第15話 気軽に受けた依頼は魔王退治でした

「改めまして、私はこの館の主エドワード・ヴァナディッシュと申します。どうぞお見知りおきを」


「いえ、こちらこそ。それでエドワードさん。ノーライフキングっていうのは具体的になんなのですか?」


 あれから館の主エドワードさんに連れられ、客間に移動したオレ達はそこでエドワードさんからの依頼について詳しく聞いていた。

 だが、オレがエドワードさんに問いかけると隣にいたブラックが遮るように口を開く。


「主様。差し出がましい進言になりますが、この依頼今すぐ破棄なさって帰るべきです。彼らは決して関わってはならない相手に関わっております」


「は? いきなり何言ってんだよ。ブラック」


 そう言ってブラックを制止させるオレであったが、その瞬間ブラックの体が僅かに震えているのが見えた。

 震え? まさかこいつ……おびえているのか? あの黒竜が?


「ブラック、お前……怖がってるのか?」


「…………」


 オレの質問にブラックは答えない。

 だが、その沈黙が逆に肯定を意味しており、ブラックの震えが決して武者震いや興奮から来ているものではないと、この時ハッキリとした。


「そちらの方が恐るのも無理はありません。この依頼はギルドですら手に負えないもの。国家単位の戦力でも解決できない問題です。事実、国もギルドも我らヴァナディッシュ家を見捨てております」


「……そのノーライフキングっていうのはなんなんですか?」


「ノーライフキングとは、その名のとおり死者の王。全てのアンデッド族の頂点に立つ存在です。リッチ、ヴァンパイア王などと同一視されることもありますが、ノーライフキングはそうした命無き存在の頂点に立つ存在。不死の王なのです」


 不死の王?

 聞いてるだけでもかなり物騒だな……。


「それでなんで、そのノーライフキングに狙われているんですか?」


「それは……我らが英雄貴族の末裔だからです」


「? どういうことですか?」


 疑問を浮かべるオレに当主はこの家の家系図みたいなものを見せながら説明してくれた。


「まず、そもそもの始まりは我らヴァナディッシュの生まれにありました。我々は本来、王国の正当な貴族の血統ではありません。その起源は異なる世界から訪れた勇者様より生まれたものです」


「異なる世界から現れた勇者?」


「はい。今から五百年ほど前、勇者様は当時この世界を支配していた魔王を倒すために異界の地より召喚されたと伝えられます。勇者様は仲間と共に数々の試練を乗り越え、魔王ガルナザークを討ち滅ぼしました。そして、魔王を倒した勇者様は当時の王のはからいにより貴族の称号を与えられ、安住の地を得たのです。それが我ら英雄貴族ヴァナディッシュ家の始まり。私はその勇者様の血を受け継ぐ子孫になるのです」


 なるほど、そういうことか。だから英雄貴族なのか。

 その異界から召喚された勇者とやらが、オレのいた世界と同じ人間だったのかどうかは分からないが、その彼は元の世界に戻るよりもこの世界での定住をよしとしたのか。

 まあ、人によっては元の世界よりも英雄や貴族としてもてはやされる世界に残る方が幸せだろうしな。あるいは帰る手段がなかったのかもしれないが……。

 オレもこの先どうなるか分からないしな、と悩んでいるうちに当主の話は続く。


「ですが、この時すでに我ら英雄貴族に対する呪いが始まっていたのです。倒されたはずの魔王ガルナザークですが奴は最後の瞬間、ある魔術を己自身にかけていたのです。それは長い年月をかけて、魂だけの存在となり復活したのです。それがノーライフキング。奴の目的はただ一つ、かつて己を葬った勇者の末裔、その血を受け継ぐヴァナディッシュ家を滅ぼすことです」


 う、うわー。マジか。

 予想よりも壮大な話にオレは思わず冷や汗を流す。


「えっと、ってことはちょっと待ってください。そのノーライフキングっていうのは要するに魔王のアンデッドってことですか?」


「……そうなりますね」


 苦い顔で頷く当主様。

 あ、あちゃー。そりゃ誰もそんな依頼受けないわ。

 かつてこの世界を支配していた魔王が五百年の歳月をかけて不死王として復活とか。そんなのもうラスボスクラスじゃん。つーか、相手普通に魔王ってことじゃん!? ブラックでなくてもビビって当たり前だよ!

 というか今回オレ達、異世界人が呼び出された理由ってそいつの復活なんじゃないの?

 予想以上の依頼に考え込むオレ。

 ううむ、どうするべきか。

 確かにオレにはアイテム使用というかなりのチートスキルがある。

 そのおかげで様々なレアスキルをゲットし、レベルも173とかなりのものだ。

 だが、だからといって魔王と今すぐ戦えるだろうか?

 いや、そもそもそういうのは色々準備をかけてからやるべきものであって、こんな依頼の形で魔王を倒すなんてどこの誰が……。

 そう悩むオレであったがその時、不意にこの部屋の扉が開かれる。


「お父様。また新しい冒険者を雇ったというのは本当ですか?」


 見るとそこには長い金髪をポニーテールでまとめた品のいいお嬢様が立っていた。

 貴族服と思わしき、少しゴスロリっぽい服を着ており、目つきはやや鋭く、ぱっと見は勝気そうな少女だ。

 それを肯定するように少女はゴスロリ服の上から鎧を着込み、剣や盾などを装備していた。


「メアリー! そんな格好をしてどうしたんだ?」


 エドワードさんもそんな少女の格好に驚いたのか声を掛けるが、少女は毅然とした態度のまま告げる。


「決まっていますわ。例のノーライフキング。私が直接倒します」


「ば、バカな事を言うな! あのような化物を相手に私やお前なんかがどうにかできるわけがないだろう!!」


 少女メアリーの発言に思わず怒鳴るエドワードさん。

 しかし、メアリーと呼ばれた少女は一切顔色を変えることなく告げる。


「いいえ、本気ですわ。むしろそれが勇者の血を受け継ぐ私達の使命でしょう。あのノーライフキングは自分を殺した勇者の末裔のみを標的としております。そして、そんな私達を守るためにすでに何人もの冒険者が命を落としました。本来ならば彼らは失うはずのない命です。私達という依頼主を守るために彼らはその身を犠牲にしたのです……」


 そう告げたメアリーの表情は悲痛なものであり、明らかに自分達を守って死んでいった者達への悲しみを秘めていた。


「もうこれ以上、私達のために誰かを犠牲にする必要はありません。ノーライフキングの狙いが私達ヴァナディッシュ家の血筋だというなら、それと相対するのが私達の役目。本来、貴族とは民衆を守るためにある存在です。ここで彼ら冒険者、民衆の影に隠れ自分達の命を優先するというのなら、私達英雄貴族の祖先である勇者様も嘆きます。私は私に与えられた使命を果たします」


 そう宣言したメアリーを前に父であるエドワードさんは沈黙する。

 彼自身、あの少女の言っていることは理解しているのだろう。

 それに先程のセリフを考えるにすでに何人かが犠牲になっている。

 エドワードさんも自分達を守るために死んでいった者達に対し、申し訳ないと感じていたのだろう。

 消沈する父を背にメアリーはオレの前に立つ。


「というわけで申し訳ありませんが、あなた達はこの屋敷から出て行ってくださいませ。見れば軟弱そうな外見で、とてもではありませんがあのノーライフキングを倒せるとは思えませんわ。命の無駄遣いなどせず、さっさと尻尾を巻いてお逃げなさい」


 かなり辛辣に突き放すメアリーだが、先程の彼女のセリフを考えるにおそらくわざとこうした冷たい言い方をして自分達を見捨てるよう演技しているのだろう。

 それを証明するようにメアリーはオレをここまで案内した冒険者の男に対しても同様のセリフを吐く。


「あなたも同じですわよ、グラハム。今まで私達ヴァナディッシュ家の依頼を受けて下さり感謝しております。ですが、もはやあなたの力は必要ありません。そもそもあなた程度のレベルではあのノーライフキングの前に出れば瞬殺です。あとは私達でケリをつけますわ。ですからどうぞあなたは私達と関係ないところで冒険者稼業を続けてください」


 そう突き放すメアリーであったが、しかしそれを受けた当の冒険者グラハムは食い下がる。


「お待ちください! お嬢様! オレは一介の冒険者でなんの手柄も実績もなかった! けれど、そこにアンタ達ヴァナディッシュ家がオレ達パーティに色んな依頼をくれて食い扶持を与えてくれた! いや、それ以上にアンタ達英雄貴族はギルドや冒険者達にこれまで色んな支援をしてくれた! 街の貧民街にも寄付していることも知っている! そんなアンタ達が命を狙われたってのに国はおろか、恩義を受けていたギルドや冒険者達の多くが縁を切った! けれど、オレにはそんなことはできない! アンタ達は紛れもない英雄の血を受け継ぐ立派な貴族達だ! この国の王やそれを担ぐ名ばかりの貴族連中とはまるで違う! アンタ達みたいな人がこの国を背負うべきなのに、なんでそのアンタ達がこんな目に……!」


「……ありがとう、グラハム。ですが、先程も言ったとおり、これは私達の問題です。もうほかの方々を巻き込むわけにはいきませんわ」


 グラハムの言葉に一瞬メアリーの瞳に迷いが映るが、すぐさま厳しい表情に戻ると周囲にいた執事やメイド達に対しても告げる。


「聞いてのとおりです。これよりこの屋敷に残った者の命の保証はできません。皆、よく私達に仕えてくれました。ですが、もう皆さんは自由です。どうぞ、好きなようにここから逃げてください」


「…………」

 

 メアリーの宣言に対し、多くの執事やメイドが困惑した表情を見せる。

 だが、誰ひとりその場より動こうとしなかった。

 それを見て苛立ったメアリーが「聞いていなかったの? あなた達がいても足でまといなのです! さっさとここから消えなさい!」と激しい罵倒混じりのセリフを放つが、


「メアリーお嬢様。ここにいる連中は報酬なんかのために残ろうとしているのではないのです。皆、あなた達に恩義がある。それを返すために命を捨てる覚悟なのです。それはオレも同じです。たとえあなた様から役立たずと言われようともオレ達はヴァナディッシュ家を守るためにここに残ります」


 そのグラハムの発言に周囲にいた全員が頷く。

 それにはさすがのメアリーも困惑した表情を浮かべ迷う。

 自分達を慕い、残ろうとする使用人達の姿に彼女自身、胸を打たれているのだろう。

 だが、同時にそんな彼らを犠牲にするわけにはいかないと葛藤もしている。

 それは彼女の父であるエドワードさんも同様であり、オレはそんな二人の姿を見て静かに決心する。


「――エドワードさん。先程のノーライフキング討伐の依頼ですが、オレも受けることにします」


「!? ほ、本当ですか!」


 オレがそう告げるとエドワードさんだけでなく、メアリーまでも驚いたようにオレを見る。


「あ、あなた、何を考えていますの!? 先程の話を聞いておりましたか! これは私達ヴァナディッシュ家の問題であり関係のない人物を巻き込むわけには――!」


「いや、オレはそちらのエドワードさんからの依頼を受けた冒険者だ。その時点で関係ないってことはないだろう。それに……そっちのグラハムさんや、ここにいる使用人達の顔を見て、オレだけ何も見ないふりして逃げるわけにはいかなかくなったよ」


「あなた……」


 オレがそう告げるとメアリーだけでなく、グラハムさんを含む多くの使用人達も感謝するように頭を下げる。

 もはやこうなった以上は力になるしかない。

 このままエドワードさんや、こっちのメアリーというお嬢さんを見捨てるのは気の毒だ。


 それにまだ勝てないと決まったわけではない。

 たとえ相手が元魔王の不死王であっても、こっちには黒竜やオレが持つ『アイテム使用』というチートスキルもある。

 まずはやるだけのことをやってみないとな。

 そう決意を固めるオレを見てメアリーも納得したのか静かに頷き、口を開く。


「……分かりました。それではあなたの力を貸してください」


「ああ、大船に乗ったつもりで任せな」

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