお前にダメージを与えられるな、リリム」


 そう聖剣を片手にリリムの前に立つオレ。

 先ほど彼女が言ったとおり、普通ならばレベル差の離れた相手にダメージを与えるなど至難の業だろう。だが、それを覆すのが伝説の武器、聖剣エーヴァンテイン。

 少なくとも攻撃面においてはオレも彼女もどちらも相手に致命傷を与えられることが証明された。

 だが、彼女はそんな自身の傷よりもオレの前に倒れたオレの死体を見ながら問いかける。


「……どういうことなのだ?」


「そんなの心を読めば分かるだろう?」


 オレの挑発にすぐに読心術を使ったのかリリムの表情が変わる。そして、そこにはまさかといった驚愕の表情が現れていた。


「!? あ、ありえないのだ! そ、そんなことが可能なんて……!?」


「だが、現にやってのけたぜ。死んだと思った人間が生きていた。こいつは十分奇跡って言えるだろう?」


「お、おい! ユウキ、いったいどういうことじゃ!? 儂らにも分かるように説明せよ!」


 一方でオレとリリムの戦いを眺めていたイストがそう叫ぶ。

 まあ確かにイスト達には何が起こったのかさっぱりだよな。


「簡単だよ。さっきリリムが斬ったオレ。それは紛れもない本物だ。だが、ここにいるオレも本物。ようするにオレはもうひとりのオレを作ってリリムと戦わせてたのさ。最初にあげた土煙と霧の魔術。あれは不意打ちのためじゃなく、もうひとりのオレを生み出し、それと入れ替わるための戦術だったのさ」


「ど、どういうことじゃ!?」


 慌てるイストにオレは右手に生み出した『賢者の石』を握ったまま告げる。


「万能錬金術。それによってオレはもうひとりのオレを作った。いわゆる『ホムンクルス』ってやつだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます