第8話 ロリ魔女と仲良くなりました(確定)

「ほれ、いつまで寝ておる。さっさと起きんか」


「ん、んんっ……」


 体を揺さぶられる感覚にオレは思わず目を開ける。

 するとそこには銀色の長髪をなびかせる美少女が立っていた。


「……誰?」


「誰ではないわ、馬鹿者。儂じゃ、イストじゃ。全くいつまで寝ておるつもりじゃ」


「イスト!?」


 思わず驚いて立ち上がる。

 なぜならオレ見たイストは全身を真っ黒なローブと帽子で着込んだいかにも魔女という出で立ちだった。

 しかし、今目の前にいる少女はそれとは真逆で銀色の髪に、それに合う純白の薄着を着たまるでどこかの王女様のような出で立ちだ。

 正直、あまりの美しさと可憐さに息を飲んでしまった。


「……今日はまたすごい可愛いな」


「なっ!?」


 オレ思わずそう呟くと、たちまちイストの表情が赤くなる。


「な、何をバカな事を言っておる! お、お主にそのようなお世辞を言われても、わ、儂は別に嬉しくないぞ! ふ、ふんっ!」


「いや、お世辞じゃなく本心からだけど……」


「ば、バカな事を言うでないー!」


 と、なぜだかイストは近くにあった箒を手に取り、オレの頭を叩く。痛い。


「……ふん、このような外見が可愛いわけがなかろう。むしろ、儂がこの外見でどれほど苦労してきたか……」


「? どういうこと?」


「儂ら魔女族というのは長寿の種族なのじゃが一定の外見年齢になると、そこで変化がストップするのじゃ。あとは寿命が尽きるまではその外見を維持する。しかし、これが問題でいつその外見年齢がストップするかは個人によって異なる。ほとんどの魔女族は二十歳前後のちょうど良い外見でストップするのじゃが……儂はほかの魔女族よりもこの外見年齢の固定が早く訪れてしまった……。忘れもしないまだ十二の時じゃ……他の者達は皆、二十歳くらいまでは外見が成長したのに儂だけ置き去り……そのせいでよくからかわれたりもした。実際、この外見のせいでロクな扱いも受けられなかった。ほとんどの者は儂の外見を見ては侮り、女としての魅力もないと揶揄された。当然じゃな……こんな貧相な体では……」


 そう言ってイストは恨めしそうに自らの細い手足や、平らな胸を触る。

 なるほど、成長しない体か。

 確かにそれは人によってはコンプレックスにもなりかねない。

 特にイストのような魔女族で周囲が二十歳前後まで成長して、自分だけが取り残されればなおさらだろう。


「そうか……。けど、オレが言ったことは本気だよ。少なくてもイストは自分に自信を持っていいよ。その外見だって周りはともかくオレは本気で可愛いと思う。身長や胸の大きさとか関係ないだろう」


 実際、そういうロリ系ヒロインってのもラノベとかの世界ではありだし。

 と、オレがそう言うとイストの表情がますます赤くなる。


「~~っ! ば、バカなことを言うでない! この世界では儂のような貧相な体はモテぬ! ええい、奇妙なことを言いおって! それよりも朝食じゃ! いいから一緒に食べるぞ!」


 あ、はい。

 そう言いながらもイストはまんざらでもない笑を浮かべながら、オレと一緒に食堂へと移動するのだった。


◇  ◇  ◇


「なんていうか、奇妙な食事ですね」


「贅沢を言うでない。これでちゃんとその日一日のカロリーをちゃんと摂取できるんじゃ。むしろ、これほど効率的な食事もないであろう」


 そう説明するイストとオレの前には色のついた小石のようなものが皿いくつか置かれている。

 小石というよりも飴玉に近いだろうか? なお味はほとんどない。

 これはイストが研究で生み出した魔法食材らしい。

 なんでもこの飴玉一つで、その日必要な魔力や体力、カロリーなど様々なエネルギーを補給出来るらしい、数個食べるだけでも十分な満足感が得られるという。

 とはいえ、これは食事としてはかなり寂しい。

 確かに満足感はあるし、エネルギーとかも内から湧き上がるんだが……こう、やっぱり人の食事というのは美味しいものを色々食べてだな。


「それよりも今日は儂に付き合ってもらうぞ」


「へ、どういうことです?」


「昨日言ったであろう。衣食住を提供する代わりに、お主には儂の研究を手伝ってもらうと」


 ああ、確かにそんなことを言っていたな。

 とはいえ、どういう手伝いをしろと? 言っておきますけれど、オレはそんなに勉強ができる方ではなかった。小難しい研究とかはちょっと……。


「安心せよ。何も儂の研究を直接手伝えとは言わん。お主はその体を提供してくれれば十分じゃ」


「か、体……?」


 そのフレーズに思わず身構えてしまうが、イストは呆れたように答える。


「口で説明するよりも見せたほうが早い。こちらに来い」


 そう言って歩き出すイストのあとをオレは恐る恐る追いかける。

 しばらく城の通路を歩き、ある部屋の前で立ち止まると「ここじゃ」と言って扉を開ける。


「これは……」


 その先にあったのは床に奇妙な魔法陣が描かれた一際大きな部屋であった。

 また魔法陣の周囲には見たこともない緑に輝く水晶がいくつも置いてあり、まるで部屋中から輝きを発しているかのように不思議な光が溢れる空間であった。


「これが儂の研究――異界の門を開くための研究じゃ」


「異界の門?」


 何やら危なげなワードに思わず反応する。

 異界って、それってどういうこと?


「まあ、言葉の通り異なる世界を繋ぐ門じゃ。これが成功すれば、儂らのいるこの世界とは異なる世界に行くことが可能。儂は長年この研究をしており、その研究の一部を王国に譲渡したのじゃ。その結果、生まれたのがお主達、異世界人を召喚する。召喚の儀じゃ」


 そういうことだったのか。

 ということはオレ達がこの世界に来たある意味、原因を作ったのは目の前にいるこの魔女イストだったのか。

 まあ、オレは起きてしまったことは仕方がないと受け流すが、ほかの連中がこれを知ったどうするかなぁ。いやまあ、彼女自体に罪はないか。あくまでもオレ達を召喚したのはあの王国と国王なわけだし。


「え、でも、ちょっと待ってくれ。イスト。それならもう君の研究は完成してるんじゃないのか? 現にオレ達、異世界人が召喚されてるわけだし」


「いいや、それは儂が目指したものとは違う。それはあくまでも素質のある異界の人間をこの世界に召喚する儀式。儂がやりたいのはこの世界から異なる世界へ移動する手段じゃ。いくら門を開いても、それが片道切符、しかも向こうから人を呼び寄せるだけでは意味がない。そんなものは儂が目指したいものではない」


 なるほど。確かにそう言われるとそうだ。

 イストの言っている通り、この世界と異なる世界を繋いで、そこを自由に行き来できるとなればかなり便利。というか、それは是非ともオレからもお願いしたい。

 もし、それが成功すればオレはもといた世界に帰ることができる。

 正直、この世界に呼び出された時点で諦めかけていたけれど、これは思わぬ光明だ。

 オレはすぐさま表情を明るくし、イストに「それで何を手伝えばいい!?」と声を高く尋ねる。


「慌てるな。まだこの魔法陣も未完成じゃ。今のままでは起動が出来ない。肝心なパーツが足りぬからな」


「肝心なパーツ?」


「転移結晶と呼ばれる貴重なマジックアイテムじゃ」


 そう言ってイストはすぐ近くの机に置いてあった青い石を取り出す。


「これは転移石と呼ばれる使用すれば持ち主がこれまで行ったことのある場所へ瞬時に移動できる魔法石じゃ」


「へえ、そりゃ便利だね」


「うむ。しかし、それゆえ大変貴重な品物であり、普通の店にはまず売っていない。それに一度使えば中の魔力が消費され、二度目は使えない。いわば消耗品。上級冒険者の中でもいざという時の脱出用に持つのが常識じゃ」


 なるほど。で、転移結晶というのは?


「転移結晶はこの転移石の完全なる上位互換。巨大な水晶の塊であり、転移石のように持ち主が望む場所に瞬時に移動できる。しかも石の場合は持ち主一人じゃが、結晶は何人でも瞬時に転移が可能。しかも最低百回は使用しても中の魔力が途切れないという伝説の鉱石。この転移結晶を手に入れれば、儂の異界の門を繋げる研究も実現可能となるのじゃ」


 おお、そりゃすごい!

 しかも、かなり具体的で分かりやすい!


「つまりはその転移結晶ってやつさえ、手に入れればいいってわけだよな? 場所とかどこにあるかとかわからないの?」


「場所はもう突き止めてある。ここより遥か東に数百キロ。黒竜が住まう暗黒洞窟の最深部に、その転移結晶はある」


「マジかよ! それじゃあ、すぐに取りに行こうぜ!」


「待たんか」


 そう言って駆け出そうとするオレの襟首をイストが捕まえる。


「話は最後まで聞け。場所は分かっているが、そこが問題なのじゃ。よいか、黒竜というのは全ての魔物の中でも頂点とされる魔物の一つ、というかドラゴン自体がこの世界では最強種族の一つじゃ。黒竜がこの水晶を守っている以上、迂闊に手出しはできぬ」


「そうなのか。メタルスライムとどっちが強いんだ?」


「それは強さのベクトルがまた別じゃからのぉ……。メタルスライムの強さは物理・魔法を完全に防ぐところにある。しかし、黒竜は物理・魔法に対する耐性は高いが高レベルの冒険者であれば太刀打ちはできる。しかし、黒竜が持つ絶大なる攻撃力、影すら焼き尽くす禁断のシャドウフレアなど真っ向から戦えばすぐに蒸発して終わる。それに黒竜の体力はとんでもなく高いのじゃ。メタルスライムのように防御無視の貫通攻撃を与えれば倒せるというものではない」


 なるほど。確かにそれは聞くだけでも強敵っぽい。

 うーん、黒竜か。

 話を聞く限りは巨大なドラゴンっぽいし、となると牙や爪とかあるだろうし、口から炎とかも吐くんだろうなぁ。

 考えるだけでちょっと怖い。


「とはいえ、全く打つ手なしというわけではない」


「というと?」


「お主の協力があれば――黒竜を倒す手段を作れるかも知れぬ」


 そう言ってイストは自信に満ち溢れた笑みを見せるのだった。

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