第24話 魔国への誘い

「お、終わったっすか……? こ、こんなにあっさり……?」


 魔人を倒してすぐそれまでオレと魔人の戦いを観戦していた男が呟く。

 イストの方は結果が分かりきっていたようであり、オレに対し「お疲れ様じゃな」と肩を叩いてくる。


「とりあえず、これで終わりだな。一応念の為に砦に残った魔物もこれから掃討しよう。アンタも一緒についてくるか?」


「え、あ、ああ、そうっすね。多分アンタの傍にいるのが一番安全なみたいっすから」


 そう言って男は未だ信じられないと言った様子のままオレの傍に来る。

 まあ、そりゃそうだよな。役立たずとして城から追い出されたオレが城に残ったこいつらよりもチートになるなんて。誰も予想できないわなー。

 それはそうと一緒に転移した彼らの死体をこのままここに置き去りにするわけにもいかないな。

 せめてちゃんと埋葬してあげないとな。そう思った瞬間であった。


「――お待ちください!」


「ん?」


 突然、扉の方から声がかかる。

 見るとそこには体長二メートルを越す巨大なトカゲの魔物が立っていた。

 リザードマンというやつだろうか? オレがそう思っているとイストがそれに同意する。


「リザードマンじゃな。この砦を占拠している魔物の一人か」


 そう言ってイストが杖を構え、オレもそれに応じる様に戦闘の構えを取るが、


「お待ちください! 戦う気はありません」


「え?」


 そう宣言するや否や、リザードマンは突然オレの前に来ると跪く。

 な、なんだ、どうしたんだ? と思っているとリザードマンは頭を下げたまま告げる。


「先程のあなた様の戦い、拝見させていただきました。いえ、それ以前よりあなた様より漂う気配。その真偽を確かめるべく様子を見させていただきましたが、今確信に変わりました。あなた様こそ我らの王です」


「は?」


「なんじゃと?」


 リザードマンの突然の宣言にオレだけでなくイストも驚きに口を開ける。

 王って、それってどういう意味だよ?

 そう問いかけるとリザードマンは驚くべき答えを口にする。


「決まっております。あなた様こそ我ら魔物を統べるべき正統なる王、魔王ガルナザーク様の魂を受け継ぎし御方」


「うえっ!?」


 そのセリフにオレは思わず間抜けな声を出す。

 魔王ガルナザークって……それってあのノーライフキングだよな?

 正確には奴の魂は聖剣の中にあり、その聖剣をオレがアイテム使用のスキルによって取り込んだ。

 無論、その際に聖剣と一体化していた奴の魂もオレの中に取り込まれたことになるのだが……こいつのセリフを考えると今のオレからはその魔王ガルナザークの魂が感じられるってことなのか?


「い、いやいや、オレは人間。ただの転移者、安代優樹だ。どうみてもお前達魔物の王って外見じゃないだろう!?」


「いえ、姿形は関係ありません。あなた様の中に魔王様の魂を感じる。そして、その力も。それだけで我ら魔物はあなた様を王として認めるのに十分すぎます」


 そう言ってかしこまったままリザードマンは告げる。

 その瞳は真摯であり、嘘偽りを言ってオレを謀ろうとしているようには見えない。

 だが参ったな。魔王だって? このオレが?

 そんな気なんか毛頭もないっていうのに。

 というか異世界に来て、捨てられて、それでアイテム使用を使っていただけで魔王にされるなんて聞いたことないぞ。というよりオレにはそんな大役とか無理。

 魔王になってこの世界を支配したいとか、そういう願望は特に持ってないんで。


「魔王様。どうか我らと共に『魔国』へと来てくださいませ! あなた様こそが今の魔国を支配する真の王です! 今の連中……あの魔人達による専横を許すわけにはいきません。あなた様さえ戻れば、魔国の情勢も変化致します。どうか、どうか!」


「ま、待ってくれよ! 悪いがそう言われてもオレは魔王じゃないし、魔王になる気もない。お前達のいる国にも行く気なんてないんだ。戦う気がないのなら、そこをどいてくれないか? それかここにいる魔物を引き連れてどこかに行ってくれればオレの仕事も楽になるんだが」


 オレがそう告げるとリザードマンは明らかに落胆したような表情を見せるが、すぐに納得したのか「……分かりました」と静かに頷く。


「……それがあなた様の現状の意思であれば我々は従います。この砦に残った魔物達も私の命令ですぐに魔国へ引き上げるでしょう。これ以上、あなた様の手を我ら下賤の民の血で汚すわけにはいきません」


「お、おう」


 そう言うとリザードマンは立ち上がり、背を向けて歩いていく。

 マジで帰ってくれるんだ。いやまあ、その方がオレは楽なんだが。


「おい、ちょっと待て」


 だが、そんなリザードマンの背にイストが声をかける。


「お主、こやつこそが自分達の王と言っておったが、ならば今のお主達の王は誰じゃ?」


「……今、我が国に王はいません。いるのは六人の王候補」


「それは魔人達か?」


 イストの問いにリザードマンは頷く。


「今や我らの国は六魔人達の手により内乱状態。いえ、誰が新たなる魔王となるか国盗り合戦を行っています。ここへの侵攻もその一つ。ですが、我ら魔物も好き好んで戦いたいわけではありません。相応しい王がいるのなら、その方に魔国を統治していただきたい。あなた様が魔国に来て下されば、魔人による争いも終わる。そう期待したのですが……」


 そう言ってオレを見つめるリザードマン。

 いや、そうは言われても……それはあくまでそちらの魔物の国の事情なわけだし……いや、けど……なぜだろうか、少しだけ気になるというか。

 そうオレが悩んでいる内にリザードマンはオレ達に頭を下げると、そのまま立ち去った。


「……魔国の内乱か。それが静まれば、あるいはこの世界に平穏が訪れるかもしれないな」


 ボソリとイストは呟く。

 いや、ひょっとしたらそれはオレに対して呟いたのかもしれない。

 だが、そのことを確かめることはなく、イストは魔法によって砦内に魔物が残っていないのを確認する。

 その後はイストと男の手を借りて、砦内で死亡した者達の弔いをするのだった。

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