第30話 魔国侵入

「ようやく着いたな。ここからが魔国の領域だ」


 今オレ達の前に広がっているのは純白の雪原。

 それまではただの草原だった場所に突然線を引いたように、その先の土地全て純白の雪国となっている。


 この雪原地帯を前にオレの中に眠る魔王ガルナザークの記憶が囁く。

 雪に覆われた大地、この先こそが『魔国』と呼ばれる領土。

 人が踏み入ってはいけない禁断の地。

 あらゆる魔物が蔓延り、その魔物達によって構成された世界。

 事実、その純白の領土の前に人がこの先へ踏み入らないよう禁止領域としていくつかの柵や壁、更には立札もある。


『この先、人間が立ち入ることあたわず』


 疑いようもなく、この先が人の領土ではないと記されている。


「魔国か。儂も入るのは初めてじゃが」


「私は以前に何度か入ったことがあります」


「そうなのか? ブラック」


「はい。ですが、魔国の中心地に行ったことはありません。そこは特に巨大な力を持った魔物、いや魔人がいましたから」


 なるほど。だが、オレ達は今からこの魔国領土に入り、その中心地を目指さなければならない。

 全てはファナを救うため。

 今、ファナはブラックの背で眠りについている。

 ここしばらくの容態は安定しているが、それでも楽観はできない。

 一刻も早く魔国にてファナを救う手段を見つけなければ。


「それにして雰囲気というか、土地そのものがこれまでと全く違うっすね。これ大丈夫っすかね? 一歩足を踏み入れた途端、魔物の歓迎を受けるとか?」


「魔物の歓迎ならば、これまでも受けていたじゃろう。まあ、そこにいる朴念仁一人で無双だったのじゃ。魔国に入ってもそれは変わらぬじゃろう」


 そう言ってオレを指すイスト。

 まあ、確かに。実はここへ来る途中も何匹かの魔物に遭遇したが、ほとんどがオレの姿……というかレベルや雰囲気を見て逃げ出した。

 たまーに命知らずの魔物がオレ達に襲いかかってきたが、そいつらは全員もれなくワンパンで撃退。ただの魔物ならオレが片手で薙ぎ払える。

 生憎とこちらも急いでいるので魔国に入って邪魔が入るようなら、それらはすぐに片付ける。仮に魔人が来たとしても同じだ。


「なんにしても急ごう。仮に敵が来てもオレがすぐに蹴散らす」


「うむ。では、行くとするかのぉ」


 そうしてオレ達全員が魔国領土に足を踏み入れた瞬間であった。


「!? 全員伏せろ!!」


「は?」


「え?」


「!?」


 咄嗟にオレは三人をかばうように前に出る。

 前方にありったけの魔力を込め、壁を作るイメージ。それと間髪入れずにであった。

 オレ達がいた空間を中心に周囲十メートルを消す飛ばすほどの魔法が放たれた。


「ッ!?」


「な、なんじゃこの魔力の嵐は!?」


「うわああああああああああああ!!」


 イスト達の慌てる声が聞こえ、目の前が土煙に覆われる。

 やがて爆音が消え、土煙が晴れた頃、先程までそこにはいなかった存在がオレ達を待ち構えていたように姿を現していた。


「にゃははは、よくぞここまで来たのだ! まずは私の一撃を受け止めたことを褒めておくのだ。さすがはゾルアークを打ち倒した魔王の魂を持つ者なのだよ」


「……何者だ、お前?」


 オレがそう問いかけるとその少女――ピンクの髪にツインテール。

 低身長の割に大きな胸を薄い布地で覆った、かなり大胆な格好をした少女。

 背中には黒い羽根と、お尻から悪魔のような尻尾を出した見るからに小悪魔といった印象を与える。悪魔というよりもサキュバスに近い雰囲気だろうか? そんなことを思っていると少女は宣言する。


「にゃはははは! 我こそは六魔人が一人! 鮮烈可憐にして、ピンクの悪魔の異名を取る第三位! リリム=エーデリンデ、なのだ!」


 ニカッと八重歯を光らせながらその少女は宣言する。

 六魔人、この子が? あのゾルアークと同じこの世界を危機に陥れている存在の一人なのか?


「ゾルアークを倒したこと、まずは褒めてやるのだ! しーかし! 奴は我々六魔人の中でも一番の弱小! 最弱! あの程度のやつを倒していい気になられては困るのだ! ちなみに私の実力は奴とは天地も離れていると宣言しておくのだー!」


 そう言ってビシッとオレを指差す少女リリム。

 奴は四天王の中でも一番の最弱……よくあるセリフだな。

 しかし、うーむ……。ぱっと見はとても強そうには見えないのだが……。

 というか、さっきから独特の口調に、どことなくアホっぽい言動で、むしろマスコット系にしか見えない。

 そんなことを思っていると目の前の少女がなにやら顔を赤くして暴れだす。


「こらー! 誰がそんな風に見えないだー! 私はこう見えて第三位の魔人なのだぞー! あと私はアホじゃないのだー! この口調も子供の頃からの癖なので悪く言うなー! なのだー! もっと敬えー! 崇めよー! 畏れよー! なのだぞー!!」


 いや、そんなこと言われましても……。

 って、ちょっと待って! 今のは口に出してなかったぞ! この子もしかしてオレの心読んだ!?


「にゃはははは! 当たり前なのだー! この魔人リリム様は他人の思考を読むスキル『読心術』を持っているのだー! 故にお前が口を開かなくても私のおっぱいが気になってることはお見通しなのだー!」


 マジか! 確かに最初見た時、その胸は見た目の幼さの割には不釣合いな大きさだとは思ったが、別にそこまで気になったわけじゃなく……!

 あ、というか、すぐ後ろを見るとイストがなにやら殺意を込めた目でオレと彼女を見つめている。

 そういえば彼女はぺったんこな貧相な体で、その上成長できない体なのを気にしていたな。その、なんというかすまん。


「なんと! そっちの貧相な魔女はその体のまま成長しないのかー! それはご愁傷様なのだー! 胸や体がちっこいと何かと苦労するだろうー! なのだー!」


 と、またオレの心を読んだのか、それともイストの心を読んだのかリリムは挑発するように笑う。

 あかん、イスト乗るなよ。あれは挑発だぞ。乗るなよ! 絶対に乗るなよ!


「誰が貧相な体じゃあああああああああああ!!!」


 ああ、やっぱり乗ってたよ!

 普段は落ち着いてるのに、こういう時に感情的になるんだな! また一つイストのこと理解したよ、うん。

 そう思っている内にイストから放たれた魔術はリリムの周囲に張られた結界に弾かれ、傷の一つもつけられない。

 その代わりとばかりにリリムの周囲に黒い球体が生まれると、そこから伸びる漆黒の刃がイストへと襲いかかる。


「ッ!」


「にゃははは、遅いのだ」


 笑うリリム。咄嗟に防御魔法を張ろうとするがそれよりもリリムの漆黒の刃が速い。

 だが無論それをやすやすと通すオレではない。


「スキル! 龍鱗化!」


 オレは両腕を龍鱗によって覆い、リリムの攻撃を防ぎ、イストを守る。

 イストは「す、すまぬ、ユウキ……」と、さすがに頭を少し冷やしたのかブラック達と後方に下がる。

 ふぅ、さすがは魔人か。

 イストやブラックではこいつの相手は荷が重い。

 となるとやはりこいつの相手はオレしかないか。


「そういうことなのだな。さあ、ゾルアークを倒したお前の実力を見せてみるのだ」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 そうして魔国に足を踏み入れてわずか十分足らずでオレは魔人の一人と刃を交えることとなった。

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