第102話 魔物の大群

 ユウヤ達が船の中で二年間で何があったか話していると、船長が客室の扉を叩いて扉を開けた。


「そろそろ大陸の港に着くぜ」

「分かった。準備が出来たら行く」


 ユウヤの返事を聞いて船長は客室から出て行った。

 船長が出て行ったのを確認してユウヤ達は荷物をまとめ船長のもとに向かった。

 ユウヤが離れたところに見える港を見ると、二年前とは違う港町が見えた。


「前の港じゃないのか?」

「ああ、向こうの港にはしばらく行く用事がないんだ。向こうの港に行くんだったら海岸沿い行けば一ヶ月あれば着くが……」

「いや、用事があるわけじゃないんだ。違う港で少し気になっただけだ」

「そうか。なら、良かった」


 ユウヤの言葉に船長は少し申し訳なさそうな顔をしたが、気にしてないという言葉に安心して船員に指示を出し始めた。

 少しして船が港に着き、ユウヤ達は船から降りてすぐに宿を探した。

 宿を見つけた後は少し遅めの昼食を取り、夜まで暇な時間が出来たので旅の準備のついでに町を見て回ることにした。


「取り合えず、食料調達からするか」

「次の町までどれくらいかかるか分からないし多めに買っておく?」

「多めに買うのはいいが、金はあるのか?」


 ユウヤの質問にユウヤ以外の全員が足を止めた。

 突然立ち止まったレティシア達に驚きユウヤが振り向いて事情を尋ねようとすると、マユリが申し訳なさそうな顔で答えた。


「えっと、お金は……少ししか残ってないの」

「別に金が無いのは良いが、どうして少ししか残ってないんだ?」


 ユウヤの問いにレイラが少し俯いて答えた。


「実は、あの島には冒険者としての仕事が少なく、二年の間も仕事は定期的にしていたのですが、長距離の旅を頻繁にするほどのお金は稼げずに貯金を減らすしかなかったのです」

「ああ、なんとういうか、みんなに苦労かけて悪かったな」


 レイラの説明を聞いてユウヤは仕事もせずに修行をずっと続けていたことに申し訳なくなり四人を見て謝った。

 ルクスは謝るユウヤに近づいて肩に手を置いて返した。


「気にするな。お前もやるべきことをやってたんだから、謝る必要はないさ」

「んー、取り合えず冒険者ギルドに仕事探しに行くか?」

「食料を買うお金はないから、包帯や薬だけ先に買ってからにしましょ」

「そうだな、そうするか」


 レティシアの提案に賛同してユウヤ達は包帯や薬を買った後、冒険者ギルドに向かった。

 冒険者ギルドに入ると多くの冒険者らしき人達が集まっており暗い顔で近くにいる人と話していた。

 受付の人達も慌ただしく動き回って作業をしていた。


「何かあったのかな?」

「さあな、かなりの数の冒険者が集められてるみたいだが」

「危険な魔物が出たのかもしれないわ」

「見た感じAランクまでしかいないから、対処に困ってるってことか」

「少し話を聞いて来ます」


 レイラはユウヤ達から離れて受付に移動し、受付の人に状況を聞きに行った。

 受付と少し話した後レイラは職員を連れて戻って来た。


「ギルドマスターの部屋に案内しのでついて来てください」


 職員の案内について行き部屋の前に来て受付が扉を数回叩いて中からの返事を聞いて扉を開けた。


「こんな忙しい時に何の用だ!」

「Sランク冒険者の方が状況を教えて欲しいとのことです」

「何だと!?」


 怒鳴るようなギルドマスターの声に案内してくれた職員は怯むことなく要件を述べた。

 職員の言葉を聞いたギルドマスターは職員の後ろにいたユウヤ達に驚いた顔を向けた。


「ほ、本当にSランク冒険者なのか?」

「ああ、俺達全員Sランクだ」


 ギルドマスターの問いにユウヤが代表して答えた。

 ユウヤの言葉を聞いてギルドマスターは安堵した様子で椅子に座り直した。


「悪いが時間がないんだ。状況を説明するから座ってくれるか」


 ギルドマスターに言われた通りに部屋の中にあった二つのソファーにそれぞれ分かれて座った。

 ソファーに座ったユウヤ達はギルドマスターに視線を向けて説明を促した。


「一時間くらい前にここから西に少し行ったところにある森で魔物の大群が目撃された。大群はかなりの速度でこちらに向かって進んできているそうだ」

「どのくらいの数がいるんだ?」

「正確な数は分からない。確認された限りでは森に普段いる魔物の量の二、三倍はいるそうだ。種類も狼や熊、オーガにゴブリンと複数の魔物による大群だ。今は罠やバリケードで足止めしているが、すぐに破られるだろう」

「なるほどな」


 ギルドマスターの説明を聞いてユウヤはレティシア達の顔を見て問いかけた。


「大群の討伐を受けるで問題ないな」


 ユウヤの確認に全員が頷いて返し、それを確認したユウヤはギルドマスターに視線を戻して話しかけた。


「ということだ」

「受けてくれるのか?」

「ああ、魔物討伐くらいいつものことだ」

「ありがとう。成功報酬は出来るだけ用意しよう」

「それじゃあ、俺達はもう行くぞ」


 ユウヤ達はソファーから立ち上がり、部屋から出ようとしてユウヤが思い出したように振り向いてギルドマスターに話しかけた。


「言い忘れてたが、大群の討伐は俺達だけでやるから他の冒険者は町の中に避難させておいてくれ」

「な!?たった五人で魔物の群れと戦うと言うのか!?」

「ええ、下手に人が多いと巻き込む可能性があるから、町の中にいてくれた方が助かるわ」

「だから、私達だけで大丈夫だよ」

「……」


 ユウヤの言葉に驚いて問い返したギルドマスターにレティシアとマユリは微笑んで返し、驚いているギルドマスターを一人残して部屋から出て行った。

 レイラとルクスは三人の態度に少し呆れて苦笑しながらも特に否定せずに後を追って部屋から出た。

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