第25話 城へ戻ってきてくれと王様に頼まれましたがオレは自由気ままに生きていきます

「おお、ユウキ殿! よくぞザラカス砦を取り戻してくれた! さすがは真の英雄、勇者様! いやあ、他の転移者達とは一味違いますな! 儂は信じておりましたぞ! あの中で真に勇者の輝きを持っていたのはあなた様であったと!」


 城に戻るや否や、そう歓迎の挨拶と共に王はオレを迎え入れた。

 相変わらずこの国の王様は調子がいいようで、そのようにオレをおだてるようなセリフを言っては周囲の者達と一緒にオレのことを称える。


「いや、別にオレは善意でやったわけでもないですから。この国に魔物が押し寄せたら困りますし、それに報酬もちゃんといただくつもりで――」


「分かっております! 分かっております! ささ、こちら報奨金です! それだけではなく我が国に伝わる宝も用意しております!」


 そう言って王様の合図と共に大量の金貨が入った袋と様々な宝、神秘を秘めた武具、特殊なマジックアイテムなどそうしたものがたくさん用意されていた。

 ううむ。オレを追い出した時もそうだったが、この王様、こういうところはきちんと用意してくれるよな。そこは割と評価してもいいと思っている。


「さあさ、どうぞどうぞ! ユウキ殿がこの城にいてくれれば我らも安泰! もはや魔物の軍勢も魔人も恐れる必要などありません!」


「まったくですな。さすがはあのノーライフキングを倒した英雄殿ですぞ」


「それに比べて他の転移者達は役立たずもいいところですな」


「まったくだ。あれほど我らが色々援助してやったというのに魔人の一人も倒せず全滅とは」


「そういえば魔人の襲来に怯えて砦の中に隠れ、生き残った臆病者がいるそうですな。そやつに敵前逃亡と砦を奪われた責任を与えるのはどうですかな? 王よ」


 そう言って王の周囲にいた家臣達がオレの後ろにいる転移者の男へヤジを飛ばす。

 見れば男の体は震えており、顔面は蒼白となっている。

 おそらく自分だけが生き残ってしまった罪悪感や、それによって罰せられる罪、あるいは期待をかけられていたにも関わらず役立たずとして捨てられる恐怖におびえているのだろう。

 しかし王はそんな男には目もくれず、オレへの賛辞を続ける。


「まあまあ、よいではないか。そのような者など放っておきなさい。それよりもユウキ殿! 実は貴殿のための祝勝パーティを用意しておるのです! ぜひこれから我らと共に出席していただけませんかな? 無論、これからは食事も宿泊も我ら王国が保証致します! なんでしたら我が国選りすぐりの美女も揃えておりますぞ? ユウキ殿もパーティのあとは好きな美女達を自由にお持ち帰りして――」


「あー、すみませんがオレは不参加で」


 だが、オレはそんな王からの誘いをキッパリと拒絶する。


「え? そ、そうですか。ま、まあそうですね。ユウキ殿もお疲れです。それではこのまま城の部屋へと案内――」


「いえ、結構です。オレには帰るべき場所があるんで。じゃあ行こうか、イスト」


「そうじゃな」


「え!? ちょ、お、お待ちください! どこへ行くのです!?」


 そう告げるオレ達を王は慌てた様子で引き止める。


「どこって森にある古城ですよ。そこがオレの帰る場所なんで」


「なっ!? あ、あのような辺鄙な場所にですか!? ゆ、ユウキ殿! 貴殿は魔人を倒した英雄ですぞ! 今なら城中の者も、いや王国中の民もあなた様を英雄として迎え入れてくれます! そのような場所に住まずとも我らのいるこの城で暮らした方が遥かに便利で豊かな暮らしを――」


「かもしれませんね。けれど、どこに住むかはオレが決めます。それにオレは別にこの国に認められたくてしたわけじゃないですから」


 そう言って王はすぐそばにその薄汚い城の持ち主がいるにも関わらず、慌てた様子でオレの前へと移動し、その歩みを止める。


「お、お待ちください! ユウキ様! 我々にはあなた様が必要なのです! 報奨金ならばあなた様が望むものをお渡しします! それに女も食事も、ここでは全てが望むがままですぞ! ひ、ひょっとして最初に追い出したことを根に持っているのですか? あ、あれは言ったとおりユウキ様を信じて送り出しただけであって……!」


 そう言ってしつこくオレを引きとめようとする王。

 だがまあ、この人からすればそれも当然か。

 頼りの綱としていた転移者達はほとんど全滅し、次に魔人が攻めてきたら打つ手がなし。

 彼らとしてはそんな魔神を容易く倒したオレをすぐ傍に置きたいのだろう。

 まあ、気持ちは分かる。が、そんな理由で城に縛られるのもごめんだ。

 オレは今ではある意味、この王様には感謝している。

 最初に追い出してくれたおかげで今の自由気ままな現状を手にしているのだから。

 イストやファナ、ブラック達がいるあの古城でその日その日を自由に生きる。そうしてこの異世界を堪能できればオレは十分なんだから。


「分かりました。要はまた魔人がここへ攻めてきた時の保険が欲しいんでしょう。それでオレはこの城に縛り付けたい。勿体つけずにそう言っていいんですよ」


「うっ、べ、別にわ、儂達はそういうつもりでは……!」


「なら、安心してください。『依頼』という形でなら、魔人退治も引き受けますから。なので、もう行っていいですか? この城の空気はオレには合わないと思うので」


「う、うぐぐ……」


 オレがそう断言すると王様も周囲の連中もそれに従うしかなく、仕方がないといった様子で立ち尽くす。

 そうしてオレとイストが移動しようとした際、王の隣にいた臣下達が「王様、こうなってはあの生き残った転移者を利用するしかないのでは?」「役立たずとはいえ、あれもまだ使い道がありましょう」「う、ううむ……」となにやら相談している様子があった。

 はあ、やれやれ仕方ない。


「えーと、そこの君、そういえば名前なんて言ったっけ?」


「え? オレっすか? 品川(しなかわ)裕次郎(ゆうじろう)っす」


「裕次郎か。どうする? よかったらオレ達と一緒に来るか?」


「え?」


 オレのその問いかけに裕次郎だけでなく周囲の兵士や臣下達が息を呑むのが見える。


「え、で、でもオレ、ユウキさんに命を救われた上にその上、一緒についてくるなんてこと……」


「オレは別にかまわないよ。あ、でもこの場合、イストの許可がいるか」


 そう思ってイストの方を見るが彼女はいつもの呆れたような表情を浮かべながら「好きにしていいぞ」と呟く。


「ということらしい。このまま城に残るか、それともオレ達と一緒に来るか。君の選択に任せるよ、裕次郎」


「あっ……」


 そう言われて裕次郎はオレと王様の周囲にいる臣下達を見比べる。

 やがて、何かを決心したように裕次郎はオレの傍に駆け寄る。


「お、オレ! ユウキさんの傍にいたいっす! 何ができるかは分からないっすけど、オレ助けられた恩を返したいっす! それでいつかはユウキさんみたいに強くなりたいっす!」


「そうか」


 なら、決まりだ。そう思って裕次郎も一緒に空間転移しようとするが、それより早く王の周りにいた臣下達がオレに対し叫んでくる。


「お待ち頂きたい! その転移者は我々が身柄を保護した者だぞ!」


「そうだ! それにその者には我々も様々な援助をした! にも関わらず、その結果があれだったのだぞ! それについて何らかの責任の追及をする必要がある!」


「裕次郎! 貴様ひとり生き残って恥ずかしくないのか!? 他の転移者の分まで我らに奉仕するのが義務だろう!」


 そう言って周囲の連中が口々に叫ぶが、それに対しオレは思わず一喝する。


「こいつの、いや転移者達が出来なかった魔人退治はオレが倒したことでその責任を果たしたつもりです。これ以上、こいつに何をさせるんだ? 責任というならオレと同じで追放でいいだろう。そもそも魔人の強さに対し、まだ未熟だった転移者を送り込んだアンタ達にも責任がある。これ以上、こいつが生き残ったからって、それだけで使い捨ての駒にしようとするのは勝手すぎるだろう」


「……ッ」


 オレがそう宣言すると周囲の臣下達は気圧されたのか黙りこくる。

 やがて、それらを見ていた王がなにやら納得したようにため息をこぼし頷く。


「……確かにユウキ殿の言うとおりじゃ。我々は転移者だからと彼らが持つ力やチートスキルなど、それらに調子に乗り、彼らの力を引き伸ばすことなく踊らせてしまった。砦での全滅は儂らの軽率さにもあったのかもしれない」


 王の発言に周囲の連中も心当たりがあるのか黙る。

 やがて、しばらくの沈黙の後、王様は裕次郎へと告げる。


「裕次郎よ。とはいえ、戦わず逃げ延びたお主にも多少の責任はある。よって、この城より追放する。これからはその者――ユウキ殿の傍でお主の力を伸ばすがいい」


「王様……」


 それはある意味で追放という名の自由を与えるという宣言でもあった。

 それを裕次郎も感じ取ったのか静かに頷き、オレはイスト、裕次郎と共に静かにこの場より転移をするのだった。

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