第28話 いざ魔国へ!

 ――深夜。

 オレは一人ファナの部屋に入る。

 そこではファナが静かに寝息を立てているが、時折苦しそうにうめき声をあげたり、脂汗が出していた。

 とてもではないが快眠とは言えない様子だ。

 オレはそんなファナの額に浮かんだ汗を拭いながら、静かに頭を撫でる。とその時、

 

「……パパ……?」


 ふとファナの目が開かれる。

 片方は夕暮れよりも美しい金色の瞳。

 そして、もう片方は底の見えない虚ろな穴を開けながら、オレの顔をじっと見つめる。


「ファナ。ごめんな、起こしちゃったかな?」


「ううん……大丈夫……それよりも、どうしたの……?」


 心配をかけまいと必死に笑顔を浮かべるファナにオレもまた笑顔を浮かべながら答える。


「ああ、実はファナを助けられるかもしれないんだ。これからその場所に行きたい。ファナはここから移動しても大丈夫か?」


 オレの問いにファナはしばらく考え込むように瞳を閉じる。

 だが、すぐさまオレを信じるように頷くと答える。


「……うん、大丈夫。私、パパが一緒ならどんな場所でも行くよ……」


「そうか、ありがとう……」


 そう言って力なく笑うファナの手を握り、オレはまた静かに頭を撫でる。


「……その場所まではちょっと遠いんだ。だから、もうしばらく眠っててもらえるかな?」


「……うん、分かった……」


 オレの言うことに素直に従い再び瞳を閉じるファナ。

 だがその時、オレの手を握り締め、ファナは力なく呟く。


「……パパ……起きた時もちゃんと……傍に、いてね……」


「――ああ、大丈夫だ。傍にいるよ。約束」


 そう言ってオレもまたファナの手を握り返し、ファナと小さく指切りをする。

 指を離した瞬間、ファナは力なく気絶するように眠る。

 オレはそんなファナを抱え、静かに部屋を出る。

 そこにいたのはイスト、ブラック、裕次郎の三人。


「皆……」


 すでに彼女達には事情を話してあった。

 オレが精神世界で魔王ガルナザークと話したこと。

 その会話によってファナを蝕む“虚ろ”をなんとかする方法が魔国にあること。

 そして、その魔国を目指すことを――。


「本当に行くのじゃな?」


「ああ」


「お主、魔国がどういう場所か知っているのか?」


「さあな、詳しくは知らない」


 オレがそう答えるとイストはいつもの呆れたような表情を浮かべて告げる。


「魔国とはその名の通り、魔物によって統一された世界。そこに住む存在も全て魔物。そして、奴らの法はただ一つ『弱肉強食』。そのような危険な場所に本当に向かうつもりなのか? まして今や魔国は魔人によって支配されている地。いくらお主の力が桁外れでも魔国に入って無事に済むとは思えぬぞ」


「かもしれないな」


「……それでも行くということか」


 イストの確認にオレは頷く。

 オレにとってファナはもうかけがえのない家族の一人。

 その彼女を救えるのなら魔国だろうと地獄だろうと行くまで。

 そんなオレの決心を見てイストは静かに頷く。


「分かった。では儂らも同行しよう」


「いや、それはさすがに……イスト達を巻き込むわけには」


「バカ者。ここまで来て何を言っておる。それにお主にとってファナが大事な存在であるように儂にとってもそやつは今や儂の家族の一人じゃ。家族を救うのにお主一人に任せてはおれん」


 そう言って笑うイストに続くようにブラックも告げる。


「主様。私は主様と主従の誓いを交わした者です。主様が向かおうのならたとえどのような場所でもお供致します」


「そういうことっすよ! オレはまだユウキさんに出会ってすぐでそんなに家族とかは言えないっすけど、その子――ファナちゃんを助けるために行くんでしょう? なら、オレも一緒に行きます! 小さい女の子を助けるのは人として当然! なによりも恩人であるユウキさんの手伝いを少しでもしたいんっす!」


「皆……」


 そう言って笑顔を向ける三人にはなんの迷いもなく、オレは彼女達の意思を受け取ることにした。


「分かった。それじゃあ、これからもよろしく頼む」


「当然じゃな。旅の間のサポートは任せておけ。保存食もすでにたらふく用意してある」


「え、それってもしかして例の魔法食?」


「当然じゃ。あれほど旅の食事に合理的なものはあるまい。ちなみに収納袋に一年分と言わず十年分入れておいた。他にも水とか色々入れてあるから任せておけ。ちなみにこの収納袋は儂お手製じゃから、普通の十倍以上の荷物は余裕で入るぞ」


「へえー、そりゃ頼もしいな。さすがはイスト」


「その魔法食ってなんすか? オレすっげー興味あるっす!」


「お、そういえば裕次郎はまだ食べたことなかったのか。ではあとで一つ進呈してやろう」


 そう言って和気あいあいと談話し出すオレ達。

 これから向かう先が魔物達が蠢く地――魔国であろうとも関係はなかった。

 たとえどのような障害があろうともオレ達はそれを踏破して、ファナを救う手段を見つける。


 異世界に転移してからしばらく。

 様々な出来事が起きた。それこそこのひと月で他の転移者がする活躍の一生分をしたんじゃないだろうかと思えるほど。

 けれども、オレの本当の戦いはここから始める。


 魔国。そして、その地を支配する魔人達。

 ファナを救うための手段を見つけるこの旅は今まで以上に苛烈で困難を極めるかもしれない。

 だがそれでもイスト達が傍にいるのなら、そんな過酷な旅もいつもマイペースで乗り切れるかもしれない。


「それじゃあ、行こう! ファナを救うため――魔国へ!」


『おおー!!』


 皆の掛け声と共にオレ達の物語はここから本当の始まりを見せるのだった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます