第61話 聞こえ過ぎ……?

 ヴァール姉ちゃんが俺を抱いたまま、ベッドに起き上がった。

 そして、少し驚いたように俺を見ながら言う。


「毒で死にそうになった私を、トルムルが助けてくれたの?」


「とう」


「ありがとうトルムル。

 さっきシブが言っていたけれど、トルムルが居なかったら私死んでいたみたい。

 トルムルは私の命の恩人よ」


 ヴァール姉ちゃんはそう言って、俺を再びその柔らかな胸で抱いてくれた。


「それに、命力絆ライフフォースボンドの効果をアトラ姉さんから聞いていたけれど、これ程とは思わなかったわ。

 下の階で話している声が、床下を通り抜けても良く聞こえる。


 私の好きな花の香りが、窓から漂ってくるのが分かるわ。

 この花は、近くまで行かないと香りが分からないのに。


 視覚と臭覚も以前とは格段に上がっている。

 窓から見えるあの遠くの山で、子リスが枝から枝に飛んでいるのが分かるのよ。


 本当に驚き!」


 そうだ!

 ヴァール姉ちゃんが言っている能力を使えば、犯人を探すのに役に立つ。


 すでに、5人は能力を持っている。

 さらに、3人増やすとより確実だよな。


 シブ姉ちゃん、ディース姉ちゃん、そしてイズン姉ちゃん達にも命力絆ライフフォースボンドをする。

 そうすることによって、姉弟きょうだいの絆も強くなる。


 それに、異国に住んでいる姉ちゃん達に何かあった時には、手助けに行けるしな。

 よし、決めた!


 5人から8人で犯人探しだ〜〜!


 8人……?

 まさか……?


 この人数は、大賢者が当時の世界を救った仲間の数……。

 知らない内に、大賢者と同じように仲間を持つことになるよ。


 マジで!!


 でも、アトラ姉ちゃんみたいに少し乱暴な仲間も居たのかな?

 エイル姉ちゃんのように、理解すると言って、俺の意思を無視して無理やり温泉に連れて行く仲間いたのかな?


 大賢者の仲間に関しては多分、あの謎めいた言葉を解読する必要がある。

 そして、妖精の国に行ければ次のページが開かれない気がする。


 おっと、時間がないよ。

 大賢者に関して考えていたら明日になっちゃうよな。


 俺は、シブ姉ちゃんディース姉ちゃん、そしてイズン姉ちゃんを指差して言う。


「シーシ、ディーディ、イーイ。

 ラー、ボー、……」


 う〜〜。

 命力絆ライフフォースボンドがい、言えない。


 エイル姉ちゃんがすぐに分かってくれて、助け舟を出してくれた。


「トルムルはもしかして、3人のお姉さん達にも命力絆ライフフォースボンドをするって言うのね。

 そして、新たに得た能力で、ヴァール姉さんに毒を盛った犯人達を探そうって」


 ウァオ〜〜〜〜!!

 大正解!


 今回は誤解せずに、俺の意思を正確に言葉にしてくれたよ。


「とう」


 俺はそう言って、右手を上げた。

 シブ姉ちゃん達は驚きながらも、喜びの顔に変わっていく。


「本当にいいのトルムル?

 ありがとう」


 3人の姉ちゃん達は代わる代わる、その大きな柔らかな胸で俺を優しく抱いてくれる。

 それも、心を込めて念入りに抱いてくれた。


 俺もそれに応えるべく、小さな腕で抱き返していった。

 そのあと、3人の姉ちゃんに命力絆ライフフォースボンドをする。


 姉ちゃん達は、新たに得た能力に感嘆している。

 これで、犯人探しの準備は整った。


 アトラ姉ちゃんの闘気が復活して、獲物を追う目付きになる。

 威圧感が半端でなく、普通の人でも姉ちゃんが怒っているのが分かるほどだ。


「アトラ姉さん少し落ち着いて!

 犯人は、かなり頭の切れる人達よ。


 闇雲にいきがっても、犯人は見つからないわ。

 こちらも、知恵を出し合わないと、犯人達を出し抜くことができない!」


 治療師のシブ姉ちゃんが、アトラ姉ちゃんをいさめる。

 アトラ姉ちゃんは闘気を引っ込めて、冷静になろうとしている。


「ヴァール姉さんが飲まされたのは、トリカブトの毒。

 これは、ケルベロスのよだれから産まれた猛毒の植物よ。


 全ての部位から毒を採取でき、今回は蜂蜜。

 トリカブトを採取できる場所は限られているわ。


 闇取引でしか入手できないし、家が一軒買えるほど高額になるはずよ。

 普通の人ではまず入手できない。


 毒を飲まされたのは6人で、既に2人の命を奪っている。

 トリカブトの蜂蜜に毒が入っている知識を持っているのは、治療師と養蜂師だけ。


 今回はその蜂蜜を使っているので、想像以上に頭の切れる犯人よ。

 普通の人では、まず考え付かないわ!」


 治療師のシブ姉ちゃんが毒について言った。

 たぶん、ヴァール姉ちゃんは甘いものが好きだから、トリカブトの蜂蜜を使ったんだ。


 ヴァール姉ちゃんの好みを細かく調べて、確実に口にするようにしたんだな。

 本当に許せない!


「それを考えると、犯人は1人ではないと思う。

 財力のある人が黒幕にいないと成功しないわね」


 シブ姉ちゃんが言い終わると、アトラ姉ちゃんは大きなため息を吐く。

 アンゲイアー王妃が静かに、そして威厳のある声で言い始めた。


「私もシブに賛成します。

 かなり財力のある貴族が関わっていると思うのです。


 それに、ヴァールさんが亡くなった場合、もっとも特をする貴族を重点的に調べれば分かると思いますよ」


 エイキンスキャルディ王子が、俺の方を向いて言い始める。


「本題の話の前に、トルムル様にお礼を言いたいのです。

 ヴァールを助けて頂いて、本当にありがとうございました。


 彼女は私の生き甲斐であり、私の愛する人なのです。

 彼女がもし亡くなったら、私も後を追っていたかもしれません……。


 本当にありがとう。


 それで……。


 我が国の醜い部分を申し上げるので言いにくいのですが……。

 複数の貴族達は、王族の私達よりも財力があるのです。


 闇市場で莫大な利益を得ているのではと王は考えています。

 しかし、証拠がないので罰することができないのです。


 ヴァールがこの国に来る前に、それらの貴族から数人の妃候補を必要以上に私に推薦していました。

 甘やかされて育った令嬢方は、とても私の手に負えないほどでした。


 もし……。

 もし、ヴァールが亡くなったら、再び令嬢方を私に押し付けてくるでしょう」


 王妃様が何かをひらめいたようだ。


「昨日捕まえた山賊達に黒幕を吐かせましょう。

 闇市場では、奴隷の売り買いがもっとも利益が出ますから、その貴族達が絡んでいるはずです。


 早馬をつかって飛ばしていけば、明朝にも帰って来れるでしょう。

 山賊達には、全て知っている事を吐かせる。


 白状しなければ、もう一度自由落下をさせると言えば、間違いなく白状するでしょう」


 あの、自由落下を……?


 何も無い高い所から自由落下させて、地上にぶつかる直前で俺の重力魔法で止めたんだよな。

 山賊達、泡を吹いたり気絶したり、いろいろだったよね。


 それ、良いアイデア。

 さすが王妃様。


 今度はヒミン王女が何か言いたいみたい。


「犯人達を油断させる為に、ヴァールさんに亡くなった嘘の情報を流してはどうでしょうか?

 何かの動きがあって、犯人同士会話をすると思うのです。


 トルムル様から頂いた新たな能力を使えば、コソコソ話でも私達には聞き取れます。

 私を含めて8人いますから、城に居る人達の会話は全部とはいかなくても、大部分聴くことができると思うのです」


 お、それも良いアイデア。

 さすが王女。


 俺も、聴覚の能力をあげようかな?

 犯人を捕まえないと、ヴァール姉ちゃんは何回も命を狙われる。


 俺がずっとここに居るわけにもいかないしな。

 このさい犯人を見つけて、この国の内部をキレイにしたい。


 ん……?

 扉の外に、異様な気配のする人が居る。


 扉に耳を当てて、この部屋の会話を聞いている感覚だ。

 ヤバイ!


 俺は重力魔法で扉を開けて、その人物を強制的に中に招き入れる。

 そして、アトラ姉ちゃんの前に移動させた。


 その人が中に入って来たので、重力魔法で扉を閉めた。


「あわ、わ、わ、わ……」


 入って来た人物は、先程の治療師の1人だ。

 怯えながら、アトラ姉ちゃんを見ている。


 アトラ姉ちゃんが俺を見た。

 俺は頷いて、犯人の一味であると合図を送った。


 アトラ姉ちゃんは再び闘気を最大にして、治療師にぶつける。

 長身でガッチリしている魔法剣士のアトラ姉ちゃんの前で、彼は怯えきっている。


 アトラ姉ちゃんの強さは、既にワイバーンで証明済み。

 どうあがいても彼は逃げ切れない。


 アトラ姉ちゃんが彼を睨みつけて言う。


「さて、全て白状してもらおうか!!」


「わ、私は無関係です。

 ただ、と、扉の近くを、と、通っただけで」


 あ、コイツ、緊張して自分から無関係とか言っているよ。

 もしかして、バカ?


 それとも、アトラ姉ちゃんの闘気に圧倒されて、理性が働いていないのかな?


「無関係だって?

 扉の前を歩いていただけで、無関係なんて言葉使わないよな!


 明らかに、なにかを知っているから無関係とか言ったんだろう?

 本当の事を言うまで、この部屋からは出られないよ!」


 アトラ姉ちゃんはそう言うと、彼の肩を軽く触った。

 彼は飛び上がるほどビックリをして、全身が震えだした。


「す、全て話しますので、命だけは、お、お助けを……」


 アトラ姉ちゃんは笑顔になって彼に言う。


「そうかい、それなら話が早い。

 全て素直に話すのならば、罪は少しは軽くなると思うよ。


 そうだよな、エイキンスキャルディ王子」


 王子は、内面では俺と同じように怒りに燃えているのが分かる。

 しかし、彼から情報を得る為に、わざと笑顔になって優しい声で言う。


「アトラさんの言う通りです。

 我が国の法では、素直に罪を言って悔い改めるのならば、罪が軽くなります。


 それで、貴方の知っている事を詳しくお聞かせ下さい。

 もし、知っているのに話さなかったら、罪はさらに重くなりますよ」


 治療師は震えながらも、頭を縦に振って了解した。

 そして、怯えながらも彼は言う。


「髭面の知らない男から、は、話があったんだ。

 家が買えるほどの大金を積まれて……。


 ヴァールさ、様の好みが甘い物だから、毒を入れるにはどうしたらいいかと相談してきて……。

 私はトリカブトのハチミツには猛毒が含まれていて、少量でも致死に至る情報を、い、言ったのです。


 実行した人達は別に居たみたいで、わ、私はその人達をし、知らないのです。

 ヴァール様が危険な状態になったので、私は確認をと、とるために扉の……。


 扉の外で聞き耳を立てていたのです。

 私の知っているのはそ、それだけです。


 それ以上のことは、ほ、本当に知らないのです」


 これで、芋づる式に犯人達を捕まえることのできる、最初の人物を確保できたね。

 あとは、同時進行でいろいろなことをしなくてはならない。


 聴覚の能力を上げて、俺も積極的に犯人を探さないとな。


 右手の中で、耳と脳の神経が活発になり、聴力の能力を上げるイメージをする。

 右手を耳に近付けて、イメージ通りの魔法を魔法力マジックパワーを使って発動する。


 すると耳の中がむず痒くなり、徐々に聴力が上がっていった。


 部屋の隅いる小さな虫の音が聞こえる。

 ヴァール姉ちゃんが言っていたように、下の階での話し声が聴こえてきた。


 そしてさらに、その下の階での会話も聞こえる……?


 二階下の……、部屋の会話が聞こえてくる……?


 こ、これって。聞こえすぎだ〜〜〜〜〜〜!!

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