4-10
昨日、寝る前にカフェインを取ってしまったので、中々寝付けなかったため、普段よりも起きるのが遅くなってしまいました。まぁ、宿題を終わらせているので特に何かを言われることはありません。
午前中はダラダラと過ごし、午後になってからいつものようにログインしました。
それでは日課を終わらせてからザインさん達から教えてもらった特殊施設に影響を与える一般施設のクエストの続きをしましょう。ええ、無駄に掃除をさせられた道場の続きです。
「たのもー……」
「お、おう、よく来たな。この前のでやる気は見た。次からは指導に入るが、始めるか?」
「ええ、よろしくお願いします」
そんなわけで、体術を選択した私は型の練習のようなものをさせられましたが、武術の心得のない私にはよくわかりませんでした。これを3回行い、小判を合計6枚入手しましたが、剣と格闘スキルが両方ともLV21まで上がったのはなぜでしょう。いえ、格闘スキルだけならわかるのですが、なぜ、剣スキルも上がったのやら。とりあえず、新しく覚えた剣スキルのアーツは【切り上げ】で、格闘スキルのアーツは【投げ】です。両方共使うことはないでしょうが、まぁ、重いものを運ぶためのステータスが上がったと思いましょう。
この後のクエストは組み手です。試しに気功操作を使ってみましたが、ダメージを受けていないのにHPが減るとは……。しかも、スキルレベルが低いせいなのか、かなり効率が悪い気がします。魔力操作の時は気にならなかったのですが、これは私のHPが低いということなのでしょうか。まぁ、高くはないですよね。そもそもHPが増える条件を知りませんし。
組み手の後は試合でしたが、負けても無事にクリア出来ましたし、報酬もそれぞれ小判2枚だったので、何の問題もなく道場でのクエストを完了しました。この後は道場でのクエスト完了を前提とした別のクエストがあるので、夜にはそちらをクリアするつもりです。
もちろん、【気拳】というアビリティを習得出来ましたが、どう考えても魔拳のHP版です。飛ぶ打撃とかになったら面白いのですが、それは格闘の上位スキルが開放されていったらですね。
それでは一度ログアウトです。
いつもの様に夜のログインの時間です。さて、道場の次のクエストがある番所を訪れました。さて、どんなクエストがあるのでしょうか。
「たのもー」
「何奴」
「お手伝いの押し売りに来ました」
さて、ここで基本が通用すれば楽なのですが。
「そうか。お主、訓練は積んでいるのか?」
「あそこの道場に入門しましたよ」
「そうか。今は見回りの人手が足りなくてな。もうすぐ一組出発するから、一緒に回ってくれ」
いきなり来た人に見回りを任せるのもどうかと思いますが、見回りのNPCが2人のところに加わるので、不審な動きをすればすぐにつかまるでしょう。見回り中、マップにチェックポイントらしき赤点が表示され、そこをかならず通っています。試しに何度か道を外れようとしましたが、数に勝てるはずもなく、正しい道を行くことになりました。
「ふむ、一応は見回ってくれたようだな。次回からは、見回りの経験者を連れてきてもいいぞ」
1回目はこれで終わりました。問題は2回目です。よく見ると待合室のようなものがあり、数人のプレイヤーが3人組を作るために人が来るのを待っています。ところで、あきらかに3人以上いるのですが、何で出発しないのでしょうか。
「お、魔法使いの娘だ。よっしゃ、これで先に進める」
「ねー君、俺達と行こうよ」
「待てよ。俺が先に待ってたんだぞ」
……私は無言で踵を返しました。ここは時雨達がこのクエストまで進むのを待ちましょう。
「ちょっと、どこ行くのさ」
さて、ここは後回しにして特殊施設のクエストでも進めましょうかね。炊事場のクエストは終わっていますし。
「ごめんごめん、ちょっと待ってよ」
誰かがそう言いながら私の肩に馴れ馴れしく手を置いてきました。謝られる記憶も、待つ必要もないので、足は止めずに手を弾きました。もう私の予定は決まっているので、さっさと行きましょう。
「いやいや、ほんと待ってって」
今度は腕を掴まれました。まったく、面倒ですね。不機嫌さを全面に押し出して振り返りましたが、相手はにこやかに笑って気づかないふりをしているようです。
「騒がしくてごめんね。見回りのクエストで2回目からは襲撃があって、魔法使いがいると追加報酬を受け取りやすいんだ。でも、前提からして魔法使いはあんまり来なくてさ」
相手が話している間も私は手を振りほどこうとしていますが、一向に離す気配がありません。まったくもって厄介ですね。えーと、思考操作でメニューを開いて……。
「みんな早く進めたいからカリカリしてるだけだから、大目に見てあげてよ。それじゃあ、俺達で話し合って君と一緒に行くメンバーを決めるから、ちょっと待ってね」
フレンドリストの項目から……。
この人は何で勝手に話を進めているのでしょうか。たまに、いかにも名案と言いたげな前提を無視した方法を口にして話を進める人がいますが、この人もそうなのでしょう。
えーと、対象を選んで……。
確定っと。
バチ
私が確定を選んだ瞬間、私の腕と掴んでいる手の間に一枚のウィンドウが割り込みました。状況が状況だけに、相手の手が弾かれています。
さて、これでクエストを進めに行けますね。歩いていると誰かが横に来て話しかけているようですが、私には何も聞こえませんし、腕や肩を掴もうとしてウィンドウに弾かれています。
クランチャットで簡単な報告をしながらクエストの続きをするために光輪殿へ到着した頃には諦めたようで誰もいなくなっていました。
「たのもー」
「ああ、あんたかい。どうしたんだい?」
「お手伝いの押し売りに来ましたけど、何かあります?」
「そうさねえ。今手が足りないのは、ここの見回りくらいだねえ。やってくれる?」
「上の階とかでもいいんですよ」
「ハハッ、まだあんたを上げるわけにはいかないよ。まぁ、探せば雑用とかあると思うけど、どうする?」
……くそー。どうやら1階部分のクエストが一般施設と連動しているようです。方法が一般施設と同じだとすると、人数が足りないので、ここは後回しです。それに、雑用を探すのは面倒です。
そんなわけでイベントは一度やめてトレントマップへとやってきました。イベント素材を集めてもいいのですが、せっかくなので受けたまま放置している別のクエスト素材を集めましょう。トレントはランス系6発で倒せたはずなので、手持ちのグリモアからもらったスペルスクロールを使ってサクッと倒してしまいましょう。
「【エアーランス】」
スペルスクロール6枚を同時に使用すると、MPがごっそりと減るのに合わせて書かれた詠唱が光り、それが終わると同時に6本の風の槍が放たれました。威力的には何の問題もないので、途中で休憩しながらやりましょう。始めの頃の魔法陣を思い出して懐かしいですし。
一度全回復してからヤタと信楽を召喚し、ゆっくりと狩りをすることにしました。
今回はヤタと信楽がしっかりと警戒してくれているため、触手に襲われることはなく、安全に続けることが出来ています。まぁ、クランの誰かが一緒にいたら生贄にして様子を眺めるのもありですね。
一度に6枚のスペルスクロールを使い、対象のMOBもそこそこ強いので、スキルレベルの上がりがいいですね。これは魔術書が基本スキルというのも関係しているのでしょう。グリモアの魔法陣スキルのレベル上げはラビトットを対象にしていたので、少し時間がかかっていたようですが、やはり強い敵と戦った方がいいのは火を見るよりも明らかです。
エアーランスのスペルスクロールをほぼ使い切った結果、魔術書のスキルレベルが20になりました。開放されたアビリティはLV10の時にはライティングという自動でスペルスクロールに詠唱を書いてくれるようになるものです。これは手をシステムが勝手に動かすやつですね。次のLV15ではコーティングを覚え、魔石を使ってスペルスクロールの使用回数を増やすことができるようになりました。試しにやってみましたが、魔石(小)で1回増えるだけなので非効率ですね。グリモアがこれをしなかったのも納得です。そして、LV20では魔力注入というのを覚えました。これは使用回数が1以上残っているスペルスクロールの使用回数を1枚につき一度だけ全回復するそうです。ほんの少しだけ効率がよくなりますが、使う気になれませんね。
エアーランスのスペルスクロールの増加分と回復分を含めて使い切ってしまいました。残りはフレイムランスのスペルスクロールなので、魔木を狙うには向かないアイテムです。まだ集めきってはいませんが、信楽のなつき度が50%になったので、今日はログアウトです。
金曜日の午後、ログインしてから日課をこなしていると、グリモアがログインしてきました。ちょうどいいので聞いてみましょう。
「こんー。そんで、ちょっと聞きたいんだけど、スペルスクロールってライティング以外に簡単に作れる方法ある?」
私の問いに対し、首を振るというとてもわかり易い返事をしてくれました。
「上位の技能で身につける技法は、上位の技能でのみ使うことを前提としたものばかり。故に、書き記すしか方法はない」
えーと、上位スキルで覚えるアーツは上位スキルでしか使えないから、ライティングで書くしかないということですか。しかたありません、トレント狩りをしながら魔術書のレベル上げをするのは諦めましょう。フレイムランスのスペルスクロールはあるのですから、イベントのフィールドで使えばすぐに上がるでしょう。
「汝が欲するのであれば、我の残りを提供する用意はある」
「んー、大丈夫。自分でなんとかするよ」
そうと決まれば日課を終わらせて息抜きのトレント狩りへ行きましょう。
あ、一つ重要なことがありました。
トレント狩りの前に信楽を召喚してナツエドへと向かいました。MPは回復しきっていませんが、使うことはないので、今は問題ありません。
「女将さーん」
「あら、久しぶりじゃない。どうしたの?」
おう……。そういえば反復クエストはほとんど放置していましたね。城の方を優先した結果ではありますが、一定回数以上で報酬が増えたり、別のクエストが発生したりという可能性もありますね。
まぁ、今はそれよりも大事なことがあります。
「ちょっと聞きたいんですけど、笠ってどこかで売ってます?」
どこで聞くか迷いましたが、大工と寿司屋と飛脚では、大工さんに聞くのが一番でしょう。飛脚の人が笠をかぶるとは思えませんし。
「貴女がかぶるの?」
「いえ、この子に持たせたいので」
そういって私は信楽を持ち上げました。なつき度が50%を超え、持ち物装備がつけられる様になったので、笠を用意しなければいけません。出来れば陶器の酒瓶も欲しいのですが、手が塞がるので、少し悩んでいます。
「あら、可愛い子ね。うちが頼んでるところなら、数はあると思うけど、人用だから、大きさが合わないと思うわ」
盲点でした。ですが、それなら聞き方を替えるだけです。
「笠を作ってくれるところ、ありますか?」
「それこそ、うちが頼んでるところに頼めばいいわ。でも、特注だから、時間もお金もかかるわよ」
「せっかくなので、そこ、教えてください」
「ええいいわ。と言っても、隣だから、すぐよ」
大工の隣に笠屋ですか。まぁ、い草とか菅が主な材料のはずなので、畳屋ならわかるのですが、そこにあるのですから、便利だと思っておきましょう。
女将に連れられ、隣の笠屋にやってきました。そのまま笠屋の人となにか話し込んでいますが、信楽を見て微笑んでいるので、順調にいきそうですね。
「それじゃあ、大きさ、測ってもいいか?」
「はい、お願いします」
信楽を渡すと、巻き尺でしょうか、それでいろいろと測っています。
「どのくらいのが欲しいんだ?」
「えーと、このくらいで……」
身振りを交え、考えを伝えます。かぶれるようにする必要はないので、紐で後ろにつけられる様にして欲しいのですが、焼き物と違って固定するにはきつく結ぶ必要があるので、どうするべきか……。
「ま、なんとかなるだろう。それと、代金は小判1枚だ。どうする?」
な、なんと。イベント報酬をもらうための小判をそのまま通貨として使えるわけですか。いえ、でも、中央広場の役所やちりめん問屋では普通にゴールドを使っていたので、どういうことでしょうか。
まぁ、迷う必要はありません。
「お願いします。先払いしますか?」
「後でいいぞ。商品と引き換えだ」
「わかりました」
ゲーム内時間で明日には出来上がるそうなので、夜にでも取りに来ましょう。
この後、女将さんにもお礼を言ってからヤタも召喚してトレント狩りへ向かいました。昨日と違い、時間もたっぷりあるので、必要数以上の魔木を確保してログアウトしました。
夜のログインの時間です。ログインしてから気付いたのですが、クエストを進めてからログアウトすればよかったですね。まぁ、まずは信楽を召喚して笠屋へ向かいます。
「へい、大将」
「た……大将? おれぁ、そんな柄じゃねぇんだがなぁ」
「じゃあ、おやっさんで。それで、信楽の笠、出来てますか?」
「ああ、出来とるぞ。うけとれい」
そんな訳で【小さめの笠】を入手しました。さっそく信楽に装備させると、流石ゲームです。焼き物同様に後ろ側で固定され、紐はゆったりしてます。
おや、持ち物装備を付けた途端に、信楽のなつき度が10%も上がりました。予想外ですが、もので釣ることが出来るとは……。まぁ、初回だけのようなので、何度もは出来ませんが、ヤタにも何か装備させるか本格的に考える必要がありそうです。
まぁ、今はクエストを進めましょう。
夏の期間限定イベントをやっている中、何度目かわからない通常の街を訪れました。ここでの目的は決まっています。そのために集めたのですから。
「棟梁、言われた物、持ってきましたよ」
「何だ嬢ちゃんか、随分と遅かったな」
煙管を咥え髭を蓄えた逞しいおじさんが開店休業中と思わしき造船所の近くで水路を眺めていました。
「いやー、良い木材が欲しいじゃないですか。ところで、私の知り合い、来ました?」
「ああ来たぞ。ま、そいつらも予約だけして材料を持ってこないがな」
やはりハヅチ達もイベントを優先しているようですね。
「それで、この魔木、どこに出せばいいですか?」
「ああ、あそこの作業場に置いといてくれ。後で加工すっから」
「どんな加工をするんですか?」
ゴンドラ造りを見る機会なんてそうそうないので少し気になります。せっかくですし、見てみたいですね。
「ふむ、しょうがねぇ、見せてやらぁ」
そんなわけで棟梁の後を着いていき、作業場へと足を踏み入れました。まずは魔木を50個取り出すと、その内の1本を簡単に担ぎ上げました。どうみても大きい丸太なのですが、それを持ち上げるとは、この棟梁、かなりの力持ちですね。もう、敬意を込めておやっさんと呼ぶしかありません。
「おやっさん、力持ちですね」
「おやっ……、まぁいい。こっちだ」
そのまま作業場の一角へ丸太を運び、なにやら準備をしています。
「まずは、どんな材料にするのかを考えるんだ」
そういいながら、丸太の断面に線を引いています。次にノコギリを手に……。
「あー、このランクなら、あれに耐えられるな」
おや? どうしたのでしょう。まるで、普通の木材だと出来ない工程を挟もうとしているように聞こえます。そういえば、クエストも。
――――クエスト【ゴンドラ作成】――――
木材 【50/50】
※種類問わず
―――――――――――――――――
この状態で止まっています。完了やら次へ進むやら、何かしら変化があってもいいはずなのですが、どういうことでしょうか。
「嬢ちゃん、せっかくだからちょいと加工をしねえか?」
「加工ですか?」
「ああ、それをすればもっといい木材になる」
もっといい木材ですか。それが最終的にどう影響するのかはわかりませんが、できるのであればやっておきたいですね。
「ちなみに、何をするんですか?」
「なーに、魔力で加工するだけだ」
おや、おやおや。まさか……。
「詳しくお願いします」
「ああ、近くに魔力屋のばあさんがいてな。そこに頼むんだ」
「それで、私は何をすればいいんですか?」
「これで造るのは嬢ちゃんのゴンドラだ。工程を追加する分、時間も費用も材料も増える。だから、許可を貰えればいい」
おやおや……、どうやら期待はずれのようです。ですが、ここで諦めては女が廃ります。
「私が頼みにいきましょうか? そうすればおやっさんはその分の時間を準備に使えますよね」
「お、そうか。なら、頼もうか」
そういっておやっさんは一枚のメモを取り出しました。
「ここに書いてある場所へ行ってこれを渡してくれれば話は通る。それじゃあ頼んだぞ」
「いえっさ」
おやっさんからメモを受け取り、マップと照らし合わせます。
近くと言うだけあって本当に近いですね。流石に大工と笠屋の様に隣というわけではありませんが、大きな水路を超える必要がないのはとても楽です。
メニューのクエストの項目が光っているので確認してみると、クエストの内容が変化していました。
――――クエスト【ゴンドラ作成】――――
魔力屋へ行こう 【 】
―――――――――――――――――
このクエスト、分岐したんですかね。とりあえず、私の目的が上手く行けば、後で報告する必要があります。
目的の場所は街の外周に近い位置で、怪しい雰囲気のするお店です。看板には魔力屋と書いてあるので、ここで間違いないでしょう。
それでは早速。
「こんにちはー」
………………あれ? 返事がありませんね。店自体は開いているようですが、人の気配がありません。もしかして……。いや、そんな不吉なことを考えるのはやめましょう。
「こーんーにーちーはー」
「騒がしいのう。聞こえとるわい」
よかった。ちゃんと生きていました。見てみるとオババと同じくらいお歳を召しているので、動きがゆっくりなのでしょう。
「造船所のおやっさんからメモを預かってきました」
「ほう、あの頑固爺がゴンドラを造るのか。随分と久しいのう」
何だかバックストーリーがいろいろとありそうですね。ただ、そこについて詮索するつもりはありません。
「それで、木材を魔力で加工するらしいんですけど、どんなことをするんですか?」
「なあに、魔力を木材に付与するだけじゃよ」
やはりそうですか。しかも、木材に、ですから、これは何としても取得しなければいけませんね。ですが、どうすればいいのやら。
「私が手伝えること、ありませんか? 金属とか布になら、魔力付与出来るんですけど」
「何じゃ、手伝ってくれるのか? なら、頼もうかのう。ワシ1人でやるのは骨が折れるからのう」
これはこれは。上手くいった気がします。なにせ、魔力付与の対象が増えるのですから。それも、私に一番必要な対象がです。
魔力屋のお婆さんは何かを探しているようですが、今までの経験からいって【ラーニングスクロール】でしょうか。あれを使ってから簡単なチュートリアルというのが、今までの流れですから。
「おー、あったあった。ほれ、これに目を通すんじゃ」
「わかりました」
やはり、ラーニングスクロールです。しかも、待ちに待った木材へと魔力付与です。全部で何種類あるのかは知りませんが、これで3個目です。
ピコン!
――――System Message・アーツを習得しました―――――――――
【魔力付与(木材)】を習得しました。
付与魔法から選択することが出来ます。
魔力付与の対象である金属・布・木材が揃いました。
【魔力付与】へと統合されます。
―――――――――――――――――――――――――――――
あ、魔力付与が揃ったみたいです。とりあえず、次のチュートリアルを終わらせてから考えましょう。
「それじゃあ、あの頑固爺のところへ行こうかのう」
はて。
「練習とかはいいんですか?」
「何言っとんじゃ。金属と布に出来るんじゃろう。なら、必要ないんじゃよ」
なるほど。事前に魔力付与を出来ると言ってあったので、省略されたわけですか。それでは、確認しましょう。
「ところで、この魔力付与って、全部で何種類あるんですか?」
「今嬢ちゃんが覚えた木材で最後じゃ。金属と言っておるが、あれは鉱物全てに使えおるし、布も糸を織った物や皮でも使える。今のも、植物全般に使えおるわい。一部、悪影響を及ぼす素材もあるがな」
おや、調合の時に魔力を流し込みながらゴリゴリしていましたが、これからは事前に魔力付与をすればいいわけですか。悪影響を及ぼす素材はオババに聞けば教えてくれそうですし。
「最後に、この魔力屋って何をしてるんですか?」
「魔力を売っとるんじゃよ。魔力付与をしたり、魔石を作ったりじゃな」
な、何ですと!
「魔石って作れるんですか!」
「そうじゃが、嬢ちゃんには教えんぞ。あれはワシらの飯のタネじゃからな」
ふむふむ、ワシらですか。つまり、何らかの組織があるわけですね。今までの2ヵ所ではそれぞれの付与対象の武器や防具を売っていましたが、ここでは魔力だけです。まぁ、主な付与目的がゴンドラの材料だからでしょう。
「それじゃあ、聞くのはやめときます」
「それがええ」
そんなわけでお婆さんと一緒に造船所へと戻ります。手伝うと言った以上、覚えたから帰るというわけにはいきませんから。造船所が近いということもあり、移動はあっという間でした。
「ただいま戻りました」
「おう、戻ってきたか。じゃあ、婆さん、早速だが頼むぞ」
「あいよ。それとこっちの嬢ちゃんにも手伝わせるから、そのつもりでな」
2人の指示で丸太に魔力付与を行っていきますが、付与魔法から魔力付与を選択して、対象を指定するだけなので、あっという間に終わりました。
「さて、こんなもんかのう」
「後は加工じゃわい。ワシにしか出来んから、もう帰ってええぞ」
私はすぐに追い出されてしまいました。ちなみに、クエストも進んでいます。
――――クエスト【ゴンドラ作成】――――
1日待とう 【24H】
―――――――――――――――――
タイマーが少しずつ進んでいきますが、ゲーム内時間の表記なので、現実だと8時間後なので、明日の午前中ですが、次のログインは午後だと思うので、いつでも大丈夫ですね。それではまだまだ時間はあるので一度クランハウスへ戻りましょう。魔力付与については、時雨とハヅチに伝えればクランのみんなに伝わるはずです。後はかなり昔に約束した相手にも伝えなければいけませんね。
文面を考えながらも、同じ様な内容のメッセージを3通送りました。わからないことがあれば何か聞きに来るはずなので、多少言葉が足りなかったとしても問題はありません。
それでは、早速魔力付与をしましょう。
――――――――――――――――
【下級悪魔の杖】
下級悪魔の力を宿した杖
耐久:82%
魔力付与:100%
攻撃力:=
魔法攻撃力:=
INT:=
MP:=
――――――――――――――――
さて、いつもの様に現在のステータスを正確に確認することは出来ませんが、何のステータスに影響を与えるのかはわかります。まぁ、魔力付与がどんな効果を持ってるのかはわかりませんが、他のと同じなら、ダメージの追加ですが、物理攻撃をしないと意味がないのであれば、無用の長物かもしれませんが、魔法攻撃でも効果があるのなら、その威力しだいでは確殺ラインがかわるので、場合によっては楽になります。詳しい仕様は検証しだいですが、それは検証が大好きな人達に任せましょう。
ハヅチからの連絡があり、そちらに関しては明日にでも話すことになりました。
それとは別に、シェリスさんからも返信があり、時間があるときに詳しく話を聞きたいそうです。やはり、木工スキルを持っている人は、気になるのでしょう。
何度かやり取りをし、シェリスさんが時間を作れるということで、今から会うことになりました。私の記憶が確かなら、木工の分野ではトップクラスのはずですが、今日の今日で会えるとは……。
シェリスさんからのクランハウス立ち入りの許可が出たので、生産クランである【MAKING&CREATE】を訪れました。
私達の【隠れ家】とは違い、いえ、大違い、かなりの増築をしているようです。
「久しぶり、リーゼロッテ」
「お久しぶりです。シェリスさん」
最後に会ったのは第二陣歓迎会のフリーマーケットででしたね。まぁ、完全に偶然でしたが、会ったことに間違いはありません。
「とりあえずこっち来てよ」
シェリスさんに案内され、奥へと進みますが、この辺りは個人の部屋がある方のはずです。初期状態の面影がなくとも、最初からある部屋の場所までは変わらないはずですし。
「シェリスさんの部屋に連れ込まれるんですね」
「んー、惜しい。もう、部屋じゃないから」
おや、工房にでもしたんですかね。
「じゃ~ん」
そこそこある胸を張って見せられましたが、一見しただけではただの部屋なので、驚きようがないですね。
「部屋……ですか?」
「あー、わかりにくいか。じゃあ、こっち」
部屋へと入り、奥の扉をくぐると、今度は店の様な場所へと出ました。部屋数を増やせるのかと思っていましたが、少しおかしいです。何せ、外へと続く扉があり、はめ込まれた窓からセンファストと思わしき街並みが見えるのですから。
「街?」
「そ、街。センファストに店兼工房を買ってね、それをクランの私室と繋げたんだ」
「クラン所属なら、クランの工房と店で十分じゃないんですか?」
店兼工房を買ったということは、クランの設備とは別に用意したということです。それだけのお金があれば他の使い道を考えてもよかったと思います。
「んー、そこが生産者と他のプレイヤーとの違いだよね。クランのはあくまでも共用スペースだから、順番待ちとか、秘密にしたいこととかをするには不便なんだよ」
「あー、なるほど。私はクランハウスの共用部で当たり前のように見せながらやっちゃいますから」
私の場合、秘密にするような工程はありませんから。
「……そ、そうなんだ。とりあえず、あっちで話そ。店の方は他の人も来るし」
店の部分を見た後はクランハウスと繋がっている部屋へと案内されました。どうやら店を自慢したかったようです。ただ、ご期待に答えられる反応をした記憶はありませんね。
「早速詳しく聞いていい?」
「あ、その前に飲み物でも出しますよ。湯呑、あります?」
流石に人の分は用意していないので、シェリスさんのを貸してもらう必要があります。すぐにマグカップが出てきたので、奮発して新茶をいれましょう。
メニューを操作し、二人分の新茶を注ぎます。それではお茶を飲みながら話しますかね。
ずずず
「それで、メッセージでも送りましたけど、造船クエストの途中で、木材に魔力で加工するって話になったんですよ」
「ごめん、そこで一つ聞きたいんだけど、何人か造船クエストを進めた人から、そんな話、聞いたことないんだけど」
おかしいですね。
「魔木納品して、明日来いって言われたんですけど、興味本位でどんな作業をするのか聞いたら、普通に加工しようとしたんですけど、この素材なら魔力で加工出来るけど、どうするかって言われたんですよ」
大体こんな感じです。何か引っかかればちゃんと覚えていますが、魔力付与を覚えてしまえば用のない会話なので、流石に忘れてしまいましたよ。
「あー、取得するには付与魔法は必須として、その派生をさせるには自分から話を振らないといけないわけか。後は素材に魔木もね」
「木工とか、あるか知りませんけど造船とか持ってないと、わざわざ聞きませんよね」
「魔力付与が見つかった素材を使う生産者は取ってるけど、木工系はまだまだ持ってない人の方が多いんだよね。それに、造船クエストを受けた人の話を聞く限り、カタログからスペック選ばされたって話だし、素材かお金かえらべたらしいよ」
「……それってクエストって言うよりも、買い物ですね。追加オプションとかあったら面白いですよね」
私が受けた場所は開店休業中だったので、素材しか選べなかったのかも知れません。
ゴンドラを作るのには時間がかかりますし、クラン全員分を作るとしても、二度目以降は完全に作業と化しますし。
追加オプションにしてもいろいろと条件があるのでしょう。
「それで、次はどうしたの?」
「えーと、クエスト通りに、魔力屋ってお店に行って、何か手伝いますかって聞いて、後は流れですね」
元々クエストの内容を見て魔力付与だと思っていましたから、少し踏み込んでみましたけど、基本的な流れを追っただけなので、特別なことは何もしていません。アーツを取得すればわかることですが、一応説明しておきましょうかね。
「クエストとは関係ないですけど、魔力付与は、金属と布と木材の三種類だけらしいですよ。木材とったら統合されちゃいましたし」
「なるほどね。ちなみに、どこで造船クエストを受けたか教えてもらっていい?」
「どこも何も、サウフィフの造船所ですよ。開店休業中でしたけど」
「おかしいな……。大手が受けた造船クエストは冒険者ギルドの近くにある大きな造船所だけど。まぁ、聞けば追加オプションで出てきそうだね」
そういえばそんなのがあったようななかったような。まぁ、記憶にない時点で、視界に入っていないのでしょう。私が受けた場所は、小さい所ですし、ハヅチや時雨達の状況もわからないので、不用意に教えるのもまずいですよね。
「今までの魔力付与って料理の大成功品を持っているのが条件でしたよね」
「それが大半だけど、他の条件で覚えた人もいるよ」
「……つまり、食堂付近をうろついていればクエストが見つかる可能性があるということですね」
食堂以外にも、お婆さんということで、どこかで困っているかもしれませんね。
その後もそれぞれの考えを話したりして、時間を過ごしました。そして最後に。
「それで、この新茶、どこで手に入れたの?」
「これですか? ナツエドの冒険者ギルドで売ってましたよ」
「……いやいや、あそこのショップは覗いたけど、なかったよ」
おかしいですね。
「クエストの途中でお茶とお菓子を御馳走になって、どこで売ってるのかって聞いたら、冒険者ギルドだって言われたんで、行ったら売ってたんですよ」
「そ、そう。じゃあ、行ってみるよ。……それで、対価をどうしよっか。いい素材があれば、値引いて作るけど」
ベースの素材は知りませんが、追加で使った素材が素材なので、今でも困ってはいないと思います。それでも、今後どこかで新調する必要があることを考えれば、約束を取り付けておくのはアリですね。
「ちなみに、これって下級悪魔の爪以外に何使ってるんですか?」
「基本の普通の丸太と追加素材にその爪だよ。基本的な杖の場合、全体を作る木材と魔法攻撃力を上げるために核になる追加素材が必要なの。あの時はトレントが見つかる前だったから、一番いいのが丸太だったんだよね」
なるほど、そういうことですか。今なら魔木があるので、基本的な部分はもっといいものが使えるとうことですね。ただ、一つ問題があります。
「あの爪、ダンジョンの裏ボスからのドロップなんですよね。もう一度行けば取れると思いますけど、1人じゃ無理ですし、どうせならもっといいのを作りたいですよね」
ボス周回が嫌なわけではありませんが、そのために時雨達の手を煩わせたくはありません。いっそ、何か他のを探せば……。
「そういえば、水竜の鱗とか、緑の逆鱗とかあるんですけど、使えますかね?」
「それってサウフィフの開放レイドの初回ドロップだよね。水竜の方はいい素材になると思うけど、水属性の杖になると思うよ」
属性武器ですか。あれは属性の偏ったダンジョンに行く場合はいいのですが、普段使いをする武器にはあまり向かないんですよね。持っているスキルが偏っていれば話は別ですが、私は全属性を取るタイプですし。
「んー、保留でもいいですか?」
「別にいつでもいいよ。ただ、今の武器で不自由が出るようだったら、変えた方がいいよ」
そんなわけで魔力付与の情報の対価は武器を作る時の値引きに決まりました。魔木なり、いい核なり、覚えておくことにしましょう。
話も終わったので、今日はログアウトです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます