第38話 グランドアイドル

「にいちゃーん、お菓子買ってきてー」


「やだよ」


 一体、今何時だと思ってんるんだ。

 もう夜の10時なのに、千恵はリビングのソファにだらしなく座りながらそんな事を言う。


「いいじゃーん」


「そんなに食べたいなら自分で行け」


「めんどーい」


「それは俺も」


 こいつ、俺をパシリかなんかと思ってんのかね。まったく、迷惑極まりない女である。


「どうせいっつも暇なくせに」


「・・・今から宿題があるんだよ」


 嘘だけど。だが暇か暇じゃないかで問われたら・・・・・圧倒的に暇ですね。はい。


「兄ちゃんのけちん坊っ。もういいっ、私一人で行くっ」


 私が誰かに襲われても知らないからねー!と言いながらリビングを出た千恵。


「はぁ」


 我儘な妹を持つのは本当に疲れるな・・・。はぁ、行くしかないか・・・。

 千恵はなんだかんだ言って容姿は優れてるし、こんな夜中に一人で歩いてたら危険すぎる。最近は物騒だし、良い噂は聞かない。


「千恵ー、やっぱり俺がいくよ」


「ほんとに!?」


 リビングのドアを勢いよく開け、俺に詰め寄ってくる千恵。


「・・・」


 こいつ・・・


「もう、兄ちゃんは優しいなー。じゃあコンビニでチョコレートと何でもいいからスイーツ買ってきて」


 最初からこれが狙いか、この女狐め・・・。


「・・・はぁ、わかったよ」


「だいすきっ兄ちゃん!」


 ほんと、こういう時だけ調子のいい事言っちゃて。


<><><><><><><><><><><><><><><><><><><


「ねぇ、アッシー昨日コンビニ買い物してた?」


「?してたけど」


 神咲さんもあの時近くにいたのかな?


「やっぱりー!私あのコンビニでバイトしてるんだけどさ、アッシーっぽい人が店に入ったの見たんだよねぇー」


「ああ、なるほど」


「バイト終わりでちらっと見ただけだし、その時疲れてたから声掛けず帰っちゃたんだけど」


「そう」


 俺的にはその方が都合がいい。コンビニでクラスメイトに会うとか何か嫌じゃん?しかも深夜だし。相手は神咲さんだからまだいいかもしれないが、全く関わり合いの無いクラスメイトと鉢合わせした時の気まずさと言ったら、簡単に言い表せないものがある(体験談)。


「アッシーってあの辺の近くなんだ?」


「いや、あの周辺には住んでない」


「え?なに?もしかしてアッシー、見かけによらず素行不良な感じ・・・?」


 いや、違いますよ?妹にパシられただけだし。というか、見た目だけで言ったらあなたの方が不良っぽいですよ、ギャル娘さん。


「違う違う。昨日は妹にパシられただけ」


「パシられた?妹に?」


 そうなんですよ。ほんと、家の妹ったら我儘ばっかりで大変なんです。同情してくれます?


「うん」

 

「・・・なんかそれ、アッシーっぽくて笑える、はははっ」


「・・・」


 ・・・・・・悪意のない笑いって一番傷つくよねっ。


「それは言えてる(笑)」


 隣の西条まで乗っかってきやがった。

 なんかこいつだけには笑われたくないんですけど・・・。なんかイラつく。西条の癖に。


「でも芦田の妹ってそんな事するんだな?」


「うん?」


「いや、何かアイドル、って感じじゃん、芦田の妹」


 外見だけね。中身闇だらけよ、あの子。


「え?アッシーの妹ってそんなに可愛いの?」


 神咲さんが興味深々といった様子で聞いてくる。


「美南さん知らないの?芦田の妹」


「うん。というか、アッシーに妹がいる事自体知らなかった」


 まぁ、この学校の9割は知らないと思うよ。俺らが兄妹ってこと。

 俺らが自ら発信していないという事もあるが、なによりの決め手は、圧倒的に容姿が違うというところだろう。ここまで違うといっそ清々しいよね。母親の不貞を一時期疑った時もあったけどね。だが流石にそれは無いと思いたい。もしあの母親がそんな事してたなら、多分俺は、何も信じれなくなる気がする。


「そうなんだ。でも顔は知ってると思うよ?めっちゃ可愛いし」


 な?と俺に目で問うてくる西条。知らんがな。


「妹ちゃんの名前は?」


 神咲さんがはよ言えや、といった様子で聞いてくる。すいません、うちの猿条がもったいぶって。


「千恵」


 俺の言葉を聞いて数秒固まった神咲さんは、


「・・・ええ!?!?」


 絶叫した。


「っ!」


 いきなり大声で驚いたから、流石に反応してしまった・・・。どした?急に。大丈夫?


「ち、千恵!?あの1年のグランドアイドルの!?」


「?多分その千恵」


 なんだ?グランドアイドルって。この学校、ついにアイドルグループでも発足したのかね。


「う、うそだぁ・・・そんなわけ・・だ、だって・・・」


 だって、と言いながら俺の顔をまじまじと観察する神咲さん。


「あ、アッシー?いくら何でもその冗談は無理があるよ?」


「・・・」


 ・・・・・・顔似てなくてすんません。


「いや、美南さん。信じられないかもだけど、本当だぜ?その話」


「・・・だって私、千恵ちゃんとよく話すけど、そんな話、今まで出てこなかったよ・・・?」


「それは知らん」


 あいつは妙に抜けてるところが有るからね。







~あとがき~


 少しでも面白いと感じて頂けたら、感想・評価をよろしくお願いします!


 もし、出来ましたら【感想】を頂けると大変嬉しいです。


 そして今後とも『青春=ぼっちの男』を楽しんで頂けたら幸いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る