4-16その2

 さて、再びやってきた守り人の里、その集会場でクエスト達成の報告をします。


「さぁ、ちゃんと倒してきましたよ」

「うむ、拙者はお主の力を認めるでござる」


 そのまま試練を出していたNPCの姿が薄くなり、消えてしまいました。残るクエストは6個、バクマツケンはもう終わったはずなので、大丈夫だと信じたいですね。


「次は誰の試練を受けるのでござるか?」

「じゃあ、この人で」


 次は最初の試練の右側にいた人です。もう、誰を選んでもかわりませんよ。ありえそうなのはブシドーレムとクリプトメランコリーの50体討伐ですが、それがあったとしても他の4個はわかりませんし。


「うむ、拙者の試練は、東の獣が持っている食材を100個、用意してもらうでござる」

「はい、どうぞ」


 今、バクマツケン50体を倒してきたばかりですし、そもそも納品クエストをしていないせいで大量に所持しています。連続で東のフィールド関連なので、忍者さんの立ち位置でクエストが決まっているのでしょうかね。その予想が正しいとすれば、バクマツケンのクエストの左側の忍者さんは……。


「そうでござるか。では、拙者の試練は、街の南の奥に出没する厄介な大木を50体、狩ってきて欲しいでござる」


 あれ? 違いましたね。思っていたのと違い、クリプトメランコリーの50体討伐でした。まぁ、楽なのでさっさと行きましょう。





 テレポートで飛んでからクリプトメランコリーの出現するフィールドへと足を踏み入れました。ここで火属性の魔法を使うと木材のドロップ率が下がり、上手く行けば炭が落ちるのですが、面倒ですし、ちょうどいいのでグリモアから貰ったスペルスクロールを使うことにしました。ランス系の魔法なので、ブラスト系と比べると必要枚数が多くなりますが、スキルレベルを上げるのが目的なので、多く使うことに文句はありません。


「へくち」


 病耐性はオフにしていても、最低限のくしゃみはしてしまいますね。まったくもって厄介なフィールドですよ。ちなみに、例の狂戦士の一団はまだいますね。ここは他のプレイヤーがあまり来ないせいか、人が増え、専有している場所が広がっている気もしますが、誰にも迷惑がかかっていないので、放置しましょう。

 ここでの50体討伐に困る理由はなく、追加の目的も果たせました。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【魔術書】がLV30MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【魔法書】 SP3

 このスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 早速取得したわけですが、最初に使えるのが、スペルページ作成というもので、魔術書の専用ページを作れるのですが、魔術書を作ってない状態では何も出来ませんね。後でオババの店に行って材料を買い揃えましょう。





 この後も守り人の里を訪れ、クエストの続きをしていたのですが、祭りの建材100個、ブシドーレム50体討伐、祭りの景品100個と続き、残るクエストは1個です。

 ちなみに、途中で無魔法と地魔法がLV30になり、【マジックフィールド】と【クエイク】を覚えました。マジックフィールドは一定範囲内での魔法攻撃力を上げ、物理攻撃力を下げるようです。どう考えてもソロである私用の魔法ですね。まぁ、魔法を多用するMOBと戦う場合は、ノーガード戦法の殴り合いになりそうですが。

 そして、クエイクですが、効果時間中は範囲内が揺れ続け、地面がデコボコになりました。やはり足場が悪くなるのは、全属性共通なのでしょう。後は、主な効果である土属性攻撃力の増加と水属性攻撃力の低下ですね。

 後、不滅の泉に行く途中で茶色の結晶を入手していたので、やはり、触媒として使えると書いてありました。うーむ、魔石(中)でも持っていればマジックフィールドの触媒として使えるんでしょうかね。今は作っていないのでわかりませんが。

 さぁ、最後は何でしょうか。未だに手前側のフィールドでの討伐クエストがないのが気になりますが、きっとないのでしょう。


「うむ、最後の試練は、拙者と戦ってもらうでござる」

「へ?」


 いやいやいや、魔法使いが忍者と戦えと? 忍者といえば、素早い魔法剣士ですよ。どう考えても手も足も出ないじゃないですか。そんな相手にどうやって勝……あ。


「戦えばいいんですか?」

「うむ、お主の実力がみたいのでござる」


 そうですか。戦えばいいんですか。そーですか。


「ちなみに、私は純粋な魔法使いなので、近付かれたら手も足も出ませんからね」

「うむ、お主のとっておきを放つがいい。その一撃をもって判断するでござる」


 そういうことですか。てっきり戦えば負けてもいいと思っていたのですが、まぁ、あきらかに強そうな忍者と戦うって無理がありますよね。


「準備はいいでござるか?」

「ちょっと待ってください」


 それでは何の魔法を使いましょうかね。攻撃魔法はLV30になったものがありますし。ただ、相手の属性は……おや、風属性ですね。それぞれの御殿の担当忍者ということなので、担当している御殿と同じ属性を持っているのでしょう。何か見極める方法がある可能性もありますし、後でこの推測を話しておきましょう。


「一つ聞きたいんですけど、下準備はしてもいいんですか?」

「うむ、攻撃をもって終了する故、攻撃でなければ何をしても問題ないでござる」


 ほうほう、言質も取ったので、早速試してみましょう。


「【ナパームエリア】」


 この魔法、ディレイが短いんですよね。クールタイムは効果時間と同じでかなり長いので、範囲を広くするために複数使わない限り、使い続けることが出来ます。まぁ、蒸し暑いのでやりたくありませんが。

 そいて、閃きを発動し、魔法陣を4つ描きます。


「【フレアブラスト】」


 これが今の私に出来るもっとも威力のある攻撃です。

 ナパームエリアのせいでフレアブラストの威力が上がっているため、炸裂した炎が若干青っぽかったのは気の所為でしょう。

 だって、NPCの忍者さんがピンピンしているのですから。


「これはこれは……。中々な一撃でござった。お主の力、認めるでござる」


 ナパームエリアの効果時間が残っているはずなのに、足元に広がっていた赤い何かが消え、元の畳の集会場へと戻りました。それと同時に忍者さんが一人だけになっていました。


「見事に全員から認められたでござるな」

「いやー、それほどでもありますよ」

「これなら、全ての御殿で4階に立ち入ることは出来るでござる。けれど、5階にある姫巫女の間には、選ばれた者しか入ることは出来ぬでござる。そこは、お主自身の手で成し遂げてもらうでござる」

「そですか」


 つまり、この忍者さん達を利用できるのはここまでですか。それでは、時間もギリギリですが、どんなクエストなのか見に行くとしましょう。多少の夜更かしは許容範囲内ですし。





 光輪殿の4階へと足を踏み入れました。ここまで登ると一階と比べて部屋数が半分以下になっているので、かなり狭く感じますね。


「あら貴女、最近立ち入り許可を貰った人ね。何か用?」

「人手の押し売りをしてるんですけど、ここで何か仕事はありますか?」

「そうねぇ、貴女は何が出来るのかしら?」


 疑問文に疑問文で返したら更に疑問文で返されてしまいました。しかたありません、ちゃんと答えましょう。


「魔法と、料理と錬金と調合と……、それくらいですね」

「そう、姫巫女に会わせるにはちょっと危ないわね」


 まぁ、そうですよね。ですが、取得スキルによってはクエストが発生しないなんてことはあるわけがないので、安心しています。


「どうせ、天井の上とか、床下とかに護衛の忍者が潜んでるんじゃないんですか?」

「ふふ……。そうねぇ、じゃあ、姫巫女様の料理を作ってもらおうかしら」


 何でしょう、このNPC、護衛がいること否定しませんでしたよ。まったく、恐ろしいですねぇ。


「料理ですか、わかりました」

「それでは、担当の者に案内させるわ」


 料理担当らしき割烹着のNPCがやってきましたが、女中さんは基本的に汎用のNPCなのか、大きな違いが見当たりません。ですが、発する雰囲気が違うのは、AIの進歩なのでしょうね。

 そして、姫巫女のための炊事場へと連れて行かれました。


「それでは、ここにある物を使って好きに料理して頂戴。姫巫女様は、こうして不定期に訪れる外の人間の作る料理を楽しみにされているわ」


 ピコン!

 ――――クエスト【光輪殿・4階(料理)】が開始されました――――

 姫巫女のために料理を作ろう

 ※スキルの有無に関係なく料理が作れます

 ――――――――――――――――――――――――


 むむ、これはつまり、料理以外もあるということですね。恐らく、何が出来るか聞かれた時の答えによって変わるのでしょう。


「わかりました。ちなみに、姫巫女様の好きな物ってあります?」

「ないわ。美味しいものなら、何でも喜んで食べるわ」


 うわー、出ました。何でもいい、ですよ。これは一番困るやつです。しかも、スキルの有無に関係なく、ということなので、リアルで料理をしていないと困る可能性すらありますよ。

 まったく、料理をしていると、料理が出来ると、料理好きは、まったく別だというのに。

 悩んでいてもしかたないので、何を作るか考えていますが、夏といえば何でしょう。よく鰻を食べる人がいますが、あれは素人が触っていいものではありませんし、そもそも、旬は冬です。

 うーむ。

 とりあえず、手持ちのあれを試しに飲んでみましょう。……結構美味しい水ですね。これはシステム的に加点がありそうですね。まぁ、使ってからダメと言われると困るので、先に確認ですね。


「ちなみに、手持ちの素材を使ってもいいんですか?」

「あら? 足りなかったかしら? 大抵のものはあるのだけれど……。まぁ、毒でなければいいわよ」


 昔は毒を持った魚を進んで食べる物好きがいたらしいんですけどね。流石にそんなもの持ち込みませんよ。NPCに一服盛ったら大変なことになりそうですし。そもそもこれはHPを1%くらい回復してくれるはずです。

 この炊事場、素材の検索も出来るのですが、固形のカレールーもありましたよ。いろいろと突っ込みどころが満載ですがって、このルー、今回コラボしているファミレスで売ってるやつですね。せっかくなので使ってみましょう。

 作る料理を決めると一般的なレシピと手順を表示してくれるのは、スキルがあるから料理と言ったけれど、現実ではやったことない人のためなのでしょうか。言えばクエストを変更してくれる気もしますが、調合か錬金を題材にされても困るので、私は料理を続けます。

 スキルが使えるので、切ったりするのは切り方を選ぶだけです。水はどうなるかわかりませんが、不滅の水を使います。素材の持ち込みは確認しているので、文句を言われる心配はありません。それと流石に電子レンジがないので、もう一つの持ち込み素材は湯煎で軽く溶かしておきましょうかね。

 そしてルーを入れる時に火を止めて、湯煎しておいた【オチール】も一緒に投入します。オチールはビターには程遠いのでちょっと心配ですが、味見をしながら入れていきましょう。

 うーん、入れる前の味を知りませんが、なかなか美味しいカレーになりましたね。これなら問題ないでしょう。


「あ、ご飯炊いてない」


 完全に忘れてました。というか、現代人には炊飯器がないと無理ですよ。


「女中さーん」

「あら? どうしたの?」

「いやー、お釜でご飯炊いたことないので、教えてもらっていいですか?」

「そういうことね。でも心配はいらないわ。そのお釜は全て勝手にやってくれる術がかかっているのよ」


 おう……。江戸時代風炊飯器ですか。何とも便利ですね。それでは不滅の水を適量より少なめに入れて、ちょっと固く炊きましょう。

 設定するとすぐに出来上がるようで、カレーを温め直す必要すらありませんでした。

 このありえない程な便利さ、欲しいです。


「女中さーん」

「今度は何かしら?」

「出来ました。お皿をください」


 カレーなので食べる時によそりたいですね。


「そこにあるから選んでちょうだい」

「じゃあ、その深いので」


 お皿を選ぶと、どこからともなく現れた女中さん達がお鍋とお釜とお皿を持っていってしまいました。ゲーム内なので、お鍋が重くなく私でも持てますが、持っていってくれるのなら、任せるだけです。ただ、毒味で冷めたカレーを食べさせるのだけはやめて欲しいですね。


「貴女はこっちよ」


 料理担当の女中さんに連れて行かれた先は、姫巫女様が食事をするための部屋のようです。何せ、膳が一つ、ポツンと用意されていますから。

 料理担当の女中さんと並んで隅に座っていますが、いい加減眠くなってきました。どんなクエストか確認するだけのつもりだったのですが、ついクエストをやってしまいましたし。

 しばらくして、多くのお供を連れて姫巫女様がやってきました。私はここで重大な失敗を自覚しました。ええ、ここは光輪殿です。対応している属性は光なのでしょう。つまり、白いんです。真っ白の髪に白い肌、そして何より、その巫女服も真っ白のロリっ子です。そんな相手にカレーを作るとは、大失態です。あの真っ白な巫女服にカレーが付いたら絶対落ちませんよ。


「あの……あれって汚したら問題になりますか?」

「問題ないわよ。姫巫女様は絶対によごれないから」


 おう、なんという設定でしょうか。もうちょっと、前掛けをするとか、プレイヤーが作った料理を食べる時用とか、納得の出来る設定を用意して欲しいものです。まぁ、よごれないではなく、けがれない、なら夢のある設定だったんですけどね。

 さて、偉い人の食事の場面なので、とても静かに進んで行きます。反応も薄いのでどうなのかわかりませんが、鍋とお釜からは湯気が出ていますし、おかわりをしているので好評だと信じましょう。食事が終わり、姫巫女様がいなくなってからこの階を仕切っているらしき女中さんがやってきました。どうやら、この場で評価をくれるようです。


「姫巫女様から、大変美味であったとの言伝をいただいています。……そして、姫巫女様の居室への立ち入りを許可します」

「あ、ありがとうございます」


 ここは1回でいいんですね。これはとても楽なので大助かりです。それでは思う存分ロリっ子を愛でたいですが、流石に眠いので明日にしましょう。

 報酬として、中判3枚を貰いました。この内1枚が基本報酬なので、追加報酬は2枚ですか。中々太っ腹な報酬ですね。

 それでは落ちる前にクランハウスへ戻りましょう。

 睡魔に襲われながらも、減った分の不滅の水を補給してからログアウトするつもりでしたが、少し中身の減った大きな樽に上質な魔木を突っ込んで見ることにしました。不思議な木材が不思議な水を吸って何か変化が起きたら面白そうですし――。


「この時、あんなことになるなんて思っていませんでした」


 とか言ってみたいですから。

 それではログアウトです。

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