第16話 聖剣エーヴァンテイン

「レベル173……。そ、それは確かにすごいですわ……。それにそちらの彼が黒竜とは……確かにそれならば可能性はあるかもしれませんわね……」


 あれからメアリーに対して、オレが持つスキルとレベルについての説明をした。

 無論メタルスライムの討伐や黒竜討伐と、その黒竜ブラックを仲間にした件についても話をした。

 それについてはメアリーだけでなく、エドワードさんやグラハムも驚いた様子だった。


「まさか、そちらの彼が黒竜とは……黒竜が人間に仕えるなどという話は初めて聞いたが……」


「私はこちらの主様の力に見惚れ、その従者となったまでです。とはいえ、主様のレベルをもってしてもノーライフキングに太刀打ちできるかは不明ですが……」


「やはり黒竜殿の力をもってしてもノーライフキング打倒は難しいのですか?」


「不可能だな。少なくとも私の実力ではノーライフキングは倒せない」


 問いかけるエドワードに対し、ブラックははっきりと答える。


「というよりも、そもそもノーライフキングを倒せる手段というのは限られている。私ではどうやってもその条件を満たすことはできない」


「? それは一体どういうことですか?」


「分からないのか? ノーライフキングとはその名の通り『不死王』。あらゆる意味で死というくびきから抜け出た存在。言ってしまえば奴は不死身だ」


 そう告げたブラックの一言に周囲は息を呑む。


「って、ちょっと待てよブラック。不死身ってそれって倒せないってことか?」


「はい、普通のやり方ではノーライフキングを倒すことは不可能です。主様」


 マジかよ。じゃあ、どうすればそいつを倒すことが出来るんだ?


「方法はあります。ノーライフキングとは生前、強力な魔力を持った者が怨念によってその存在へと昇華したものです。そうなるべき死因と憎悪の念がなければ成立しない存在でもあります。ですが弱点もまたそこにあるのです」


「? どういうことだ?」


「つまりノーライフキングを倒すには生前と同じ死因を持ってしてしか対処できないのです」


 死因……。それはつまりかつて勇者にやられた攻撃と同じものでないと倒せないということか?

 ブラックのセリフにオレはすぐさま、その勇者の子孫であるエドワードさんとメアリーの顔を見る。


「それならば判明しておりますわ。かつて魔王ガルナザークは私達の祖先である勇者が持つ聖剣エーヴァンテインによって、その命を絶たれたと言います」


「ということは、その聖剣じゃないとノーライフキングは倒せないってことか。その聖剣はどこにあるんです?」


「この館の宝物庫にあります。ご案内いたしましょう」


 そう言ってエドワードさんが立ち上がり、オレ達はそれについていきこの館の宝物庫へと向かう。


「ここです」


 案内されたのは頑丈な扉で出来た部屋の前。

 その扉の鍵穴にエドワードさんが懐から出した鍵を入れると扉はゆっくりと開かれる。

 開けられた扉の向こうには目もくらむほどの様々な宝があったが、中でもその中心に立てかけられた荘厳な剣を目にしてオレは思わず感嘆の息を漏らす。


「あれが……」


「はい。あれが我らが祖先が魔王を倒した聖剣エーヴァンテインになります」


 なるほど。さすがは聖剣と言われるだけはある。

 見ているだけでこちらを圧倒するような何かを感じるし、見た目や装飾もそこらにある剣とは段違いだ。

 オレのような素人でも一目で聖剣と分かるほどの外見。

 ――なのだが、その聖剣を見つめた瞬間、オレは奇妙な感覚に囚われた。

 口では言い表せない不安。

 目の前にあるのは確かに聖剣のはずなのだが、それだけではない違和感を一瞬感じた。


 だが、それを感じたのはどうやらオレだけであり、他の皆は聖剣の輝きに目を奪われ、感嘆の息を流している。

 ……うん。やっぱ気のせい、かな。


「そちらの黒竜殿の言うことが真実であるならば、あの聖剣でノーライフキングを倒せるはずです。……ですが、困ったことが一つ」


 と、エドワードさんがオレに剣を持つよう促す。

 え、いいの? それじゃあ、遠慮なく……と剣を手に握るが、不思議なことに剣はその場所から一歩も動かない。

 オレが全身全霊を込めて、持ち上げようとしても全く微動だにしない。

 こ、これは一体……?


「やはりレベル173のあなた様でも無理でしたか……」


 そう言ってエドワードさんは残念そうにため息を吐く。

 その後、ブラックや冒険者のグラハムも同じように剣を手に取ろうとするが結果は同じであった。


「エドワードさん。これは一体?」


「はい。伝説の武器は持ち手を選ぶと言われています。つまり選ばれた者でなければその剣を装備できないのです」


 マジか。しかし、こうした伝説の武器ではありがちな設定ではある。

 ということは困ったぞ。

 ノーライフキングを倒す方法は見つかったが、それを使える人物がいないのでは……。

 うーんと悩むオレ達であったが、それに対しエドワードさんが言いにくそうに続ける。


「いえ、実は……装備できない者がいないわけではないのです……」


「え、本当ですか? それって一体――」


「私が装備できますわ」


 そう言ってメアリーが立てかけてあった剣を手に取ると、それはまるで普通の剣のように彼女の手に収まり、自由自在に振り回せた。

 マジか。ってことはあれか、勇者の血筋にしか装備できないってやつか。

 ううむ、なるほど。

 とはいえ、装備出来る者がいるのなら話は別だ。


「なら作戦はこうだな。オレ達がそのノーライフキングを足止めし、動きを完全に止めたところでメアリーが手に持った聖剣でそいつを刺す。そうすればそいつは倒せるはずだ」


「確かにそれしか作戦はありませんが、しかし……」


 と言ってエドワードさんは不安そうにメアリーを見る。

 当然か。その作戦には娘さんを使うことが前提となる。しかも、敵に止めを刺す重要な役割。

 もし失敗すれば、いやそうでなくても危険なことは目に見えている。


「大丈夫ですわ、お父様。皆さんが戦っているというのに私一人だけ隠れるなんてことは致しません。それに最初に言ったようにこれは英雄貴族である私達がなすべき戦い。ですから、私はこの聖剣をもってしてノーライフキングを必ず仕留めます。みなさんの足は引っ張りません」


 そう言ってメアリーは手にした剣を華麗に振るう。

 素人のオレから見てもその剣さばきはかなりのものであり、少なくとも初めて武器を手にとったお嬢様ではないようだ。

 それを証明するように華麗な剣舞を披露した後、メアリーが告げる。


「それにこう見えて私、冒険者に憧れて小さい頃から剣の鍛錬を積んでいましたから。なんでしたら王国を引退した騎士団長からも手ほどきを受けていましたわ」


 剣舞と共に答えるメアリーに対し、父親であるエドワードさんは頭を抱えた様子だ。

 とはいえ、これでノーライフキングを倒せる可能性は見つかった。


「時に一つ気になったのだが当主よ。そのノーライフキングとやらは今までどうやってこの屋敷に襲撃をしてきたのだ? お前の話を聞く限り、すでに奴は何度か現れているのだろう?」


「それが……奴はいつも突然霧のように現れるのです。最初に現れた時は真夜中で、その時は宣告にきたのです。『勇者の末裔であるお前達を殺す』と。そして、次の週、奴の襲撃に備えて冒険者や魔術師、更には王国の兵士達が来たのですが、奴は館の周囲に貼った結界をまるですり抜けたように突然現れ、その場にいた全員を皆殺しにしました。それを見聞きした王国や冒険者達は手を引くようになったのです。続く三回目の襲撃でも同じように奴は現れ、その時に雇った者達も全滅。奴は恐怖に怯えて何もできない私とメアリーをまるでいたぶり楽しんでいるかのように嘲笑い、次の襲来では私達の命をもらうと宣言したのです……」


 ブラックの質問に領主はそう答える。

 なるほど。おそらく奴が最初に何もせず宣告に現れたのは恐怖心を煽るため。

 そして、二回目三回目とエドワードさん達を殺さず、護衛の連中を殺したのも同様の理由だろう。

 自分を殺した勇者の末裔。それを簡単に殺しては面白くない。

 ブラックの説明からもノーライフキングは怨念で動く生命らしいから、そうした余興めいた復讐をするのも当然か。

 で、エドワードさん達にいよいよ後がないことを教えてから殺す。

 確かに復讐としては最も手段だ。

 ここにオレがいなければな。


「とりあえず侵入は防げないと考えていいんですね? なら、オレ達がすることは一つ。奴が現れた際に迎え撃てるように準備を整える。エドワードさん。皆を館の外に集めるのはどうですか?」


「外、ですか?」


「はい。中だと全力で暴れれば被害も多くなるでしょう。なら、あえて外で待ち受けてオレ達も全力を出すのです」


 特にブラックの場合、必殺となるシャドウフレアは屋内では使えない。

 オレやブラックが全力を出すとなるとやはり外での戦闘の方がいいだろう。

 それを聞いてエドワードさんは理解したように頷く。


「分かりました。それでは戦力はすべて外に集中させましょう。私達も同行いたします」


「ええ、すみません」


 敵の狙いがエドワードさん達ならば、やはり護衛であるオレ達と一緒にいる方がいい。

 そうして一通り作戦を伝えると全員が外へと移動し始める。

 オレもまた外へと移動しようとするが、その前にオレの足元にすがりつくファナへと目線を落とし優しく声をかける。


「ファナ。そういうわけでしばらくこの館の中に隠れてくれないかな? オレ達がノーライフキングを倒したら迎えに行くから」


「で、でも……」


「大丈夫。すぐに終わらせて、家に戻ろう」


 そう言ってファナの頭を優しく撫でるオレ。

 ファナはしばらく不安そうな顔をしていたが、オレの顔を見て静かに頷く。

 オレはそのまま近くにいたメイドさんにファナを預け、ブラック達と共に外への移動を開始する。その背中越しに、


「――パパ! 無事に迎えに来てね!」


 ファナの声が聞こえ、オレは彼女に振り向き笑顔で答えるのだった。

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