第28話 修行。そして、戦いへ

「フゥ……」


 俺たち六人は机に突っ伏してため息をついていた。今日の修行のせいで精魂尽きたのだ。外はもうすでに日も落ちて闇に包まれている。


「寛之、ミレーヌさんとの修業はどうだったんだ?」


「ああ、大変だったよ」


 話をまとめてみると、大変さがひしひし伝わってきた。


 まずミレーヌさんに模擬戦をするように言われ、とりあえずやってみると、格闘術云々うんぬんの前に体力も筋力もないことをダメ出しされ、結論としてまず痩せるように言われたんだそうだ。


 その一環として、果物で満杯になった籠を背負わされてローカラトの町を一周させられたんだそうだ。


「直哉、お前はどうだったんだ?相手はシャロンさんだったんだろ?」


「いや、中々スパルタだったぞ」


 俺は装備を着けたままローカラトを一周させられた。その後はみっちり付与の練習をさせられた。しかも、魔力が空になるまでやらされた。そのおかげで今俺は倦怠感に襲われているのだ。


「紗希たちの方はどうだったんだ?」


「僕たちの方は町を装備着けて一周してから、茉由ちゃんと交互にウィルフレッドさんと模擬戦をしてたよ」


「そいつは大変だったな」


 紗希はまだ喋る余裕があるようだったが、茉由ちゃんは机に突っ伏して夢の世界へと旅立っている。


「洋介の方はどうだったんだ?」


「俺の方は鎧を着けたまま大斧を300回持ち上げさせられたよ。もう肩が痛くて仕方がねぇんだ」


 その後で洋介はロベルトさんと力比べをしたりしたんだそうだ。


「夏海姉さんの方はどうだったんだ?」


「話せば長くなるんだけど……」


 ~~~~~~~~~~


 今朝、私が西通りにある運送ギルドに行ってジョシュアさんのことを聞くと、「マスターは2階にいるので呼んで来ますので、こちらの応接室でお待ちください」って言われて応接室で待ってたんだけど1時間待っても全然来ないものだから、もう帰ろうと思って席を立った時に赤髪の大男がようやく応接室に来た。


「待たせてしまってすまなかったね。僕がこの運送ギルドのマスターのジョシュアだ。よろしく」


「こちらこそよろしくお願いします」


 私はジョシュアさんと握手を交わしてから本題に入ったわ。


「ジョシュアさん、本日伺ったのは……」


「ああ、それはすでに知っているよ。僕に槍の稽古をつけてもらいに来たんだよね」


「……あ、はい!そうです!」


「それじゃあ、裏に来てくれ」


 そう言ってジョシュアさんは左足を引きづりながら裏庭へと案内してくれた。そこから先は丁寧に槍の技を教えてくれた。


「よし、そろそろ休憩しようか」


 私とジョシュアさんは石段に腰かけながら、大麦を粥状にしたオートミールを食した。


「君たちは友達を助けるために冒険者を志したんだってね。ウィルから聞いたよ」


「はい。でも、居場所とか何も分かっていなくて……」


「そうか。でも、諦めずにこれからも頑張ってくれ。僕も微力ながら手助けをさせてもらうよ」


 私はジョシュアさんにお礼を言って稽古の再開を申し出た。


「そうだね。そろそろ再開しようか」


「はい!」


 ~~~~~~~~~~


「……とまあ、こんな感じでその後はひたすら槍の稽古だったわよ」


 こんな感じで俺たちはお互いの修行の内容を話した後、他愛もない話に花を咲かせた。そうして、その日の夜はお開きになった。


 そして、俺たちは残り6日の修行に全力で取り組んだ。その成果は目覚ましく、メキメキと力がついていっていることを実感していた。寛之何か以前とは見違えるほどに痩せてきていた。


 そして、7日間の修行を終えた日、すなわち戦いの前日。戦いに出る俺たち8人はウィルフレッドさんの部屋に集められた。


「直哉、紗希、茉由、寛之、洋介、夏海。お前たち6人は今から青銅ブロンズランクへと昇格とする。よって、装備を後でロベルトのところで受け取っていくようにな」


 俺たちはただ静かに頷いた。そして、ウィルフレッドさんが再び話し出すのを待った。


「それと、明日戦う相手も判明した」


 俺たちは固唾を飲んだ。一体どんな相手と戦うことになるのか。それはこの7日間で最も気になっていたことだからだ。


「そのメンバーを伝えた後、お前たちがどのようにして戦うのか、策を練ろ」


「マスターも一緒に考えてくれた方が勝率も上がるんじゃないッスか?」


「そうだよ!マスターも一緒に……」


 しかし、エレナちゃんはウィルフレッドさんを見て、口をつぐんだ。


「明日、実際に戦うのはお前たち自身じゃないか。だから、自分たちで考えるんだ」


 俺たちは全員押し黙ってそれ以上は何も言わなかった。そして、ウィルフレッドさんは相手の八人を順番に紹介していった。


 まずはマスターのバーナードさん。今回の戦う相手の中で一番の強敵だ。冒険者ランクはミレーヌさんやラウラさん、ジョシュアさんと同じスチールだ。そして、爆裂魔法の使い手で武器は鋼のサーベル。


 そして二人目はシルビアさん。冒険者ランクはアイアン。バーナードのギルドでは彼に次ぐ実力の持ち主。武器は鉄のレイピアで風属性の魔法剣の使い手。純粋な剣の技だけならば、バーナードを凌駕するという。


 そして三人目。酸魔法の使い手のデレクさん。格闘術を得意とするアイアンランクの冒険者。武器は鉄のガントレットで怪力の持ち主。酸魔法はあらゆるものを溶かしてしまうものなのだそうだ。


 四人目はローレンスさん。冒険者ランクはアイアン。音魔法の使い手で斧槍を使う。ローレンスの使う音魔法は鼓膜が破れるほどの轟音を出す魔法らしい。


 五人目。硬化魔法の使い手のミゲルさん。冒険者ランクはアイアンで、使用する武器は大槌。物理攻撃で彼にダメージを与えることはスチールランクくらいの冒険者でないと無理なのだそうだ。ちなみに硬化魔法とは自分の体を鋼を上回る硬度に変化させる魔法とのことだ。


 そして、六人目はマリーさん。氷の装備を召喚する魔法の使い手でアイアンランクの冒険者。見た目は小さいが魔力はスチールランクに匹敵する。武器として長杖を使う。


 七人目はスコットさん。風の精霊魔法の使い手で冒険者ランクは青銅ブロンズ。バーナードの信頼が青銅ランクの中でも一際厚い。使用する武器は片手剣ショートソード


 そして、最後。八人目はピーターさん。炎の精霊魔法の使い手でスコットの双子の弟。兄同様冒険者ランクは青銅ブロンズ。使用する武器は大剣ビックブレード


「……とまあ、以上だ。私はこれで失礼しよう。後は自分たちで策を練ってくれ」


 ウィルフレッドさんはそう言い残して部屋を出て行った。……レオを抱いて。


 一方、残された俺たちと言えばどうしていいか分からずただただ困惑するだけだった。


「みんな!机の上に紙が置いてある」


 紗希は机の上を指さして、こっちを見ていた。そして、机の上には八枚の手のひらサイズの紙、その横には丸まった随分と眺めの紙が置いてあった。


 八枚の紙の方はさっきウィルフレッドさんが言っていたことが書かれていた。そして、丸まっている紙には明日のバトルの会場となるセベウェルという町の地図が置いてあった。そして、バーナードたちの拠点を置く場所に丸が打ってあった。


「これを見ながら作戦を立てろってことなのかな?」


「そういうことなんだろうな」


 茉由ちゃんと寛之が地図を広げながら語り合っている。茉由ちゃんの言う通り、その地図を見ながら作戦を考えろということで間違いないだろう。


 俺たちは作戦を考えるために机の周りに集まった。


「直哉、ここに地下水道があるぞ」


「ホントだな。で、地下水道がどうかしたのか?」


 洋介の指摘に俺は少々理解が追い付かなかった。「だから何?」といった感じで、理解に困る。


「ここから何人かを回り道させたらどうだ?この水道はバーナードのいるところに直結している。ここを通ればバーナードを直接叩ける」


「あー、それいいかもな。でも、問題は誰が行くかだな」


 そう、作戦自体はいい。相手を奇襲できる。問題は誰が行くかなのだ。


「俺とエレナが行ったらダメッスか?」


 何とその役割にディーンとエレナが立候補したのだ。


「僕は二人の方が俺たちより冒険者をやってる歴は長いから適任だと思う」


 寛之は賛成した。それに続くように武淵先輩と茉由ちゃんも賛同した。結局誰も反対する者は一人としていなかった。


 そして、俺たちの作戦は実にシンプルなものになった。


 まず、開始と同時にディーンとエレナちゃんは地下水道に向かう。そして、俺たち六人はど真ん中の大通りを通ってバーナードの元を目指す。そして、誰の相手をするかもザっと決めておいた。紗希はシルビアと寛之はデレク、茉由ちゃんはマリーと。他は随時対応することになった。


「ここまでシンプルだと覚えやすいわね」


 武淵先輩はそう言って、苦笑していた。後は、ロベルトさんから装備を受け取って明日を待つばかりだ。


――――――――――


その日の夜。家の窓から外を眺めながら、俺は不安に呑まれていた。明日の戦い、ホントに勝てるのだろうか?そんな不安をこの夜風が攫って行ってはくれないのだろうか。


「兄さん、どうかしたの?」


「ああ、ちょっと明日の事が不安でな」


俺が呆然としている後ろから紗希に話しかけられた。俺は不安が頭が離れず、返事が雑になってしまう。


「兄さんが悩んでいること全部話してみてよ。ちゃんと聞くから」


俺は紗希にそう言われ、明日の不安を正直に話した。


「ボクだって不安だよ。ううん、ボク以外のみんなも不安だと思う」


「そうなのかなぁ?」


「うん、そうだよ」


紗希は不安がる俺を落ち着かせてくれているのか、手を重ねてきた。しかし、紗希の手も震えている。それが伝わって来た。


「兄さんの付加術は万能じゃない。大丈夫、負けることはないと思うよ」


「いや、でも明日は勝たないと……」


俺がそこまで行ったところで紗希に人差し指が俺の唇を抑えた。


「じゃあ、兄さんのピンチにはボクが駆け付けるから。絶対に」


「……分かった。何か紗希と話してるうちに気分がだいぶ楽になった。ありがとな」


「それなら良かったよ」


紗希は夜風に闇と同じ色の髪をなびかせながら、部屋の入口へと歩いて行った。


「それじゃあ、お休みなさい。兄さん」


「ああ、おやすみ。紗希」


扉は静かに閉じていく。こうして俺の不安に蓋がされた。


俺はその後、穏やかに眠りについた。

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