83話目 黄金の手
「はよ、水を元通りにせんかい!」
マグロ大王は低く響く声で怒鳴る。
「ああ、ちょっと待ってて。できるかどうか相談してくるから」
俺は、足元で珊瑚を砕きながら
「ちょっと相談タイム」
みんなで輪になり、肩を寄せ合ってひそひそと相談を始める。そう言えるほど、肩の高さが合うやつらばかりではないのだが。
「やるかどうかともかく、君が吸収した水は戻せるの?」
ぶよぶよの佐々木に問うと、口らしき部分が開閉して答える。
「無理ですよ。さっきも言ったでしょう。吸収した水は、超振動で水素と酸素に分離して気体にしちゃったんですよ。気体からまた液体としての水を生成するすべは、僕にはないです」
「そうか。無理か」
「なに、あんた。できるなら水を戻す気でいたの?」
秋山さんが、鋭い視線と声を投げかけてくる。
「まあ、それも選択肢のひとつとして考えてはいた」
「マジで!?」
「ほら、友達になるって言っちゃったし」
「無理だって。相手は魚介だよ? えら呼吸だよ? 魚類なんてさばいて喰うためだけに居るんだから」
「いえいえ、魚類との愛もありえますよ。っていうか、マッターホルンちゃんと融合している僕の前で、よくそこまで魚類に暴言吐けますね」
「あんたはハニワでしょ! しかも、聞いたら元はちくわだって言うじゃない。魚肉からできてんだから、そりゃ魚類は同類でしょうよ。わたしは人間の話をしてんの」
「そういう秋山さんだって、純粋な地球人ではないでしょう」
「女子高星人の精神構造は地球人と近いからいいんだよ。うっせーな」
そんな内輪もめをしてると、背後から重低音が響いてきた。
「おい! お前ら、なにをコソコソ話しとんねん!」
「今、水を戻す方法を検討中だから、ちょっと待って」
「お前ら絶対、戻す気ないやろ! 背中向けてひそひそ話してからに、あからさまに、オレのことどうにかする気満々やないか!」
「違うって。言ったでしょ。あんたのことはもう友達だって」
「友達をのけものにして、内緒話すんなや!」
「そうやって、すぐに距離を詰めすぎるのはよくないよ。親しき仲にも礼儀ありって言ってね。友達だからってなんでも話せるわけじゃないんだ。もうちょっとゆっくりお互いのことを知っていったほうがいいと思うんだ」
「わけの分からんことばっか抜かすなや!」
「いっそのこと、あたしがやるかい?」
そう言って、保護グラスに手をかけるステンノ。
「あ、もう水もなくなったし、いくらもクリオネも地面に転がってるから、ステンノさんが石化光線出してもいいのか」
うなずくステンノの尻を秋山さんがひっぱたいた。
「ちょっとステンノちゃん! 駄目だって! マグロ大王はわたしがさばくって言ってるでしょ。あんな上物を石にするとか絶対駄目だよ」
「そ、そうかい」
その後、数分の話し合いののち、結論は出た。
「頼むよ、ケルベロス」
「任せておけ」
赤白、
俺は、珊瑚を踏み砕きながら、頂上付近まで行き、マグロ大王の頭のそばに立った。その頭は巨大で、頭だけでも俺より大きい。
「やっぱり裏切ったな! なにが友達や! 思いっきり斬首してるやんけ!」
「まあ、友達の頭を落とさなきゃいけないなりゆきもあるよね」
「そんななりゆき、あるわけないやろ!」
「頭だけなのに、まだ元気だね」
「クソが! 最後にひとつだけ、頼みがある」
「なに?」
「オレのこと、残さず喰えよ。生命ってのは、他の生命の役に立ってこそ、意味があるんや」
「任せておいて。そして、あんたは、俺の中で永遠に生き続けるんだ。これが俺とあんたの友情の形だよ」
「人間いつも都合のいいことばかり言いよる。ああ、あかん。いよいよ苦しくなってきたわ。少しぼーっとしてきた」
「安心して逝って」
「ああ、あかんわ。ほんまにそろそろあかん。だんだん口も回らへんようになってきたわ。首元もスースーするし、ああ、稚魚だった頃の思い出が走馬灯のように」
「めっちゃ喋るな」
「あいたたたた! なにすんねん!」
見ると、アーツがマグロ大王のほほに噛み付いていた。
「ハッ! ハッ! ほほ肉が一番美味しいんですよね!」
そこへ、秋山さんの日本刀が振り下ろされ、アーツが飛びのいてほほ肉から離れた。
「勝手に喰うんじゃねえってっつってんだろ! ったく」
「ちょっとステンノさん、こっちきてマグロ大王の首元に触ってみて」
「いいけど、なんでだい?」
「試したいことがあって」
以前、ステンノと話したときに言っていた。ステンノには傷を治癒する能力がある、と。この状態のマグロ大王に触れてもらったら、どうなるのだろう。
マグロ大王の頭の横までやってきたステンノは、膝をつき、身をかがめてマグロ大王の首の切断面に触れた。
「な、なんやねんこれ!」
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マグロ大王になにが起きた?
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