第23話 魔人ゾルアーク

「ふっ!」


 戦闘開始の合図と共にゾルアークは息を吐くと同時に背中から生やした羽を広げ、音速の速度で移動を開始する。

 常人であればゾルアークの動きに、なにが起こったか分からないまま首をはねられただろう。

 事実、魔人はオレではなく背後にいる呆然とした様子の転移者の男を狙ってきた。


 舐められたものだ。

 オレより先に生き残った獲物を殺そうということか?

 “誰”を相手にそのような真似をしているのか分かっていないようだな。

 オレは即座に『スキル:龍鱗化』によって両手を竜の鱗と同じ硬さにして、ゾルアークの一撃を受け止める。


「ほお、私の初撃を防御した相手はあなたが初めてですよ」


「そうかよ。こっちはのろすぎて、あくびが出たぜ」


 オレがゾルアークの一撃を受け止めると同時に、すぐ傍にいたイストが転移者の男の首根っこを抱え、浮遊魔術によって後方へと下がり、そのまま結界を張る。

 すまない、イスト。そして、助かる。

 イストも今の一撃で魔人の強さが分かったのだろう。彼女は防御に徹し、自分と男を守るつもりだ。

 正直、そうしてくれるとオレの方も助かる。

 これでオレも遠慮なく全力が出せるというもの。


「っおらっ!」


「――ぐうぅっ!?」


 片方の腕で攻撃を防ぎながら、もう片方の腕でゾルアークの体を吹き飛ばす。 

 さすがに竜の腕でぶん殴られたことでゾルアークもダメージを受けたのか苦悶の表情を浮かべたまま脇腹をおさえる。


「ふ、ふふふ、やりますね。これはどうやら私も楽しめるようですね」


「どうかな。そっちが楽しめてもオレは楽しめないかもな。この程度じゃ」


「なに?」


 オレの挑発に明らかに顔を歪めるゾルアーク。

 だが、それが事実であると奴もすぐに理解するだろう。


「まあ、こっちもできるだけ楽しめるよう配慮してやるよ。来な、魔人」


「あまり舐めた口を叩くなよ……人間ッ!!」


 そう言って先程の倍の速度で突撃してくるゾルアーク。

 オレはそれに対し、迎撃準備を行う。


「スキル発動! 武具作成!」


 それは以前、街のゴミ場で手に入れたスキル。

 あの時はロングソードとか、普通の剣しか創造できなかったのだが、この時オレの手によって生み出された武器を見て、目の前の魔人は驚愕する。

 いや、後ろで観戦していたイスト達も驚愕で息を呑むのが聞こえた。なぜなら、


「なっ!?」


「ば、バカな、その剣は――!」


 そう、今オレの手によって生み出された武器は――聖剣エーヴァンテイン。

 あの英雄貴族ヴァナディッシュ家が保管していたこの世に二つとない聖剣であり、かつて勇者が使っていたとされる伝説の武器だ。

 ありえない武器の出現に驚愕の表情を浮かべるゾルアークの腕をオレの聖剣による一撃があっさりと両断する。


「ぐ、ぐぎゃあああああああああああああああああああああ!!」


 思いのほか、あっさりと斬れたゾルアークの腕にむしろオレの方が驚く。

 あれ、魔人ってこの程度なの?

 これならノーライフキングの方が圧倒的に強かったし、なんだったらメタルスライムの方がもっと防御力も高い印象だぞ。

 そんなことを思っていると片腕を失ったゾルアークが明らかに動揺した様子で後ろに下がる。


「な、なんだ貴様! どういうことだ!? それはかつて魔王ガルナザークを討った伝説の勇者の聖剣ではないか! なぜそれを貴様が持っている!?」


「おお、やっぱ知っていたのか。聖剣の知名度って結構あんのな」


「答えろ!! 貴様、まさかあの英雄貴族ヴァナディッシュ家の人間か!?」


「いいや、違うよ。これは単にオレが作った武器だ」


「は? せ、聖剣を作っただと……?」


 オレがそう答えるとゾルアークは呆気に取られたような表情を見せ、ついで怒りを込めて叫ぶ。


「ふざけるな!! 人間が聖剣を作れるものか!! デタラメを言って私を惑わそうとしてもそうはいかんぞ!!」


「いや、別にここで嘘言う必要とか特にないんだけど」


「黙れ!! 確かに聖剣による攻撃は驚異だが、ようはそれにのみ注意を払えばいいことよ! ははははっ! しくじったな人間! いかに聖剣とは言え、距離とって戦えば恐るものはない! 切り札を出すのなら必殺の瞬間にこそ出すべきだったな!」


 そう言って距離を詰めるゾルアーク。

 すると奴の周囲になにやら漆黒の炎がいくつも燃え盛る。


「ふははははは! 見るがいい! これこそが影すら残さず全てを焼き払い飲み込む黒炎最上位魔法! シャドウフレアだ! 貴様のような人間には見たこともない上位魔法であろう! 光栄に思うがいい、この漆黒の炎により影すら残さず消え去る栄誉をな!!」


 あー、えー、うん、その。

 それもうここ最近何度も見てきて、逆に飽きてきてます。というか、皆が皆が使ってるんで最近だとそれ普通の魔法感覚になっています。

 そんなオレの呆れた表情に気づいていないのか、なにやら高笑いを上げながらシャドウフレアを放つゾルアーク。

 いくつもの漆黒の炎がこちらに向かってくるが、ハッキリ言ってこの前ノーライフキングが使ってきたシャドウフレアの方が威力、熱量共に段違いでした。やっぱこいつじゃガルナザークには遠く及ばねえわ。


「スキル:魔法吸収」


「なっ!?」


 というわけでゾルアークの放ったシャドウフレアはオレが魔法吸収で美味しく頂きました。

 当のゾルアークは「ば、バカな! わ、私の究極魔法が!」とか言ってるが、もう時代はシャドウフレアだと普通の魔法攻撃なんだよ。諦めたまえ。


「くっ、だが貴様とて私に攻撃できるのはその聖剣による攻撃がせいぜい! それにさえ、注意を払っていれば……!」


 となにやらまだ負け惜しみを言ってくるゾルアーク。

 仕方がないので、彼には本当の絶望というのを見せてやることにした。


「そうか。確かにオレには聖剣くらいの攻撃しかないわな」


「そうだ! いくら強くても聖剣頼みのお前なぞ――!」


「それじゃあ、物量で行かせてもらうわ」


「……なに?」


「スキル:武具作成」


 そう告げると同時にオレの背後より都合百本に近い武器が生成される。

 無論、その全てがまごう事なき本物の『聖剣エーヴァンテイン』。

 いやー、こんな光景ヴァナディッシュ家の人が見たら卒倒するかもな。というか、あとでオレが聖剣作って彼らに返しておこう。

 一方でオレの背後に生まれた無数の聖剣を前に魔人ゾルアークは明らかに困惑した様子で後ろに下がっていた。


「なっ……ば、ば、バカな!? こ、こんなことが……!?」


「それじゃあ、聖剣しか能のないオレはこの聖剣でお前を攻撃するわ。魔人ゾルアークさん」


「!? ま、待て!!」


 そう言ってなにやら慌てた様子で叫ぶゾルアークであったが、待たない。


「貴様はそうやって待てと言った相手に待ったか?」


「……ッ!」


 オレが確認を取ると奴の表情が青ざめる。

 つまりはそういうこと。

 オレは静かに背後に生まれた無数の聖剣を全てゾルアーク目掛け飛ばす。

 聖剣はゾルアークの体を次々とえぐり、突き刺し、両断し、滅多刺しにしていく。

 やがて細胞の一つすら残さず、聖剣の嵐によって魔人ゾルアークは絶叫を上げながら完全に消滅するのであった。

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