第18話 オレのアイテム使用は魔王をも取り込む!

「ど、どういうこと……?」


 困惑し震えるメアリーにノーライフキングは虚ろな顔の奥で笑いながら告げる。


「ふふっ、いい表情だ。では、教えてやろう。貴様らはノーライフキングを倒すための手段が生前と同じ手段でなければならないことを知っていたようだな。だが、それをノーライフキングとなる我が知らぬわけがないだろう? 故に我は滅び去る前に“絶対に我自身を殺せぬように”ノーライフキング化する方法を取っていたのだよ」


 どういうことだ? 奴の説明に眉をひそめるオレ達。

 だが、次の瞬間、奴はとんでもない真実を放つ。


「我の魂が収められた寄り代、それがこの聖剣そのものなのだよ」


「なっ!」


「ば、バカな!?」


 漆黒に輝く聖剣を掲げながら告げたノーライフキングの一言にオレ達は驚愕する。


「ノーライフキングとなるにはその寄り代が必要だ。通常ならば骸がそれになるが、別に骸でなくともよい。生前に我と関わり深いもの、あるいは我の血肉が染み付いたものでもよい」


 生前奴と関わりのある……血肉が染み付いた……。

 そこまで言われてオレは「ハッ」と気づく。


「その通り。我を殺した聖剣。それは我の触媒となるにふさわしい寄り代だ。その剣には我を殺した際の我の血肉がたっぷりと染み付いている。故に長い年月をかけて、我は聖剣を内部から侵食していった。そうして聖剣の意思、主導権、属性すらも完全に我が手中にした時、我は聖剣に宿る魔力を利用しノーライフキングとしてこの世に現界したのだ」


 そういうことだったのか。

 だから奴はヴァナディッシュ家の屋敷に現れたんだ。

 エドワードさんが襲撃前に結界を張ったが、それを無視してノーライフキングは現れたと言った。それも当然だ。

 奴は最初から、いや数百年前からずっとこの英雄貴族の館で虎視眈々と復讐の機会を狙っていたんだ。


「そして、ここまで言えば分かるであろう? 今やこの聖剣こそが我の本体。この聖剣で我を殺すことなど出来ぬ。聖剣こそが我なのだから。つまり、ノーライフキングとなった我を倒す方法は――ない。我はまごう事なき不死王として復活したのだ」


「ば……ばか、な……」


 漆黒の剣を構えて宣言するノーライフキング。

 だが、奴の言ったことが事実であれば確かにもはや奴を倒す手段はない。

 打つ手なし。万事休す。

 それを悟ったようにメアリーだけでなく、エドワードさんや彼らを守ると誓ったはずのグラハム達も絶望に顔を染め、その場に膝をつく。


「くくく、よいぞ。その絶望した顔。それが見たかった。さて、では長き復讐に幕を下ろすとしよう」


 そう言って剣を構えるノーライフキング。

 狙いは目の前で膝を折るメアリー。彼女はその顔に僅かな悔しさと涙を浮かべるが、もはや勝てぬと諦め静かに目を閉じる。


「では死ぬがよい。勇者の末裔よ!」


 叫び振り下ろされる剣。

 だが、オレは咄嗟に飛び出し、鉱物化によってダイヤモンドの硬さ――いや、今や龍鱗化によってドラゴンの鱗へと変化した右手で不死王の聖剣の一撃を受け止める。


「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「貴様、まだ!?」


「!? お前、何を!?」


 なんとかメアリーを庇うオレであったが、彼女は涙声のまま叫ぶ。


「も、もういい! 私なんか見捨てて逃げろ! やっぱり……無謀だったんだ! ノーライフキングに挑むなんて……! こうなったらお前達だけでも逃げてくれ……!」


「そういきたいところだけど、さすがにこうなったらやっこさんも逃がしてはくれないだろう」


 メアリーの叫びにそう返すオレ。

 事実、今やノーライフキングの真紅の両目はオレだけを見ていた。


「くっくっくっ、まさか目覚めてすぐにお前のような猛者と戦えるとは思わなかったぞ。察するに貴様、我を倒した勇者と同じ異世界人か?」


「だとしたらどうする?」


「無論、殺す。勇者と同じ存在など生かしてはおかぬ。なによりも貴様は我の驚異となりかねん。この場で確実に仕留める」


「それは光栄だな。オレも同じ意見だよ!」


「愚か者が! 弱点なき我をどうやって倒すというのだ! 人間よ!!」


「さあな! これから探るさ!」


 とはいえ、正直手詰まりだ。

 頼みの綱であった聖剣ではこいつを倒せない。

 あるいは聖剣を破壊するという手もあるかもしれないが仮にも伝説の勇者が扱った聖剣。

 しかも魔王の魂がそれに宿ったことで聖剣自身の能力も増幅している。おそらくは奴のHPがまるまる聖剣に上乗せされているとするならば、事実上破壊不可能。一体どうする……!?

 焦るオレに背後から聞き覚えのある声が届く。


「パパー!!」


 振り返るとそこには館の扉を開け、オレに駆け寄ろうとするファナの姿があった。


「ファナ! 来るんじゃない!」


「け、けれどパパが……!」


「なんだ? まだゴミが残っていたのか?」


 ギロリとノーライフキングの真紅の瞳がファナを捉える。

 ダメだ! ここでファナを巻き込むわけにはいかない!

 焦るオレであったが、ノーライフキングがファナを視界にいれた瞬間、その声色が変化する。


「!? バカな! なぜ、なぜそいつが……“虚ろ”がいる!?」


「えっ?」


 見るとフードに下から覗くノーライフキングの虚空の顔に明らかな動揺の色が浮かんでいた。

 それを証明するようにオレと刃を交える聖剣が僅かに震えているのが見えた。


「まさか……奴が……? あ、ありえぬ……! 奴は確かにあの時……!?」


 なんだ、何を言っているんだこいつは?

 よく分からないがノーライフキングは明らかに動揺――いや、何かを恐れているようだ。

 オレと刃を交えているにも関わらず、その視線はファナに突き刺さったまま動こうとしない。


「ええい! もはや貴様などに関わっている暇はない! ヴァナディッシュ家の娘も後回しだ! 今はそこにいる“虚ろ”の命を奪う!!」


 そう叫ぶや否やノーライフキングはオレを吹き飛ばし、まっすぐファナを目指す。

 手に持つ漆黒の聖剣は高く掲げられ、まっすぐファナの頭へと振り下ろされる。


「死ね!!」


「……ッ!」


 振り下ろされる刃に目を閉ざすファナ。そうはさせるか!!

 オレは瞬時にスキル空間転移を使い、両手を龍鱗化させたままノーライフキングの一撃を受け止める、が。


「ぐっ!!」


「パパッ!?」


 ノーライフキングの一撃は今やドラゴンの鱗と同等の硬さを持つオレの腕を切り裂き、骨へと刃を突き進める。

 マジかよ。鉱物化のスキルも合わさりオレの鱗はダイヤモンド以上の硬さになっているのにそれを切り裂くのか……つーか、洒落にならねえ痛さだ。なんだよこれ、腕が焼けるように痛い。

 そんなオレをあざ笑うようにノーライフキングが哄笑をあげる。


「はははははははは! 愚かなり人間! そのような腕で我が聖剣、いや魔剣の一撃を受け止められると思ったか! このまま貴様の両手を切り落とし、貴様もろともその小娘を殺してくれるわ!!」


「ッ!!」


「主様!!」


「ゆ、ユウキー!!」


「パパー!!」


 ブラック、メアリー、更にファナがオレの名を叫ぶ。

 だが、オレは目の前のノーライフキングへ笑みを返す。


「――いいや、死ぬのはお前だよ。ノーライフキング、いや魔王ガルナザーク」


「なに?」


 不可解と言った声を漏らすノーライフキング。

 だが、オレは血まみれの手で腕に突き刺さった魔王の剣を握る。


「愚かな。言ったはずだぞ、この武器で我は倒せぬ。それに知っているはずだろう? 聖剣は選ばれし者しか装備できぬ。勇者の血を引かぬお前がこの武器を装備できるはずがないだろう」


「いいや、違う。装備するんじゃないよ」


 言ってオレは告げる。


「――『使うんだよ』」


「なに?」


 瞬間、オレは使用する。


「『アイテム使用』!!」


「!? な、な、なんだこれはあああああああああああああああああ!!?」


 刹那。オレとノーライフキングを中心に次元が歪むほどの力場が発生する。

 いや、正確にはオレが握る手と、魔王の聖剣との間にだ。


 聖剣は光輝き、その身を細かい粒子へと変化するとそのままオレの傷ついた腕へと入っていく。

 まるで傷ついた箇所を修復するようにドンドンと聖剣の欠片がオレの細胞、血、肉、その一つ一つへと変化していく。

 そしてそれは聖剣そのものと一体化しているというノーライフキングの体にも同じ変化が起きる。


「お、おおおおおおおおおおおおおお!? ば、バカな! バカな! バカな! バカなああああああああああああ!!? 貴様、まさか我を! いや、この聖剣ごと我を吸収するつもりかあああああああああああ!!?」


 ノーライフキングの叫び通り、奴の体は聖剣と共にオレの体へと吸収されていく。

 すでに体の半分がオレの中へと消え、残った部分で抵抗を試みるが、すでに遅い。

 オレが使った『アイテム使用』の効果は発揮されている。

 オレの手に握った聖剣もドンドン光へと変わり、オレの中へと吸収されている。


「愚かな! 我を、この魔王ガルナザークを人の身で吸収し、そのまま抑えきれると思うか!! 我は数百年に及び聖剣の中に潜み、それを支配した魂だぞ!! 貴様のような軟弱な人間に抑えられるものか! 後悔するがいい人間!! これから貴様の内部を、いや魂そのものを我が侵食し乗っ取ってやろう! もはや貴様に安息の日々はない! 我という魔王を抱え、それに支配される恐怖に震えるがいい!!」


 すでに残すところ頭部のみとなったノーライフキング、いや魔王はそう呪詛の言葉をオレへと投げかける。

 だが、それに対しオレは強がりとも言える笑みを浮かべる。


「ああ、やれるものならやってみろ。オレを聖剣みたいな無機物と一緒にするなよ。逆にオレがお前の魂を抑えてやるよ」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 最後の絶叫、雄叫びを上げ、ノーライフキングと聖剣の姿は完全に消失した。


『スキル:アイテム使用により聖剣エーヴァンテインと魔王ガルナザークの魂を吸収しました。これにより勇者スキルの獲得、また魔王スキルの獲得に成功しました』


『称号:勇者を獲得しました』


『称号:魔王を獲得しました』


 次々とオレの頭の中に流れる音声。

 その中には無数のスキルと魔術の取得のナレーションが流れていたが、さすがにそれら全部を聞き取ることはできなかった。

 オレは全身の力を使い果たし、その場に倒れる。

 

 見ると、オレを除く全員が目の前で起きた出来事に口を開き、放心している。

 だが、その中でただひとり、オレの背後にいたファナが目にいっぱいの涙を抱えたままオレの胸へと飛び込んでくる。


「パパ! パパ~! 無事で……無事でよかったよぉ~!」


「はは、当たり前だろう。約束したろう。これが終わったら皆で帰るって」


 そう言って泣き喚くファナの頭をオレは優しく撫でる。

 ここにノーライフキング、魔王ガルナザークとの死闘は誰もが予想できなかった形で幕を終えた。

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