第75話 そろそろ、変わろう
「兄ちゃんも回りくどいねぇ・・・」
暗がりの夜道を歩くは2つの影。
絵里奈と【SunJeriol】で別れた後、俺達は既に太陽が落ちた街道をゆっくりと歩いていた。絵里奈はひとしきり泣いた後、そのぐっしょりと濡れた顔は憑き物が取れたかのように晴れ晴れとしていた。
何故とは問わない。
「何がだよ」
「わざとキツく言ったんでしょ?」
「・・・」
どうやら千恵は分かっていたらしい。
「絵里奈の場合、それが一番手っ取り早いからね。とにかく俺はさっさと帰って寝たかったから」
「素直じゃないね」
嘘は言っていない。ああやってキツく言う事で、絵里奈は確かに前を向けるようにはなる。何故なら、あいつは欲していたから。ただのうのうと話し続けるために俺達と一緒に居るわけがないし、そもそもいきなり自分語りを話し始める訳もない。
絵里奈は―――自分を叱ってもらいたかったのだ。
あの噂が起こった後、俺は祐樹の噂について絵里奈に言及しなかった。何故なら、それが
――なぜ私は何も言われないのか。
俺はあの日から絵里奈を極力避けるようになった。もし仮に遭った時でも、俺は眼すら合わせず、報告程度な会話しかしなかった。そしてそれは中学生から今までずっとそうだった。ずっと絵里奈に冷たくあしらう事で、俺は言外に”祐樹の噂を流したのはお前だって分かってる”と伝えた。
だが、絵里奈は祐樹には近づこうとはしなかった。張本人なくせに、あいつは何も行動を起こさなかったわけだ。
まぁ、仮に絵里奈が行動を起こしたとしても、祐樹が振り向くわけないか。今ですらあんな状況だったのに、あの当時の祐樹に接したって何も変化は起きない。俺ですら苦労したのだ。心の壊れた祐樹を”人間に戻す”ことは。
「千恵は、どう思った?」
俺はここで問いかける。
「どうって?」
「絵里奈の話を聞いて、千恵がどう思ったのか気になってさ」
「どう思ったって・・・」
今日の絵里奈の話。どうにも俺には絵里奈と千恵は”共通”している部分があったと思えて仕方なかったのだ。だけどそれはあくまで憶測で。確信に至っているわけではない。
だがこの胸につっかえるモヤモヤが俺の不安をどんどんいぶりあげていたのだ。
「やっぱり変わってないなぁって感じかな?祐樹先輩相変わらずキモいし。絵里奈ちゃんは相変わらず可愛いし。そして相変わらずウジウジしてたし」
キモイとか言わないで上げて。
俺も思ってるけど。
「私ずっと嫌いだったんだよね。絵里奈ちゃんのああいう事。
「あんな形の後押ししか出来ないのは、ちょっと悔しいけどね」
「なんかイキってたもんね、兄ちゃん」
「イキらずにしてあんな言葉は言えん。久しぶりに怒った振りしたから、上手くできたか分からんけど」
「結構良かったとは思うよ。あ、でも普段から大きな声出してないから、怒った時もあんまり声が出てなかったかな」
「そう」
陰キャ生活が長いと、どうしてもそこには困ってしまう。いざ声を発そうと思っても、のどが上手く開かず、小さい声になってしまうのはとっくに慣れていた。
「でも絵里奈ちゃん、どうするんだろう?」
それは、祐樹との仲直りを指しているのだろう。
「さぁ・・・。でも、結局は絵里奈次第だ。そして、祐樹次第でもある」
いくら絵里奈が祐樹に仲直りを持ち掛けても、祐樹が取り合ってくれないなら意味が無い。そして、それを強要するのも意味が無い。あくまで線引きが必要だ。本当に祐樹が絵里奈と仲直りしたいなら、自然とその足はお互いに向き合う筈だし、逆ならそこまで。
でも―――
「俺に出来ることは、出来るだけするよ」
あいつらは、俺の恩人だから―――。
「でた。謎の正義感。兄ちゃんって興味の無い振りして、実は結構面倒臭い事に突っ込むタイプだよね」
「そんなこと・・・あるか?」
「うん」
興味はないんだけどね・・・。ただ必然的な条件がそろっているだけで、俺は動くしかないという選択をさせられている気がするのは、気のせいか。
ただまあ、どちらにせよ俺にとっては大事な案件だ。無碍にすることは出来ない。
「あ、もう7時じゃん!」
「えまじで?」
「うん。早く帰んないとお母さんに心配されるよ!」
「早く帰るぞ千恵!」
「うん!」
こうやって夜の住宅街を走るのは、いつぶりか。もう覚えていない。
でも―――悪くない。
~あとがき~
もう一つ、書き始めた小説があります。不定期ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
『超絶どブスの僕には、絶対ラブコメは訪れないと思っていた』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893998518
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