4-16その1
16日、昨日は思わぬ大金を手に入れましたが、他にテレポートを使える人が見つかれば、すぐに契約も終わってしまうかもしれないので、あまり頼らないでおきましょう。
「リーゼロッテさん、ちょっといいですか?」
「どしたの?」
ログインしてから日課をこなしていると、珍しくブレイクが話しかけてきました。このクランで数少ない男子なのですが、あまり接点がないんですよね。挨拶して、たまにポーションやら料理やらを頼まれるくらいです。それに、装備の魔力付与の補充はハヅチパーティーということもあり、花火やヒツジに頼んでいるらしいです。
そのため、何の用があるのか、まったく検討がつきません。
「実はその……」
向かい合って座っていますが何やらもじもじしていますね。小声で何か言っていますが、流石に聞こえないので、何を言っているのかはわかりません。というか、この小声ってどう処理してるんでしょうかね。近ければ聞こえるのでしょうか。とりあえず、日課の続きをしながら口を開くのを待ちましょう。
「えっと……、昔からの知り合いが……」
何でも、幼馴染が第二陣としてこのHTOを始めたというのをつい最近知ったようです。その時の会話で第一陣だと伝えたところ話が盛り上がり、今度一緒にどこかに行こうという話になったそうです。そこで、いくつか頼みたいことがあるそうで。
「ハヅチ達にも話してあるんですけど。鞄とウェストポーチを渡したいんです。もちろん、お金は払うので」
「はい、これ」
私の日課なのでできたてホヤホヤです。暖かくはありませんけど。
「いいんですか?」
「ハヅチ達にも話してあるんでしょ。なら、いいでしょ。あ、違う色がよかった?」
メニューを可視化して、手持ちの鞄とウェストポーチの一覧を見せます。これ以外となると、ハヅチに作ってもらう必要があるので、私にはどうにもなりませんね。
「ありがとうございます。では、これとこれを」
出来上がっている方から1個ずつ選んでいきました。恐らくですが、私に直接頼めとか言われたんでしょうね。まぁ、始めから断るつもりもありませんし、私もリコリスに頼まれて作ったこともあるので、断る権利もないでしょう。
さて、まずは1つ目です。いくつかと言っていたので、次は何でしょうか。
「次なんですけど、実はそいつ、魔法を使いたいって言ってるので、何かアドバイス、ありませんか?」
ふむ、よりによって一番苦手な分野ですね。私は感覚派なので、伝わるかどうか……。
「アドバイスねぇ……。その人のゲーム歴とか、得意分野とか、わかる?」
「フルダイブゲームは箱庭系ののんびりしたのをやったことがあるとかで、RPGは初めてだそうです。それに、効率的なプレイは出来ないと思います」
うーむ、慣れませんねぇ。この間の宿題から察するに同い年のはずなので、こうも丁寧に話されるのは苦手ですよ。まぁ、本人の性分とか考えとかあると思うので口にはしませんが、ハヅチ経由で何とかしましょうかね。
「第二陣が来てから時間経ってるけど、何かで躓いてるとか言ってた?」
そもそも、見てもないのに教えることなんて出来ないので、困っていることを聞いてしまうのが手っ取り早いですね。
「そういえば、近付かれると、どうにもならないって言ってたな」
魔法使いであれば誰でも同じことを思いそうですが、一つ気になることが出来てしまいました。
「あれ? その人、ソロ?」
「いや……よく野良パーティーを組むらしいけど、その……面倒なプレイヤーにしつこくされたとかで……」
ふーん。
「それで、その女の子にいいところを見せたいと」
「え……、いや、その……、あの……、何でわかったんですか?」
「わかってないよ。当てずっぽうだし、そもそもヒントなんてなかったし」
「……そ、そうですか。まぁ、そうなんです。幼馴染で、昔はよく一緒に遊んでたんですよ」
そこからしばし惚気が入りましたが、それは流してしまいましょう。よくある小学校に入ってから疎遠になったパターンのようです。まぁ、最低限の交流はあったそうですが。
「とりあえず、魔法使いは近付かれたら諦めるしかないよ、それが後衛職だから。まぁ、だから、近付かれない立ち回りを考えるってところかな?」
近付かれない、近付かせない、どちらでもいいですが、自身にとって有利な距離を保つ方法を考えるだけです。このゲームにはウォール系という簡単に壁を作る魔法がありますし、鉄魔法や雷魔法といった距離を空けたり、動きを止めたりする魔法もあります。まぁ、スキルレベルにもよりますが。
「そうですね。ちなみに、リーゼロッテさんはどういった立ち回りを?」
「ん? あー、近付かれる前に倒しきる。それだけ」
「……そ、そうですか」
「残念だけど、感覚派だから人の指導は出来ないんだよね」
「わかりました。何とか調べてみます」
もしクランハウスに連れてくるようなら、遠くから眺めてニヨニヨしましょうかね。馬に蹴られたくないので、邪魔をする気はありませんし。
あ、でもこれだけは言っておかなければいけません。そのために立ち上がり、片方の手を腰に当てながら宣言します。
「ここで思いっきり宿題広げてた私がいうのもあれだけど、リアルの情報は口にしちゃだめだよ」
空いている手で軽くおでこをついておきました。ハヅチと双子だということも話していますが、ゲーム内で個人情報を口にするのは思わぬ危険を招くので、注意しなければいけません。
日課と相談が終わったので、今日はイベントのクエストをしに来ました。場所はいつもの様に特殊施設の光輪殿、前回は掃除をしたので今回からは3階へ足を踏み入れることが出来るようになっています。
今度は警備クエストのようですね。事前情報を調べていないのですが、とりあえず、襲撃には気をつけましょう。
警備と言っても、女中のNPCとペアで見回るのが基本のようです。一度目は襲撃がなく、二度目は女中のNPC同士の喧嘩を止め、三度目は食材や備品などの納品の警備でした。ここまでは一切襲撃がなく、ただ時間がかかるだけでした。
四度目のクエストは、何と、他の特殊施設へのお使いです。正確には、全部で8個の御殿があるので、他の7個へお使いにいく偉いNPCの護衛ですね。これまた安全なクエストだと思っていたのですが、そうはいきませんでした。
「敵襲ー」
そういいながらペアになったNPCが笛を吹き、甲高い音が鳴り響きました。
「御用だ、御用だ」
そんな声が聞こえますが、音で距離を判断するなんて出来ないので、何となく時間がかかるなとしか思えませんね。私の索敵スキルには引っかかっていないので、今回の襲撃をしてくるNPCは隠密系のスキルレベルが高いのでしょう。まぁ、忍者系でしょうね。
護衛対象のNPCは密書みたいなものを大事に持っているので、それを奪いに来るのだと思いますが、ここは城の敷地内で、外周に近い渡り廊下なので、壁なんてありませんし、屋根の上や床のしたからも含めて、どこからでも襲撃出来そうです。
さて、どこから襲ってくるのでしょうか。
ペアになったNPCと違い、護衛対象はパーティーメンバーではないので巻き込むわけにはいきません。
……おや、真上に反応が出てきました。流石に近付けばわかるようですね。それでは……、屋根、壊してもいいんでしょうか……。被害の大きい手段を考えていたところ、マップの光点が少し移動しました。恐らく、屋根の上から降りてくるのでしょう。それでは【閃き】を使い、魔法陣を4つ描きます。
ですが、流石は忍者です。動きが早く、間に合いそうにありません。前衛はペアになったNPCに任せて時間を稼いでもらうしかありませんね。ペアになったNPCは短刀で忍者の攻撃を防いではいますが、稼いだ時間は一瞬でした。
「【ライトニングランス】」
それでも間に合ったので何の問題もありません。それに使ったのは頼りになる雷属性の魔法です。いかに早くとも、雷より早く動けるのは、極まった人か、倒させるつもりのないMOBか、よく逃げるMOBくらいでしょう。そう思っている間に忍者型MOBに雷の槍が命中し、体をヒクヒクさせながら倒れ込みました。
その直後に忍者風のNPC、きっと御庭番とかですね、そんなNPCがやってきて素早く拘束して連れていってしまいました。その後も何度か襲撃がありましたが、クールタイムが終わっているので、何の問題もなく襲撃してきたMOBを捕まえることが出来ました。
「中々やるわね。襲撃者を全員捕まえられたわ。このことは上役に報告しておくわ」
特に追加報酬は見当たりませんでしたが、微妙な分岐でもあるんですかね。まぁ、悪いことではないはずなので、楽しみにしておきましょう。
そしてきっと最後の5回目、今度はどこの見回りかと思いきや、専用のフィールドで何かしらの儀式の警備のようです。
森に囲まれた場所で、注連縄をした大岩の前で謎の儀式をしています。……いえ、儀式の準備ですかね。何をしているのかはわかりませんが、御付きの人達と何かを話しています。
姫巫女については担当箇所が遠すぎてよくわかりませんが、白い髪の小さな女の子が見えます。呼ばれ方からして女の子だとは思っていましたが、これはやる気が出てきましたよ。
ちなみに、忍者型MOBによる襲撃がありましたが、他の護衛のNPCが強く、4倍のクールタイムが終わるたびに魔法を放つだけで終わっていました。
合計で中判3枚のクエストでしたが、護衛系は時間がかかりましたが、NPCの協力があったので簡単でしたね。
ログアウトする前に少し人気のないところを散歩していると、やはり来ました。
「何奴」
「……拙者でござるよ」
やはり、前回同様に守り人の里の忍者さんです。……たぶん。
「どうしました?」
「ここでも信用を得られたようで何よりでござる。ここでの評価を他の御殿の手の者にも伝えたい故、一度里の方へ来て欲しいでござる」
おや、2階とは違い、クエストの結果を他の特殊施設と共有するのに何かしらのクエストが必要のようですね。
「わかりました。それで里のどこに行けばいいんですか?」
「里の集会場に来て欲しいでござる」
「集会場ですね。それじゃあ、後で行きますよ」
里には陣営に入る時に行っただけで、それ以来訪れていませんでした。あそこに行けるプレイヤーも増えているはずなので、何かしらの変化があると面白いのですが、とりあえず今はログアウトです。
夜のログインの時間です。とりあえず日課の続きをするつもりでしたが、ハヅチがいたので一つ頼み事をしておきましょう。
「ハヅチ、クッションが欲しいんだけど」
「そこにあるぞ、ほら」
「ふぎゃ」
「あ、すまん」
まったく、この弟は。顔にクリーンヒットしましたよ。
手頃なところに置いてあったクッションを手首のスナップだけで投げつけてきたわけですが、投擲系のスキルを使ったのか、中々な勢いがついていました。これは後で折檻ですね。
「ハヅチ、覚えといてね」
笑顔で点検がてら撮ったスクリーンショットを表示します。ええ、ゴンドラのスクリーンショットですよ。ふふふ。
「……ゴンドラ出来てたのか」
「それで、信楽のためのクッションが欲しいんだよね。これに入る大きさのやつ」
笑顔を絶やさずにセルゲイさんに貰ったカゴを見せてみましょう。スーパーとかにある買い物かごよりは浅いですが、クッションを入れるには十分な大きさです。
「なるほどな。……ところで、それ用意したらその怒りは治まるか?」
「ふふふ、そこはハヅチ次第だよ。とりあえず、狸柄でお願い」
こういうときは笑顔を浮かべるものです。まったく、姉と弟の戯れですから、そんなに本気では怒っていませんよ。ええ、本気では。
身の危険を感じたハヅチがメニューを操作していますが、スキルを使って作っているのでしょう。装備品ではないのでこだわる必要もありませんから、それで十分です。
周りからも、そんなに怯えるのならやらなきゃいいのにといった視線を向けられていますが、じゃれてくる弟の相手をするのも、姉の努めです。たとえ双子でも、先に生まれた以上、私が姉ですから。ちゃんと姉の理不尽さを思い知らさなければいけません。
「よし、出来た」
今度はちゃんと手渡してきました。さて、いい出来なので、今回は許してあげましょう。
「そうそう、この狸柄がいいんだよ。ほーら、信楽ー」
カゴに入れてから信楽を乗せてみましたが、いい感じですね。下手に動かないので、ゴンドラの上でも安全そうです。
「リーゼロッテさん、狸柄ってそっちなのか? こう、狸のデフォルメされた絵を散りばめるんじゃ……」
みんなはゴンドラのスクリーンショットに気を取られていたようですが、ブレイクだけは少し気になったようで、ハヅチからもらった黒と茶の縞模様のクッションを見てからそう口にしました。わかっていないようなので、ちゃんと説明してあげましょう。
「信楽が乗るから、狸の絵は必要ないの」
「なるほど」
「ハヅチ、今回は! 許してあげる」
強調するべきところはしっかりと強調してから伝えます。まったく、上下関係はしっかりと認識してもらわないといけませんね。
それから、イベントの情報共有をしていると、途中でやってきたグリモアから【エアーランスのスペルスクロール】を100枚追加で貰いました。これをイベントフィールドで使い切れば、魔術書も上げ終わると思うので、とても助かります。これはもう、十分に貸しを返してもらったと言っても過言ではありませんね。
ハヅチ達からもいくつか里でのクエストの情報を貰いましたが、今はあの姫巫女に関係しそうなクエストを進めるのが先決です。
ナツエドではメニューのイベントの項目にある所属陣営の拠点へ移動する機能が使えるため、初回のようにちりめん問屋へ行く必要はありません。一瞬の暗転と浮遊感の後、隠れ里のようなのどかな場所が視界に広がっていました。さて、集会場へ――。
「何奴」
……誰もいませんでした。今までのパターンからしていてもおかしくないと思ったのですが、残念です。それでは気を取り直して集会場へ向かいましょう。マップによると、こっちですね。道すがら、数人のプレイヤーを見かけましたが、知らない人達でした。
そして、やってきました集会場。入り口から見ると、どうみてもただただだだっ広い宴会場にしか見えないのですが、集会場なんてそんなもんですかね。ここも例に漏れず和風で、畳が敷いてあるのでブーツを非表示にして上がりましょう。
「むむ、何奴」
「こっちでござるよ」
正面には誰もいなかったはずなのに、振り返る前まで見ていた方に忍者さんが出現しました。まったく、忍者だからって隠れ忍ばないでくださいよ。
「それで、何をすればいいんですか?」
集会場の真ん中まで歩いて、会話するための距離まで近付きましたが、いつも顔を隠しているので、この人なのかわかりませんね。
「ふむ、ここに他の御殿との連絡役の忍びが7人おる故、それぞれの試練を突破して欲しいでござる」
クエストを7個らしいのですが、忍者さんは一人しかいませんね。まぁ、きっとどこかに隠れ忍んでいると思うので、探すだけ無駄でしょう。
肝心のクエストですが、一つの特殊施設につき5個のクエストをするので、普通にやると35個のクエストをクリアする必要があります。しかも、恐らくですが、同じものを。そう考えると、7個で終わるこっちの方が楽ですね。
「よーし、受けて立ちましょう」
「それでは、誰の試練を受けるでござるか?」
どこからともなく隠れ忍んでいた7人の忍者が私を囲むように追加で現れました。やはりというか何と言うか、まぁ、当然ですよね。
「全部一度にとかだめですか?」
こういうのは一気にやった方が楽だったりするんですよね。例えば、討伐クエストのMOBが被っていたり、途中の行動が別のクエストの課題だったりと、二度手間三度手間なんて、よくあることですから。
「残念でござるが、一つずつでござる。それと、一度内容を確認した試練を放棄して、他の試練に挑戦することも禁止でござる」
おう……、それは面倒ですね。私にとって天敵であるバクマツケンの討伐クエストなんてやらされたらもう目も当てられません。
「わかったでござる。大人しくやりますよ」
さて、誰の試練にしましょうかね。外見の違いがわからないので、誰がどこの担当かもわかりません。そのため、誰を選ぶもないとは思いますが、私の直感が囁いています。この右にいる忍者さんです。
「では、貴方の試練を受けましょう」
「そうでござるか。では、拙者の試練は、東の奥に出没する大きな犬を50体、狩ってきて欲しいでござる」
最悪です。最悪ですよ。よりによって、初っ端ですか。何でよりによってバクマツケンを倒してこなければいけないのでしょうか。
さて、軽く嘆いたので切り替えましょう。ここで気落ちしていてもしかたありませんから。
「この試練、何か制限ありますか?」
「ないでござるよ。誰かを頼る、金で買う、などなど、そういった手段が取れるというのも、その人の力でござるよ」
つまり、何かを納品するクエストもあるということですか。面倒な。
えーと、クランメンバーのログイン状況を確認してと。
リーゼロッテ:誰かー、バクマツケン50体討伐手伝ってー
クランチャットで呼びかけてみました。すると、すぐに反応がありました。
ハヅチ:何だ、クエストか?
リーゼロッテ:そだよ。ハヅチは手伝ってくれるの?
ブレイク:俺も手伝いますよ
グリモア:我も協力しよう
ブレイクにグリモアですね。他にも数人ログインしていますが、どうにも都合が悪いようです。まぁ、50体なので、そこまで長時間になるわけでもありませんし、前衛二人に後衛二人なら、問題ありませんね。ちなみに、昨日手に入れた不滅の水、ポーション瓶に入れると、HP1%で復活する蘇生薬になります。まぁ、樽の中身をぶちまけるという手もありますが、一度クランハウスへ戻るので、そこで空のポーション瓶をくすねておきましょう。
準備を済ませ、私とハヅチとブレイクとグリモアという滅多に組まない面々でパーティーを組み、東の第二フィールドへと繋がる門へテレポートでやってきました。
「この魔法、便利ですよね」
「花火かヒツジもここまで上げてくれると楽になるんだが、上げにくい空間魔法だからなー」
「魔力紙じゃ中級魔法は刻印出来なかったしね」
本当に残念なことです。テレポートを刻印できれば大儲けだったのですが。時間が出来たらオババの店に寄って刻印するための方法を確認しなければいけませんね。
「して、我らはどの様に動く?」
「あー、俺とブレイクで前やるから、一気に……、リーゼロッテ、ランス系で何発だ?」
「恐らく10発。乱数次第では、少し減るかも」
私の答えを聞いてハヅチが何かを計算しています。グリモアの魔術書もあるので、6発分は何とかなるでしょう。後は、4発分ですが、その辺りはハヅチとブレイクが何とかしてくれるはずです。
だめでも二人が引きつけてくれれば、追撃を放てるので、何とかなるでしょう。
「俺達の盾職はロウだから、ヘイト増加系は取ってないんですよね」
「大丈夫だ。あっちが高火力でタゲ持ってくから、俺達は攻撃に集中すればいいんだよ」
「そうですか」
何でしょう、純粋な後衛職である私が壁役をやらされそうな気配です。まぁ、いざとなったら不滅の水の樽を出して、ぶっかけてもらえば復活出来るので、問題はありませんね。
「あ、リーゼロッテ、討伐カウンター出しとけよ」
「あ、うん」
そういえば討伐クエストを受けている場合、討伐数を確認するためのカウンターを出せるんでしたね。名称は違いますが、アイテム収集でも同じ様な機能があるので、便利です。
さて、ハヅチとブレイクが最終確認をしている間にちょっと小耳を拝借しましょう。
「グリモア、ちょっと」
「汝、我に何かようか?」
「ゴニョゴニョゴニョゴニョ」
「……我は異界の言語を解さぬ」
やはりゴニョゴニョだけでは伝わりませんか。そんなに時間もないのでちゃんと話しましょう。
「ちょっと渡したい物があるんだよ」
そうは言ったもののまだ準備していませんでした。まぁ、調合スキルを持っていればメニュー操作で作り……入れることが出来るので、作業自体は一瞬です。ええ、一瞬で複数個作れます。
「それじゃ、これ」
「これは……、な、汝……、どこでこれを」
そんなに驚くほどのものですかね、この素材をポーション瓶に入れただけで出来た蘇生薬が。効果は最低値ですし、瓶さえあれば大量に作れますから。
「おーい、二人共どうした、行くぞ」
「あーうん、これ渡しとくね」
念のために渡しとくので、1個ずつでいいでしょう。必要ならまた入れ直せばいいですし。
「……えーと」
「リーゼロッテ、後で時間よこせ」
「おや、それがお姉様に対する口の聞き方かな?」
「あー、後で折檻でもいいから、よこせ」
おや、真面目な話のようです。
「明日の午前中ね」
「それでいい」
それでは気を取り直してバクマツケン50体を狩りに行きましょう。
フィールドを区切る門をくぐり、第二フィールドへと足を踏み入れました。このフィールド自体はかなり広いのですが、それなりの数のプレイヤーがいるため、混み合っている印象を受けます。門から離れれば空くとは思いますが、移動を考えると門付近にいたいですよね。
「よし、奥行くぞ。帰りは一瞬だからな」
ええ、行きは一瞬帰りも一瞬、なら、フィールドでの移動に多少時間を使っても問題ありません。
そして、パーティー数よりもMOBが多い辺りまでやってきました。
「それじゃ、二人共、俺とブレイクが先に攻撃するから、後から狙ってくれ」
「りょーかい」
「うむ」
私とグリモアは魔法使いですが、ハヅチは短刀、ブレイクは大鎚を武器にしています。ハヅチの場合は手裏剣を始めとした飛び道具もありますが、ブレイクに関しては全く知りません。ですが、武器からしてパワーファイターなのでしょう。
最初はハヅチが斬りつけ、バクマツケンのタゲを取ります。そして、バクマツケンの攻撃を避けながらブレイクの攻撃しやすい位置へと誘導しました。そこへ繰り出される大ぶりの大上段。あれは会心の一撃といっても過言ではないでしょう。ブレイクの大鎚が振り上げられ、潰されていたバクマツケンが姿を現すと――。
「【フレイムランス】」
私とグリモアの声が重なり、炎の槍が6本放たれました。
かなり弱ったバクマツケンが私を睨みつけていますが、動きが鈍く、ハヅチとブレイクによる追撃であっという間に残ったHPを削り切られ、ポリゴンと成り果てました。
「こんなもんか」
「詠唱始めるのが少し早かったかな」
「そうなんですか?」
「遅延発動でちょっと待ったから」
魔法陣を描いても私とグリモアには多少の速度差があります。けれど、二人共遅延発動で発動待機状態にしていました。だから、二人の声が重なったので、もう少し遅く魔法陣を描き始めれば、MPの節約が出来ますね。
「だが、汝らの動きによっては、調律も狂おう。故に、我らが魔力を過剰に消費することは、我らの平穏へと繋がるであろう」
えーと、ハヅチとブレイクの動き次第では、頃合いを見計らってもずれるから、遅延発動を使ったほうがいいってことですかね。まぁ、それもそうですね。ほっとけばすぐに回復しますし、今回は50体と決まっているので、MPが尽きて困ることはないでしょう。
私の問題は別にありますし。
簡単な反省をしてから、次のMOBと同じ様に戦うと。
「【アースランス】」
今度は地魔法です。グリモアは問題ないと思いますが、一戦一戦の間隔が短いため、四倍のクールタイムが終わりません。スキルレベルを上げたい魔法3つを回せば何とかなると思いますが。
途中、炎魔法がLV30になり、ナパームエリアという魔法を覚えたのですが、その通知に氷魔法の時にはなかったものが追加されています。
ピコン!
――――System Message・指定スキルがLV30になりました――――
【炎魔法】がLV30になったため、新たな魔法が使用可能になりました。
【ナパームエリア】……【詳細】
触媒となるアイテムを所持しているため、機能が一つ解放されました。
使用時に【赤色の結晶】を触媒とすることで、その効果を高めることが出来ます。
――――――――――――――――――――――――――――――
この魔法自体は、足元に赤い何かを広げ、範囲内の気温を一気に上げる魔法のようです。水属性装備を身に着けていても蒸し暑さにやられ、動きが鈍くなってしまいました。ただ、それはおまけで、主な効果は範囲内において、火属性の攻撃力を増加し、風属性の攻撃力を低下させることです。アイスフィールドとの共通点を考えるに、LV30で覚える魔法は、その属性の攻撃力を増加させ、弱点を突ける属性の攻撃力を低下させるのでしょう。後は、おまけで動きにくくすることですかね。
さて、次はアイスフィールドの時との違いを考えてみましょう。まぁ、システムメッセージにある通り、結晶を持っているかどうかなのでしょう。青色の結晶を入手した時に出てくるかはわかりませんが、他の属性にないはずがないですし。赤色の結晶は1個しかないので、効果の検証はそのうちです。
今回は念の為に蘇生薬を用意していたのですが、必要になることはなく、無事に50体の討伐を終えました。
「みんな、ありがと。お陰で面倒なクエストを終わらせられたよ」
「いえ、手があいてましたから」
「それより、忘れんなよ」
「汝には恩がある故、断ることはない」
最後に送れる場所なら好きな場所に送ると言ったのですが、クランハウスでいいと言われてしまったので、普通にリターンで戻り、ドロップした皮系の素材をハヅチに押し付けようと思ったのですが、魔術書を作るのに皮が必要なのを思い出したので、上質系の皮を10枚確保し、ついでに紐も10本もらいました。これで残りは魔力紙100枚と魔石(小)100個です。これはもうお金で解決出来ますね。ちなみに、【頑丈な】という言葉の付いた皮が1枚ありました。それが上質の上のランクの素材なのだと思いますが、1枚では何も作れないので、これも押し付けました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます