4-6
土曜日の夜、いつもの様に寝る準備をしてからログインしました。
午後の段階ではイベントダンジョンの6階までクリアしたのですが、時雨達は都合が合わず、日曜に挑戦するということなので、紛れ込むとしても明日ですね。
そして今、私はイベントの街である【ナツエド】ではなく、東にある【エスカンデ】から南東の辺りをさまよっています。この辺りはしっかりと南下しないと狼系のMOBが出現してしまいますが、ちゃんと南に移動してから東に移動すると、別のMOBが出現します。ええ、サモナーズーの園長から貰ったリストに載っているトレントです。イベントバージョンのエドレントとはよく戦っていますが、城も開放し、ダンジョンにも挑んだので少し飽きました。そのため、気分転換も兼ねて杖の材料兼ゴンドラの材料になる木材を探しに来ました。
トレントのドロップは大抵が丸太で、少し低いくらいの確率で魔木を落とすそうです。葉もよく落ちるようですが、焚き火をする以外の使い道は見つかっていないそうです。まぁ、農業スキルとかも存在しているので、腐葉土とかは作れそうですけど。
通常マップのトレントもイベント同様に周囲がある程度拓けているのでわかりやすいので安心して探せます。
最初のトレントを発見したので、まずは特殊ドロップに挑戦してみましょう。とりあえず閃きを使用し、魔法陣を4つ描きます。もちろん、トレントの射程距離は魔法よりも短いので、安全に狙えます。
「【フレアブラスト】」
炎が4つ炸裂し、そのままトレントがポリゴンとなり消滅しました。流石に属性はないとはいえ、弱点として火属性が設定されているので、一撃ですね。実際は4発ですが。
ドロップを確認すると、しっかりと落ちていました。そう、【炭】です。火属性の攻撃だけで倒し、攻撃回数が少ないほど落ちやすいそうです。今のが1発換算なのか、4発換算なのかはわかりませんが、落ちたのは幸先がいいですね。まぁ、本来の目的は魔木なので、次からは火属性はなしです。
次のトレントを発見したので、早速倒しましょう。
まずはいつもの様に閃きを使用し。
「【アイスブラスト】」
氷が4つ炸裂し、元気にシャドーボクシングをしていたトレントの腕らしき枝が垂れ下がっています。そのままディレイが終わるのを待っていたのですが、段々と元気を取り戻している気がします。いやまさか、そんなことないですよね。
ディレイが終わり、次の魔法の準備です。
「【エアーブラスト】」
風が4つ炸裂したようで、トレントがポリゴンとなり消滅しました。ドロップは丸太だったので、喜べませんね。それに、まだ1例ですが、まるで回復したかのように見えました。これは要観察です。
……………………
………………
…………
……
その後も何度か戦ってみると、やはり回復しているように見えます。ただ、HPバーが見えないのであくまでもそう見えるだけです。一回目から時間を置いて元気になってから二回目を使えばわかるかもしれませんが、流石に面倒なことはしたくありません。それよりも、ついでに教えてくれた景観ポータルを探しましょう。何でも、このトレントの出現するマップの中央らしき場所にある高台にあるそうです。
そこには塔型のダンジョンもあるそうですが、トレントは出現しないようなので詳しい情報は貰えていません。つまり、私の装備に使える素材を落とすMOBがいないか、情報料としては高いかのどちらかです。
戦いながら進むと高台が見えてきました。そこには事前情報通り、塔とポータルがあります。
早速ポータルを開放すると、そこは【風読みの塔】というようです。これでトレント狩りに行きやすくなりますね。
それでは一度休憩をしましょう。ここもセイフティゾーンなのでMOBに襲われる心配はありませんから。
MPと満腹度を全回復した後、もう一度トレントのいる森へと足を踏み入れました。それにしても一方的に安全な場所から攻撃できるのはとても楽ですね。一つ問題があるとすれば、楽過ぎて飽きることです。
「【アイスブラスト】」
まずは先に氷魔法です。この4発でかなりのダメージを受けているようですが、回復しているとしたら、地面に根を張っていて、地面から養分を吸い上げているという設定でしょうか。
ガサ
おや?
今、背後で何か音がしたような……。
音が気になり後を振り向いてみると、そこには思いがけない物がありました。それは、緑色の蔦です。しかも、地面から私の目の高さくらいまで伸びています。
……。
「あ、どうも」
私が振り返ると思っていなかったのか、お互いに動きを止めてしまいましたが、頭を下げると向こうも同じ様に頭を下げる様な動きをしてきました。さて、どうしましょう。
シュル
「ぎゃー」
蔦の方が行動を決めるのが早かったようで、一気に巻き付いてきました。そのまま逆さ吊りにされたのですが、どうやらこの蔦は今戦っていたトレントの物のようです。
それにしても、しっかりと装備を体に固定するように巻き付いているので、服が捲れるようなことはありません。流石は全年齢向けのゲームですね。一応は巻き付かれた時の姿勢の問題で腕の自由は利きますが、刃物ではありませんし、刃物だっだとしても振り子の様に振られていては何も出来ませんね。
あ、この状態だと継続ダメージを受けるようです。まぁ、微々たるものですが、ずっと捕まっているとHPが0になりかねません。
一応、トレントの方を向いているので魔法は使えそうですね。それではさっさと倒してしまいましょう。
「【フーレアブーラストー】」
逆さ吊りで振り子のように振られているため、狙いがずれてしまい、4発の魔法が全て散っています。ただ、目立つ故に無意識下で意識していたのか、葉が生い茂っている頭と手の先に一発ずつ命中し、残りの一発は外してしまいました。元々はアイスブラストでダメージを与えていたはずですが、フレアブラストを受けても生き残っているので、やはり回復していたようです。
ふと思ったのですが、幹の一部にアイスブラストで散らばった氷が残っており、生い茂っている葉が燃えているトレントはかなりひどい状態ですね。まぁ、それに逆さ吊りにされている私が言えることではありませんが。
あー、氷が少しずつ溶けて水になり始めていますね。ここには現実の法則を適応しているんですねぇ。ゲームによってそのあたりはまちまちなのですが、特に多い基準は、快適にプレイ出来るかどうかです。特に気にしていなかったので忘れていましたが、あからさまに溶ける速度が早い気がするので、何か意味がありそうですね。
とりあえず、考えるのは後にして狙いがずれない魔法を使いましょう。
「【ライトニングランス】」
ええ、速度が速ければ狙いがずれない気がします。実際は違うと思いますが、こういった思い込みが上手くいくこともあるので、少しくらい期待します。
ただ、その結果は思いがけないものでした。
ボン
「ぐぇ」
ええ、爆発しましたよ。まったくもって意味がわかりません。とりあえず、ライトニングランスが命中し、謎の爆発が起こり、回復しきっていなかったHPを削りきり、私を縛る蔦がなくなったせいで地面に放り出されました。落下ダメージ自体は大したことありませんが、今の爆発は何ですか?
ピコン!
――――System Message・アーツを習得しました―――――――――
【ボム】を習得しました。
炎魔法から選択することが出来ます。
―――――――――――――――――――――――――――――
ああ、どうやらこれが理由のようです。いえでも、今回の条件で現実の法則を再現していても、爆発しないと思うんですがね。無理やり推測すると、要素が揃えば条件を満たしたことになるとか、そんな感じですかね。とりあえず、便利な魔法を覚えたと思えばいいんです。
おや、メッセージはありませんでしたが、もう一つあるようです。メニューのスキルの項目が光っており、スキル取得の条件を満たしたようです。詳しく見てみると、【気配察知】が取得可能になっていました。このスキル、ヤタと信楽は持っていても、取得可能一覧になかったのでMOB専用だと思っていたのですが、どうやら条件を満たしていないだけのようです。
えーと、不意打ち時に受けるダメージを減少してくれるということで、ヤタと信楽の持っている気配察知と同じですね。持っていて損はないと思うので、取ってしまいましょう。基本スキルなのでSPの消費も1ですみますし。
取得すると更に詳しく見ることが出来るわけですが、ヤタや信楽のスキルを見た時にはなかった効果がありますね。なんと、自身に向けられたヘイトの量が大まかにわかるという効果と、意識を向けていない方向からの敵襲を教えてくれる効果です。まぁ、自身にという制限があるので微妙な効果ですね。上位スキルでその制限がなくなればパーティープレイをしている人達には便利そうですね。
さて、ボムの試し打ちをしましょうか。火属性なのでトレント狩りには使えませんが、一度使わないと陣がわかりませんし。
「【ボム】」
通常の手段で発動したので単発ですが、大きな音にびっくりしました。爆風もそこそこあるので、反射的に帽子を抑えてしまいましたよ。
物は試しということで、トレントに対して閃きを使ってから4発撃ち込んでみると、それだけで倒すことが出来ました。つまり、最低でもフレアブラストと同じくらいの威力があるということですね。そんなわけで2個目の炭を手に入れましたが、トレント狩りはここまでにして、放置していたあのダンジョンへ向かいましょう。
ポータルの名前にもなっている風読みの塔です。事前情報はまったくありませんが、どんなダンジョンなのかだけは見ておきましょう。
風読みの塔に入ってみました。外は見えないけれども光が差し込んでいる窓があるので内部は明るくなっています。窓からの光が届かない部屋も薄暗い程度ですんでいるのは、そういった仕様だと思っておきましょう。
このダンジョンで始めて見付けたMOBは【ウィンドエレメント】という名前で属性は風属性の極小です。野球のボールくらいの大きさの緑色の風の塊といった見ずらい外見で、物理耐性を持っていそうです。
まぁ、ノンアクティブなのでゆっくり観察できています。今わかる範囲では漂うように動いているのですが移動速度は速いです。どう考えてもドロップは緑色の欠片なので、シカジカよりも弱そうなのに知られていなかった理由は立地ですかね。
「【フレイムランス】」
弱そうなので閃いただけで単発です。ブラスト系だと避けられてしまいそうなので、ランス系にしましたが、かなり弱っていますが生き残っています。どうやら2発が正解のようです。
ちなみに、アクティブになってから移動速度が上がった気もするので、全速力で逃げています。漂う幅が少し狭まりまいしたが、動きに無駄が多いので、全速力は必要なく、ゆっくり下がる程度にしています。
ディレイが終わり、下がりながら魔法陣を描いていますが、魔法陣が完成するまでの時間が少し長く感じます。まぁ、気の所為だとは思いますが。
「【マジックランス】」
狙いを定める時には止まる必要があったので、放つ瞬間には目の前にいると言っても過言ではありませんが、ギリギリで倒すことが出来ました。
ドロップは当然のように予想通り緑色の欠片です。それだけなので、MOBの出現数次第では、欠片を集めて結晶を作るために通うかもしれませんね。
とりあえず、まだ少し時間があるので右手を壁に添えながら中を歩いてみましょう。このダンジョンは石で出来ているようですが、何かギミックでもあるのでしょうか。
スイッチを踏んだら槍が出てくるとか、落とし穴が開くとか、天井が迫ってくるとか。
そんな罠が出てくることはなく、途中で遭遇するウィンドエレメントは閃いてからのフレイムランス2発で終わるので、二つの魔法陣を同時に描けば逃げる必要もありません。そうやって油断しながら進んでいると、ウィンドエレメントより大きい、バスケットボールくらいの大きさの個体がいました。個体差にしては大きいので識別してみると、【エアーエレメント】というMOBでした。風属性の小なので、ウィンドエレメントの上位個体のようです。漂い方からして移動速度も上がっていますね。流石に2発では無理そうなので、閃いてからフレイムランスを上限いっぱいの4発を同時に叩き込みました。無事に倒せたのですが、クールタイムが4倍になるので連戦にでもなったら困りますね。リザルトウィンドウを確認すると、ドロップは【緑色の結晶】だけだったので、ウィンドエレメントを乱獲するよりも楽に結晶が手に入りそうです。
ダンジョン内を歩いていて思ったのですが、何とも普通の建物ですね。結局罠もミミックもモンスターハウスもなかったので、何とも拍子抜けです。このダンジョンが何階建てなのかは知りませんが、ボス部屋を見付けてしまいました。何せ、大きな扉を開けようとすると、ボス部屋だという警告が出ましたから。特にマップを埋めようとかは思っていないので、入ってみましょう。
私がボス部屋に入ると、そこにいたのは6体のエアーエレメントを取り巻きにしたトルネードエレメントというMOBです。エアーエレメントはバスケットボールくらいなのですが、トルネードエレメントは大玉ころがしの玉くらいの大きさですね。流石に大きすぎだと思うのですが、エアーエレメントも含めてアクティブになっているのが厄介ですね。まぁ、風属性の中という中々な属性値なので、火属性の魔法はよく効くはずです。
そのため、やるべきことは決まっているので【閃き】を使ってから魔法陣を4つ描きます。ボス達は中々の速さで私の方へ向かってくるので、それを見越した上で描く位置を考えてあります。
「【ファイアストーム】」
炎の竜巻が4つ渦巻いています。過剰だろうが何だろうが倒せればいいんですよ。トルネードエレメントを倒しきれるかわかりませんが、倒せればラッキーくらいに思っておけばいいんです。
炎の竜巻がまだ残っていますが、トルネードエレメントが竜巻から出てきました。そもそもに風の塊なので弱っているのかはわかりませんが、弱っていると信じて行動しましょう。まぁ、ディレイが4倍なので次の魔法陣を描くまでにかなりの時間を必要とするので、この警戒しながらボス部屋を逃げ回るしかできません。
トルネードエレメントが緑色の魔力を発しているのが見えました。
これは風属性の魔法を使おうとしているようですね。何の魔法かはわかりませんが、ディレイも終わっていないので要注意です。というか、ファイアストームのディレイは長いですね。4発分のディレイということはわかりますが、まとめて発生すると余計に長く感じます。
ようやくディレイが終わると、トルネードエレメントの魔法も発動直前のようなので魔法陣を描き始めることはせず、様子を見ることにしました。トルネードエレメントが発している魔力が槍の形になったので、エアーランスだと判断し、とにかく走って狙われないようにすることにしました。多少のホーミングはしますが、基本的にはまっすぐ進みます。なら、横に動けば当たりません。
「うわ」
走っていたお陰で直撃はしませんでしたが、床に命中した後の余波で後から押された形になりました。体勢はかなり崩れましたが、転ぶまではいっていません。体勢を立て直してからこちらのターンです。【閃き】はまだクールタイムが終わっていないので、普通に魔法陣を4つ描きます。動きは速いのですが、漂うように動くため移動距離は短いので、避けられはしないでしょう。
「【フレイムランス】」
炎の槍を4本放ちました。
MOBにもディレイやクールタイムが適用されるはずなので、何か魔法を使ってくることなく炎の槍に貫かれました。
――――Congratulation ――――
無事に倒せたようです。
リザルトウィンドウを見ながら気がついたのですが、ボスにしてはおかしいですね。今までの経験上、ボスにはHPバーがあるはずです。けれど、今のトルネードエレメントにはHPバーがありませんでした。その理由は推測ではありますが、あの階段があるのと関係があるのでしょう。
つまり、ボスはボスでも中ボスとか、階段を守るために配置されている一般MOBだということです。
これならHPバーがなくても不思議ではありません。ちなみに、ドロップは緑色の結晶が6個に緑色の水晶が1個でした。
それでは2階に足を踏み入れましょう。
ダンジョン内を移動できるポータルでもあれば楽なのですが、そういった物はなく、1階と似たような作りの階のようです。ただ、出現するMOBが違いました。ええ、トルネードエレメントですよ。どうやら次の階の一般MOBがボスとして出てくる仕様のようですね。つまり、ボス部屋で苦戦するようなら次の階はまだ早いということです。
私は物陰に隠れているのでまだ見つかっていないので、ゆっくり考えることが出来ます。まず、トルネードエレメントは単純計算でランス系8発ということにしておきます。次に、あれがアクティブかどうかです。ボス部屋はボスだからアクティブになっていた可能性もありますし、元々アクティブの可能性もあります。とりあえず、アクティブだとしましょう。
そうなると……。倒せなくはないけれど面倒という評価でしょうか。トルネードエレメントのエアーランスがどのくらいの威力かにもよりますし。
それではいい時間なのでリターンで街に戻ってログアウトして寝ましょう。
おやすみなさい。
日曜日の午後、昨日は気晴らしをしたので今日はイベントに戻ります。正確には、時雨達とダンジョンに行きます。私が少し先に進んでいるので時雨達が6階までクリアしたら一度出てきて私を回収して再チャレンジの予定です。そういう訳で私は日課をこなしてから櫓広場で待つことにしました。ヤタと信楽を愛でながら待ちたいのですが、流石にMPを使うわけにはいかないので我慢です。
「お待たせ」
思いの外早く時雨達が出てきました。まぁ、私も手こずったのはエドッグだけなので、パーティーならすぐに終わるのでしょう。
時雨達のパーティーに加わり、イベントダンジョンへ再突入です。
「ところで、どう戦う? エドッグ以外は3発を2回で終わるんだけど」
「んー、苦戦しようがないから任せるよ」
「そんじゃ、久しぶりに詠唱系スキル上げようかな」
「我も低き階層では熟練すべき技能を使おう」
グリモアもレベルを上げたいスキルがあるようですね。グリモアは指揮棒の様な片手杖と本を手にしているので、魔術書系のスキルを上げるのでしょう。
私は両手杖なので本を装備出来ないので、魔術書のスキルが持ち腐れになっているんですよね。まぁ、そのうち上げればいいので、気にしてはいませんが。
「リーゼロッテ、答えたくなければ答えなくてもいいが、今はどのくらいの火力が出るんだ?」
パーティーでの戦い方を考えるためなのか涼し気な軽装をしているアイリスが声を潜めて聞いてきました。今はパーティー会話なので外には聞こえないのでそこまでする必要は無いとおもいますが、聞きにくいのでしょうか。
「えーと、同じ魔法陣なら4個まで同時に使えます。違うのなら3個ですね。攻撃魔法は全部LV20になりましたよ」
「ありがとう。すると、範囲魔法は使えるわけか。……それにしても、同じ魔法を4発同時に撃てるって、凄いな」
「いやー、魔法陣がなかったらソロなんて出来ませんよ」
魔法陣なしで純粋な後衛がソロをするにはウォール系の魔法を上手く使って、MOBのAIを理解していないと無理ですよね。
アイリスの確認も終わったのでダンジョンに入ることにしました。パーティーリーダーのアイリスが操作すれば全員が同時にダンジョンに入れます。
「汝は我と共に。我らが魔法で焼き尽くしてみせよう」
全身鎧のモニカが中央付近で出てくるエドッグを引きつけるので射線を考えてグリモアと一緒に動きました。後、炎魔法を使うようなので、私もそうしましょう。
時雨とアイリスはモニカ付近に待機し、弓を持ったくノ一風のリッカは私達と少し距離を空けています。魔法同士なら属性に気を付ければ邪魔にはなりませんが、弓は途中で燃えたりしてしまうので、離れる必要があります。パーティー内なら声が届かないことはないので連携に問題はありません。
「モニカ、頃合いは任せる」
「そんじゃ、行くよ。【イグザグレイテッド】」
壁役をするモニカがMOBの出現タイミングを決めるようです。実際、最初にスキルを使うのはモニカなので当たり前ですね。
そして、中央の文字が【開始】へと変化し、エドッグが出現しました。
モニカが使ったスキルが何なのかはわかりませんが、攻撃時に敵愾心を増加させるというエンチャントのアイコンが見えるので、ヘイトを稼ぎやすくするスキルなのでしょう。自己バフだとは思いますが、壁役には重要なスキルですね。
「【フレイムランス】」
あれ、今グリモアの手にした本が光ったような……。
「【フレイムランス】」
「なぬ!【フレイムランス】」
私は普通に詠唱したので遅れるのはわかりますが、2連発されましたよ。
ちょっと整理してみましょう。まず、グリモアの見開いた本が光り、一発目のフレイムランスが放たれました。そして、少し時間を置いてからグリモアがまた放ち、最後に私が放ちました。あの本……魔術書に秘密があると思いますが、何でしょう。
「次来るよー」
おっと、アイリスや時雨がとどめを刺すようです。なら、考えている場合ではありませんね。クールタイムはまだ終わらないので、別の魔法にしましょう。
「影響のないように無魔法にするね」
「うむ、我は冥府の槍を放とう」
ふむふむ、ダークランスですね。
「来たよ」
新しく出現した2体目のエドッグにモニカがヘイトを稼ぐために攻撃し始めたのを確認すると、私とグリモアは魔法の準備をします。
それではマジックランスの詠唱をしながら魔力視でグリモアの様子を舐めるように見てみましょう。ええ、あの本が気になるだけで、他意はありませんよ。
「【ダークランス】」
まず、グリモアの手にした本が闇属性の光を放つとダークランスが放たれました。
「【ダークランス】」
そして、今度はグリモア自身が放つダークランスです。
「【マジックランス】」
これは私の魔法なので考える必要はありませんが、やはりあれは魔術書のスキルによるものでしょう。スキルレベルを上げればじきになにかわかると思いますが、何かわかっただけで十分です。
その後3体目も無事に倒し、この階層をクリアしました。
どうやら今度は3連戦のようですね。
次はエドーレムとの3連戦、さらにその次はエドレントの3連戦です。
ちなみに、エドレント戦では相手が動けないので前衛の3人はヒットアンドアウェイをしています。
「【フレアブラスト】」
スキルレベルの問題なのか、魔術書からは発動していません。つまり、何らかの制約に引っかかっているのでしょう。純粋にスキルレベルなのか、数なのか。まぁ、それは今度です。
それよりも、前に逆さ吊りにされた恨みもあるのであの髪のように見える葉を吹き飛ばしてハゲ散らかしてやりましょう。
「【ボム】」
ですが、少し葉が飛び散っただけでハゲ散らかすことは出来ず、ただみんなが爆発に驚いただけでした。しかたありません、誤魔化しましょう。
「たーまやー」
汚い花火です。まぁ、ただの爆発ですからね。
驚いて動きが止まってしまっても、MOBを倒したわけではないので、すぐに気を取り直してエドレント3連戦を突破し、9階までクリアしました。次は10階なので、パターンが変化するのか、きりが良いので特殊な変化があるのか、少し楽しみです。
「あー……、とりあえず、次行くか」
アイリスが何か言いたげな視線を向けてきましたが、とりあえず次へ行くことにしたようです。うーん、何か妙なことをしましたかね。
次の階である10階へと移動しました。一部屋しかありませんが、どうにも今までより広い気がします。やはり、キリのいい階なので、何かあるのでしょう。
「出現パターンは不明だが、出てくるのは三種類のどれかだ。今まで通りにやれば問題ない。いくぞ」
やはり、このパーティーのリーダーはアイリスですね。時雨とモニカと動きを確認しています。この階では待ち時間が60秒になったので、それをフルに使うようです。
「来るぞ」
今回は開始ボタンを押さずにカウントが0になるのを待ちました。そして、出現したのは――。
「全部か。モニカはエドーレムを。私と時雨でエドッグを引きつける。3人はエドレントを頼む」
まさかの状況ですね。まぁ、ありえない組み合わせではないので、頼まれたことをしましょう。ええ、出し惜しみはなしです。
【閃き】を使用し、魔法陣を4つ描きます。グリモアも1つ描いていますが、さらに手にした本が火属性の魔力を帯びています。あ、エドレントは儚い命でしたね。
リッカがアーツを使って矢を放ち、グリモアがフレイムランスとフレアブラストを1発ずつ、私がフレアブラストを4発放ちました。弓のアーツの効き具合はよくわかりませんが、どう見てもオーバーキルです。さて、4倍のディレイを発生させてしまったのは問題ですが、私とグリモアはエドーレム戦へ、リッカはエドッグ戦へ加わります。
それにしても、相変わらずモニカは上手いですね。どう見ても物理攻撃が効きそうにないゴーレム相手にヘイトを稼いでいます。しかも、範囲技の【ハウル】を使わずにです。もしかして、アーツのクールタイムをしっかりと管理してるんですかね。私にはそんな細かいことは無理なので、よくわかりませんが。
先にディレイが終わったのはグリモアなのでそのまま攻撃に移り、私も遅れて攻撃に参加し、エドーレムを倒しました。その頃にはエドッグも倒されており、10階を無事にクリアしました。
今までとは違い、次の階層へ行くための制限時間が600秒となっているのは何故でしょう。いえ、クリア報酬の整理をするための時間ですね。
階層と同じ数の小判……、いえ、10枚なので実質的に中判1枚ですね。それと、イベント素材を各10個です。10階毎に素材が貰えるのは、おまけとしては十分ですね。
「さて、確認は終わったか?」
アイリスの問いに対し、みんなが終わったと告げると、時雨が笑みを浮かべながら私に近付いてきました。……これは、嫌な予感がします。
「さ、次行こ!」
「うん、でもその前に、ボムについて、教えてくれる気はある?」
あ、なんだ、そのことですか。
「ちょっと息抜きにトレントと戦いに行ったんだけど、逆さ吊りにされてさ、……あ、気配察知取れたよ」
「……ごめん、それも含めて後で詳しく聞くから、とりあえず進も」
おや、せっかく報告しようと思ったのに後回しにされてしまいました。まぁ、後がいいなら後にしますが。
「それじゃあ、行くか」
アイリスがメニューを操作し次の11階へと移動しました。この階についても事前情報を持っていないので、何が出てくるのでしょうか。
おや、エドッグが2体同時に出現しました。
「……リーゼ、ロッテ、……私と、モニカの、方」
どうやらこういった場合の担当が決まっているようです。まぁ何にしろ、苦戦することはなく、追加もなかったので、ここは2体同時出現するようです。そのまま12階でエドーレム2体、13階でエドレント2体と戦い、無事に倒しました。
「一度休憩しよう」
アイリスの意見に賛成し、一度イベントダンジョンから出ることになりました。
櫓広場はかなり広く、パーティー募集をしている場所や、消耗品などの露店以外にも、多くのプレイヤーが休憩に使っている場所がありました。そんな一角を陣取り、満腹度の回復を兼ねて休憩を取ります。
従魔は1体だけならパーティーの人数にカウントされませんが、誰が召喚するのかという話になってしまうので、誰も召喚しません。
「いやー、ソロだと無理だけど、パーティーだと楽だね」
「フルダイブMMOって基本的にソロに厳しいからね」
もちろん、パーティー会話なので、他のプレイヤーに声は届きません。そのため、この一角は異様な静けさに包まれています。
「それで、気配察知とボムについて聞いていい?」
休憩がてら他愛ない話をしていたのですが、意を決したように時雨が話題を振ってきました。
「んーと、さっきも言ったけど、トレント狩りしてて、アイスブラストで攻撃した後に何か後ろで音がしたから振り向いたら、こう、にょろっと蔦が地面から目の高さくらいにまできてて、気付いたら逆さ吊りにされてさ。……時雨なら絵になりそう」
スカートが捲れないように蔦が絡みついてきましたが、絡みつきようによってはかなり強調されますから、時雨が取得しに行く時には一緒に行きたいですねぇ。
「トレントの蔦の攻撃って結構珍しいんだけど、強運なのかどうか……」
なんと。あれは珍しい攻撃方法ですか。まぁ、あれだけ射程が違いますからね。
「そんで、逆さ吊りでブラブラしてたから、魔法の狙いがずれて、トレントの頭と手が燃えたんだよ。蔦の攻撃、継続ダメージがあったから、外さないように雷魔法で攻撃したら、ボンって爆発してさ、驚いたよ。それで、倒したら、ボムと気配察知が取れたの」
まったくもって偶然の産物ですね。条件もよくわかっていませんし。
「気配察知に関しては、噂があったよな」
「うん、ただ、取った人も条件がよくわからないって言ってるらしいよ」
アイリスと時雨が何かを操作しているので、攻略サイトか掲示板でも見ているのでしょう。私はグリモアの聞きたいけど、借りが多いから教えてと言えないと思える状態をどうするべきか考えましょう。教えようにも条件がよくわからなくて教えられませんし。
「ねぇねぇ、気配察知って不意打ちのダメージ軽減以外に効果あるの?」
「……私も、知りたい」
おっと、どうするか考えているとモニカとリッカが声をかけてきました。盾職と斥候担当なので、気になるのでしょう。
「えーと、自身に向けられたヘイトの量が大まかにわかるのと、意識してない方向からの襲撃に気付けるってなってるよ」
「……なるほど」
「へー、それは便利かもね」
「わ、我は……、ボムという技法について……、その……」
「これ炎魔法なんだけど、よくわかんないんだよね。無理やりな推測だと、爆発する要素を満たせばいいんだと思うんだけど」
「なるほど。汝は水を生み出す儀式を執り行ったわけか。……はっ。汝、我に求める対価は何か?」
あー、どうしましょう。……そうだ。
「魔術書のスペルスクロールってあるじゃん。レベルの高い魔法のスペルスクロールが欲しいな」
ええ、自分で書くのは面倒です。スキルレベルが上がっていれば、自動で書いてくれるスキルがあるはずですから。
「そんなもので?」
「いやいや、自分で書くって地味に面倒なんだよ」
「それは理解しているが……。わかった、我の意見よりも、汝の望みを優先すべき。汝が次なる技能を身につけるまで、我がスペルスクロールを用意しよう」
「あんがとね」
これで楽に魔術書のレベル上げが出来ます。そんなわけでフレイムランスとエアーランスのスペルスクロールを100枚手に入れました。足りなければまた言ってくれとのことです。まぁ、上げるのも随分と先になるでしょう。
「うん、これ以上の情報はないよ」
「ああ、リーゼロッテ、この情報、クランで共有していいか?」
「あーうん、やっといてくれるとありがたいかな。私がやるってなると、忘れそうだし。状況が聞きたかったら、言ってね」
この後、イベントダンジョンの攻略を再開しましたが、14~16階はそれぞれ2体出現が2連戦になっただけで、その次の17~19階は3連戦になりました。
そして、20階は。
「ちょ、多いよー。【ハウル】」
「時雨、エドッグを1体ずつ持っていくぞ。みんなはエドレントを頼む」
ええ、3種類のMOBが2体ずつ出てきました。エドレントは動かないので、モニカがヘイトを集めるスキルを使い、全てを持って移動してから、時雨とアイリスがエドッグを1体ずつ確保しました。私達は場所を確保するために手早くエドレントを処理します。
「【ファイアストーム】」
かなり過剰だと思いますし、その後のディレイも長くなりますが、2体まとめて攻撃するのならこれが一番です。地味にエドーレムも巻き込んでいますが、その辺りはモニカの腕に任せましょう。
そして――。
「倒したー」
「流石に6体はきついよ」
「何とかなったな」
「……疲れた」
「我は、一時の休息を求む」
「いやー、6体はだめだよね」
20階の内容は酷いですね。こちらと同数を用意してくるなんて。ただ、10階同様、小判20枚と素材を各20個獲得しました。これはこれでありがたいのですね。
「今はここまでにしよう」
疲れましたしいい時間なので、このままログアウトすることになりました。
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