5-9
日曜日の午後、いつもの様にログインをし、日課をこなしました。今日はなんとか2回召喚出来そうなので、一度召喚しています。
やることを終えたのでセンファストの冒険者ギルドを訪れました。今更ではありますが、速度上昇スキルを取得するためです。
えーと、クエスト掲示板から、配達の手伝いのクエストをっと。
「あったあった」
メニューを操作しクエストを受注します。
ピコン!
――――クエスト【配達の手伝い】が開始されました――――
配達物を受け取ろう 【 】
――――――――――――――――――――――――
まずは受け取りからですか。えーと、マップに印が付いているので、迷うことはなさそうですね。中央から北側へと進んでっと。あ、あの建物ですね。
「たのもー」
一瞬で視線を集めてしまいました。けれど、すぐに何事もなかったかのように振る舞われてしまいました。えーと、ああ、あのアイコンが光っている受付にいるNPCに話しかければいいわけですね。
「すみません、冒険者ギルドで配達の手伝いを請け負ったのですが」
「はい、初めての方ですね。それではあちらの指導員から詳しい話を聞いてください」
「わかりました」
あのオーバーオールのNPCが指導員のようですね。職員は制帽をかぶっていますが、制服はないようです。それでは、早速話しかけましょう。
「すみません、配達の手伝いに来たのですが」
「おう、聞いてるぜ。早速だがこの袋の中身をうちが契約してる家に届けてくれ」
「順番とか、諸注意はありますか?」
「うちの配達物はこの印のついてる宅配箱へ入れてくれ。時間までに終われば、順番は任せる」
袋にはこの配達所のマークが付いており、似たような宅配箱が並んでいてもよーく袋を見れば間違えることはないでしょう。
「それでは、行ってきます」
――――クエスト【配達の手伝い】――――
袋の中身を全て配達しよう 【 】
――――――――――――――――――
袋を担いで建物を出るとクエストが進みました。マップを見ると、5つの点が出ており、制限時間が表示されています。60分となっていますが、そんなにかかるとも思えませんね。
北側には2ヵ所あるので、まずはそちらからにしましょう。
ゆっくり急いで安全に走って行きます。私のAGIではそこまでの速度は出ませんが、これは気持ちの問題です。ちなみに、宅配箱の近くへ行くと指定された配達物が光るので、間違えることはありません。
……この仕様、前にもあったような。
気にせず反時計回りで配達していたのですが、4ヵ所目を終えると、あることに気が付きました。配達場所の光点が後1個なのに対し、箱が2個残っています。これは一体……。
ここで悩んでいてもしかたないので目的地へ着いてから考えることにしました。えーと、あ、このアパートですね。
……なんてこった。箱が2つとも光り始めましたよ。まぁ、これを2つとも入れればいいのでしょう。残り時間は後10分ですが、何の問題もありませんね。
そう思っていたのですが、1階には配達箱がなく、奥にある階段を登りアパートの2階の廊下へと進むと、両側には扉が5つずつ並び、様々な宅配箱が並んでいます。まぁ、袋の模様と見比べれば問題ありませんね。
ええ、そう思っていたのですが。
同じ模様が付いている宅配箱が2個ありました。何度見比べても違いがあるようには思えません。うーむ、配達物も2個あるので、それぞれに1個ずつ入れるようですが、真ん中と奥、どちらでしょうかね。
おっと、悩んでいると制限時間が過ぎてしまいますね。運を天に任せるのもありですし、分の悪い賭けは嫌いではありませんが、こういうのは何かしらの判別方法があるはずです。
こう、光り方に変化があればいいのですが。
あ。
私は袋の中身を手に載せ、一度外へ出ます。そこから更に遠ざかると、片方の光が消えました。つまり、ここから近い方の配達箱に今光っている方を入れるということです。ちなみに、階段は奥にあるので、この右手に持っている方が、奥にある配達箱へ入れる方です。
残り時間が迫っているので手早く配達箱へ入れると、クエスト欄が光りました。
――――クエスト【配達の手伝い】――――
袋の中身を全て配達しよう 【クリア】
――――――――――――――――――
完璧ですね。
……おや? カウントが進んでいます。まぁ、後は報告に行くだけなので、気にしなくてもいいでしょう。
そう思い、アパートから出ると。
――――クエスト【配達の手伝い】――――
報告までが配達だ 【 】
――――――――――――――――――
……ふっ、やられましたね。まさかこんな罠があろうとは。流石に今からでは間に合わず、指導員に報告した頃には制限時間が過ぎていました。ただ、時間内に配り終わっているので、失敗にはなりませんでした。
わかりましたよ。これはつまり、制限時間内に報告できれば、速度上昇スキルが取得可能になるはずです。まぁ、制限時間を過ぎても5回クリアすれば問題ありませんが、せっかくやるのですから、ちゃんとクリアしたいですね。
冒険者ギルドで2回目を受注し、もう一度配達所へ向かう途中で道順を確認します。最短ルートを駆け抜ければ、何とかなるはずです。
ピコン!
――――クエスト【配達の手伝い】が開始されました――――
配達物を受け取ろう 【 】
――――――――――――――――――――――――
さて、袋を受け取ったらダッシュですよ。
「それじゃあ、今回はこれを頼むぞ」
「いえっさ」
袋を担ぎ、前もって考えた最短ルートを……、へ?
何ということでしょう。目的地が違います。おのれ、楽はさせないということですか。
………………
…………
……
途中の二世帯住宅の両方に宅配箱があり、そこへ入れる荷物の判別に手間取りましたが、余裕を持って最後の荷物を配達し終えたので、後は全力で報告するだけです。
……く。
成功ですが失敗です。
配達所まで距離がある段階で制限時間が過ぎてしまいました。これは、アパートや二世帯住宅のように目的地がほぼ同じ場所での荷物の判別にかかる時間を何とかしても、怪しいですね。
ピコン!
――――クエスト【配達の手伝い】が開始されました――――
配達物を受け取ろう 【 】
――――――――――――――――――――――――
さぁ、三度目です。三度目の正直といいますが、今回は目的地の近くになったら袋の中を視界に入れ、光る荷物を前もって判別しておくことにしました。
………………
…………
……
うーん、成功ですが失敗です。荷物の判別には成功したので、時間の短縮は出来ました。これで、大まかな最短ルートと順調な配達の2つを達成しましたが、それでも間に合いそうにありません。こうなったら、一気に時間を縮める何かが必要です。
「今回はここで遠回りが必要だったから、一直線に行ければなー」
マップとにらめっこをしていますが、この辺りにあったのは通れそうにない隙間だけです。そういえば、最初もここは通りましたね。つまり、この辺りは必ず通る可能性があるということです。
はっ、いいことを思いつきました。そうですよ。あの手がありました。
ピコン!
――――クエスト【配達の手伝い】が開始されました――――
配達物を受け取ろう 【 】
――――――――――――――――――――――――
「それじゃあ、今回はこれを頼むぞ」
「りょーかい」
それでは袋を担いでダッシュです。四度目ともなれば手慣れたもので、一番近いであろう光点の判別は一瞬で出来ます。さらに、運がいいことに最初に向かった光点がアパートだったので、一気に2個配達し、それ以降は袋を確認しながら走るというペースダウンの原因を取り除くことが出来ました。
次の関門である遠回りが必要な場所です。3ヵ所目から4ヵ所目向かう場所ですが、まずは家の裏側細工をしましょう。
「【ロックウォール】」
壁から壁を生み出し、立体機動や虚空移動を駆使し、屋根の上へと飛び上がります。後はウォールキャンセルで壁を破壊、そこから大通りへと視線を向けます。一度の空中ジャンプでは飛び越えられない距離ですが、私にはもう一つ距離を稼ぐ方法があります。ええ、練習していてよかったです。
まずはロックウォールで出発地点と着地地点の距離を少しずつ縮め、魔法陣を描きながら走ります。
そして、走りながらジャンプし――。
「【ショートジャンプ】」
これで一気に距離を稼ぎ、勢いがなくなる頃に空中ジャンプをします。
何とか反対側の家の屋根へと着地しましたが、勢い余って転がってしまいました。
「いてて」
そのまま落下するのは避けたので、またウォールキャンセルで壁を破壊して、屋根から降りるための足場を作ります。ここでゆっくりしていては意味がないので、このまま残りも配達し終わり、後は報告だけです。
――――クエスト【配達の手伝い】――――
報告までが配達だ 【 】
――――――――――――――――――
時間に余裕はありませんが、間に合わない時間ではありません。ここからは特に遠回りしなければいけない場所もないので何かない限り、失敗することはありません。
配達所が見え、扉を開け、光っているアイコンのあるNPCの元へ向かいます。
「終わりました」
――――クエスト【配達の手伝い】――――
報告までが配達だ 【クリア】
――――――――――――――――――
「おう、早かったな。あんたなら出来ると思ってたよ」
クエストをクリアし、報酬を貰うと、メニューのスキルの項目が光っています。早速確認すると、取得可能スキルに【速度上昇】が表示されています。
「やった」
いやー、こうも上手くいくとは、嬉しいものですね。今はとてもいい気分ですよ。
それでは早速取得してしまいましょう。
ぽちっとな
ふむ、足が早くなった気がします。まぁ、LV1ではわかるほどの違いはないと思いますが、気持ちの問題です。
とりあえず、晴れやかな気分のまま一度ログアウトして散歩でもしてきましょう。
夜のログインの時間です。夜は夜で日課をこなしていると、グリモアが話しかけてきました。
「汝は先程の世界の言葉は聞いていないと思うが?」
えーと、ワールドメッセージでもあったんですかね。
「何かあったの?」
「うむ、遥か西に新たな転移施設が開放された」
ふむふむ、ウェスフォーの次の中間ポータルが開放されたようですね。確か、ワールドメッセージは遡って見える様になってるんですよね。
「あーこれか」
――――World Message・新たな中間ポータルが解放されました――――
プレイヤー【ロジスト秋生】率いるパーティー【陸派】によって【古代の砂漠】が解放されました。
当該ポータルを登録することで、転送先として利用可能になります。
――――――――――――――――――――――――――――――
知らない人ですね。まぁ、私が知っている人なんて、ほんの少しですけど。情報はそのうち出回るでしょうし、今は東で忙しいので、放置です。
「教えてくれてありがとね。お礼にこれあげる」
「機密文書か」
ただのマル秘メモなんですけどね。内容はオークだけなので、東の中間ポータルまで行けば、すぐに遭遇するでしょう。
さて、それではオークがいる森を歩いてみましょう。
中間ポータル【魔の森】へやってきました。ここはかなり広い空き地なのですが、何組かのプレイヤーもいますね。流石に開放のアナウンスから一週間ほど経っているので、こちらを狙っていた人達が来ていても不思議ではありません。
流石にオークと正面切って戦う気はないので、森に入ったらいつものように木に登るつもりだったのですが、何やら視線を感じますね。マップにも堂々と光点が表示されていますし、私の行動から様子を見ようとしているのでしょうか。
それでは少し歩いて距離を取り、射程ギリギリにロックウォールの魔法陣を描きます。後は、一気に走り、立体機動と虚空移動を駆使し、跳び上がりました。突然の行動に反応が遅れたのか、広場にいたプレイヤー達は私を見失っています。ちゃんとマップを見れば光点で表示されているので気が付くでしょうに。
プレイヤーキラーではないようなので、攻撃はしませんが、情報が欲しいのなら、それ相応の行動をするべきですよ。まったく。
速度増加スキルの影響なのか、少し木の上での移動が素早くなった気がします。詳しいことはわかりませんが、いいことに違いはありません。
おっと、あそこにいる二足歩行の桃色の豚はオークですね。流石にオーガより強いとは思えないので、ボム系4発で倒せるでしょう。今の所問題は索敵範囲ですが、気付かれたら気付かれたで逃げ撃ちですよ。
オークの頭上に来たので――。
『BUHHIIIII』
あ、気が付かれました。オーガなら気が付かなかったのに、敏感ですね。まぁ、魔法陣を描きながらでも移動は出来るので、オークの様子を見ながら逃げていると、攻撃力はオーガよりも低いようで、一撃で木を倒すことは出来ないようです。まぁ、私が逃げたら追いかけてくるので、木を倒すまで殴り続けることはありません。残念です。
「【フレアボム】」
手元に4つの赤い球が生成されました。けれど、私はそれを手にすることなくそのまま下へと落とします。オークも向かってきますから、ちょうどいいですね。
私が足場にしている木にオークが攻撃する前にフレアボムが爆発し、オークを焼き払いました。今更ながら、足場にしている木を焼かなくてよかったですよ。やはり、ゲーム的な面が強いですね、このゲーム。まぁ、楽なのでいいですが。
この後も何度か戦ってみた結果、オーガと比べ、索敵範囲が広く、攻撃力が低いということがわかりました。耐久は同じくらいでしょうし、移動速度はよくわかりません。他には……、大きなナタを持っている個体が多いのですが、たまに素手の個体もいるので、もしかしたらゴブリンのように武器違いの個体がいるのかもしれません。弓とか魔法とか、遠距離攻撃が出来る個体がいたら厄介ですね。
そう思っていたのですが、いましたよ、弓の個体。しかも、通常のオークよりも索敵範囲が広いようで、既に弓を引き絞っています。
まぁ、距離があるので当たることはありませんが、厄介なことに変わりはありません。
ぐるっと周ったり、ジグザグに近付いたりと、工夫をこらした動きで近付き、【ゲイルボム】を叩き込んでやりました。弓兵が魔法を防ぐ盾を持っていることもなく、あっけない最後でした。
ちなみに、ドロップに変化はないようです。
時雨:リーゼロッテ、今どこにいる?
おや、クランチャットです。近くにMOBはいないので、枝に腰掛けて返信しましょう。
リーゼロッテ:木の上
時雨:魔の森の中間ポータルまで来たんだけど、どうせなら一緒に周らない?
リーゼロッテ:すぐ行く
それではテレポートで戻りましょう。
中間ポータルへと戻ると、多くのプレイヤーがいるので驚いてしまいました。えーと、時雨達はーっと。
いたいた。
「こっちこっち」
「お待たせー」
「ところで、この大所帯は何?」
「1パーティーで突破するのは大変だから、頭数を増やそうってことで4パーティー合同で来たの。警戒する範囲が少なくて済むから何とかなったよ」
「へー。ところで、グリモアからマル秘メモ貰った?」
「オークのなら貰って回したよ」
「なら良かった」
ハヅチ達も来ていますが、他のパーティーリーダーと何か話していますね。他のみんなはオークと戦うための準備をしています。
「……リーゼ、ロッテ、……オーク、強い?」
「うーん、オーガよりは弱いと思うけど、物理攻撃はわかんない」
「……そう。……矢筒、変える」
リッカが背負っている矢筒を交換していますが、入っている矢の種類が違うのでしょう。
「矢自体は弓スキルが保持してくれるの。それで、矢筒に設定してある種類の矢を自動的に補充してくれるから、MOBに合わせて矢筒ごと交換するの」
そう説明してくれたのは時雨です。あまり使ってはいませんが、一応は持っているそうです。まぁ、巫女といえば刀と薙刀と弓矢ですよね。破魔矢には巫女の髪を巻くとかいう話を聞いた記憶が……。
「……ホワイト、ウルフ、早い。……速度系、使って、た。……オーク、なら、威力、あるの、使う」
なるほど、細かい違いがあるんですね。
「オークは索敵範囲が広いから、気を付けてね」
「……わかった。……ありが、とう」
みんなも消耗品の確認などを済ませ、オークの森へ出発することになりました。私の持っている地図データを共有しましたが、何も見つけていないので、意味はありません。
オークを探しながら森を歩いていると、斥候を担当しているリッカが何かを見つけました。
「……あっち、オーク。……数、1」
どうやらリッカの方が索敵範囲が広いようです。
「……釣る」
そういってリッカが矢を放ち、オークのタゲを取ります。ある程度オークが近付いてくると、そこからはモニカがヘイト操作系のスキルを使い、タゲを奪いました。それに合わせ、私達が攻撃を開始するのですが、私以外はずっとほぼ固定でパーティーを組んでいるのもあり、流れるように動いています。
私はグリモアの動きを見てから魔法陣を描くだけですが。
「【マジックランス】」
ボム系なら4発ですが、6人パーティーなら上げたい魔法スキルを使えます。というか、ボム系を投げるために近付きたくはありません。
もっとも、グリモアは魔導書や魔法陣や詠唱を駆使しているので、私とはずれています。よくもまぁ、いろんなスキルを駆使出来ますね。私には難しいですよ。
「モニカ、どう?」
「オーガよりは軽いけど、十分強いよ。でも、あたしに任せて」
そういいながらモニカが盾を掲げています。そういえば、モニカは全身鎧なので、女騎士風とも言えますが……。いえ、やめておきましょう。何だか違うので。
ちなみに、グリモアも中級魔法のスキルレベルを上げるのに手間取っているそうで、レーザー系までもう少しだそうです。まぁ、上げるのに使えるスキルがボム系ですから、大変ですよね。
リッカの案内に従い歩いていると、急に警戒するような動きをし始めました。
「……群れ。……武器種、複数」
今までは単独の個体だけを相手にしていたのですが、ここに来て群れとの遭遇ですか。とりあえずリッカの示す方を警戒しながら準備を整えます。
「前衛と後衛の数はわかるか?」
「……剣2、槍1、……弓、1」
「モニカ、何体いける?」
「うーん、2体は何とかなるよ」
そういいながらも私とグリモアの方を見ながら笑いかけてきました。うむ、支援して欲しいということですね。では、笑い返しておきましょう。
「リンクしたら、私が槍を受け持つから、他のはお願いね」
「……わかった。まず、剣……釣る」
私とグリモアが一言も話さずに作戦会議が終了しました。まぁ、何か聞かれても困りますが。
準備が整ったようで、リッカがオークを釣ろうとしています。さてはて、結果はどうでしょう。
『BUHIGAAA』
見事に剣を持ったオークに命中しました。オークがリンクするのかはわかりませんが、その声に他のオークも反応し、こちらへ向かってきています。一つ面白そうな方法が思い浮かびましたが、試すのは後ですね。
グリモアが剣持ちの中でも左側のオークを狙うか、範囲で巻き込むと教えてくれたので、魔法の準備をします。
「【マジックレイン】」
他の属性だと爆発だったり凍ったり痺れたりと影響を受けて邪魔をしてしまうので、無色に光る雨のような攻撃で、影響を何かが視界の中でチラチラする程度に抑えてみました。もっとも、4発分なのであの中にいたらかなり目障りだとは思いますが。
流石に弓持ちまで巻き込むことは出来ませんでしたが、リッカを狙って放たれた矢を撃ち落とすという偶然がおきたので、きっと許してくれるでしょう。
「あ、まずった」
問題ないと思っていたのですが、時雨が引き受けていた槍持ちのオークがこちらへ向かってきてしまいました。モニカと違いヘイト増加系のスキルがないのに、魔法を思いっきり叩き込んだら、そらそうなりますよね。
ただ、対峙している相手に背中を晒すというのは、愚かなことですよ。
「【三散華】」
こちらからはオークが壁になっているのでよく見えませんが、名前と微かに見えたエフェクトからして三連撃でしょう。背後からという武士道にあるまじき位置取りですが、そもそもに背を向けたのが悪いわけですし、虫の息になっても背後をちらっと見るだけで私の方へ向かってくるのですから、あれはもう倒してくれと言っているようなものです。
「【マジックランス】」
5発撃ちましたが、1発でも良かった気がします。
予定外にも槍持ちの個体を先に倒してしまったので、時雨は弓持ちの個体へと向かいました。私は最初の予定通りに剣持ちの個体へと取り掛かりましょう。
『BUHIHI』
そんな断末魔を残して最後のオークがポリゴンとなりました。いろいろと予想外のことはありましたが、苦戦はしませんでした。一応笑って許してくれていますが、それに甘えてはいけませんね。
「ごめん」
キチンと腰を折って頭を下げます。その際、帽子を取ることも忘れません。
「怒ってないから頭上げていいよ」
時雨がそういいながらあたまを下げている私の顔を両手で挟み、無理やり持ち上げました。STRの差もあるので抵抗は無意味ですね。
そのままグリグリと弄ばれていますが、ここは甘んじて受け入れる場面です。ええ、後で胸に仕返しをするとしても、ここでは受け入れておきます。
「ふぁけふぉー」
「うーん、何言ってるかわからないなー。それに、怒ってないよ。それはわかってるでしょ」
まぁ、付き合いは長いですから、今回のような簡単に対処出来ることで怒ることはほとんどないということは知っています。
「時雨、じゃれるのはそのくらいでいいんじゃないか?」
「でも、無抵抗なリーゼロッテを弄れるって滅多にないんだよね。だから、楽しいんだよね」
あー、変なスイッチが入ってますね。とりあえず、後で仕返す回数を1回追加しましょう。
それと、時雨の気が晴れるまで、一つ確認しますかね。
ピコン!
――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――
【無魔法】がLV50MAXになったため、上位スキルが開放されました。
【力場魔法】 SP5
【虚無魔法】 SP5
これらのスキルが取得出来ます。
――――――――――――――――――――――――――――――
グリグリされているので表示がブレますが、気になる範囲ではありません。えーと、まずは取得してと。
「リーゼロッテ、スキル取得したの?」
「ふぇだふぉ」
力場魔法で覚えた魔法は【パワーボム】で無属性のボム系でした。虚無魔法は【アンチショット】という魔法で、ダメージはありませんが、触れた魔法を全て消すそうです。……虚無魔法って無効化系の魔法みたいですね。カバンの刻印を消してしまうようなことがあると大変なので要検証です。
「そう。それ、聞いても大丈夫?」
「ふぇふぇよ」
「いや、もう離してるから」
おっと、まともに話せないと思っていたので雑に話していたのですが、もう終わっていましたか。では、メニューを可視化しましょう。
「この2つ」
ちなみに、グリモアは少し我慢をしていましたが、他のみんなが見ているので、誘惑に負けたようです。
「魔法を否定する魔法、この矛盾に満ちた力、我も手に入れて見せよう」
無魔法のレベル上げをすると宣言したグリモアは一生懸命に指を動かしています。ウィンドウを可視化していないのでわかりませんが、今のレベルの確認でもしているのでしょう。
「リーゼロッテ、ちょっと実験してみない?」
「んー? 狩りの続きはいいの?」
実験するとなると、いくつか項目は思い浮かびますが、面倒な項目もあります。まぁ、簡単なことだけやればいいわけですが、ある程度の時間はかかります。狩りの最中にやる必要があることではないでしょう。
「オークは倒せるMOBだからね。流石にホワイトウルフの群れみたいな数が来たら無理だけど、そこまで奥にはまだ向かうつもりもないし」
「それに、グリモアが取る気になっている。なら、性能の確認はどのみち行うことだ」
ちなみに、モニカとリッカはグリモアのためにオークを一体ずつ連れてくるつもりのようです。スキルレベルを上げるには使用回数を稼ぐのが一番ですからね。
では、時雨達の言葉に甘えるとしましょう。
「それじゃ、やってみよっか。まずは内容のリストアップだね」
言ってしまえば無効化対象の確認ですが、バフやデバフ、発動した魔法、詠唱中の魔法、刻印してある発動中の物、刻印しただけの物もでしょうか。
時雨に使ってみることになりましたが、このままだとただのPKのようになってしまうので、まったく使ったことのないPvP機能を使うことになりました。
「そんじゃ、始めるよ」
……………………
………………
…………
……
いろいろと試した結果、使い勝手がそこそこ悪いとわかりました。
かけられたバフとデバフ、そして詠唱中の魔法、発動した魔法、その全てが無効化されました。ええ、【アンチショット】を発動した瞬間に私にかかっているバフ・デバフを含めてです。相手にかかっているデバフも無効化した時点で悪い予感がしていましたが、効果は関係なく、魔法というだけで消えるようです。刻印系と魔力付与が無事だったのは不幸中の幸いというやつでしょうか。
この後キリのいいところで戻ることになりましたが、事前に確認した頑丈な皮以外にも、オークの骨とオークの肉がドロップしました。オークの骨とは、一応素材なので装備を作るのに使えるようですが、豚骨なので料理にも使えそうですね。
ユニコーンを召喚してハヅチに皮を押し付けたらログアウトです。
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