第11話 相次ぐ失踪
「……警告?」
「そうだ。君に一つ警告をしておこうと思ってね」
一つだけ……?それは一体何なんだろうか?
「で、その警告というのは?」
「あの遺跡には
警告の内容はシンプル。例の遺跡に近づかないこと。それだけだが……。
……何かが引っかかるな。
俺は右手を顎に添えて考えに考えた。そして、俺はやつに鎌をかけてみることにした。
「茉由ちゃんを遺跡に隠してるからだろう?そりゃあ、俺たちに近づかれたら困るよな」
「何故それを……!」
ユメシュはそう言った後、しまったとでも言わんばかりの反応をした。
あの事故に遭った日に見た、茉由ちゃんが遺跡の中に担がれていった夢。あれが本当に起こった事なのか。これではっきりした。
「……そうだ。良く分かったな。呉宮茉由はあの方の試練に合格したのだ。よって、彼女は我が魔王軍が頂いていく」
「……合格?一体何の話だ?」
「……おっと、少々話し過ぎたか。そろそろ失礼させてもらおうかね」
その声が聞こえた直後、壁づたいに窓から外へ出ていく影が見えた。
「くそ、逃げられたか……」
ユメシュには逃げられてしまったが、収穫が1つある。それは、茉由ちゃんがあの遺跡にいるということだ。今ならまだ間に合う可能性がある。
俺は今は病院にいるため連絡するすべがない。だから、廊下の固定電話まで行くしかない。だが、手足がまだ痺れていてまともに動けない。
「仕方がない。次に、みんなが見舞いに来てくれた時に話すしかないか……!」
確か面会時間って昼からだった気がするな……。まずいな。
俺は、はやる気持ちを抑えて、もう一度眠りにつくことにした。
~~~~~~~~~~
「……ん!…さん!兄さん!」
「……ん?紗希?」
俺は
「良かった……兄さん、やっと起きたんだね」
「紗希、もしかしなくても何かあったのか?」
辺りを見回すと紗希以外にも寛之、洋介、武淵先輩の三人がいた。皆、表情がどこか暗いような気がする。空気も心なしか重いように感じる。
「兄さん、茉由ちゃんが見つかったよ」
「それは本当なのか!?」
「……うん」
まさかユメシュってやつがあの後に茉由ちゃんを見つかるような場所に移動させたのだろうか?それにしても、バレたからってだけで茉由ちゃんを置いていくとは思えないんだが……。
「それなら良かったじゃないか」
「……うん」
「じゃあ、聞くけど、何でそんな辛そうな表情をしてるんだ?」
「それは……」
紗希は何やら言いにくそうな様子だ。しかも、今にも泣きだしそうな顔をしている。
「夏海姉さん、紗希ちゃんを頼む」
「うん、分かったわ」
武淵先輩はやさしく紗希の背中を撫でながら外へ出て行った。
「詳しいことは俺から話すよ」
洋介の話を聞かなくても紗希の様子を見れば分かる。ただ事ではない何かがあったのだ。
緊張か恐怖のせいか分からないが、冷や汗が俺の頬を流れていく。次の瞬間、洋介から聞いた言葉で俺の頭の中は真っ白になった。
「実は呉宮がいなくなった」
「えっ……」
あまりの事に言葉が出てこない。
……どういうことだ?
茉由ちゃんは帰ってきた。
嬉しかったし、安心もした。
……でも、今度は呉宮さんがいなくなった。
……何故いなくなった。
そんな思考が頭の中をぐるぐると巡ってゆく。
突然、肩を誰かに掴まれた。
「……おい、直哉!しっかりするんだ!」
ハッと我に帰り顔を上げると寛之がいた。
「……っ!」
肩が痛む。まだ事故の怪我は軽傷だった。しかし、完治しているわけではない。そのため、まだ痛むのだ。
「……あ、すまん」
その事に気がついたのか、寛之が謝ってくる。
「……大丈夫だ」
少々痛かったが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「洋介、呉宮さんは何処でいなくなったとか分かってたりするのか?」
「呉宮が姿を消したのは自分の部屋みたいだ。外出した痕跡もなかったらしい」
「随分と内容が詳しいな。誰かから聞いたのか?」
「呉宮の親父さんからだ。まあ、聞いてきたのは紗希と寛之なんだが」
そういえば確か、呉宮さんのお父さんは警察官だ。俺も紗希も昔、何度か会ったことがある。
「……そうか。そういえば、茉由ちゃんはどこで見つかったんだ?」
「呉宮の部屋らしい。部屋の中央に倒れていたらしい」
「それも紗希と寛之が聞いてきたのか?」
「ああ、そうだ」
俺と洋介が黙りこんでいると寛之が話を始めた。
「……今日の昼、お前のお見舞いに行こうとしていたら紗希ちゃんに会ったんだ」
~~~~~~~~~~
※ここからは寛之視点になります。
今日の昼、僕はお前のお見舞いに行くためにバス乗り場へ向かっていた。その途中で紗希ちゃんに会った。
「……あれ?紗希ちゃん、どこに行くんだ?」
すると、紗希ちゃんは僕に気付いたのかこちらを向いて立ち止まった。
「聖美先輩の家ですよ。そういう守能先輩はどこに行くんですか?」
「……ああ、直哉のお見舞いにな」
僕がそう言うと紗希ちゃんは納得したように頷いていた。
「それじゃあ、ボクはこれで」
「……待ってくれ!」
その場を走り去ろうとする紗希ちゃんを僕は呼び止めた。
「どうかしましたか?」
「……僕も一緒に行ってもいいか?」
「別に大丈夫ですけど……急にどうしたんですか?」
「……ああ、えっと……」
紗希ちゃん、そんな不審者を見るような目で僕を見ないでくれ……!
「……お見舞いも僕一人で行くより、後で紗希ちゃんや呉宮さんが一緒の方が直哉も喜ぶんじゃないかと思ってさ」
僕がそう言うとなぜか紗希ちゃんは困惑したような表情を浮かべていた。
「えっと、本当に兄さんを喜ばせたいなら守能先輩は来ない方がいいと思いますけど?」
「……ぐはっ!」
確かに……!直哉もその方が喜ぶかもしれないな……。にしても紗希ちゃんの言葉はきつすぎる。
僕は膝から崩れ落ちた。その間に紗希ちゃんはクルリと向きを変えて、歩き出した。しかし、歩いて2,3歩ところで立ち止まった。
「なーんて、冗談ですよ。早く聖美先輩の家に行きましょう!」
紗希ちゃんはそう言って再び歩き出した。
「……え、ちょ、ちょっと待ってくれ!」
僕は置いて行かれそうになったので、必死に走って追いかけた。
それから5分ほどが経ち、僕と紗希ちゃんはようやく呉宮さんの家の前に到着した。
紗希ちゃんがインターホンを鳴らすと、「はい」と低くて太い男の人の声がした。
「紗希です。聖美さんに会いに来ました」
突然、玄関のドアが開き、中から恰幅のいい中年のおじさんが出てきた。
「やあ、紗希ちゃん。久しぶりだね。随分と大きくなったもんだ」
「お久しぶりです。呉宮のおじさん、今日はお仕事はお休みですか?」
「ああ。ちょっと休暇を取っているんだ」
え、この二人、知り合いなのか……?まあ、直哉と呉宮さんは幼馴染だし、紗希ちゃんとこの人もあったことあるんだろうな。
「おや?紗希ちゃん、その人は誰だい?彼氏さんかい?」
「違います」
即答……。でも事実、違うから仕方がないか。
「そうか。じゃあ、誰なんだい?」
「聖美さんのクラスメイトの人です。これから一緒に兄さんのお見舞いに行くって約束してて」
そう言うと、呉宮さんのお父さんは大きく首を縦に振っていた。
「なるほどな。ちょっと待っていてくれ。今聖美を呼んでくるからな」
「聖美さん、まだ寝てるんですか?」
「ああ。さっきから何度も部屋の外から呼んではいるんだが、全く返事がなくてな」
「そうですか……。でも、珍しいですね。聖美先輩が寝坊なんて」
……どうしよう。二人の会話に全然入っていけない。
「とりあえず、部屋の中に入って呼んでくるよ。まあ、聖美には怒られるかもしれんが」
「分かりました。じゃあ、
呉宮さんのお父さんは玄関すぐの階段を上がっていった。
待っていると上からドアをノックする音と声が聞こえてくる。
『聖美!紗希ちゃんたちが来てるから早く起きなさい!』
呉宮さんのお父さんが呼び掛けている声は聞こえてくる。しかし、肝心の呉宮さんの返事は聞こえては来なかった。
『聖美、入るぞ!後で怒っても知らないからな!』
おそらく、お父さんが部屋に入ったのだろう。家の中が静かになった。声なども聞こえなくなった。
「……なあ、紗希ちゃん。何だか急に静かになったようだけど」
「そ、そうですね」
何かあったのかと不安になっていると上から声がした。
「紗希ちゃん!すぐに救急車を呼んでくれ!」
「どうかしたんですか!?」
「茉由が部屋で倒れてるんだ!意識はあるみたいだ!」
「え、茉由ちゃんが……?」
僕が横を見てみるとそれを聞いた紗希ちゃんは涙を流していた。
それからすぐに紗希ちゃんは涙を服の袖で拭って電話をかけ始めた。
茉由ちゃんが見つかったのは良かった。だが、呉宮さんはどこに行ったんだ?
……また一つ謎が増えたな。
~~~~~~~~~~
※ここからは直哉視点に戻ります。
「……といった感じだ」
「なるほどな……で、その後茉由ちゃんはどうなったんだ?」
「……救急車でこの病院に運ばれた。病室はここの2つ横だ」
「そうか。茉由ちゃんが無事で何より、だな」
あとは、呉宮さんのことだな……。
俺はとりあえず、中身のない頭をフルに使って考えてみたが何も浮かばなかった。しかし、考えているときに浮かんできたのは昨晩のユメシュとかいうやつの事ばかりだった。
「……まさか、何か関係があるとかじゃないよな」
「どうしたんだ?直哉」
俺が呟いたのが聞こえたのか洋介が反応した。
「いや、昨日の夜なんだけど……」
俺はユメシュのことを含め、昨晩の事をすべて話した。
「……直哉、寝ぼけてただけなんじゃないのか?そんなファンタジーなことあるわけないだろう?」
「そうだぞ、直哉。俺らをからかってるのか?作り話も大概にしとけよ」
そう寛之と洋介に言われた俺は黙り込むことしか出来なかった。そして、何とも言い難い空気が流れる。
「……僕は今日は帰るよ。直哉、またな」
寛之はそう言い残して病室を出て行った。
「俺も帰る。家でやることがあるからな」
「今日はありがとな、寛之も、洋介も」
洋介は何も言わず、そのまま立ち去っていった。俺は病室に一人残される形になった。何だか最後は気まずい雰囲気になってしまったな……。
「やっぱり信じてもらえないよな……」
俺は寂しく誰もいない場所で呟いた。それから何分経って紗希が帰って来た。
「兄さん。守能先輩と弥城先輩が帰って行ったけど何かあったの?武淵先輩も一緒に帰って行ったし」
「ああ。実はな……」
紗希にも昨日の夜の事も含めてさっきの話をした。
「ふーん。そんな事があったんだ」
「……信じてくれるのか?」
「うん。だって兄さんがボクに嘘をつくとは思えないし。それに、第一ボクに嘘つく必要ないでしょ?」
ああ……うちの紗希ちゃん、マジ天使だわ。
その後は日が暮れるまで紗希と雑談して過ごした。
「それじゃあ、ボクは帰るね。兄さん」
「ああ。気をつけてな」
「うん!」
紗希は微笑みながら帰って行った。
その後、夕食を摂ってベッドの上で過ごした。
不思議なものだ。暇になると心配や不安がどんどん湧き上がってくる。
「ダメだ。マイナスなことしか浮かばない……。今日はもう寝よう」
あまり眠くはなかったが、寝ることにした。
――――――――――
ふと、目が覚めると。
「日が昇ってるな。眠りすぎたか……」
もう日が昇っていた。窓から朝日が差し込んできている。
「とりあえず、ニュースでも見るか」
俺は病室のテレビをつけた。
『昨夜、またしても変死体が発見されました。これで同様の事件は4件となり、近隣住民は眠れぬ夜を過ごしたようです』
また、見つかったのか。最近このニュースばかりだな。もうちょっと朝から元気が出るようなニュースが聞きたかったな。
「畜生、やることなくて暇だ……」
入院してなければ、今すぐにでも呉宮さんを探しに行けるのに。
俺は朝日の差し込む窓を見ながらそんなことを思った。
「……ん?」
そんな時、視界の端に何かが映った。椅子の上に置かれたままの物。
「この前、呉宮さんに買ってきてもらった……」
そう言えば、最新刊読みたかったけどまだ読んでなかったな。
俺はそのまま起き上がって手に取り、2時間ほど読書に
その後は朝食を摂り、外を眺めたりして昼まで過ごした。
「そういえば、明日で退院だったか。随分と長く入院していたように感じるな。」
今日は8月11日木曜日。それはニュースを見て知った。時計がないためテレビを見ないと時間感覚がおかしくなってしまいそうだ。
そして昼。日も高くなり、気温も高くなっていく。
そんな中、昼食を摂っていると面会時間になった。
「兄さん!起きてる!?」
面会時間になったと同時に紗希が何やら慌てた様子で駆け込んできた。
「紗希、ここは病院だぞ。静かにしないとダメだろ」
「うん、それは分かってるよ!そんな事より、大変なことがあったの!」
……全く、病院では静かにしろと言っているのに聞いちゃいねえな。やれやれだぜ……。それにしても大変なこと?一体何のことだよ。
「弥城先輩たちが遺跡に向かったみたいなの!」
ホント、今年の薪苗直哉は厄年なのだろうか?俺の周りで事件起こり過ぎだろ!ここは米花町じゃないんだぞ!?
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