第20話 追い出したはずの王様が戻ってきてくれと頼んできました

「いやー、平和だなー。平和が一番。こうしてのんびりするのがやっぱ一番幸せだわー」


 あれから数日。

 ノーライフキングを打ち倒したオレは古城にある中庭の花畑で気持ちよく日光浴を楽しんでいた。

 隣では同じように花畑で遊ぶファナの姿があり、そんなオレ達を少し離れた位置で観察していたイストが呆れたようにため息を漏らす。


「やれやれ、お主というやつは。せっかくそれほどのレベルや魔王や勇者という称号まで持っているというのに。何をするわけでもなく、そのように日々だらけて過ごすとは。少しは勿体無いと思わないのか」


 そうは言われましても、オレとしてはこうしてのんびりだらだらするだけで幸せなので十分です。

 あれからオレが救ったヴァナディッシュ家の使いを名乗る兵士がこの古城にやってきて、ノーライフキングを打ち倒したお礼にと先日受け取った金貨よりも多くの報酬をくれた。

 そのおかげで当面は何も仕事をしなくてもいい状態となり、オレはファナを連れて気分転換に街に遊びに行ったり、それ以外にも隣街に物見遊山で行ったりとそれなりにこの異世界生活を満喫している。


 少し前までは勇者の称号や、魔王の称号、果ては魔王の魂を吸収して色々と心配になったりもしたが、特にそれらしい出来事も起こらず平和な日々を送っている。

 というよりも、こういうのんびりと日々の平和を楽しむのがオレがしたかった異世界生活。

 これを機にオレは自由気ままなスローライフを堪能するぞ。


「やれやれ、遠方では魔人による脅威もあるというのにお主という奴は本当に平和なやつじゃ」


「その魔人だかなんだかはオレ以外の転移者がなんとかしてくれるでしょう。王様もオレ以外に期待していたみたいだし。というかオレがこれだけうまくいってるんだから、案外もう魔人とやらも全員倒されたのかもよ」


「だとよいがのぉ」


 オレの呟きに呆れたように返すイスト。

 そんなことをしていると花畑で遊んでいたファナがトテトテとオレに方に近づくと手に持った何かをオレに差し出す。


「はい、パパ! これ!」


 見るとそれはいわゆる花冠であった。

 とはいえ、初めて作ったのであろう結構ところどころゴテゴテとしており、輪の形もかなり歪であったが、オレはそれ以上にファナがオレのために作ってくれたのがとても嬉しかった。


「ありがとう、ファナ。大事にするよ」


「えへへ」


 笑顔を浮かべるファナの頭を撫でるオレ。

 するとファナは何かに気づいたようにイストの方にも近づく、そして、


「あの、これ、イストさんにも! いつもお世話になってます! 暖かい食事にベッド、雨風を凌げる場所を提供してくださって、ありがとうございます! これからもよろしくお願いします!」


 そう言ってペコリと頭を下げるとオレに渡したのと同じ花冠をイストにも渡す。

 それを見たイストはすぐさまかぶっていた魔女帽子を脱いで花冠を頭にかける。


「う、うむ! 礼を言うぞ。ファナよ。それとここに住んでいることに関して礼は必要ないといつも言っておるであろう。それに最近は台所で料理の手伝いも始めると言っておるが、お主みたいな子供が包丁を持つのは危険じゃ! そういうのはまだ先でよいのじゃぞ」


「で、でも……私もパパやイストさんに……お料理とか、作ってみたい……」


 そう小さく呟くファナの一言にオレも思わず胸を押さえたくなる。

 くぅ、相変わらずファナはいい子だ。こんな子と一緒に住んでいるんだ。これ以上の癒しがどこにある。

 オレもイストもファナには無理をさせたくないと思いつつも、ファナの善意を断るのも申し訳がないと、いつもの二律背反に悩んでいた時であった。


「ユウキ殿ー! ユウキ殿はいらっしゃるかー!!」


「うん?」


 突然城の扉の方から声がした。

 何事かとオレやイストがそちらに向かうとそこには兵士と思しき格好をした連中が数人立っていた。

 もしかしてエドワードさんの使いだろうか?


「ええと、ユウキはオレですけど。なにかご用でしょうか?」


「ああ、あなた様がそうでしたか! 我々は国王からの使いです。ユウキ様、どうか我らが王に謁見してもらえないでしょうか?」


「はい?」


 唐突な兵士からのその頼みにオレは思わず間抜けな一言を返すのだった。


◇  ◇  ◇


「王様がオレに何の用なんだかー」


「まあ、会えば分かるじゃろう」


 あれからオレは兵士達に頼まれるまま仕方なく城へと向かった。

 王とは何度か会ったことがあるということでイストも一緒に来てもらった。

 なおファナはブラックと一緒に古城での留守番を頼んだ。

 そうしてオレとイストが謁見の間を開けると、そこにはいつか見た王様が玉座に座っていた。


「どうも、王様。お久しぶりです」


「う、うむ。ひ、久しぶりじゃな。ユウキ殿」


 とりあえず頭を下げつつ、挨拶をする。

 思えばこの王様に見捨てられてからひと月以上か。あれから色々あったが結果としてこの人に捨てられたおかげでオレは今の自由な生を得られている。ある意味で感謝してもいい相手なのだが、しかしその王様がオレに一体何の用だろうか?

 見れば王様はなにやら落ち着かない様子でそわそわしており、周りの兵士達もなにやら緊張した様子でオレを見ている。

 もしかしてオレ、なにかやっちゃいました?


「……そ、その、ユウキ殿。聞きたいことがあるのだが、よろしいか?」


「はあ、オレに答えられることでしたら」


「う、うむ。き、聞いた話によれば、お主あのヴァナディッシュ家に現れたノーライフキングを倒したと聞いたが……ま、まことなのか!?」


「ええ、まあ、倒しましたけど」


 オレがそう答えるとこの場にいた全員が「ざわっ」と騒ぎ出すのが見えた。

 王様に至っては顔をヒクつかせながらオレを見ている。

 え、なに? 倒しちゃまずかったの?

 でも倒さないとエドワードさんとかメアリーの命が危ないし。倒すでしょう、普通。


「ま、待て! そ、それだけではない! お、お主、メタルスライムを倒したり、果ては洞窟にいる黒竜を倒し、それを眷属にしたという噂もあるが、それも誠か!?」


「ええ、まあ、全部本当ですよ」


 オレがそう答えると再び周囲がざわめき出す。

 一体何なんだ? もしかしてオレがやったことってまずかったのか?

 だんだんと不安になってくるオレをよそに王様は頭を抱えたままうずくまる。

 そんな王に対し、隣にいた大臣らしき男が声をかける。


「お、王様……や、やはりこうなってはこの者に頼むしかないのでは?」


「い、いや、だがしかし、それは……」


「わ、我々にはもう後がないのです……! ど、どうか、ご決断を……!」


「……う、うぐぐ」


 なんなんだ一体?

 オレがなにかやらかしたのならそう言って欲しい。

 そうでなくとも、このざわざわした雰囲気は色々と不安になるので早く帰りたい。

 そう心の中で急かすオレの声が聞こえたのか、王様がなにやら諦めたように口を開く。


「ゆ、ユウキ殿……た、頼みがある……」


「はあ、なんでしょうか?」


「この国を! 儂らを助けてくれーーー!!!」


 途端に王様がそう叫ぶとオレを前に頭を下げてくる。

 え、ええと、なに? どういうこと?

 あまりの唐突な事態にポカーンと口を開けているオレに王様の隣にいた大臣が事情を説明する。


「そ、そのー、実はですね。ユウキ様に魔人を倒して欲しいのです」


「魔人っていうと最初にオレ達を召喚した時に言っていたあれですか?」


「ええ、それです。その魔人の一人がこの王国にある拠点の一つザラカス砦を占拠したのです。あそこはこの国の要。そこを占拠されれば、このまま魔人によって魔物の軍勢がこの国に押し寄せてきます」


 へえー、そりゃおおごとだ。ってか、この国いるオレも他人事じゃねえよ。


「って、それなら他の転移者っていうか勇者達に頼めばいいじゃないですか。確か二十人くらいいたはずでしょう?」


「い、いや、それがじゃの……」


 オレがそう問いかけると気まずそうに王様が視線を逸らす。

 なんなんだ一体? そう思っていると予想外の答えが返ってきた。


「……全滅、したんじゃ……」


「え?」


「だ、だから、皆やられてしまったのじゃ! ほとんどの者が魔人に占拠されたザラカス砦に向かったが誰も戻ってこなかった! 他にも残った者は何人かいたが、皆魔人の強さにビビって逃げ出してしまった! もはや我が国に残っている転移者はお主だけなんじゃ! ユウキ殿!!」


 え、ええー。あ、あいつら全員やられたの? つーか、逃げ出したって……。

 確かあいつらそれなりにチートスキル持っていて、それで調子に乗って王様からの甘言に乗って「この世界救ってやるぜー!」って息巻いてたじゃないですかー。

 その結果がこれって……なんかかなり残念なことになってるなー。

 勿論それに期待してヨイショして、見事にコケた王様もなんというか。


「で、残ったオレに助けを求めてきたってわけですか?」


「そ、そうなるな」


「前にオレを手違いとか言って厄介払いしたのに助けを求めてるんですか?」


「…………」


 その一言に王様だけでなく、この場にいる全員が青ざめた表情で黙り込む。

 あー、まあ、そりゃそうだよなー。

 前に役立たずと思って捨てた奴が、いつの間にかメタルスライムや黒竜を倒し、あげくノーライフキングまで倒すまでになっちゃったんだからなー。

 しかも期待をかけていた他の勇者一行は皆さん全滅。

 王様としては、そりゃ複雑な心境だろうなー。


「で、ど、どうじゃ? ぜ、ぜひお主に儂らを救って欲しいのじゃが?」


「ふぅむ」


 王様の一言にオレはわざとらしく考える素振りを見せる。


「も、もちろんただとは言わぬぞ! この国にある宝は好きなだけ持っていくがよい! 金貨も一生使えぬほど渡してやろう! どうじゃ!? 破格の条件じゃろう!?」


「とは言いますが、オレ別に金には困ってませんしねー」


「え」


 オレの一言に王様だけでなく大臣がこの場にいる全員の顔が引きつる。


「そもそもオレを戦力外として追い出したのは王様ですしー、いやー今更そんな王様の下につくのもねー」


「い、いや、その、あ、あれは悪かったというか……儂の見込み違いというか……い、いや! 違うんじゃ! 儂は信じていたんじゃ! お主の中に眠る真の力、真のスキルに! だからこそあえてお主を外に出してじゃな!」


「にしてもこれまで音沙汰なかったですよねぇ。あの時の金貨も明らかに手切れ金でしたしー」


「い、いや、ち、ちが! そ、そういうつもりではなく、その!」


 慌てふためく王様も見て、オレの中の意地悪心がふつふつと湧き上がる。

 うん、申し訳ないがちょっと面白い。


「と、というか! この国が攻め込まれればお主も困るじゃろう! 住む場所がなくなるのじゃぞ! それでもよいのか!?」


「いやー、オレ空間転移ってスキルありますし、いざとなれば別の国に避難しますよー」


 王様からのそんな反撃にオレはあっさりそう返す。

 すると王様は完全に固まってしまい、どうすればいいか途方に暮れる。

 そんな王様の姿を見ながら、もう少しからかってやろうかと思ったが、さすがにオレの隣にいたイストが呆れたようにため息をこぼす。


「はあ、もうそれぐらいにしてやれ。お主のからかいたい気持ちも分かるが、さすがにこの国に攻め込まれると儂も困る。この王の頼みだけでは受けたくないのも分かるが、ここは儂からも頼む。お主の力を貸してもらえぬか、ユウキ」


 そう言ってオレを見つめるイスト。

 まあ、イストにそう言われては仕方がないか。少しやりすぎたかなと反省しつつ、オレは頷く。


「分かってるよ、イスト。ちょっとからかっただけだよ。王様、心配しなくてもその依頼、ちゃんと受けますよ」


「! ほ、本当か!? 本当に本当なのか、ユウキ殿!?」


「ええ、さすがにこの国が魔人に攻め込まれるのはオレやオレの知り合いも困るみたいですし」


 そう言ってオレが了承すると王様だけでなく、この場にいた全員が喜びの雄叫びをあげる。

 おおう、どんだけピンチだったんだよ。この国。


「うおおおおおおお!! あのノーライフキングを倒したユウキ殿がいれば魔人の脅威もなんのそのじゃあああああ!! ユウキ殿、確かに頼みましたぞおおおおお!!」


 そう言ってオレの手を握り締める王様。

 なんだかんだでこの王様ちゃっかりしてるなーと半分感心、半分呆れるオレであった。

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