第19話 帰還

「ユウキ殿! この度は我がヴァナディッシュ家の危機を救っていただき誠に感謝しております! これは少ないですが報奨金です。ユウキ殿にはまた改めてお礼を致したく思いますので、よろしければユウキ殿が住んでいる場所を教えていただけませんか?」


「ああ、それなら街から少し離れた森の奥にある古城に住んでるよ」


「それはもしや魔女イスト様がいらっしゃる古城ですか?」


「ああ、そうだけど知ってるの?」


「もちろん! イスト様といえば我が国では賢人とも称される魔女です! なるほど、あのお方と一緒に暮らしているのですか。それならばユウキ殿の力にも納得です」


 いやまあ、一緒に暮らし始めたのはつい最近なんだけどね。

 そんなことを思いつつオレはエドワードさんからの報奨金を受け取る。

 他にはこの館の執事やメイド、冒険者のグラハムなど様々な人からお礼を言われる。


「ゆ、ユウキ……。その、助けてくれたこと感謝してるわ。べ、別にアンタなんかいなくっても私は平気だったけど」


 と、見るとメアリーがなぜだかツンデレ風にお礼を言ってくる。

 まあ、この子も無事でよかった。口調はこんなだけど、根はいい子だとわかっているので。


「け、けれどあなた! 我が家の宝である聖剣エーヴァンテインを勝手に持っていくのは少しばっかりやりすぎよ! ま、まあ、聖剣もあなたの依頼料の一つと考えれば納得だけど」


 あ、そういえばそうだった。

 流れとはいえ、オレはこの屋敷の重要な宝でもある聖剣をアイテム使用のスキルによって取り込んでしまった。

 今考えればあれは彼らの先祖である勇者が使った聖剣であり、それを無断で吸収したことになるよな。

 さ、さすがにやりすぎたかなと思いつつもエドワードさんは「気にしなくてもいい」と笑い、メアリーも「ま、まあ、今後はツケであなたに色々払ってもらうわ」と顔を背ける。

 うーむ。まあ、二人とも納得しているみたいだし聖剣については大丈夫……かな?

 唯一、心配といえばオレの中に取り込んだノーライフキング――魔王の魂だが。


「パパ……そろそろ帰らないとイストさんが心配するよ」


「ん、ああ、そうだったな。お使いのはずが気づくともう夜中だしな。早く帰らないとイストが心配するか」


「うん!」


 オレの服の裾を引っ張るファナに答え、オレはそのままエドワードさん達に挨拶をする。


「それじゃあ、オレ達はそろそろ帰りますので」


「分かった。いつでも我が屋敷を訪ねてきてくれ。君なら大歓迎だ。それに困ったことがあれば、ぜひ私を頼ってほしい。必ず力になると約束しよう」


「分かりました」


 そう言って挨拶を済ませ、空間転移のスキルを使おうとしたオレにメアリーが声をかける。


「ま、待ちなさい! その、ユウキ……こ、今度よければ私と一緒にお茶……してくれないかしら……」


「はあ? お茶ですか? まあ、それくらいならいつでも」


「! ほ、本当!? や、約束よ! 絶対にしなさいよ! しなくても私の方から迎えに行くからね!」


「は、はあ」


 何やら興奮気味にそう言ってくるメアリーに対しオレは曖昧に頷きながら、ファナとブラックを連れ空間転移のスキルを使い、イストのいる古城に戻るのだった。




「遅いぞ。お主達、買い物をするのになぜこんな夜中までかかっているのじゃ」


 帰るとそこで珍しく苛立った様子のイストが待っており、オレは彼女にこれまで起きた事情を説明する。


「いやー、それが実は色々なことがありまして……」


◇  ◇  ◇


「な、なんじゃとおおおおおおおおお!!? ノーライフキングを倒したあああああああああ!!?」


「あ、ああ。で『アイテム使用』のスキルで、そのノーライフキングと聖剣がオレの中に取り込まれた」


 オレの説明を受けてすぐイストはそのように叫び、そのあとにでっかいため息と共に頭を抱える。


「……全くお主というやつは奇想天外、予想のつかぬことばかりしてきおって……どこの世界にお使いに行かせたついでに魔王退治してくるバカがいるのじゃ……」


「えーと、ここに?」


 わざとおどけた風に自分を指してみるが、すぐさまイストの杖で頭を叩かれる。痛い。


「こら、貴様なにをする。主様は人助けをしたのだぞ。しかもその過程で魔王を倒したのだ。一体どこに責められるいわれがある?」


「アホか! ツッコミどころ満載じゃ! そもそもいくらお主のレベルが尋常ではないとは言え、かつてこの世界を支配していた魔王に戦うバカがどこにいる!? せめて儂に連絡をかけるとかあったじゃろう! いや、確かに儂がいても戦力は変わらぬかも知れぬが、儂にはほかにない知識と経験がある! なぜそれを頼りにせぬ!」


「あー、えーと……ひょっとして自分に声をかけてくれなかったから怒ってる?」


「なっ!? そ、そんなわけあるか! 別にお主の心配などしておらぬわ! バカ者!!」


 そう言って怒るイスト。

 だが、すぐさま真剣な表情となってオレを見る。


「……それで、本当に大丈夫なのか?」


「ああ、傷なら問題ないよ。メアリー達に治してもらったから」


「違う、そのことではない。お主の魂じゃ」


 その一言にオレは思わずギクリとなる。


「お主が持つアイテム使用には未だ謎が多い。ノーライフキング、いや魔王ガルナザークは聖剣に己の魂を封じていた。それを吸収したのじゃ、お主にも何らかの変化が起こったのではないのか?」


「あー、そういえばアイテム使用時に勇者スキルだの、魔王スキルだの色々獲得していたな。あと称号で勇者と魔王が手に入ったような気がする」


 オレがそう告げるとブラックとイストが驚いた反応を見せる。

 えーと、どうかしました?


「お、お主! 勇者だけではなく魔王の称号も得たのか!?」


「え、ええ、まあ、ってかこの称号ってそんなすごいの? だって単なる称号でしょう?」


「ち、違います! 主様! この世界での称号とは種族などそうしたものに近くなります! つまり魂そのものを判別する一つのステータスです! 一度その称号が刻まれれば、称号通りの力と能力が与えられ、自然それに見合った地位や環境に変化していくのです! それはさながら運命のように本人にすら自分に宿った称号に逆らうことはできなくなるのです!」


 な、なにそれ? マジ?

 てっきりオレ、ゲームとかでよくある単なるお飾りの称号だと思ったんだが。

 ということはオレこれから魔王や勇者とかの運命をたどるわけ?

 でもこの二つって相反する称号じゃ……。


「これまでも勇者や魔王の称号を手にした者はいた。そやつらは例外なく、勇者、魔王としてこの世界にその名を刻み、その行動を世に残した。じゃが、その二つの称号を同時に手に入れた者なぞ聞いたことがないぞ……。お主、一体どうなるんじゃ……?」


 不安そうな表情でオレを見るイスト。

 やめてくれよ、オレまで不安になる。


「そもそもなぜ主様がその二つの称号を……?」


「考えられるのはやはりアイテム使用によるスキルの影響じゃな。お主がアイテム使用で使用した聖剣はかつての勇者が愛用していた武器じゃ。その聖剣を使用し、取り込んだことによりかつての持ち主である勇者の能力を手にしたのじゃろう。まあ、その聖剣はこの世に二つとない代物じゃ。それくらいの加護があってもおかしくはない。そして、お主達の話が本当ならばその聖剣に魂を入れていた魔王もそのままお主に取り込まれ称号と共に魔王が持つスキルも入手したと考えるのが自然じゃ。全く信じられぬ奴じゃ。勇者だけではなく魔王の称号とスキルを入手なぞ前代未聞じゃぞ」


 そう言って頭を抱えるイスト。

 ううむ、確かにそう言われると我ながらとんでもないことになったものだ。

 今更返品とかできないだろうし。

 というか、取り込んだ魔王の魂がやはり気になる。

 あれからオレに特に変わったことはないが、あいつの魂が今もオレの中に眠っていると考えると正直ゾッとする。

 そんなオレの不安を感じ取ったのか、すぐ傍にいたファナがオレの手を握る。


「パパ……大丈夫?」


 その顔はオレのことを心配し曇っていたが、オレはそんなファナを励ますように答える。


「心配ないよ。このとおり無事さ。イストもブラックもそう心配な顔をするな。オレは平気だ。むしろ勇者と魔王の二つの称号を手にした男だろう。そんな相反する称号を手に入れれば案外オレの中で二つの性質が交わって互いに運命を打ち消しあうかもしれないだろう」


「ううむ……。まあ、確かにお主の言うことも一理あるか。それにそのような前例はこれまでなかったからのぉ。誰もお主の運命を測ることはできぬか」


「そうです、主様の言うとおり。主様はこれまでにない存在です。私はそんな主様に付き従い、主様が歩む新たなる運命を共に歩きます!」


 そう告げる二人にオレも笑顔で頷く。


 異世界に転移してから数日。

 最初は役立たずだと思われたスキルが実はすごくチートで、そのおかげでメタルスライムを倒し圧倒的なレベルを手に入れ、黒竜を倒し、異界の門を開いたり、果てはかつてこの世界を支配していた魔王ノーライフキングを倒したりと。

 異世界転生した主人公が一生のうちにやるであろうイベントをものの数日でクリアしたオレ。

 今後は平穏な日々を送ろうと固く心に誓うのだが、この時のオレは気づいていなかった。

 むしろ、ここからがオレの物語の――本当の始まりだったということに。

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