第10話 ▽黒竜が仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか?

「おお、これが転移結晶。なんという魔力がこもった結晶じゃ……儂も初めて手にするがこれはすごい。これならば、儂の長年の研究も……!」


「えーと、イスト。感動するのはいいけれど早いところ戻った方がいいんじゃないの?」


 あれから黒竜を倒したオレとイストはすぐさま黒竜が守っていた転移結晶を掘り出した。

 地中にも根っこのように結晶を伸ばしていたが、その大きさは約一メートル。かなりの大きさであり、素人のオレにも目の前の水晶からは特別な魔力のようなものを感じる。イストのような人間からすればなおさらであろう。


「おお、そうじゃったな。ではさっさと帰り用の転移石を使うか」


「だね。ところでこの鱗ってどうしようか?」


「さっきも言ったがもうそれに使い道はない。お主が使ったらどうじゃ?」


「あー、それもそうか」


 イストの言葉通り、オレは手に持った黒竜の鱗をアイテム使用する。


『スキル:アイテム使用により、スキル:ドラゴンブレスを取得。魔法:シャドウフレアを取得しました。またスキル:鉱物化に龍鱗化の能力が付属されました』


 ん!? 今なんかとんでもないナレーションが頭に響いたぞ!?

 ドラゴンブレスってアンタ……。いよいよオレ人間じゃなくなってるぞ。あとシャドウフレアってさっき黒竜が使ってたやつだよね? え、ええー。嘘だろう。あんなとんでも魔法使えるようになったの? っていうか初めての魔法があれってどういうこと。色々過程すっ飛ばしているんだが。

 あと龍鱗化ってなんぞや? 名前のとおりなら、オレの体がドラゴンの鱗並みに硬くなるってことか? まあ、鉱物化に付属されたって言ってるし、鉱物化の亜種スキルみたいなものか。

 ううむ。なんだかドンドンとんでもない変化しているなオレ。

 そんな風に悩んでいる瞬間であった。


『――お待ちください』


 突然、声が響いた。

 それもこの洞窟の最深部に響き渡るような重く力強い声。

 オレとイストはすぐさま声のした方を振り向く。すると、そこにはあの黒竜がボロボロの体を引きずり、目の前で土下座をするようにしゃがみこんでいた。


『そちらの私を倒したお方。よろしければ、お名前を聞かせていただいてもよろしいですか?』


「へ? オレ!?」


 その問いに返事をすると、黒竜は「うんうん」と頷く。


「え、ええと、安代(あしろ)優樹(ゆうき)です」


『ユウキ……勇気……。なるほど、素晴らしい名前です。私は黒竜。ユウキ様、どうか私をあなた様の眷属にしてもらえないでしょうか?』


「へっ、眷属……ってなに?」


 思わず隣にいるイストに尋ねる。


「眷属とは血の誓いを交わした主従じゃ。眷属となった者は主に仕え、その者の命令を聞く従者となる。が、眷属となった者にはメリットもある。それは主の力の一部を受け継いだり、主が敵を倒した際、その経験値を譲り受けることが出来る。まあ、通常は前線で戦えない魔術師とかが、弱い魔物と契約し、そやつに前線で戦ってもらい自分は後方から援護というのが普通じゃ」


 なるほど。よくある魔物使いというか、テイマーみたいなものか?


「って、それをオレとしたいの!? 黒竜が!?」


 思わず黒竜に確認を取るが、黒竜は「うんうん」と頷く。


『先ほどのあなた様の一撃。お見事でございました。まさか私を一撃で倒せる人間がいるとは……自分自身の強さに驕っていた私が恥ずかしくなりました。世界にはこれほどの強者がいる。私は文字通りの穴の中のトカゲに過ぎなかった。ユウキ様、どうか私をあなたの眷属として一から鍛え直して欲しいのです。そして、世界の広さをあなたの視線から共に感じ取りたい。どうか、この私の願いを聞き届けてもらえないでしょうか?』


「え、ええと、どうする?」


「儂に聞くな。お主が決めよ。というか黒竜、お主の喋れたのか?」


『ええ、これまでは特に話す必要もなかったですし』


 ううん、どうしようか。

 黒竜を使役かー。でも、そういうのちょっとカッコいいかも。なんだかんだでオレも昔はドラゴンが出てくるファンタジーRPGにハマっていて、そのドラゴンを仲間にするのに必死だったのを思い出す。

 まあ、仲間にして損はないだろうし、オレは黒竜の申し出を受けることにした。


「わかった。それじゃあ、その眷属ってのはどうすればできるんだ?」


『私の額にお触れください。そうすれば、私が眷属の契約を発動し、あなた様の下僕となります』


 黒竜のその提案に一応、イストの確認を取る。

 イストも「それで可能じゃ」と頷いているので問題なさそうだ。

 では、早速黒竜の額にぺたりと手を置く。おお、やっぱり結構硬いな。などと思っているとオレが触れた場所に魔法陣のようなものが現れ、オレと黒竜の体を光で覆い、それは一瞬で弾けとんだ。


『契約完了です。これで私はあなた様の下僕です。今後はなんなりとご命令ください』


 と、黒竜が頭を下げる。


「うん、それはいいんだけど、もしかして黒竜ってずっとのその姿なの?」


『む? 確かにこの大きさですとユウキ様の普段の生活に差し支えますね。了解いたしました』


 そう黒竜が呟くと、次の瞬間、黒竜の体が光に包まれ、目を開けるとそこには十四、五くらいの美しい少年が立っていた。

 おお、人間バージョンは思ったよりも若いな。

 てっきりあのどでかい竜の体格や口調から、もっと年をとったイメージを浮かべていたんだが。ある意味、男の娘といってもいいような美麗な少年が現れた。


「これで問題ないでしょうか。ユウキ様」


「あ、ああ、問題ない、と思う」


 驚いた表情のまま隣にいるイストを見るが、どうやら彼女も驚いた様子で目の前に立つ黒竜を見ている。


「お、お主、人化の能力も有しているのか? 噂には聞いていたが、その能力を持つ者は魔物の中で特に上位種だと聞いたが……」


「ん、何を言っている小娘。私は黒竜。魔物の上位種だぞ。人化など出来て当然。とは言え、外見の通り、私は竜種の中ではまだまだ若い。今後はユウキ様の下僕として価値観を広げるつもりだ」


「それはよいが、誰が小娘じゃ。この小僧」


「誰が小僧だ、この小娘。見た目はこのようだが、私は貴様よりもレベルも年齢も上だぞ。もっと敬意を払え」


「なんじゃとー!? レベルはともかく儂はこう見えて魔女族じゃぞ! お主の年齢はいくつじゃ!」


「千を越えたあたりから数えるのをやめた。で、貴様はいくつだ。魔女」


 黒竜がそう答えるとなにやらイストが「ぐぬぬぬ……」と口を閉ざしている。

 ああ、なるほど……年齢も黒竜より下なのね。


「では、主殿。主殿の家に戻りましょう。もしよろしければ、外に出て私がドラゴンに戻り背に乗せて、その場所まで運んで差し上げますが?」


「お、マジか。確かにそれなら転移石を使わずに済むな。というわけで、どうだろうか? イスト」


「ふん、好きにせい!」


 と何やらご立腹。ううむ、どうやらイストとこの黒竜との相性はあまりよくないみたいだ。

 今後はオレが二人の間に立ってクッションにならないとな。


「時にユウキ様。一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」


「ん、なんだ?」


「その……よろしければでいいのですが、私に名前をつけてくれると嬉しいのですが」


「名前? お前って名前ないの?」


「はい。通常、魔物は名前を持ちません。ですが、契約などで人から名前をあたえられることがあり、私もユウキ様よりぜひ名前を賜りたいと思いまして」


「名前かぁ、ええとそうだなぁ……」


 急に言われてもなぁとしばらく悩むオレ。


「じゃあ、ブラックとか」


 さすがにまんますぎるか。もうちょいひねるかと思った瞬間、


「ブラックですか。シンプルなよい名です。分かりました。では、今後は私のことをブラックとお呼び下さい。ユウキ様」


「え、あ、ああ、わかった」


 あっさり受け入れちゃった。

 というか、個人的に突っ込んで欲しかったんだが、どうやらこいつはそういうのが通じない真面目な性格のようだ。うーん、やってしまったかーと思っていると隣にいたイストが「まんまじゃな」と突っ込みを入れてくれた。うん、一応突っ込んでくれてありがとう。


「では、改めて外へ行きましょう。主様」


「あ、ああ、分かった」


 一方のブラックは名前をつけてもらったのが嬉しかったのか上機嫌にオレ達を先導するように前を歩く。

 まあ、本人が嬉しそうなので、これはこれでいっか。


◇  ◇  ◇


「ほお、なるほど。ここが主様が暮らしている城ですか。古いですがこのような城を丸々とお持ちとは、さすがは主様。実は名のある王家の血筋の者だったりするのですね」


「あー、いや、この城はオレのものじゃなくってイストのものでオレは間借りさせてもらってるだけ」


「そのとおりじゃ、黒蜥蜴」


「なるほど。道理で薄汚く、今にも崩れ落ちそうな廃墟といった感じだ。おまけに外壁には草や蔦が絡まり放題、よくもこのような魔物も住まぬ古臭い場所に住んでるものだ。貴様のような陰気な魔女にはぴったりだな」


「お主、マジで殴り飛ばすぞ?」


「ちょちょ、二人共やめてくれよ。今はそれよりも早く中に入ろう」


 あれから黒竜の背に乗ったオレとイストは古城までなんとか戻ってきた。

 もちろん黒竜の洞窟から取った転移結晶も一緒にある。


「それもそうじゃな。それでは、さっさと例の魔法陣を完成させ、異界との門を繋ぐとしよう」


 そう言ってイストはオレを引き連れるように城の中に入り、ブラックもそれに続く。

 なんにしてもこれでイストの言う異界との門が繋がれば、オレは元に世界に戻れるということ。果たして、それが可能となるのかオレはこれから起きるイストの研究に胸を膨らませるのだった。

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