第22話 生存者

 砦の中に入るとそこは悲惨な有様であった。

 通路のあちらこちらに争った形跡や血の跡があり、ひどいものになると惨殺された兵士の死体がそのまま転がっている。

 さすがに魔物に占拠されたとなれば、そこにいた人間を生かしておくわけがないか。

 もう少し早く王様がオレに救援を頼んでいれば、この砦を奪われる前になんとか出来たかもしれないと僅かな後悔が生まれる。


「あまり気にするな、ユウキ。こやつらとて守るべきもののために戦ったのじゃ。それにお主はこの砦を取り戻そうとしている。それを果たせればここにいる連中も浮かばれよう」


 そう言ってオレを元気づけようとするイスト。

 なんだかんだでイストの人の良さにはオレも助けられる。

 その後、オレ達はこの砦にある司令部を目指し進む。

 途中、通路の奥に潜んでいた魔物達と出くわすが、それらすべてオレのスキルによりワンパンで瞬殺。

 あるいはイストの先制魔術により声を発することなく即死。

 オレがチートすぎるだけで、なんだかんだでイストも十分すぎるほど強い。

 実力は間違いなく王国内でもトップクラスのものだろう。

 それが伺えるほど彼女の魔法は強力であり、このような場所においても冷静さを保っている。

 それはここにいる魔物には遅れをとらないという確固たる自信からだ。

 そうして、魔物達をなぎ払いながら司令部を目指している最中であった。


「待て。生命反応がある」


 唐突にイストが手に持った杖で近くの壁を叩き始めた。

 生命反応とな? ということは魔物が隠れて襲撃の機を伺っているのか?

 オレがそう思うよりも早く、壁を叩いていたイストが隠しスイッチを発見し、それを押した瞬間、すぐ近くの壁が開かれる。

 すると、そこには一人の男が怯えた表情でうずくまっていた。


「ひっ、こ、殺さないでくれっす!」


「お前は……」


 そこには怯える一人の男がいた。しかし、オレはそいつに見覚えがあった。


「確か国王に召喚された転移者の一人じゃないか?」


「へ?」


 オレがそういうと男は半泣きのままオレの顔を見る。

 うん、やはりなんとなく見覚えがある。確かあの時、他の転移者と一緒にいた奴だ。名前は知らないが。


「あ、アンタ、確か国王に金を渡されて追い出された奴っすか? な、なんでこんなところに?」


 そして、どうやら相手もオレのことを覚えていたようでそう問いかける。


「その国王に頼まれて、この砦にいる魔人を倒しに来たんだよ。ちなみにオレの名前は安代優樹だ。よろしくな」


「ま、魔人を倒しに来た!? アンタ正気っすか!?」


 オレがそう言うと男は慌てた様子でオレの腕を掴む。


「悪いことは言わないっす! すぐに逃げるんっすよ! オレや他の転移者達も魔人を倒すためにここに来たけれど、あの魔人の強さは尋常じゃなかったっす! オレ達の中で一番レベルが高くチートスキルを持っていた大和って奴がいたっすけど、そいつもあっさりやられたんっすよ! オレは他の皆がやられている中、この隠し部屋に入って生き延びただけっす……。悪いことは言わないから戻るっすよ! アンタみたいな王に追い出された奴じゃ、あの魔人はとても……!」


「ああ、言いたことはわかる。けど、オレは戻るつもりはないから君だけでも先に逃げな。オレ達はこの先に行くから」


「まあ、そういうことじゃな。帰るならばこの転移石を使うが良い」


「なっ!?」


 そう言ってイストは男に転移石を渡すが、男は石を受け取ったまま動かない。


「待ってくれっす! オレの話を聞いてなかったんっすか!? アンタ達じゃ殺されるっす! いいから逃げるんっすよ!」


「ええい、やかましいぞ! 少しは静かにせい! それに儂ら……というよりもあやつの強さはお前の想像よりも遥かに上じゃ。なぜならあやつは魔人などよりも遥かに格上の魔王と同一の存在なのじゃからな」


「は? そ、それってどういう……」


 困惑する男の声を背にオレとイストは先へと向かう。

 やがて、後ろから「ま、待ってくれっす! お、オレも……オレも一緒に行くっす!」とついてくる。

 うーん、オレとしては逃げてくれた方が助かるんだが。

 まあこいつもオレやイストのことを心配してくれているということか。

 そう思いながら通路をしばらく歩くと目の前に大きな扉が現れる。

 おそらくこの先がこの砦の中心、司令部なのだろう。

 そう思っていると後ろからついてきた先程の男が告げる。


「そ、その先が司令部っす……今や魔人が占拠する部屋っす。そこを開けたら最後もう戻れないっすよ……」


 やはりこの先だったか。

 オレは隣にいるイストと頷き合うとゆっくり扉を開ける。

 扉を開けた瞬間、その向こうから肌を切り裂くような殺気がピリピリと伝わった。

 見ると、そこには巨大な広間であり、中央の玉座にまるで王のように座る一人の男がいた。


「ようこそ。まさか、まだ私に挑んでくる愚か者がいるとは思わなかったよ」


 そう告げたのは青白い肌に、金の髪をなびかせる優男。

 男はそのまま玉座から立ち上がると背から二枚の黒い翼を生やす。

 その様はまさに魔人と呼んでいい風貌であった。


「自己紹介させてもらおう。我が名は六魔人が一人、第六位“吸血貴族”ゾルアークだ。よろしく、異世界からの来訪者よ」


 ゾルアークと告げたその魔人は血にまみれた犬歯をむき出しに、オレに笑いかける。


「お前がこの砦を占拠する魔人か?」


「いかにも」


 オレがそう質問すると男――魔人ゾルアークはいつの間にか手に握っていた薔薇で口元を隠しながら頷く。

 こいつ、魔人とか言っているが種族はヴァンパイアか?

 魔人というのはヴァンパイアなのか? そうオレが思っていると、それに答えるようにイストが耳打ちする。


「ユウキよ。先程も言ったが魔人とは魔物の中でも特殊な力、進化をした魔物のことじゃ。あやつは元の種族がヴァンパイアなだけであり、その力はすでに元となったヴァンパイアを上回り魔人となっておる。故にヴァンパイアと同じ方法で倒せるとは思わぬほうが良いぞ」


 なるほど、そういうことか。

 元の種族がなんであろうと、ある一定以上の力を得た魔物が魔人になると。

 それを肯定するように目の前のゾルアークと名乗ったヴァンパイアは日差しが差し掛かる窓へと寄りかかっても、何の変化も訪れていない。


「そちらの少女の言うとおり。私の種族はヴァンパイアだが、この身はすでに魔人。故に日光の弱点も神聖魔法による弱点もない。とはいえ、ヴァンパイアとしての特性は失ってはいないよ。例えば好物は人の血、とかね」


 そう告げるゾルアークの犬歯にはつい先ほどまで何かを吸っていたような跡があり、奴が座っていた玉座の後ろを見ると、そこには血まみれで倒れる人の手が見えた。


「この砦にいた連中はどうした?」


「吸ったよ。いやはや、どれも薄味で困ったものだ。転移者とかいう異世界からの勇者の血も何人か吸ってみたが、まあ、これはそれなりに上質であったな。しかし、君の血はその中でも特にかぐわしい香りをさせる。是非とも私の食事になって欲しいほどだ」


 そう言って血にまみれた牙を向ける魔人。


「そうか」


 その答えだけでこいつを殺すには十分な理由となった。

 別段この世界に呼ばれた転移者達に仲間意識はなかった。

 同情するほど一緒にいたわけでもないし、あえて言えば一緒に巻き込まれた仲。それ以上でも以下でもなかった。

 ただそれでも、人間を食事と言ってその命をアッサリと奪うこいつを許す理由にはなに一つならない。


 それにここで殺された転移者達に情がないからといって、その死を悼まない理由にはならないだろう。

 彼らの中にはまだ十代半ばの人生これからの奴らだって、たくさんいた。

 それをこんな風に無残に殺されるいわれはなかったはず。

 仇討ちだとか、正義のためとかそんな高尚な理由を持ち出す気は毛頭ない。


 オレがこいつを殺す理由はただ一つ。

 気に入らない。

 そんな大人の勝手な理由(感情)だけで十分だ。


「それじゃあ、お前を殺すことにするよ。魔人ゾルアーク」


 オレがそう告げると同時にオレの放つ殺意に一瞬気圧されたのかゾルアークの体が後ろに下がる。

 だが、すぐさまその顔に獰猛な笑みを浮かべると手に持った薔薇を握り締める。


「ふ、ふふふっ。これはいい、実にいい殺気ですね。面白い! この魔人たる私を傷つけられる人間がいるかどうか、この場で試してあげましょう!」


 その宣言と共に、このザラカス砦における魔人との戦いの幕が切って落とされた。

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