第17話 襲来! 不死王!

「とりあえず、準備は万端だな」


「ええ」


「いつでも来て構いませんわ」


 そう言って館の外に出たオレやブラック、メアリー、エドワードさん、グラハム率いる冒険者。更にはこの館に残っていた護衛の兵士など、合計数十人が館の敷地内にある広場に集まっている。

 中央にメアリーとエドワードさん。

 その二人を囲むようにオレやブラック、グラハムが周囲を見渡すように円陣を組んでいる。


 これならばどこからノーライフキングが来ても迎撃は出来る。

 見ると、外はすっかり日が落ち夜へと変化している。

 二人の話が本当ならば、そろそろノーライフキングが現れるはず。


 そう思いながら周囲を警戒していた時、ふとメアリーが持つ聖剣が輝き始める。


「!? こ、これは……」


 驚くメアリー。だが、事態はすぐに変化する。

 突然周囲に謎の霧が現れるとオレ達の視界を遮る。

 思わぬ状況に何人かの慌てる声が聞こえるが、オレの隣にいるブラックが瞬時に魔力波を放つと渦巻いていた霧をすべて消し払う。


「妙な小細工はやめろ。すでにいるのだろう。勿体つけずに現れたらどうだ。それでもかつては魔王と呼ばれた存在か? アンデッドになって魂まで地に落ちたか?」


 そう見下すように告げるブラックに対し、突然空間から笑い声が聞こえる。

 魂すら凍らせる不気味な声にざわめく一同。

 そんなオレ達を嘲笑うように突然目の前の空間がゆらぎ、そこから真っ黒なローブに身を包んだ不気味な存在が現れる。


「ほぉ、珍しい存在がいると思えば貴様黒竜か? 黒竜が人間の子飼いになっているとは。どちらが地に落ちたものか分からぬな」


 漆黒の闇。

 例えるなら、そのような存在であった。

 ローブの下から見えた顔には――何もなかった。

 そこにあったの無、あるいは闇とも呼べる何か。

 真っ黒な顔の中心に真紅に輝く目が二つぽっかりと浮かび、その瞳がオレ達を捉える。

 常人であれば、それに睨まれただけで体が固まり動けなくなるだろう。

 見ると周囲にいた冒険者の何人かが奴の姿を見た途端、金縛りにあったように動けずにいた。

 無論オレやブラックは平気であったが、エドワードさんなどは固まったまま動けずにいた。

 他にかろうじて動けているのはグラハムと数人の冒険者、それにメアリーのみ。

 メアリーは僅かに足がすくんでいるが手に持った聖剣の加護のおかげか、目の前のノーライフキングへの恐怖を振り払い、それをしっかりと構える。


「さて、予告通り。今回こそはお前達ヴァナディッシュ家の命をもらう。邪魔する者達も皆死んでもらう。我が復讐の邪魔をするものはいかなるものであろうと生かしてはおかぬ。無論、黒竜よ。貴様も同じだ」


 そう言ってブラックを指差すノーライフキング。

 その指先を見た瞬間、一瞬ブラックが冷や汗を流すが、彼はすぐさまそれを払い、むしろ強気にノーライフキングを睨み返す。


「それはどうかな。一つ言っておくぞ、ノーライフキング。この場において最強なのは私でも、お前でもない。こちらにいる我が主ユウキ様こそがお前を打ち滅ぼす」


「ほお、そのような小僧がか?」


 そう言ってノーライフキングは初めて興味深そうにオレを見る。

 とはいえ、あんまり見つめて欲しくないんだが。


「……なるほど。確かに一際高いレベルの持ち主だな。だが、その程度でかつて魔王としてこの世界に君臨し、ノーライフキングとなった私を倒せるとは思えぬな」


「ほざけノーライフキング。我が主を愚弄した罪。底のない地獄にて後悔するがいい!!」


 咆哮と同時にブラックが先制のシャドウフレアを放つ。

 黒竜が持つ必殺の魔法。

 それはまるで太陽のような熱量と輝きを持ち、目の前のノーライフキングを飲み込む。

 無数に天高く燃え上がる漆黒の炎柱! それらに体を燃やされるノーライフキング。

 いくら相手が不死王や魔王とはいえ、あれをまともに受ければダメージは必須! そう思った矢先、


「なんだこれは? シャドウフレアか? 随分と生ぬるい炎だな。これでは表面しか焼けぬ。肉の調理もレア程度であろう。本物のシャドウフレアがどういうものか見せてやろうか?」


 そう告げた瞬間、ノーライフキングを包んでいた炎が一瞬にして霧散する。

 同時にノーライフキングの周囲に生まれるのは先ほどブラックが生み出したシャドウフレア。

 ただし、その数も炎の勢いもブラックのそれを遥かに凌駕するものであった。


「!? ば、バカなっ!?」


 驚くブラックに対し、顔なき顔で笑みを浮かべシャドウフレアを返すノーライフキング。

 そのうちのいくつかはブラックが咄嗟に生み出したシャドウフレアで相殺したが、残りは容赦なくこちらに向かってくる。

 まずい! このままではオレはともかく他は全滅だ!

 オレは瞬時に『魔法吸収』のスキルを使い、ノーライフキングが生み出したシャドウフレアを吸収する。


「ほお、魔法吸収のスキルか。小賢しいスキルを習得しているな」


 オレがやったスキルを見て関心したように呟くノーライフキング。

 ふぅ、今のは危なかった。

 長期戦になれば、この地一帯がなくなりかねない。

 これは手早く終わらせるしかない。となれば、今現在オレが習得している中で最強クラスのスキルを発動する。即ち――


「スキル発動! 『金貨投げ』!」


 ここは遠慮なく50枚のコインを使用!

 肉体を持たない存在にもコイン一枚につき1000の固定ダメージ! それを50枚使用しての五万の固定ダメージ! メタルスライムすら跡形もなく吹き飛ばしたスキルだ! これなら!

 そう思って放ったオレの必殺のスキルはノーライフキングの胸の胸を貫いた。だが、


「ほお、驚いたな。この身は霊体のため物理攻撃は一切無効なのだが。貴様のそのスキル霊的存在にもダメージを与えるのか?」


「なっ!?」


 貫いたはずのノーライフキングの胸。

 だが、それは即座に塞がり、オレがつけたはずのダメージは一切消えてしまった。

 効いていないのか? いや、そんなはずはない。


「どういうことだ……オレの金貨投げは固定ダメージのはず……!」


「確かに今の攻撃には私もダメージを受けた。が、一つ面白いことを教えてやろう、小僧。私が持つ最大生命力の数字は――1000万だ」


 な、なにーーーーー!!?

 一千万だとーーーー!!?

 とんでもない数字にさすがのオレも驚く。


 ということはあれか、オレが持つコイン全てを使ったとしても、あいつの最大HPの一割も削れないというのか……!?


「加えて、私には自動HP回復というスキルがある。これは一分辺りおよそ一割の生命力を回復させるものだ。つまり、先程のお前の攻撃は今の会話の内に修復された。同じような攻撃を繰り返そうとも私のHPが減ることはない。永遠にな」


 な、なんというチートだ……!?

 マジでこいつラスボスクラスにやばい奴だ!? 魔王完全に舐めてた!!

 思わぬ敵の強さに萎縮するオレ。

 それに対し、目の前のノーライフキングは呆れたように息を吐く。


「やれやれ、そこの男は黒竜を従えるほどの猛者と聞いて多少の期待をしたのだがな。この程度とは残念だ。では、遊びも終わりとしよう」


 そう告げるや否やノーライフキングは右手をかざすと、そこに強大な魔力が集まる。


「デスタッチ」


 そう宣言するとノーライフキングの右手から放たれた魔力が魑魅魍魎と化しオレ達に襲いかかる。

 その魍魎に近くにいた冒険者が僅かに触れた瞬間、冒険者の目から生気が消え、その場に倒れる。


「ふはははは、我が右手から放たれたその魑魅魍魎に触れればお前達も亡霊の仲間入りだぞ」


 な、なんて恐ろしいスキルを使うんだこいつ……!? これは……いくらオレの魔法吸収でもやばいか……!?

 そう思っている内に周囲を魑魅魍魎に囲まれる。

 絶体絶命かと思われたその瞬間、ブラックを中心に暗黒の魔力場が放たれる。


「はああああああああああああ!!」


 ブラックの自身の体を焦がすほどの魔力により、周囲の魑魅魍魎はすべて焼き尽くされる。


「主様! 今です!」


 そう言ってオレになんとか反撃の糸口を繋げるブラック。

 とはいえ、すでにオレが持つ『金貨投げ』では奴は倒せない。

 鉱物化も腕をダイヤモンドやドラゴンの鱗に変質させても肉体を持たないという奴には効果がない。

 残るスキルは魔力吸収と空間転移、武具作成にドラゴンブレス……。

 だめだ! 相手はブラックのシャドウフレアすら通じなかったんだ! ドラゴンブレス程度のスキルではおそらく届かない! どうする!?

 いや、今オレがするべきことは戦うことではなく足止めだ。

 なんとかして奴を動けなくすればメアリーの聖剣で奴を――いや、待てよ。


「そうか!」


「何をモタモタしているのかは知らぬが遊びはこれまでと言った。キサマら全員、我が死の右手に触れて直接殺してくれるわ」


 そう言ってノーライフキングが動こうとした瞬間、オレはそのスキルを使用する。


「スキル! 空間転移!」


 そのスキルを聞くや否やノーライフキングがフードの下の虚ろな顔で笑う。


「はははははは! この期に及んで逃げるか! まあ、それもよかろう! 逃げろ逃げろ! ヴァナディッシュ家以外の人間は逃がしてやるとも! せいぜい我が不死王の恐怖におののく日々を過ごすがいい!」


「誰が逃げるって?」


 笑い声をあげるノーライフキングに、しかしオレは笑みを向ける。


「逃げるんじゃない。止めるんだよ」


「なに?」


 オレの一言に奇妙な声を出すノーライフキング。だが次の瞬間、虚ろな奴の表情が変化した。


「!? こ、これは……! ど、どういうことだ!? 体が……体が動かぬッ!?」


 瞬間、ノーライフキングは自身の異常に気づく。

 その場から動こうとしても全く動かず前後左右、あらゆる方向に移動しようとしてもまるでその場所に固定されたようにノーライフキングの体が動かない。


「まさか、貴様!?」


「その通りだよ。空間転移のスキルを応用してお前の体をその場に固定した」


 オレの答えにまさかといった声をあげるノーライフキング。

 厳密に言えばオレは空間転移のスキルを使い、ノーライフキングをその場に“転移させ続けている”。

 つまり、その場から動いた瞬間、ノーライフキングは元の位置に戻る。

 これが奴をその場に固定し続けている理由。


 スキルランクAは伊達ではなく、オレが認識した対象なら、たとえ敵であろうとも自由に転移可能。しかも連続しての使用も出来る。

 だが、無論これにはかなりの消耗が強いられる。

 先ほどからオレの画面の右下。いわゆる精神力、MPに値するゲージがドンドン減っていっている。

 やはりスキルの使用はMPの減少に関わるようだ。

 オレのレベルは173。無論、それに見合うほどのMPゲージを持っているが一秒ごとにこのスキルを使用しているため、そのゲージもドンドン減っている。すでに二割近いMPゲージが減っているが、構いはしない。その間に奴を固定しておけばいいんだ。


「おのれ、小僧が! 空間転移を使えるのが貴様だけだと思うな!」


 瞬間、ノーライフキングの体がブレ始める。

 あいつ! オレと同じ空間転移を自分にかけて脱出を!?

 くそ、そうはさせるか! オレは奴にかけている空間転移の力を強める。無論、ゲージの消費も先程の倍、いや数倍に膨れ上がるが構わない。その間にオレは叫ぶ。


「メアリー! 今だ!!」


「分かりましたわ!」


 オレが叫ぶと同時にすでにメアリーも用意していたようであり、聖剣を構えると、そのままノーライフキング目指して一直線にかける。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 自らに迫る聖剣を見て吠えるノーライフキング。

 だが、間に合わない。

 奴の空間転移を阻害し、オレが奴をその場につなぎ止めることに成功した!


「ノーライフキング! 覚悟おおおおおおおおおお!!」


 聖剣を掲げ、それをノーライフキングの胸に突き刺すメアリー。

 聖剣が突き刺さると同時に絶叫を上げるノーライフキング。


 勝った! 魔王を、ノーライフキングを倒したぞ!!

 そう喜びに打ち震えるオレ達、だが――


「……っく、くっくっくっ……」


 聞こえたのはそんな勝利を喜ぶオレ達を嘲笑うノーライフキングの笑い声。


「残念だったな」


 そう告げるとノーライフキングは目の前のメアリーを突き飛ばし、自らの胸に刺さった聖剣を取り出す。

 瞬間、聖剣はノーライフキングの手に収まり、その眩い純白の刀身が闇の如き漆黒へと変化する。


「ば、馬鹿な!?」


 聖剣の変貌にメアリーだけでなくエドワードさんまで瞠目する。

 驚き、恐怖に顔を歪めるオレ達を眺めながらノーライフキングは告げる。


「聖剣で我を殺すことは出来ぬよ。なぜなら、この“聖剣こそが我の本体”なのだからな」

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