第37話 服のお披露目
次の日、孤児院を訪問するとチアキさんから、とある一室に招かれた。
入ると壁沿いにタンスがずらりと並んでいるのが見えて、どのような部屋なのかは察しが付いた。
「全員分のメード服が仕上がったんだ」
タンスのひとつを開きながら、チアキさんが三着のメード服を取り出していく。
ひとつは、聖薇ちゃんが着ているシスター服に似た要素を盛り込みつつ、胸の部分が緩やかに膨らんだ形状をしている。
ひとつは、アリス服を模したらしいカラーリングをしつつ、スカートがとても短い形状をしている。
ひとつは、フリル満載で可愛らしさに特化しつつ、とても小さめに作られている。
「どうだい、三人の特長を活かせるデザインになっているだろう?」
「すごく……完璧です……」
そう、完璧だ。誰が着るのを想定しているのか、ひと目でわかった。
しかし、だ。
「これではイロモノすぎませんか? 統一性がないじゃないですか」
「そう思うなら先にコンセプトを出しておいてもらわないとね。それに、私はまず全員の魅力を最大限に活かせる服を用意しようと考えたんだ。でっち上げたコンセプトが働く子達の素質に合わずに個性を潰してしまったのでは勿体ないからね」
言われてみればもっともらしい考えだ。
この世界では初めての形態になるだろう店だから、冒険するくらいがいいのかもしれない。
それに、働く側も経営する側もノウハウが出来ていないのだから、初めのうちはそれぞれの個性で勝負してもらって、いいところだけを残していく方針で行った方が、個性的で面白いお店になるんじゃないか。
コンセプトが固まるまでは、敢えて手探りで模索するのもありかもしれない。
チアキさんの策略に乗っかるのは危険な香りがする。でも、チアキさんが言う通りの彼女たちの姿を見たいのは本心だ。
ただひとつ大きな懸念があるとすれば。
「エリスさんの服だけこんなにスカートが短いのってどうしてなんですか?」
短いスカートを履く危険性は昨日思い知ったばかりだ。なのでこの選択だけはメリットよりもデメリットがチラついてしまう。
「あの程よく筋肉が備わって引き締まった太腿を見せないなんて、秘密兵器が秘密のまま隠してあるようなものでしかないさ。君も昨日、その素晴らしさを体感したはずだろう?」
「ああそれは……ってもしかして昨日も、ミニスカートを履くように指示をしていたりしませんか?」
「したよ。そしたら帰ってきてから、スカートを摘みながら『これは使えるかも』って言ってたから、気に入ったみたいだよ」
まさかエリスちゃんって――痴女なのか?
客に向かって自ら積極的にパンチラをするサービスを提供するつもりだとしたら、何とかして思い止まらせなきゃならない。
そのようなサービスは、そのようなお店だけでするべきだ。どうしてもというのなら、そのようなお店へ斡旋しなくてはならない。でもまだ未成年なのだから、大人になるまでは我慢してもらわないと。
けれどもそれ以前に、最も確認しておくべきなのは。
「着る本人はこの服をもう見たんですかね?」
「まだだよ。これが初のお披露目なんだし」
「なら、今のうちにみんなが了承してくれないと、実際のお店でも着てもらえなくて、開店していきなり着られる制服がありませんなんて事になりかねないんじゃないでしょうか」
「退路を断つ、という方法もあるぞ?」
こんな意地悪な提案をする時ほど、マジな顔になるのやめてもらえませんかねチアキさん。
他はともかく、エリスちゃんがこのスカートでどのように立ち回るのか読めないまま、ぶっつけ本番するのは不安がある。
ちょうどいいタイミングかもしれないな。頼んでみるか。
+*+*+
「四人も手伝ってくれるのかい? ありがとねえ」
販売所の飲食コーナーを担当している、性格も体型も丸いオバサマに申し出ると、快く承諾してもらえた。
「自然な流れで私も手伝う頭数に入れられてるのはどうしてかしらね」
性格に棘があるオバサマながら見た目はちんまい幼女から不満の声が漏れるが聞き流しておく。
アムちゃん、エリスちゃん、ユノちゃんの三人は、チアキさんから支給された三者三様のメード服を身に纏っていた。着るのに抵抗感を示される事はなく、文句も言わずに優美なその姿を見せてくれている。
とても似合っているし、とても魅力的な姿だ。チアキさんの審美眼が確かだと認めざるを得ない。
ヨシエさんだけは調理担当者同様に白衣と三角巾とマスクの組み合わせだった。背丈からして調理する人ではなく給食当番にしか見えないのだが。
とても似合っているし、とても可愛らしい姿だ。
つい視線はエリスちゃんのスカートから覗く脚に向いてしまう。
昨日の今日だと言うのに忘れたかのように、再びハプニングが起こる予感など持ち合わせていないかのように、チアキさんが言うだけある見事な脚線美が衆目に晒されるがままの状態となっている。
アリス服は幼さの象徴だけに一見すると年齢を引き下げている雰囲気が感じられるが、幼さを感じさせるままの上半身と、大胆にも大人の色香を漂わせるに至っている下半身のギャップが強烈な印象を与えてくる。
「御主人様は私のメード姿に見惚れているのですか?」
エリスちゃんから投げ掛けられた言葉は挑発か。僕の視線が注がれているのに気付いているのは間違いないだろう。
恥ずかしい思いをさせてしまっただろうと慌てて視線を上げると、顔に浮かんでいるのはなぜか喜色のようだった。
むしろ、隣のアムちゃんから睨まれているのが視界に入り、失策をしたとの判決を下されているのを知る。
「みんな、とても良く似合ってるよ」
取り繕うつもりで発した言葉に、面白いくらいにアムちゃんが変貌した。得意満面とはこの事か。
以前にも着たことがあったからか慣れたもので、理想通りのメードさんと化した姿を見せつけるようにしながら堂々たる態度で腰に手を当てている。
こんなに偉そうな態度をしたメードさんは理想通りではない気がするけれども。
「じゃあ持ち場に付くわね」
素っ気ない口調でヨシエさんが調理場に引っ込んでしまう。
いや、ヨシエさんにも配膳を担当してもらいたいんだけど。そもそもあの背丈で台所の作業をするのは台でも用意しなければ厳しいだろう。
「じゃあみんな、今日は店の予行演習が主目的だけど、お客様には店が来月から始まることを宣伝するようにしてね。それに、お客様は必ず御主人様と呼ぶように。もしお客様がなぜ御主人様と呼ぶのかと尋ねてきたら、お客様そのように呼ぶお店だからだと説明してから、もし気に入ったら来月以降にまた来てくださいと提案するのを忘れずにね」
「承知しています」
「お任せくださいませ」
アムちゃんとエリスちゃんからは心強い返答がもらえたが、ユノちゃんは目で不安を訴えかけていた。
「お客様から指摘されたら泣いちゃうかもですぅ……」
うわ、それはマズいな。店員が泣いてしまい、仕事を放棄するようでは店として成り立たない。
今回の予行演習で慣れてもらわないと。
「どうしても厳しくなったら呼んでくれれば僕もみんなも助けるから、なるべく頑張ってみて、ね?」
「そうですわ、ユノを泣かせるような事を言った客は私が泣かせてみせますから」
「いやお客様を泣かし返すのはしないでね、お願い」
エリスちゃんは肝が据わり過ぎどころかオーバーランしている危険思想だったので、任せずに僕もフォローに入ったほうが良さそうだった。
アムちゃんは造花の販売で客対応に慣れているだろうし、客を
僕のやる事、けっこうあるんじゃないだろうか。
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