第26話 虚ろの侵食

「ふうー、今日は色々あったな」


「そうじゃな。王に呼び出され魔人退治、とはいえそれを半日でやり遂げるお主もどうかと思うぞ」


 古城へ戻ってすぐオレとイストは互いに苦笑し合う。

 そんなオレ達のすぐ傍にいた裕次郎が申し訳なさそうにオレに話しける。


「あ、あの、本当に良かったんっすか……オレみたいなやつを引き取って……?」


「別にいいって。それに同じ転移者に、同じ捨てられた者同士。君さえよければ一緒に暮らそうぜ」


「は、はい! こちらこそ、ぜひお願いするっす! オレもユウキさんみたいに強くなりたいっす!」


 そう言って元気よく頭を下げる裕次郎。

 隣ではイストが「また賑やかになるのぉ」とつぶやいている。

 なお隣ではイストが「ここは儂の家じゃがな」とつぶやいているが。


「とりあえず挨拶はそれくらいにして城の中に入るぞ」


「そうだな。そろそろ夕飯の時間だしファナも待っているだろうからな」


 そう思ってオレとイストが城の中へ入ろうとした瞬間であった。


「――主様!!」


 見ると城の扉を開けて、慌てた様子でブラックが現れる。

 一体どうしたのだろうかと思っていると、ブラックの口からとんでもないセリフが飛び出す。


「大変です……! ファナさんが……ファナさんが大変なのです!!」


「なっ!?」


◇  ◇  ◇


「ファナ!?」


「……あっ……ぱ、パパ……無事で、よかった……」


 慌てて部屋に入るとそこにはベッドに眠るファナの姿があった。

 オレの姿を見ると笑顔を浮かべるが、明らかにその顔は衰弱しており、笑顔も弱々しかった。


「一体何があったんだ!?」


 慌てるオレはすぐ傍にいたブラックに問いかける。


「それが……わからないのです。今朝、急にファナさんの容態が悪くなり、薬を与えたりや回復魔法もかけたのですが、全く効果がなくこの様子のまま……」


 なんだって……それじゃあ、なにか特別な病なのか?

 オレは慌てて隣にいるイストを頼る。


「うむ、少し調べるぞ。ファナ」


 そう言ってイストはファナに対し、スキル『解析』を使う。

 そうだ、イストにはこれがある。これさえ、あればファナがどんな症状でもイストなら治してくれる! そう期待した瞬間であった。

 突然はじかれたようにイストが後ろに下がる。


「ッ!?」


「どうしたんだイスト!?」


 見るとなにやら顔面蒼白で顔を抑え込んでいる。こんなイストの表情を見るのは初めてだ。


「……これは……どういうことじゃ……なぜこんな……」


「どうしたんだ、イスト! なにかわかったのか!?」


「いや、そうではない……“わからない”のじゃ……」


「えっ?」


 どういうことかと戸惑うオレにイストはファナの髪で覆われた部分――虚ろな穴がある右目を差す。


「ファナのその右目。儂の解析をもってしても何も分からぬ。いや、まるでそこだけがファナの体から切り離されたように存在しない。別の空間、世界、あるいは無。そうした人体とは異なる何かが埋め込まれているようじゃ。そして解析の結果、ファナの体に異常はない。にも関わらずファナの生命力は低下し、命の危機に瀕している。分からない……どういうことなのじゃ……」


「そんな……!」


 頼みの綱であったイストのその宣言にオレは呆然とする。

 つまり、ファナが弱っている原因は何も分からないと?

 いや、イストの言葉を整理すれば、おそらく右目に空いた穴、あの虚無の穴がファナの体に何らかの影響を与えている。

 だが、それがなんなのかが分からない。

 そもそも普段からファナにどのような影響を与えているのか、そして、なぜ今になってこのような影響を与えているのか、その全てが謎。故に解決策もない。

 打つ手なしの状況にオレは思わず拳を握り、唇を噛む。

 だが、そんなオレを見てファナの手が拳を握り締めるオレの手に触れる。


「……パパ……怖い顔、しないで……私は……大丈夫……。パパは心配しなくても、いいから……」


「……ファナ」


 そう言って自分の体が苦しいはずなのに笑顔を見せるファナ。

 その笑顔にオレは胸が締め付けられる感覚を味わい、ファナの手を必死に握り締めることしか出来なかった。

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