第62話 王位継承者会議

 俺は父ちゃんに抱っこされて、塔の上にいる。

 ここだと、城の外に出ている人達の会話を聞き取れるからだ。


 城の庭には素晴らし一画があり、ワイバーンの戦闘でもほとんど被害が出なかった所だ。

 密会するにはもってこいで、人が近付くとすぐに分かる。


 秋の花が咲き乱れ、とても広いので散策にはもってこい。

 誰もが出入り自由にしてあるので、なおさら密会しやすい。


 王妃様に抱かれたウール王女が、2人の犯人の一味を特定した連絡が入っている。

 昼間の失敗を、これで挽回したみたいだ。


 ウール王女は嬉々としてみんなに報告をしていた。

 その2人は、ヴァール姉ちゃんの弓矢部隊にトリカブトの蜂蜜にすり替えた給仕係2人。


 王位継承者会議も動いてくれている。

 ……って言うか、そんな会議自体あるのを知らなかった俺。


 ……?

 赤ちゃんの俺に、言う必要がなかっただけだよな……。


 次世代の国王、女王になる第一継承権のある各国の王族達がメンバー。

 国を超えて、魔物の情報を共有するのが発足の趣旨だったみたい。


 伝統的に長く続いており、結束もそれなりに硬いと聞かされた。

 その第一継承権の各国の王族達が、ヴァール姉ちゃんの部屋に集まった。


 話の中で、ワイバーンを魔石に変えていったハゲワシの正体を王妃様が言った。

 そのハゲワシが、まだ赤ん坊の俺だと王族達が知ると、彼らは腰を抜かすほど驚いていた。


 それに、彼氏の居ない4人の姉ちゃん達に王子達は興味を惹かれたみたいだった。

 当然だよね。


 姉ちゃん達、超美人だから。


 どうやら、俺が住んでいるエル・フィロソファー国の6人姉妹は、超美人だと各国で噂になっているらしい。

 姉ちゃん達の美しさって、世界的だったんだね。


 あと、驚いた情報を王位継承者の王子から聞かされた。

 城に居たはずの賢者が居なくなったのだ!


 ワイバーンが襲って来るのが分かると、いつのまにか姿をくらましたみたい。

 俺は……、裏切られた気持ちで一杯になって怒りさえ覚えた。


 賢者の塔があって、そこで承認されないと賢者になれないらしい。

 その賢者の塔に、胡散臭うさんくささを感じている俺。


 いずれ、その塔に行く予感がするけれど……?






 ん……?

 動きがある。


 塔の上で色々考えていたら、やっと動き出したようだ。


 捕まえた治療師が、お金に関して話をしていた。

 もしヴァール姉ちゃんが死んだら、髭面の男からお金を受け取る場所が庭だと。


 髭面の男を捕まえるのに協力してくれたら、罪は更に軽くなるとエイキンスキャルディ王子が治療師に言った。

 彼は喜んで協力をすると言い、部屋に入って来て初めて笑顔になっていった。


 それで、俺と父ちゃんが治療師をずっと塔の上から見張っている。

 いつ来るとも分からない髭面の男に、しびれを切らしていた所だった。


 治療師に男が近付いて来ている。

 しかも髭面の男で、脇に袋を抱えている。


 その袋はたぶんお金で、家が買えるほどの大金。

 こいつは、かなりヤバイ雰囲気の男だ!


 髭面の男がドスの効いた声で治療師に言う。


「これが約束の金だ。

 これを持って、今すぐ国外に行け!


 お前がこの国に居ると、こちらまでやばくなるんでな」


 やったね。

 間違いなく犯人。


 夕焼けの寒い中、待っていた甲斐があったよ。

 もし来なかったら、どうしようかと迷い始めていたからな。


 髭面の男に、ここに来るように準備を始める。

 庭にいる人達に気付かれないように細心の注意を払う。


 そして父ちゃんに、髭面の男が現れたことを教えた。


 今だ!!


 重力魔法で髭面の男を上空高く俺は移動させた。


「ギャァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜」


 いきなり移動させたので、悲鳴を言っている。

 当たり前か……。


 けれど、庭に居る人達は治療師以外誰も気が付かなかった。


 治療師は遥か上を見上げて、驚きの目で眺めている。

 ま、これを見るだけで治療師は改心するでしょう。


 遥か上空にいる髭面の男は怯えながら言う。


「だ、誰だか知らないが、た、助けてくれ。

 お、俺の知っている事は、何でも、は、話すから」


 あらま……。

 物分かりの早い犯人だね。


 そんなに高い所が嫌いなのかな……?


 俺なんか大好きで、大空の中に居ると気分が爽快そうかいになる。

 山賊に拉致された人達も、空中移動を楽しんでいたのに……?


 でも、念には念をいれて自由落下させた方がいいよな。

 全て知っている事を言うとは限らないし。


 それに、髭面の男のせいで、多くの人達が不幸になったのは間違いなさそうだし。

 決まりだね。


 俺は、重力魔法を止めた。


「ギャァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜」


 また悲鳴を上げている……。


 男は自由落下して来て、父ちゃんの前で俺は再び重力魔法を発動する。


 床すれすれで、頭を下にして止まった。

 そして、男はそれから床に落ちた。


 ゴン!


 少しだけ鈍い音がしたよ。

 頭から床に落ちて……。


 ドサ!


 横に倒れた男。


 怪我をする高さでもないので大丈夫だよな。たぶん……?

 男は……?


 あ〜〜、オシッコ漏らしている。

 そんなに怖かったのかな?


 父ちゃんが、彼を睨みつける。

 そして、今までに聞いたことのないようなドスの効いた声で、父ちゃんは髭面の男に言う。


「お前が知っている事を全て話してもらおうか。

 治療師は、お前から依頼を受けたと白状した。


 どうあがいても、お前は逃げられない!!

 あとで嘘だと分かると、罪が更に重くなるのは知っているよな!」


 髭面の男は、怯えながら話し出した。


「わ、私は、貴族の家に仕えています。

 おもに、奴隷商人との取引を担当しています」


 この後、髭面の男は細かく父ちゃんに話した。

 要約すると、奴隷市場の管理者の一人で、貴族との繋がりも認めた。

 ヴァール姉ちゃんを殺すようにと、複数の貴族から命令されたことも。


 なんと、なんと。大物を釣り上げちゃったよ。

 それにしても、父ちゃん役者だよね。


 本当にビックリ!


 父ちゃんは温厚な人柄だから、このような場面では役者不足かなと思った。

 けれど、ここまで迫力の演技ができるとは……。


 アトラ姉ちゃんのあの気迫は、母ちゃんからだけ受け継いだのかと思っていた。

 でも、父ちゃんのドスの効いた声を聞いたら、姉ちゃんは両親から受け継いだみたい……。


 ◇


 翌日の昼。

 ヴァール姉ちゃんの葬式を執り行うので、大勢の人達が大広間に集まっている。


 ヴァール姉ちゃんにトリカブトの毒を盛るように指示した貴族達も集まっている。

 彼らの目的はもちろん決まっている。


 この国の第一王子に、彼らの令嬢方を押し付けて妃にさせる。

 そして、この国の影の支配者になって、思い通りに動かしたいのだ!


 あわよくば、他国の王子達にも令嬢方を紹介し、妃になる事を目論んでいるはず。

 でないと、ヴァール姉ちゃんの葬式に彼らが出席する理由がないよな。




 おっ……、始まる。

 今回集まった本当の目的は、ヴァール姉ちゃんとエイキンスキャルディ第一王子との婚約披露宴になる。


 ワイバーン戦と、毒殺の件で婚約披露宴が伸びてしまった。

 彼らを捕まえるのは、あくまでも余興。


 各国の第一王位継承者達は、ヴァール姉ちゃんと正式に挨拶を交わし、親交を深めるために集まっている。

 でも、昨日すでにお互いに挨拶をしていたけれど……。



 執事が、ヴァール姉ちゃんとエイキンスキャルディ第一王子が、この大広間に入ることを告げた。

 全員立ち上がって、後ろを振り向く。


 エイキンスキャルディ第一王子が、ヴァール姉ちゃんの手を取って入って来た。

 それを見た人達は大騒ぎになった。


 それはそうだよね。

 死んだと思っていた人が、王子と一緒に入って来たんだから。


 ほとんどの人達は安堵のため息をついて、喜びの顔になっている。

 しかし、少数の人達は険悪な顔に変わって、隣同士コソコソ話を始めだした。


 彼らの会話は、命力絆ライフフォースボンドをした人達の耳に全て聞こえている。

 誰が毒殺に関係していたか、これでよりハッキリと分るんだよな。


 王子とヴァール姉ちゃんはさらに前に進み出て、王様の前で止まった。

 そして、集まった人達の方を笑顔で振り向いた。


 2人は本当に幸せそうだ。

 良かったね、ヴァール姉ちゃん。


 王様が前に進みでると、大広間は急に静かになっていった。

 そして、王様が威厳のある声でゆっくりと話しだす。


「皆さん。

 息子の婚約披露宴に集まっていただいて感謝を申し上げる。


 披露宴を開く前に、この国に長年蔓延ながねんまんえんしていたウジ虫を先に退治したい。

 ラーズスヴィーズル君、それでは宜しく頼む」


 ラーズスヴィーズルは、一昨日捕まえた山賊達から奴隷市場の黒幕を聞き出して来たんだよな。

 その情報を、みんなの前で報告を始める。


 複数の貴族達の名前が上がると、彼等は大騒ぎをはじめたよ。

 あまりにも五月蝿うるさいので、報告が聞き取れなくなった。


 でもこれは事前に分かっていたことなので、対処の仕方も検討済み。

 王位継承者に付いて来ていた各国の屈強な護衛係が近くに行って、強制的に彼等を黙らせた。


 最後に例の髭面の男が入って来て、自分の罪を言い始める。

 大勢の前で全て自白すれば、罪を大幅に軽くすると彼に言ったみたい。


 先程と同じ貴族達の名前が出ると、彼等はこうべを垂れて生気を無くして怯えだした。

 ま、これだけの証拠があるからね。


 この国の法律では、奴隷市場に関わったら死刑。

 さらに、財産も没収になるらしい。


 髭面の男が全て白状すると、屈強な護衛達は彼等を大広間から連れ出した。

 次に、姉ちゃん達とヒミン王女が参加者の中に入って、関わった悪い人達を通路に連れ出す。


 姉ちゃん達とヒミン王女達は、昨日から城の内部にいる人達の声を聞いてきた。

 それで、誰が関与していたか分かっていたからだ。


 この国に蔓延っていたウジ虫を根こそぎ退治できて本当に嬉しい。

 これでヴァール姉ちゃんは、幸せにこの国で暮らせるよね。


 悪者退治の余興が終わって、王様が再び前に進み出た。

 そして、息子の婚約者であるヴァール姉ちゃんをみんなに紹介をした。


 話の最後で……、なんと……、俺のことを話しだした。


「ワイバーンを撃退したハゲワシは、ある人物が化けた。

 名前を今は言えないのが残念だが、すでに彼は賢者の名にふさわしいと思っている。


 これからの彼の活躍を期待したい。


 それに、今回多くの人達が協力してワイバーンを撃退できた事も忘れてはいけない。

 そのもの達に、感謝の意をここで伝えると共に、恩賞を与えたいと思う」


 王様まで、化けるとか言っている……。

 早く、ウール王女のように頭の毛がフサフサになりたい……。


 それに、賢者の名に相応しいって……。

 俺、まだ赤ちゃんなんだけれど……?


 王様が言い終わると、横にいた執事が前に進み出る。

 誰に、どのくらいの恩賞を与えるか執事が言い始めた。


 多くの人達の名前が上がり、誰もが笑顔になっていく。

 これらの恩賞の財源は、間違いなく没収した貴族達のお金から出るとわかった。


 アトラ姉ちゃん、エイル姉ちゃん、ヒミン王女達は目覚ましい活躍をしたので恩賞の額は相当なものだった。

 家が数件買えるほどの金額だ!


 そして、最後にハゲワシにも……?

 俺にも恩賞が出るみたい。


 執事の話を聞いていると、目ん玉が飛び出るほど驚いた。

 俺が倒したワイバーンの魔石全てと、家が10件買えるほどの恩賞が出る!!


 え〜〜と、……?

 ワイバーンの魔石一個で、家が買えるほどの金額で取引できると父ちゃんが言っていた気が……?


 俺、赤ちゃんなのに……。

 そんなにもらって、どうするんだろう……?

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