第13話 うちの娘にちょっかいを出す輩は許しませんよ

「おお、マジで一瞬だな」


 スキル発動と同時に目の前の景色が一瞬揺らぐとそこにはオレが最初に訪れたあの街の光景があった。


「うわ~!」


 見るとそこは大通りで様々な格好の人達、冒険者、商人、街人、更には兵士と色んな人達が行きかいしていた。

 以前はそれほど目に付かなかったが、こうして見ると色んな人がこの国には住んでいるようだ。

 そんな目の前の光景をファナは目をキラキラさせながら見ている。


「すごい……こんなにたくさんの建物や人がいる場所、私はじめて……」


「そうなのか? ファナ」


「うん……。前にいたところはとても暗くて……冷たい場所……。私、こんなに賑やかなところは本当にはじめて……」


 そう言って瞳をキラキラと輝かせて、あちらこちらを見るファナ。

 次第にその目は道端で商売をしている雑貨店の商品や、屋台で美味しそうな料理を売っている商人など、そうしたものへと移り変わり、明らかにそれらを物欲しそうに見つめている。

 そうか。彼女にとっては初めて見る街や景色、品揃えなんだ。

 なら、せっかくだからこうしたものを彼女に与えてやらないと。


「それじゃあ、ファナ。なにか気になるものがあったら言っていいよ。オレが買ってあげるから」


「え!? そ、そんなの! で、できないよ……」


「大丈夫だって。ファナは街に来るの初めてなんでしょう? なら、遠慮せずに甘えていいよ。お金ならここにたくさんあるから」


 そう言って前にイストからメタルスライムを倒した際の報奨金と取り出す。

 しかし、それでも躊躇しているファナであったが、


「少女よ。甘えられる時に甘えるのも大事だぞ。主様はお前に甘えて欲しいと思っている。ならば、それを断るのは逆に無礼だ。わかるか?」


 ブラックのその一言にファナはしばらく考えるように目を伏せるが、やがてふるふると震える指で目の前の屋台にある料理を指す。


「そ、それじゃあ……あ、あれが……ほ、欲しい……」


 見るとそれは香ばしく焼けたりんご飴であった。

 おお、この異世界にもりんご飴ってあるのか。

 よくよく見ると、それはりんごというよりもオレンジっぽい果実であったが、なんにしても甘く美味しそうな匂いが漂い、見た目もカラフルでいかにも子供の興味を引きそうな品物であった。

 オレはすぐさま屋台の店主に頼み、そのりんご飴……というより店主いわくべリッシュ飴と呼ばれるものを買い、ファナに渡す。


「はい、どうぞ」


「わあい! ありがとう! パパ!」


 オレから受け取った飴をファナはキラキラした目で見つめながら、すぐさまそれにかぶりつく。

 果実に周りを包む透明な飴を何度も舌で舐めながらファナは何度も笑顔を浮かべる。

 うんうん、こういう笑顔を見せてくれるのなら、多少の出費など全然お構いなし。というか、出来ればもっと甘えて欲しいくらいだ。

 そんなことを思いつつも、当初の目的でもあるイストからのお使いをするべくファナを連れてギルドへと移動しようとするが――その途中、ファナの手が前を歩く冒険者の足にぶつかってしまう。


「うわっ!」


「あっ、なんだこのガキ?」


 男とぶつかった拍子にファナは手に持っていた飴を地面に落としてしまう。

 見るとまだ半分以上残っており、ファナは地面に落ちた飴をショックの表情で見つめる。

 が、男は自分のズボンにファナの握っていた飴の一部がついていたのを見ると、途端にその表情を変え、尻餅をついているファナに怒鳴り出す。


「おい! ガキ! てめえ、どういうつもりだ! オレ様のズボンを汚すとは!!」 


「ひぃ……!」


「あん、よく見ればてめえ奴隷のガキかなにかか? けっ、奴隷ごときが自由に飼われていい気になって人様のズボン汚すとはな。随分と偉い身分の奴隷もいたもんだな」


 そう言って男は服装からファナを奴隷と見下し、汚い言葉を投げかける。

 それを受けたファナは自分が奴隷であることを思い出したのか、震える体で目の前の男に謝り出す。


「ご、ごめんなさ……」


「ファナ。謝らなくていい」


 だが、ファナが頭を下げようとした瞬間、オレは彼女を庇うように男の前に出る。


「あん、なんだてめえ? もしかしててめえがこの奴隷の飼い主か」


「飼い主じゃない。オレはこの子の家族だ」


「家族だぁ? けっ、最近はてめえみたいな買った奴隷を大事にする風変わりな奴らが増えてな。そいつらのおかげで奴隷達も自分達の身分を忘れて調子に乗るんだよ。いいか、奴隷ってのはもっと躾けるもんなんだよ」


「それは人によるでしょう。少なくともオレとこの子の関係に他人のあなたが口を出すべきではないのでは?」


「そうは言うが、オレはズボンを汚されたんだ。この落とし前はご主人であるお前がつけてもらうぜ」


 典型的なイチャモンにため息をつくオレ。


「分かった。どうすればいいんだ? 金?」


「それも悪くはないが、オレと一勝負しろや、兄ちゃん」


「なに?」


「見ればこのガキ、珍しい種族じゃないか。頭から奇妙な角を生やして、これは希少種と見た。お前みたいなヒョロヒョロの男にはもったいない。そういう奴隷は冒険者であるオレ達が持ってる方が色々と有効活用出来る。というわけでオレと勝負しろ。勝てばその奴隷の無礼は不問にする。ただしオレらが勝てばそのガキはもらうぜ」


 男の提案に後ろにいた仲間と思わしき冒険者達もゲスな笑みを浮かべて笑う。

 有効活用ねぇ……。さしずめ、冒険の途中にどこかの見世物小屋で売るとか、奴隷商人とのツテがあるとかそういうのだろう。

 ラノベとかでそういう展開は多く見てきた。

 なら、答えは一つ。


「分かった。手早くやろう」


「お、なんだよ。話がわかるな。じゃあ、早速やろうか!」


「!? ぱ、パパ!?」

 

「心配するな、ファナ。こんな連中すぐに倒す」


 後ろで心配な声をあげるファナにオレは笑いかける。

 一方で男はそんなオレの笑いが、カンに触ったのか顔を赤くし、右腕を振り上げる。


「はっ、ならやってもらおうか!!」


 振り下ろされるパンチ。

 だが、オレはそれを楽々受け止める。

 男は唖然とした表情を浮かべるが、オレはそのまま男の腕の力を利用し、地面に倒す。


「ぐわっ!!」


 うーん。やはりレベルが上がったことで素の能力もかなり上がってるようだ。

 実際、黒竜をワンパンで仕留めたしな。

 そんなことを思っていると男の仲間らしき冒険者達が「てめえ!」とか言いながら武器を片手にオレに襲いかかる。


 おいおい、さっきオレのことをヒョロヒョロのひ弱ってバカにしてたのにボスがやられたらすぐに武器を取り出して複数で襲いかかるのかよ。

 と、そんな突っ込みを入れながら、オレは向かってくる男達の攻撃をヒョイヒョイと躱す。

 正直、こいつら相手にスキルを使う必要もない。

 というか下手にスキル使えば、逆に殺してしまいそうだ。

 ここは手加減の意味を込めて、男たちの腹めがけ、軽くパンチと掌底をお見舞いする。



「ぐああああああああああああ!!!」


 軽く殴ったつもりが男達は数十メートル先にある建物の壁に激突すると、そのまま壁にめり込んだまま気絶した。

 おおう、オレが強すぎるのか。それとも相手が弱いのかこれだと判断がわからないな。

 とは言え、スキルを使わなくて正解だったようだ。


「て、てめえ!! な、何者だ!?」


 そんなオレの攻撃を見て、先ほど倒倒れたリーダー格らしい男が慌てたように立ち上がる。


「安代(あしろ)優樹(ゆうき)。単なるこの子の父親だよ」


 オレがそう告げると男は「ず、ずらかるぞ!」と叫んで仲間達と逃げていく。

 うーん、あいつら冒険者というよりもゴロツキだな。


「さすがは主様、見事です」


 見るとブラックはオレの後ろで拍手しており、ファナはオレの足に抱きつくと満面の笑みを向ける。


「パパ……ありがとう」


 うんうん。けど、これからは食べ物を持って歩く際は注意しようね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます