第21話 ザラカス砦

「ここがザラカス砦か」


「そのようじゃな。しかも城壁には魔物達が無数に占拠しておる。砦内の人間は全滅したと考えるべきじゃな」


 あれからオレとイストは王様から砦の大体の位置を地図で確認した後、イストと共に空間転移でその場所に移動した。

 砦には来たことのないオレだが、地図などで大体の場所を確認すれば、そこへ行けることが判明した。つくづくこの空間転移というスキルは便利極まる。

 そして、今オレ達の目の前にあるザラカス砦。

 鬱蒼とした森林の奥にある巨大な岩壁の間に建てられた砦であり、正面以外からこの砦を攻略することは不可能となっていた。

 無論、この先へ抜けるにも砦を通る他はなく、まさに王国とそれ以外の国とを唯一繋げる要所であった。

 なるほど。確かにここが占拠されたとあれば王国としては一大事。

 実際、砦の前には無数の魔物達が陣を組み、砦へ侵入するものを阻んでいる。

 いや、むしろ逆か。あれは今からこの王国内へ侵攻しようとする侵略部隊の第一波かもしれない。

 そんな光景をオレと一緒に木陰の中から見ていたイストが呟く。


「しかし、まさかあのザラカス砦が落ちるとはな。噂に聞く魔人の驚異とやらは本物であったか」


「ところでイスト。今更なんだけど、その魔人って具体的にどんなものなの?」


 ふと気になったことを尋ねると、イストはその場でガクリと肩からずり落ちる。


「って、お主。転移者の癖に魔人について何も知らないのか!?」


「いやまあ、オレ転移してすぐに捨てられたから」


「ううむ、そうであったな……」


 オレの返答に頭を抱えながらもイストは説明してくれる。


「魔人とはいわゆる魔物の中に現れる突然変異種じゃ。何百年かに一人、魔物の中で特に巨大な力を持ったものが進化し、魔人になるという。あるいは魔物の中に血統と呼ばれるものがあり、それの血統を受けたものが魔人になるとも言われいる。が、正確なことはわからぬ。そして、魔人は魔物達を統率し、その勢力と力を増す。力を増した魔人はやがて『魔王』へと進化する。かつてこの世界に現れた魔王ガルナザークもそうした魔人が進化した存在であった。そして、現在この世界に現れた魔人の数は全部で六体。それは過去に類を見ない数であり、六人の魔人達はまるで自分達が持つ勢力を競い合うように人間の国に侵攻をしている。我々はこのかつてない六体の魔人の脅威を『六魔人』と呼んでいる」


「へえ、なるほど」


「まあ、わかりやすくまとめれば、魔人とは魔王候補生であり、それが六人いるって考えてよい。いや、今この世界を蹂躙している魔人の強さから言っても六人それぞれが魔王に近い力を持つと考えてもよいかもな」


 ほほう、前にオレが戦ったあのノーライフキングと同等の力を持つ魔人とな。しかも、それが六体。

 確かにそれが本当なら世界の脅威と言えるし、あの国王が異世界から勇者を召喚しようというのも分かる。

 が、しかし――


「それはオレに対する侮辱だな、イスト。“たかが魔人如き”がオレと同等などと侮辱も甚だしいぞ」


 確かに連中の力は認めよう。

 が、それでも“このオレ”に届くなどという自惚れは魂ごと引き抜いてもなおあまりある。

 魔人と魔王が同一視されるとは、やはり人間側の知識とは浅いものよ。

 この砦を支配している魔人にしてもそうだ。

 この程度の魔力でオレがいるこの地に侵略にくるなどと、よほどのバカかあるいは死に急ぎたいのか。

 そんな風にオレの中に“見知らぬ殺意”が湧き上がると、それに気づいたのかイストがなにやら顔を引きつらせながらオレを見る。


「お、お主どうしたのじゃ……なにやらいつもと雰囲気が違うが……?」


「へ? なにが?」


 そうイストに声をかけられた瞬間、オレはそれまで湧き上がっていた殺意が霧散していた。

 ……というかオレは今何を言った?

 自分でもよく分からない感情と感覚に襲われ、思わず体を確認する。


 特になんともない。

 気分も落ち着いている。魔人や魔物の軍勢を前にしても奇妙なほど。

 だが、それとは別に妙な感覚……というか感情の残滓が残っている。これは一体?

 そんなオレの不安を感じたのかイストが心配そうに声をかける。


「……大丈夫か? お主、先ほど奇妙なことを言っておったが……? もし具合が悪いのならば一度戻って体調を整えてから――」


「い、いや、大丈夫だよイスト。それよりも放っておけば連中は王国に侵攻してくるんだろう? なら、早くここで奴らを叩かないと」


「う、うむ、そうかじゃな。分かった。では、行くとするか」


 不安な気持ちを振り払うようにオレはそう言って立ち上がり、イストと共に砦の方へと向かう。

 作戦は極めて単純。即ち、中央突破だ。

 こちらの数はオレとイストの二人だけ。

 普通に考えればこんなものは作戦とも呼べない自殺行為だろう。

 だが、それはあくまでもその実力がない連中がする場合に限る。

 この砦が占拠され、王様の命令でここへ来た転移者連中は残念ながらそれが伴っていなかったのだろう。

 しかし、オレとイストならば話は別だ。


 オレとイストが物陰から現れて砦の方へ近づくと、当然城壁の上から周囲を警戒していた魔物達が気づき、砦の周囲にいた魔物達が一斉にオレ達の方へと近づく。

 体調二メートルを越える鬼のような魔物、おそらくはオーガか。

 それに背から翼を生やした全身が石像のような魔物が城壁部分から、こちらへと襲いかかってくる。これはガーゴイルか。

 他にもトロール、ワーウルフ、ゴブリンなどファンタジーものでよく見かける魔物が襲いかかってくる。その数、ざっと見ただけでも百体以上。

 これらをいちいち相手にするのは面倒だ。なら、一気に殲滅するまで。

 オレはイストに下がるよう指示を出し、右手に力を集中させ魔力を放つ。


「シャドウフレア」


 それは黒竜ブラックが得意とした魔法だ。

 以前アイテム使用によって黒竜の鱗を取り込んだ際、オレが得た魔法でもある。

 オレが魔法を放つと手のひらから生まれた無数の黒炎が生まれる。

 それらは眼前に迫る魔物を飲み込み、その場を中心に天をも貫くほどの獄炎がほとばしる。

 やがて爆炎がおさまった頃、そこには魔物の姿は影もなく消滅していた。


 おおう、自分で使うのは初めてだがこれとんでもないな。

 見るとシャドウフレアの余波によって砦の一部も崩壊している。

 これは屋外専用魔法だな、下手に中で使うと大惨事になる。

 とはいえ、これで雑魚は片付いた。

 オレは見晴らしが良くなった砦の扉を見ながら隣のイストに視線を送る。


「やれやれ、お主というやつは規格外じゃな。シャドウフレアまで使いこなすとは。というか今のお主のスキルの数は一体どうなっておるのじゃ?」


「さあ、厳密には数えていないけれど、勇者スキルだけでも百近くあって、魔王スキルも同じくくらいあるからなぁ」


 正直、スキルに関しては先日の聖剣を取り込んだ際、かなりの数を取得してしまって、まだ全部は確認出来ていない。

 ちなみに魔法に関しても同じくらいあり、先日ノーライフキングが使っていたデスタッチなどの魔法もある。

 そんなオレを呆れた様子で見ながらイストは苦笑を浮かべる。


「全く、念の為に儂もついてきたが、これならばお主一人でも片付くかもしれぬな」


「はは、それなら楽かもね。とりあえずは中に入ろう」


 そう茶化しながらもオレとイストは砦の扉をくぐる。

 とりあえず砦の周囲にいた魔物は片付けた。だが、問題はこの先だ。

 砦を占拠している魔人。それがどれほどのものか、まあ、お手並み拝見と行こう。

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