第66話 幼馴染の過去③
「妹だ」
「うそつけ。だって似てねーじゃん」
「それはよく言われるけど、ぼくの妹だ」
「うーん?」
ゆうきは顎に手を当てながら、未だぼくに抱き付いている千恵の顔をまじまじと見つめる。
すると、千恵も見つめられ居心地が悪くなったのか祐樹を訝しげな目線で見ながら問う。
「・・・だれ」
「うん?俺はたけるの友達で、ゆうきって名前だ」
「おい、勝手にお前の友達にするな」
こいつ、友達じゃない癖にぼくを友達呼ばわりしやがった。
「兄ちゃんの友達・・・?」
「ああ、そうだ」
千恵は心底驚いた表情で武流を見やり、そしてそれは次第に訝しげな視線に変わっていった。
「兄ちゃん。友達なんていたんだ」
「おい」
確かにぼくには
「あっ、いたいた!」
頭上から声がしたと思い声の方向へと顔を上げると、階段を駆け下りる可愛らしい女子が居た。
「やっぱり、たけるくんの妹だったんだ」
「まぁ、うん」
「やっぱりって、知ってたのか?えりな」
「ううん。今まで知らなかったよ」
ぼくたちが兄妹だって事は、実はあまり知られていない。ぼくが広めていないという事もあるけど、一番の理由はやっぱり顔が似ていないという事だ。
千恵は目がパッチリ二重の可愛らしい顔立ちをしている。髪の毛を耳上で二つに縛る、最近流行りのツインテールという髪型らしいが、はっきり言って千恵にはあんまり似合っていない。髪の毛ボサボサだし、さっきまで鼻水垂らしてたし。このまえテレビで見たとなりのト○ロのメイちゃんみたいだ。
数年後、あるきっかけにより千恵は自分の容姿をひどく気にしだすのだが、それはまた別のお話――
「千恵ちゃんって言うんだ。よろしくね?」
絵里奈は上級生らしい態度で、優しく声を掛け、手を伸ばしたが――
「ふんっ」
プイっと顔を横に向け、千恵は絵里奈の握手を拒んだ。
「え、えっと・・・千恵ちゃん?」
「ふんっ」
顔を背けた方向に回り込んだ絵里奈だったが、再び千恵はそっぽを向く。
・・・なにやってんだこいつ。
「千恵、おまえ頭大丈夫か」
「大丈夫だもんっ」
「・・・ごめん、瀬口さん。こいつ頭がおかしくなったみたい」
「え?そ、そうなの・・・?」
今の言動を見る限り千恵は頭がおかしくなったのだろう。ああ、可哀そうに。
「むぅ~、だから私はあたまおかしくないっ!」
「だったらちゃんと握手できるよな?」
「・・・ふんっ」
千恵は数秒悩んでいたが、渋々といった様子でそっぽを向きながら手だけを差し出した。
「あ、あはは、なんか嫌われちゃったみたいだけど、よろしくね」
絵里奈は苦笑いをしながら、差し伸べられた手を取り握手を交わした。
というかなんで千恵はこんなに嫌がっているのだろう。瀬口さんは礼儀正しく優しい人なのに。
「ということで、鬼ごっこしようぜっ!」
「どういうことだよ」
なんかいい感じになったからって、いくら何でもそれは無理があり過ぎる。
だが――
「え!鬼ごっこ!?私もやるっ!」
最大の敵は味方にあり。
「おっ元気が良いなたけるの妹は」
「鬼ごっこ好き!」
「だよな!面白いよな鬼ごっこっ」
「兄ちゃんもしよ!」
「・・・やだ」
一応断るが、多分――
「やだっ!いっしょにやるのっ!」
はぁ、やっぱりだ。
千恵はお母さんですら困っているほどの駄々っ子だ。こうなると説得するのにとても時間が掛かる。無理に説得しようとすると泣きだすし・・・・。やはり千恵がいると色んな災難が降りかかってくるな・・・。
「・・・分かったよ」
渋々だけど、後が面倒くさいのでここは無難な選択をしておく。
「よっしゃ!!とうとうツンデレがデレたぞっ!!!」
・・・やっぱやめとこうかな。
◇
結論から言うと――――不本意ながらめっちゃ楽しかった。
正直、ここまで楽しいものだとは思っていなかった。
毎日のように、教室からグラウンドで元気よく走り回っている様子を横目で見ていたが、その度にぼくはなんて馬鹿の事をしているんだろうと考えていた。
昼休みは”休む”ための物であって、”疲れる”ためのものでは無いと。今でもその考えを否定するわけでもないが、偶には外で遊ぶのもいいかもなんて思ってしまった。
でもそのくらい面白かった。ゆうきには絶対に言わないけど。あいつに言ったらなんか負けたみたいでムカつく。
その中でも一番驚いたのは瀬口さんとゆうきが物凄く足が速かったという事だ。ゆうきは何となくわかるけど、まさか瀬口さんがあそこまで早いと思っていなかった。笑顔のまま追いかけてきた時は本当に怖かった。
そして我が妹千恵は、元気よく走り回っていたせいか途中でこけて泣き出した。たいした怪我ではなかったが、見た感じはとても痛そうだった。ドンマイ、と言ってやったら何故か睨まれた。こわい。
「なっ、鬼ごっこ面白かったろ?」
授業が終わり、放課後。
何故か昇降口で祐樹と二人という、以前の僕だったら絶対に考えられない組み合わせだ。
「・・・そうでも」
「ははははっ!おまえ本当に嘘下手だな」
「・・・」
「別にいいけどよ、
「っ・・・!」
不覚にも、その言葉に心打たれた武流。
・・・なんで、なんでこいつは僕なんかに構うんだ?
僕はいたって平凡で、なんの取り柄の無いつまらない人間だ。祐樹と違ってクラスの中心的な存在でもないし、瀬口さんと違ってみんなをまとめる力もないし。どっちかというと、ぼくはそういう人間が苦手だ。
だけど、何故かこの2人にはぼくの
「なぁ、ゆうき。お前は――」
「おーい何してるのー。帰るよー!」
僕が言いかけたタイミングで、先に校門を出ていた瀬口さんが大声で僕たちを呼びかけた。
「うん?なんか言ったか?」
「・・・いや、なんでも」
「?そうか」
多分問いかけても、祐樹はちゃんと答えてくれない筈だ。なんとなくだけど、そう思う。
そして、俺らは―――中学生になった。
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