第123話 新技炸裂!
「クロヴィスに魔法破壊魔法を
直哉はクロヴィスの動きが速くなるということが、紗希の敏捷強化魔法に似ていることに気が付いた。そこから、直哉はクロヴィスの動きが速くなったのは魔法が絡んでいるのではないかと推測したのだ。
「どうかしたのかい?薪苗直哉!」
「ッ……!」
直哉はクロヴィスの加速した斬撃によって、地面へと叩きつけられた。直感的にイシュトイアで斬撃を受け止められたから深手を負うことは避けられたが、魔法破壊魔法を
だが、これで良かった。なぜなら、十分な収穫があったからだ。それは、クロヴィスが使っているのは紗希の使う敏捷強化魔法ではないということ。
敏捷強化魔法が引き上げるのは移動速度だけなのに対し、クロヴィスの場合は斬撃の速度も上がっていた。つまり、動作のすべてが加速しているのだ。
動きそのものは視覚で捉えられているところを踏まえると、キング〇リムゾンのように時を消し飛ばしているわけではない、と直哉は見た。だが、対策としては使えるモノもある。
「行くよ!薪苗直哉!」
クロヴィスが接近するために地面を踏み込んだタイミングで直哉は剣を地面と平行にして、一回転して周囲を斬った。詰まるところの回転斬りである。
直哉が回転斬りの後でクロヴィスの気配のする方を見ると、クロヴィスの腹部に一文字の傷があった。
「やってくれたね……!」
直哉は動きそのものが加速しているのなら、急ブレーキは効かないだろうと近づいて来るタイミングで斬撃を放ったのだ。
クロヴィスの腹部の傷は1秒と経たずに塞がっていた。悪魔の再生能力恐るべし、である。
「でも、その技はもう通じないよ!」
再び、クロヴィスが直哉目がけて突進しようとするも、足を何かに取られたような感覚があった。
(――氷ッ!?)
クロヴィスが足元を見てみれば、自らの足と地面に氷魔法が
「これは……光属性の魔法陣!?」
クロヴィスが足元から直哉へと視線を戻すと、自らの周囲360度すべてに自分を閉じ込めるように88に及ぶ光の魔法陣が
「“聖魔陣八十八式”発動!」
直哉が右手を前に突き出すと同時に、クロヴィスを取り囲むように展開された88の魔法陣から光の弾丸が放たれた。
薪苗直哉の心は鬼である。このクロヴィスへの攻撃には慈悲の文字など見当たらない。その代わりに、ここで確実に仕留めるという気概だけが深く刻まれていた。
88発にも及ぶ光の弾丸がクロヴィスへ着弾すると同時に、大量の爆竹が次々に爆発するような爆発音を響かせていた。
「ふぅ……これで倒れてくれれば泣いて感謝するくらいに嬉しいんだが、そう上手くはいかないのが現実ってもんだからな……」
直哉は『これで終わりだ!』とか『勝ったッ!第3部完!』とか言うと、まだ戦いは続くフラグだということは重々承知している。だからこそ、警戒を緩めることは出来なかった。
「……薪苗直哉。よくも、やってくれたね――」
クロヴィスは立っていた。これは直哉も予想通りである。予想通りといっても悪い方の予想通りであったが。
ともあれ、クロヴィスは立っていた。体中から青い血液をダラダラと流しながら。
普通、同時に88発も魔法を受ければ死んでいて当然である。よしんば生きていても四肢の力を失い動けなくなるほどの威力である。恐るべき生命力だと直哉は実感した。しかも、今の攻撃が光属性でなければ、傷が治癒されて勝ち目はゼロに等しかっただろうことも同時に理解してしまった。
「まさか耐え切られるとは思わなかったな。こりゃあ、さすがに俺もお手上げだな」
直哉はイシュトイアを地面に突き立て、両手を挙げて降参のポーズを取った。クロヴィスも観念したかと口端を引きつらせていたが、とても直哉がここまで来て勝負を捨てるとは考えづらいために表情を引き締める。
クロヴィスは
(……僕の勘繰り過ぎか?何もないようだけど……)
直哉の周りを一周してみても、別に罠が仕掛けられているわけでもなく、不審な動きを取ることも無かった。
「それじゃあ、薪苗直哉。君ともここでお別れだね!」
クロヴィスは再び加速した剣捌きで、直哉の体をズタズタに切り裂いた。直哉は体のあちこちから血を噴水のように吐き出しながら、仰向けに倒れた。地面に白目をむき出しにしている直哉にクロヴィスはフッと笑みを落としていった。
――ズブリ
そんな鈍い音が、その場を立ち去ろうとするクロヴィスの右足から響いた。驚き顧みてみれば、直哉の左中指がクロヴィスの傷口に突っ込まれていた。
「地獄を!きさまに!HELL2U!」
直哉が左中指を立てたのは、クロヴィスの血管内だ。直哉はクロヴィスの足の傷が最も大きいのを確認した上で、あえて攻撃を受けたのだ。すべては、クロヴィスを撃破するため。
「この男は僕に直接、致命傷を与えるために僕に切り刻まれたというのか……!こんなのは正気の沙汰じゃない!」
クロヴィスはすぐさま直哉から飛び退いた。だが、バックステップの着地の際に右足がドロリと溶け落ちた。クロヴィスは刹那的に右足を剣で切断し、さらにその場所から後ろへと移動した。
クロヴィスは自分の右足が溶けていくのがなぜなのか、まったく理解できなかった。直哉が何をしたのか、それが理解不能なのである。
だが、答えは明確である。直哉はクロヴィスの傷口の中で、血管内部を流れる血液に光魔法を
ただ、唯一の失敗がクロヴィスが自らの足の膝上を、すぐさま剣で切断したことだ。直哉の計算ではパニック状態に陥っている間にクロヴィスの体内に光属性の血液を巡らせて全身をドロドロに溶かしてやるつもりだったのだ。だが、クロヴィスのとっさの判断でダメージが最小限に抑えられてしまっていた。
現にクロヴィスが切断した右足は再生能力で治りつつあった。直哉の決死の作戦が失敗に終わったことで、次の一手を考えていると大勢の足音が通路から聞こえてきた。通路と言っても、直哉が通って来た抜け道ではなく、ギンワンたちが聖美たちを抱えて逃げていった方である。
「……ここは退いた方が懸命そうだね」
クロヴィスは再生した足で、相変わらずの加速した動きで直哉の通ってきた抜け道へと走っていく。
「おい、待て!」
直哉は追いかけようとするが、そこへ槍を持った一人の戦士が立ち塞がった。その男の鎧には聖堂騎士団の紋章が刻まれていた。
「アンタは……ッ!一体、誰?」
「ズコーッ!」
直哉の言葉の前半から後半への落差にイシュトイアはずっこける様子を声で表現した。それもそのはず、イシュトイアは剣の姿。ずっこけることなどできないからである。
「ナオヤ、アンタ知らんのかい!」
「だって、本当に知らないんだから仕方ないだろ!」
直哉はバックステップで槍の突きをかわすも、槍の穂先は直哉の頬の皮膚を切っていった。
直哉が槍の突きをかわして、体勢を立て直したところへ剣が横薙ぎに一閃。これはとっさにしゃがんだために間一髪のタイミングで回避できた直哉だった。だが、直哉を取り囲んでいる50名近い聖堂騎士団員たちはすべて、目が血走り、口の端から泡を吹きながら獣のような唸り声を上げていた。
「こんな光景、どこかで見たことがあるような――」
直哉はふと、記憶の片隅から4か月ほど前に聖美を助けて暗殺者ギルドから撤退する時に見た光景を引っ張り出した。
「これ、死霊術ってことか……」
死霊術はその名の通り、死者を操る。だが、その肉体には魂も理性も何もない。言ってしまえばただの肉の塊である。そして、特徴としてはバラバラに解体しても、その部分だけが向かってくるのだ。腕を斬り飛ばせば、腕だけが飛んでくるという具合に。
ただ、弱点がないわけではない。悪魔と同様に光属性の魔法を当てればドロドロに溶けていくだけなのだ。つまり、光属性の魔法の使い手がいるか、光属性の攻撃用魔道具があれば苦戦するような相手ではない。
「何にせよ、ここを突破しないとギンワンさんたちとの合流は無理そうだな」
「せやな、こいつら連れていくわけにもいかんし」
直哉の意見に激しく同意といった様子のイシュトイアであった。直哉は改めて、イシュトイアを構えて50名近い元聖堂騎士のアンデッドと対峙した。
だが、魂や理性がないといっても純粋な一撃一撃の威力は上がっているために直哉は苦戦することになった。
「ナオヤ、ウチに光属性の魔法を
直哉は不思議なことに、アンデッドの弱点である光属性での攻撃を仕掛けることなく、ひたすら聖堂騎士たちと斬り結んでいるのである。弱点が分からずの行動なら、イシュトイアも何も言わない。だが、弱点が分かっているのに、直哉は弱点を突かないのはなぜか。少し考えて、イシュトイアは一つの結論に至った。
――ナオヤにはもう、ちっとも魔力が残ってへん!
分かってみれば実にシンプルな結論である。直哉だって、魔力があれば迷わず使っている。第一、めんどくさがりの直哉がわざわざ長引くようなめんどくさい選択肢を選ぶはずがないのだ。
直哉はどのタイミングで魔力を使い切ったのか、それはクロヴィスの血液に光魔法を
「ぐっ!」
直哉はアンデッドとのつばぜり合いに押し負け、よろけた。そこへ次々に剣が振り下ろされ、槍が突き出される。直哉は地面をゴロゴロと転がって攻撃をかわした。
――ナオヤ、大丈夫か!?
「ああ、大丈夫……だ!」
直哉は息切れが激しい。それもそのはず、クロヴィスとの死闘を終えて一息つけるかというタイミングでの50体近いアンデッドとの戦い。そんな中で、体中に傷を負っている。そこへ追い打ちをかけるように魔力も尽き、体力も今にも底を尽きそうになっている状態だ。
今の直哉など、放っておいても勝手に出血多量で死んでいるレベルである。そんなボロボロの体を突き動かすのは「生きて、みんなにまた会いたい」という感情だけであった。
「俺はここで死ぬわけにはいかないんだ!」
直哉は受け身から攻めに転じた。だが、1対50である。とてもではないが、消耗しきっている直哉には厳しかった。
特に槍を持っている聖堂騎士――ジスランには勝てそうもない。直哉は戦う中で、万に一つ全快の状態であっても、この男にだけは竜の力無しには勝てないと痛感していた。
直哉は願った。今だけでも良いから、紗希や茉由のような剣捌きを、寛之のような近接戦闘の力を、洋介の剛力を、ジスランの槍捌きを見極められるだけの夏海の視力を――それか一つでも良いから力を貸してほしいと。
――すべては生きて、みんなの元に帰るために!
「ぐあっ!」
直哉は壁へと叩きつけられた。ジスランに槍で脇腹を打たれ、そのまま薙ぎ払われたのだ。
直哉が壁に叩きつけられると同時に、壁には放射状のヒビが広がり、壁に埋もれてしまいそうなほどにめり込んだ。
「届け……ッ!」
直哉は手を伸ばした。壁に叩きつけられた衝撃で手放したイシュトイアへと。
――ガキィン!
高い金属音が直哉の左腕の前腕部から発せられた。それは一体のアンデッドの剣がイシュトイアはへと伸びる左腕を切断せんと振り下ろしたモノだった。
だが、運の良いことに振り下ろされた左腕の前腕部には鋼製の籠手がはめられていた。これによって、命拾いした。
「よし!」
直哉はイシュトイアの柄をやっとの思いで掴み、もう離すまいと強く握り締めた。
「ハッ!」
直哉は全力でイシュトイアを右へとフルスイングした。その薙ぎ払いで、2,3体のアンデッドの手から剣が弾き飛ばされた。
だが、状況は依然としてアンデッド50体に囲まれているという絶望的なモノ。だが、直哉の前に半透明の障壁が展開され、雷の砲撃が視界を黄色く染め上げるのは、ほぼ同時であった。
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