第12話 異世界にて娘ができました

「やれやれ、少し前までは儂一人の寂しい古城だったのに気づけば三人の居候が増えて騒がしくなったものじゃ」


 そうボヤくイストの前にはテーブルに座る複数の人物がいる。

 一人はオレ、安代(あしろ)優樹(ゆうき)。

 もうひとりはオレの隣で朝からステーキを食べている黒竜ことブラック。

 そして、オレの隣でおぼつかない手でスープを飲んでいる少女ファナ。

 気づくとイストしかいなかったこの古城には四人が住むこととなり、朝の食事もオレとイストの二人から四人になり、昨日よりもにぎやかになった。


 なによりも食事に関して、昨日オレが食べた小石のような食事ではなく、ちゃんとした料理を食べることになった。

 理由はあれでは味気ないということの他にファナに食べる喜びを与えたいという提案から食事はオレが作ることになった。

 こう見えても一人暮らしで炊事洗濯なんでもこなしていたので材料さえあれば簡単な料理なら作れる。

 イストに頼んで保管してある食材をもらい、それを使って野菜炒めにスープ、それから魚のフライなど作ってみた。

 異世界でもこうした食材は似たものがあり、味もほとんど同じだったので不自由はなかった。


「ふぅー、ふぅー……はむ、はぐっ、もぐっ、もぐっ……~~~っ!!」


 なによりもオレが作った料理をファナはとても美味しそうに食べる。

 スプーンの握りは幼い子供がよくやるようなグーで握ってそのままかきこむ形なのだが、本人はそれでもまるで気にせず目の前の料理を必死に食べている。

 時折、ほっぺや洋服に食べ物をくっつけているが、そんなのお構いなしだ。


「ほら、ファナ。ほっぺたに食べ物が付いてるよ。それに顔も食べカスでぐちゃぐちゃじゃないか。もっとゆっくり食べていいんだよ」


 そう言ってオレはハンカチでファナの顔を拭くが、なぜだかファナは申し訳なさそうに顔を伏せる。


「……ご、ごめんなさい……ユウキさん……わ、私、こんな美味しいもの、食べるの初めてで……」


 顔を真っ赤に謝るファナだが、それは先程の彼女の仕草で十分分かった。

 だからオレは彼女の頭を優しく撫でながら告げる。


「大丈夫だよ。ここにある料理は全部ファナのものなんだから、誰も取ったりしないよ。落ち着いてゆっくり食べていいんだからね」


「ほ、本当……?」


「ああ、本当だよ」


 オレがそう告げるとファナは目をキラキラとさせ、再びスプーンを手に目の前の料理をかきこみ始める。

 頭では分かっていても、やはり美味しいものを早く体の中に入れたいという本能が優っているのだろう。

 そんなファナの姿にオレは微笑ましくなり、彼女を眺める。


「全くお主の保護者体質には呆れるものじゃ。お主もまだこの世界に慣れておらぬだろうに、そのような少女の面倒まで見るとはな」


「主様は懐深い御仁です。私はそんな主様に更なる敬服の念を抱きました。ご立派です、主様」


「はは、そりゃ褒めすぎだよ。オレが好きでこの子の面倒見てるだけだよ」


 そう言いながらオレはファナの食事が終わるまで、その姿をじっと観察する。

 そうして食事が終わり、オレが机にある食器を片付けようとした時、ファナが何かに気づいたように自分の食器を手に持ち、オレの後ろをついてきた。


「あれ、ファナ?」


 見るとファナはオレと同じように流し台のところへ食器を運ぼうとするが、流し台には身長が届かず苦戦している。

 オレはクスリと笑みを浮かべると、後ろからファナを抱える。


「わっ!」


「はい、これで流し台に食器を置けるよ。ちゃんと自分の分を持ってきてくれたんだね。偉いよ、ファナ」


 そう言ってオレはファナの頭を優しくなでる。

 当のファナは顔を赤くしたまま、いそいそと食器を流し台へと置く。


「……ち、ちゃんとお片づけしないと怒られるから……。私、タダでここに住まわせてもらっている……。でも、何もできないのはすごくいけないことだから……ちょっとでもユウキ様やイスト様のお役に立ちたい……」


 その一言にオレは思わず胸を打たれるような感覚を覚える。

 見ると、それを離れた場所で聞いていたイストも同様の様子であった。


「い、いや! いいんだよ、ファナ! 君は無理しなくても! それに元はと言えばオレが君をこの世界に呼び出したものだし……」


「そ、そうじゃ! ファナよ! 儂も別にここにいるからとお主をあれこれとこき使う気はないぞ! むしろ、今まで奴隷として何かと苦労してきたのじゃろう? ならば、ここにいる間は好きにしていいのじゃ! 存分に甘えて、遊んで、寝て、食べて、楽しく過ごせ! 儂らはお主に何かを強制することはせぬぞ!」


 慌ててオレとイストがファナにそう告げるが、しかししばらく悩んだ後、ファナは小さな声で答える。


「そ、それじゃあ……わ、私がしたいことは……ユウキ様やイスト様のお手伝いを、したいです……」


 うっ! な、なんて健気な……!

 ファナのその一言に胸を打たれるオレとイスト。

 こうなっては無理に断れば、逆にファナの居場所を奪いかねない。

 オレはすぐさまイストにヒソヒソと相談をする。


「なあイスト。なにかファナに出来る仕事というか、そういうのないか? もちろん無理をさせないやつで」


「そうじゃな……。お使いとかどうじゃ?」


「お使い?」


「うむ。実は週に一度、儂はギルドに魔法薬の提供を行っておる。それで収入を得ているわけじゃが、ファナにそれを頼むのはどうじゃ? お主も一緒に」


 なるほど。確かにそれなら危険はないし、ファナにも出来る。

 ファナはここにいる以上、自分も何かの力になりたいと言っているし、こういうお使い程度ならファナにも十分出来るだろう。


「分かった。それじゃあ、それでいこう」


「うむ。では薬を渡す。ちょっと待っておれ」


 そう言ってイストは自分の部屋に薬を取りに行く。

 しばらくしてイストは両手に収まるサイズの箱をファナのところへと運んでいく。


「ファナ。見えるか? この箱の中に儂が作った魔法薬が入っておる。透明の水で瓶に入っておる。これをギルドの受付に渡してもらえるか? 儂のイストの使いと言えば、ギルドの受付は料金を払ってくれるはずじゃ。どうじゃ、頼めるかの?」


「うん! わ、私! 頑張る!」


 イストから箱を受け取るとファナは慌てたように頷き、すぐさま箱を力強くぎゅっと抱きしめる。


「ファナ。街までは少し距離があるからオレが一緒に付いて行ってあげるよ。先日、転移スキルを覚えたばかりで使ってみたかったから」


「う、うん。そ、それじゃあ、ユウキ様。お願いします……」


「ああ、けれど、その前に一つ。そのユウキ様ってのやめてくれないか? オレは君に様付されるほどの人物じゃないよ」


「で、でも……」


「呼び捨てとか、それがダメならもっと呼びやすい名前で呼んでいいよ」


「…………」


 そう告げるオレにファナは一瞬迷うような表情を見せるが、すぐさま顔を赤くして目をそらしながら小さく呟く。


「じ、じゃあ……ぱ、パパ……って呼ぶのは……ダメ、ですか……?」


「へっ?」


 思わぬ名称に驚くオレだが、そんなオレを見てファナが慌てて首を振る。


「ご、ごめんなさい……! や、やっぱり今のはなしで……!」


「いや! いいよ! うん! 全然いいよ! オレのこと、パパって呼んでいいから!」


「! ほ、本当? ほ、本当に……本当……?」


「ああ! もちろんだよ! それから変に敬語とかも使わなくていいからね!」


「……う、うん。ありがとう……パパ」


 オレがそう告げるとファナは嬉しそうな顔をしてオレを見上げる。

 くぅ、なんて可愛い子だ。

 そんなことを思っているとイストが「こほんっ」と咳払いをする。


 あ、いかん。さっさと移動しないと。


「それじゃあ、ファナ。一緒に街まで移動しよう」


「うん!」


「主様。念のため、私も同行します」


「お、ブラックもか? オーケー。三人で行こう」


 ファナと一緒に転移しようとしたオレの傍にブラックも移動する。

 それを見てオレは早速、先日覚えた空間転移のスキルを使用するのだった。

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