第29話 偏愛マン、完敗マン

「うん?若山も来ていたのか。まぁいい、入れ」


「は、はい・・・」


 アポなしで若山さん連れてきたので少し心配だったのだが、大丈夫なようで一先ず安心した。門前払いとかされたら彼女に申し訳なさすぎる。


「こんにちわ、若山さん」


「こ、こんにちわ、古瀬さん」


 ?古瀬さん何かやけに落ち着いてるな。・・・・いや違うか、恐らく装っているだけだろう。少し笑顔がぎこちない気がする。

 それより何故、那須先生は古瀬さんの恐怖の対象である槻谷と面会させたのか。面と向かって会わせるのは、ダメだろ・・・・。先生は古瀬さんが槻谷にストーカー行為をされたのを知っているはずだ、というか俺が伝えたしね。


「・・・さて、ここに呼んだ理由だが、もう分っていると思う。こいつの件だ」


 こいつ、と未だ俯いている槻谷に向かって指差す那須先生。


「朝、担任から聞いたと思うが、槻谷は本校を退学することになった」


 俺たち三人が、先生と槻谷と対面する形で座ったところで先生が話し始めた。


「・・・・」


 槻谷は動じず、何も発しない。

 俯いてて顔が見えないから少し不気味なんですけど・・・


「・・・その仔細は既に知っていると思う。先日学校中央会議でこの件について話が進められたんだが、そこで正式に槻谷の処分が決まった」


 うーん。なぜそれを俺たちに報告するのかが、いまいち分からない。それを一々伝えるために呼んだ、という事はないだろうし・・・


「こいつのやった事は決して許されない。そして、許してはいけない。・・・・そして古瀬、すまなかった・・・」


「い、いえっ。那須先生に謝罪されるいわれはありません!」


「・・・・いや、槻谷を指導した事のある身として、私の指導力が足りなかった事が今回の件に大きく関わっていると、私は思っている」


「そ、そんな事は・・・」


「いいや、あるんだ・・・私は生徒が過ちを犯す度、一生懸命に訴えかけ、指導したつもりだった。だが、それは私の自己満足であり、誤りだった・・。初めてだったのだ。生徒を指導して、更生しなかった奴は・・・槻谷のような生徒は・・・」


 イケメンストーカー槻谷君。ボロクソな言われようである。先生が喋った時、槻谷の体がピクっと反応した気がした。


「・・・それは違うと思います。私は、那須先生がどれ程熱心に生徒をご指導されてらっしゃるか、よく知っています。あれ程のご指導を受けたならば、改心するはずです。なので私は、那須先生が間違えているとは全くもって思いません」


 那須先生から目を逸らさず、自分の本心を曝け出した古瀬さん。

 到頭古瀬さんにもボロクソ言われた槻谷。普通は改心する、って遠回しに槻谷の事馬鹿にしてますよね。まぁ、馬鹿だろうけど。そしてまた、槻谷の体がピクっと反応した。

 うーん、これはキレてるのかな・・・・・。さっきからずっと俯いていて顔の表情は分からないが、こういう奴にあんまり言い過ぎると、いきなり暴走とかしそうで怖いんだよな・・・。


「わ、私もっ、そう思います!那須先生と古瀬さんは、な、何一つ間違ってません!」


「っ・・」


 ・・・・・・・・どした?若山さん・・・・・。いきなり声張り上げるからビビったんだけど・・・。槻谷またピクってしたし、そろそろマズイ気がするぞ・・・


「・・古瀬、若山・・・ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」


 古瀬さんと若山さんの言葉に、最初は驚いていた先生だが、最後には慈愛の表情をもって感謝を述べた。


 それより、まさか若山さんまで言うとは・・・・・これは流れ的に俺も言った方が良いのではかろうか。

 現在、俺以外の3人からボロクソ言われた槻谷。ダメージはかなり蓄積しているだろう・・・・いつ爆発するか分かったもんじゃない。


「・・・槻谷、お前からも言わなければいけない事があるんじゃないか?ほれ」


 槻谷の背中を軽く押すように叩いた先生。恐らく古瀬さんに謝れ、ということだろう。まぁ、至極当然な話ではあるが。


「・・・・」


 先生に促されても尚、俯いたまま動こうとしない槻谷。


「槻谷・・・。お前が犯した事だぞ。最後くらい、謝ることもできんのか」


「・・・・」


 まずいまずいっ、体がピクピクしてきてるよ!これヤバいんでないの?!


「おいっ槻谷。古瀬に謝れっ」


 ちょっと先生っ。今煽るとマズイですって!


 そして俺が、先生を止めようと慌てて口を開こうとした時。





「・・・・・・ぅう”っ・・う”ぅっ・・ぅーぐすっ・・ずぅみまぜんでじた・・・」



「「「・・・・・」」」


 えぇー・・・・・・・・泣くんかい・・・・。 

 体がピクピクしてたのってそういうことでしたか・・・・・ボロクソ言われ過ぎてメンタル崩壊しちゃった感じですかね・・少しだけ、ほんのちょびっとだけであるが、不憫である。


「・・・・・・おい槻谷、お前は謝罪すら真面まともにできんのか。相手の目を見てハッキリと言わんかっ!」


 ちょ、ちょっと!あんた超ド級スパルタ教師かよ!


「っ、な、那須先生っ、私はそれで十分なので・・・」


 流石の古瀬さんも、少し不憫に思えたご様子である。


「いやいかんっ。こういうのは一番最後が重要なんだっ。ほれっ槻谷!」


「う”ぅっ・・は、はい・・・」


 そして、槻谷がずっと地面に向けていた顔を漸く上げた時、俺達3人に馬鹿でかい



「「「っ!!!!!」」」



「あ”の・・ほんどに・・ぐスっ・・ずぅみませんでした・・」


「「「・・・・」」」


 まさに今、俺達3人の目線はにしか集中してないだろう。

 

「ぜぇんぶ・・おでのせきにんです・・・ぐすっ・・・ほんどにすみまぜんでじた・・」


「「「・・・・」」」

 

 取り敢えず、謝罪の言葉が頭に入ってこない。


「・・・・よし、まぁ、いいだろう。すまんが古瀬、これで許してやってくれないか?・・・・見ての通りなんだが、ちょっとな・・・」


「え?あ、はい・・」


 未だ困惑から帰って来ていない様子の古瀬さん。


 ・・・・一体、何がどうしてこうなったんだ・・・?意を決して聞いてみる。


「あの先生・・・流石にこれはやり過ぎなのでは・・・・」


「・・・・・誤解してるようだが、流石の私でもここまではしないぞ?」


 槻谷の顔面。例えるならば、、と言えば正確だろうか。

 腫れあがり充血した目、おたふく風邪が一段階進化のような赤黒く腫れた頬。見るだけでこちらが痛くなってきそうだ・・・・


 槻谷君、たった一日でブサメンストーカー君への成り下がりである。







 ~あとがき~


 なんか書いてて楽しかったです(笑) 


 少しでも面白いと感じて頂けたら、下の欄から《感想・評価》をよろしくお願いします!

 皆さんの応援が私のモチベに繋がります!!

 

 そして、今後とも『青春=ぼっちの男』を楽しんで頂ければ幸いです。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る