59話目 背後

「豊洲に乗り込もう」

「正気か? 豊洲は、文字通り魚介連合の巣窟だぞ。人間をこころよく思っていない魚介系でごった返している。のこのこと真正面から行くのは自殺行為だ」


 High Gハイジーが、目に冷たい輝きを浮かべて言う。


「あれ、じゃあひょっとして、俺以外の、人間じゃない皆さんだけで行ってくれたほうが話がスムーズに進むんじゃないの。マグロ大王に謁見したいとかなんとか言って、High Gハイジーあたりが、こう日本刀でサクッとさ」

「暗殺しろと?」


「そこまで直接的には言わないけど、サクッと3枚におろしてくれれば」

「何? マグロさばくの? それなら私も行きたい!」


 秋山さんが元気に右手を挙げた。


「話聞いてた? 人間が行くと危険なんだって」

「えー、でも私、地球人じゃないよ?」


「あれ? そうなの? どちらの星からおいでで?」

「私は女子高星人! 女子高星から来たの」


「女子高星? なにそれ。女子高星には、女子高生しか居ないの?」

「女子高生は居ない。居るのは、女子高星人だけ」


「なにその星。行ってみたい」

「ダメ。前に地球人の男が来て、大変なことになったから、それ以来、女子高星には異星人は渡航できないの」


「そうなんだ。残念。その女子高星人さんが、なんでまた地球の山田鮮魚店で経理を?」

「魚とお金が好きだから!」


「すっごく単純明快だった」

「なんか文句あんの? とにかく、マグロさばきたいから、豊洲行くならついてくよ」


「あ、じゃあ頑張ってきて、俺は行かないから」

「はっ!? あんた、行かないの?」


「だって、人間が行くのは自殺行為だって、High Gハイジーがすごい目して言うんだもの。だからHigh Gハイジーがサクッとやってくれる流れに」

「なってない」


 High Gハイジーがさらに冷たい目で、割り込んできた。


「承諾した覚えはない。そもそも、貴様のために暗殺をする道理がない」


「あれ、それは困ったな」


 言いながら、ペーターたちのほうを見やる。


「ノープロブレム! わたしのアイアンフィストがあれば、フィッシュどもなんて、インスタントですき身よ!」

「ハッ! ハッ! できたすき身はワタシが食べます!」


 やる気あふれる2人の横で、佐々木は少しうつむき加減だ。


「あれ、佐々木、どうしたの?」

「マグロを殺すのはちょっと、気が乗らないんですよね」


 そうか。佐々木の半分は、クロマグロであるマッターホルンでできているのだ。マグロを殺すことに忌避感を覚えても仕方ない。


「なんとか、和解の道を探しましょう」


「俺も和解できるもんならしたいんだけど、相手が武力行使で来るからさ」

「少々お待ちください。ステンノ様にも相談してみます」


 できればステンノの手を煩わせたくなかったが、仕方がない。どうやら、自分ひとりで片付けるには荷が重そうだ。

 佐々木がステンノと連絡を取ってくれている間、豊洲に行くメンツを確認する。


 High Gハイジーは、ここで社員たちを守るらしく、豊洲には同行しないことになった。

 そうなると、その他の社員たちは当然来ない。まあ、来ても戦力にはならなそうなので、それでいいと思う。


「ステンノ様が、豊洲に乗り込むと言ってます!」


 突如、佐々木が声を張り上げた。


「なんだって!? どうしてそんなことに」

「ステンノ様、自らが和平の交渉に行くと」


「え、とめてよ。行くならせめて一緒に」

「とめられませんよ。あっちに居るのは、小さい欠片だけなんですから」


 ステンノは、自分のことを不死身だと言っていたから、多少のことは大丈夫だと思うが、それでもやはり心配だ。


「じゃあ、俺たちも豊洲に行こう。佐々木、できたら現地でステンノさんと合流できるように話をしておいてくれ」

「約束はできませんが、やってみます」


 結局、豊洲にい行くメンツは、俺、佐々木、ペーター、アーツ、秋山さんの5名となり、別途ステンノがハニワ工房から現地に直接向かうこととなった。



 会議室を出て、来た道を戻る形で廊下を走ると、階段が見えてきた。


 まずはこのビルから出なければ。

 俺は先頭を切って階段を下り始めた。


「あれ? 下に行くの?」


 背後から秋山さんの声がする。すでに数段を駆け下りていた俺は、バランスを崩しそうになりながら、振り返った。


「ビルから出て、電車かタクシーで行くんじゃないの?」

「上に船が停泊してるから、そこからラインを通って行くほうが速いよ」


 ここでいう船とは、会社のビルの上にある母艦と同類のものと考えていいだろう。


「このビルの上にそんなものがあったんだ」

「だから、ここに避難してきたの」


 踵を返して、階段を駆け上がると、6階に着いたところで廊下が白くなり、いつも母艦に入るときの景色に変わった。

 船の入り口には、例によってスチームクリーナー似の兵士が立っており、俺の姿を見るなり光線銃を構え、一瞬引き金を引きかけたが、俺の後ろの面々を見て構えを解いた。

 明らかに地球人ではないメンツを連れていれば、撃たれずにすむらしい。


 船の中に入ると、目の前に、ラインの入り口である光線の束が輝いていた。会社の上の母艦に比べると、船内は格段に狭い。


「こっち」


 秋山さんに案内されるまま、いくつかのラインを乗り継ぎ、どこかのビルに出た。まだ使われているビルらしく、階段や廊下はかろうじて手入れされてるように見えた。

 1階へと階段を駆け下り、ビルから出ようとしたところで、出入り口のすぐ外に、イカ星人3人がこちらに背を向けて立っているのが見えた。


 手には銃らしきものを持っているように見える。


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 背後から奇襲して問答無用で殺す?

 話しかけてみる?

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