第9話 いざ黒竜退治!

「ここが黒竜のいる暗黒洞窟じゃ」


 そう宣言するイストの前には巨大な山脈の根元にぽっかりと空いた大きな穴――洞窟があった。


「それにしても転移石ってすごいんだな。マジで一瞬でこんな場所にワープするなんて」


「まあな。しかし言ったように貴重な代物じゃ。儂もあとは帰りの分しか持っておらぬ。故にお主に伝えた作戦が成功しなければ、当分はここへも来れぬ。言っておくが段取りはちゃんと覚えておるな?」


「もちろん」


 イストからの確認にオレは大きく頷く。


「まず黒竜の攻撃をイストが魔法で防御して、黒竜が隙を見せた瞬間、オレが黒竜に攻撃を与えて鱗を一枚剥がす」


「うむ。黒竜の鱗を手に入れれば儂がそれを直接解析する。解析完了までは数分の時間がかかるが、その間もお主に足止めを頼む」


「で、イストの解析が終われば、黒竜の弱点が判明し、それに対応した魔法をイストが放つ」


「そういうことじゃ。儂一人ならば黒竜の攻撃を防げはするが、肝心の黒竜に攻撃を仕掛けられる人物がおらんかった。ましてや鱗を剥がすほどの強者なぞ、あの王国には一人もおるまい。しかし、お主はメタルスライムを一人で倒し、更にその結果大量のレベルアップを果たした。お主ならば黒竜に傷を付けられるかもしれぬ。そうすればあとは儂のスキル解析で黒竜を倒すための魔法を即座に生み出してくれるわ」


 自信満々に宣言するイスト。

 なるほど、彼女が持つ解析スキルにはそんな効果もあるのか。

 ただ相手のステータスやスキルの効果などを確認するだけではなく、その弱点を暴き、それに対応した魔法を生み出す手助けをする。確かにこれはかなりのレアスキルだ。鑑定の上位互換とはよく言ったものだ。


「しかし、儂が解析している間、お主は自分ひとりで黒竜の攻撃から身を守らなければならぬ。いくらお主のレベルが上がったとは言え、黒竜の攻撃をまともに受けては危険じゃろう。そこでほれっ」


「? なんすかこの虹色に光る水晶」


「それは魔光石じゃ」


「魔光石?」


「簡単に言えば魔力を吸収して輝く水晶。強力なものになれば魔法なども吸い込む。それをお主の『スキル使用』で使ってみよ。そうすればその魔光石に対応したスキルを習得できるじゃろう」


 なるほど。それじゃあ早速とオレはイストに言われるまま、渡された魔光石をアイテム使用する。

 すると手の中に握った水晶が消え、続いていつもの機械的な音声が頭の中に響く。


『スキル:アイテム使用により、スキル:魔法吸収を取得しました』


 おお、魔法吸収とな? どれどれ?


 スキル:魔法吸収 ランク:B

 効果:対象の魔法攻撃を吸収する。吸収できる攻撃はあなたのレベル以下の魔法攻撃のみ。

 吸収した魔法はそのままあなたのMP(魔力ポイント)へと変換される。


 こ、これはまたかなりのチートだな。

 というか、今のオレのレベルを考えればこれって事実上のほぼ魔法攻撃無効化じゃね?

 やべえ、メタルスライム化に一歩近づいた。


「どうじゃ、何か覚えたか?」


「あ、ああ、まあ、魔法吸収ってスキルを……」


「な、なに!? ま、魔法吸収!? 魔法攻撃防御や耐性アップとかではなく吸収か!?」


「は、はい。そうみたいで……」


「……全くお主というやつは悉く儂の期待を上回るのぉ」


 そう言って頭を抱えるイスト。


「まあ、そのスキルならば黒竜が持つ最大の攻撃魔法『シャドウフレア』もなんとかなるかもしれん。ならなかったら、とりあえず逃げろ」


 え、ええー。いい加減だなー。っていうか、これってオレのレベル以下の魔法攻撃吸収なんでしょ?

 もし黒竜のレベルがオレより上だったら、これ効果発動しないんだよね?

 う、うーん。試すのもちょっと怖いなぁ……。

 そう思いながらもすでにイストの方はやる気満々のようであり、こうなれば最後まで付き合うしかないようだ。

 どの道、元の世界に戻れるなら、オレもその研究の手伝いをしたい。

 そうして、オレとイストは洞窟の奥へと入る。


 中に入ってしばらく、外とは全く違う空気の冷たさに驚く。

 そういえば、洞窟の中は外より気温が低いと聞いたことがあるが、こんなにも体感温度が違うとは思わなかった。

 それともここが異世界でドラゴンが住む洞窟だからだろうか?

 そんなことを思いながら明かりを灯し洞窟の奥を歩くイストについていくオレ。

 不思議なことに三十分ほど歩いても全くと言っていいほど魔物に出会わない。それどころかネズミやコウモリと言った小動物にさえ遭遇しない。


「イスト。ここって黒竜の他に生き物はいないの?」


「いない。当然じゃろう。黒竜のような危険な魔物が住んでいるのじゃぞ。魔物はおろか動物ですら怖がって中に入らぬわ」


 確かにそれもそうか。

 オレがそう納得すると、先頭を歩いていたイストの足が止まる。

 見ると、奥の方からわずかな明かりが見える。


 いや、あれは……何かの光――水晶?

 見ると地面に輝く青色の水晶が輝いている。

 もしかしてあれが転移結晶か? 思わずそのまま近づこうとするオレをイストが制止する。


「動くな、ユウキ! 来るぞ!」


「え?」


 突然のイストの叫びにオレは上を見る。

 するとそこには巨大な二つの光がこちらを見ていた。

 いや、違う。

 あれは光ではない。

 眼光。鋭く輝く金色の瞳。

 それがゆっくりとこちらに近づくと、それまで周囲の影に溶け込んでいた巨大な“それ”が姿を現す。


 全長およそ数十メートル。

 この洞窟の最深部と思わしき広い空間にあって、それを飲み込むかのような巨体。

 首長の頭をゆっくりとこちらに近づけ、背に生えた雄々しい翼を大きく広げる。

 そして、オレ達の狙いが転移結晶であると分かるや否や、その竜――黒竜は巨大な口を開き、地面を揺らすかのような咆哮をあげる。


「ぐっ!」


 それはただの咆哮。鳴き声。叫び。にも関わらず、黒竜が発したそれはまるで嵐のようにオレ達に襲い掛かり、足に踏ん張りを入れるのが遅ければそのまま入口まで吹き飛ばされていたのではという威力を感じた。

 そうして、オレやイストがその場から一歩も動かなかったのを確認すると、黒竜は改めてオレ達を『敵』として認識したようであり、その金色の瞳に明確な殺意を抱き、口の奥から赤黒い炎をちらつかせる。


「! ブレス攻撃来るぞ! 儂の背後に掴まれ、ユウキ!」


「あ、ああ!」


 イストが叫ぶや否や、オレは彼女の華奢な腰にしがみつく、それと同時に黒竜からのこの空間一帯を燃やし尽くすほどの火炎の息が吐かれる。

 が、それがオレ達に届く前にイストの張ったバリアが火炎の攻撃から身を守る。

 やがてブレス攻撃だけではラチが明かないと思ったのか、黒竜の周囲に漆黒の鬼火のようなものがいくつも現れる。


「!? まずい! シャドウフレアじゃ! あやつ一気に儂らを消滅させる気じゃ!!」


「ええぇ!?」


 思わぬ黒竜の行動にうろたえるオレとイスト。

 だが、瞬時にイストも防御のための魔法詠唱に入り、やがて黒竜の周囲に生まれた漆黒の鬼火の数が百に届いた瞬間、それらがこの空間の天井へと舞い上がり、全ての鬼火が互いの炎に触れると一気に爆発し、まるで流星群のようにこの空間いっぱいに漆黒の炎が隕石のように降り注ぐ。

 イストは己に出来る最大限の防御魔法による結界を張るが、次々と結界の周囲にシャドウフレアの炎があたり、その場所から亀裂が入り、やがていくつかの炎が結界に当たると、その場所を貫き、中にいるオレ達目掛け炎が流れ込んでくる。

 まずい!? オレは咄嗟にイストを庇うように右手を上げる。


「スキル:魔法吸収!」


 もうこうなってはイチかバチかと言っていられない。

 オレは魔法吸収を使い、結界を貫通してきたシャドウフレアを迎え撃つ。

 が、オレがスキルを使用すると同時に結界内に侵入したシャドウフレアが全てオレの手のひらの中に吸収されるように消えていく。

 その現象にオレだけでなくイスト、更にはそれを放った黒竜が僅かに動揺したのが見て取れた。

 やがて、全てのシャドウフレアが地面に落ち、周囲はまるで絨毯爆撃を受けたような有様となる。

 そして、すぐさま結界を解いたイストがオレ目掛け叫ぶ。


「今じゃ、ユウキ! シャドウフレアを使った後ならば、黒竜にも隙ができる! 今のうちに攻撃で鱗を剥がせ!」


「あ、ああ!」


 見ると先ほどの大魔法を使った代償か黒竜が動きが鈍くなり、明らかに息を切らしたように呼吸している。

 おそらく大量の魔力を消費して疲労したのだろう。ならば、今がチャンス!

 オレは瞬時に黒竜目掛け、駆け出す。

 その間に『スキル:鉱物化』を使い、オレの右腕を鉱物の硬さへと変化させる。


 お、おう!? なんか右腕の鉱物化がこの間使った時とは違う変化をしているぞ?

 前は岩のような形に変化したのだが、今はまるでダイヤモンドのような虹色の輝きを放つ腕に変化して……ええい、今はそんなことを考えている場合じゃない!

 オレは眼前まで迫った黒竜の顔目掛け、右腕のパンチを思いっきりぶちかます。


「おらああああああああああああああああああ!!!」


 昨日までならともかく、今のオレはメタルスライムを倒したことでこの世界におけるレベルは173となっている。

 これなら鱗の一枚や二枚くらいは……そう思って、渾身の拳を放ったのだが――その結果はあまりに予想外だった


『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』


「へっ?」


 ズドンっと地面を揺らすほどの衝撃がこの最深部に響き渡る。

 見るとオレの一撃を受けた黒竜はそのまま背後にある壁へとぶち当たり、そのまま瓦礫の山に埋もれるように地面に倒れ、気絶する。


 え、ええと。

 予定では確かここでオレが鱗をとって、イストに渡して……。

 見ると、先ほどの拳の一撃でオレの周囲には黒竜の体から剥がれた鱗が散乱しており、オレはそこに落ちている鱗を一枚取ると、そのままイストのいるところに戻る。


「えーと、はい。これ鱗です」


「……う、うむ」


 それをすごすごと受け取るイストだが、すぐさま壁に倒れたまま気絶している黒竜を見ながら告げる。


「……というか、もうこれいらないのじゃが」


「だよねー」


 そうしてオレはメタルスライムに続き、黒竜討伐という称号も手にするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます