第94話 死の女神
ユウヤの修行が終わった翌日、ユウヤはいつも通りの時間に起きいつもの道着ではなく、冒険者として旅をしていた時に来ていた服に着替えて台所に向かった。
台所に着くとすでにイザナミがいて、朝食を作っている途中だった。
「おはよう、ユウヤ」
「おはよう。俺も手伝うよ」
「ありがとう」
ユウヤは手を洗いイザナミと軽い雑談をしながら調理の手伝いを始めた。
二人は朝食を作り終わると、居間に料理を運び準備を終えいつも通り食べ始めた。
朝食を食べ終わるとイザナミは食器をすぐにまとめ、片付けを始め出した。
「どうしたんだ?今日はやけに早く片付けを始めるな」
「ええ、これから少し用事があるの」
「俺も何か手伝おうか?」
「いいえ、大丈夫よ」
ユウヤの提案をイザナミは断ると、イザナミは食器を持って立ち上がった。
「食器は台所に運んでおくから、洗うの頼めるかしら?」
「ああ、分かった」
「ありがとう。それじゃあ、よろしくね」
イザナミはユウヤに御礼を言うと食器を持って居間から出て行った。
いつも自分からは何も頼んでこないイザナミの頼み事を珍しいなとユウヤは思いながらお茶を飲んで一息ついた後、台所に向かい食器を洗いを始めた。
食器を洗い終わったユウヤは、居間に戻り入れ直したお茶を飲んで一息ついた。
「さて、これから何をしようか」
ユウヤはやることが完全になくなりこれから何をしようか考え始めた。
イザナミに一週間の間しっかりと休憩して魔力を安定させるように言われたユウヤはこれから一週間の間特にやることが無かった。
「一週間休憩しろって言われても、やること無くて暇なんだよな……」
一時間近くの間ユウヤはやることを考えたが、結局何も良い考えが浮かばず諦めたユウヤはお茶を入れ直して縁側に移動した。
ユウヤは縁側に座り木々の隙間からわずかに見える町や町の向こう側に広がる海などを眺めながら日差しの暖かさを感じながらお茶を飲みながらのんびりと過ごした。
「こんな風にのんびり過ごすの初めてかもな……」
ユウヤはこれまでの生活を振り返りながら過ごしていると、いつの間にか眠っており昼前に用事を終えて帰って来たイザナミに起こされた。
「しっかりと休憩してるみたいね」
「ん……ああ、用事は終わったのか?」
イザナミに起こされたユウヤはイザナミを見て欠伸して体を軽くほぐしながら問いかけた。
「ええ、今日のところは終わったわ」
「明日もあるのか?」
「明日もって言うより、一週間ずっとかな」
「それは大変そうだな。俺も何か手伝えるといいんだが……」
「村を離れるための準備だから気にしなくていいわ」
ユウヤの言葉にイザナミはいつものように優しい微笑みで返した。
イザナミの顔を見たユウヤは呆れたよう安心したようなため息をついて返した。
「そうか。何か手伝えることがあったらいつでも言ってくれ」
「分かってるわ。それからそろそろ昼食を食べましょうか」
「そうだな」
それから一週間ユウヤは午前中は縁側でのんびりと過ごし、午後はイザナミと話しながらしっかりと休んで過ごした。
一週間の休憩でユウヤの魔力は完全に安定し、修行の疲れも完全に取れていた。
万全の体調になったユウヤはイザナミと一緒に山頂の洞窟の最奥にある黒い水晶が置かれた祠の前に来ていた。
「それじゃあ、斬るぞ」
「いつでもいいわよ」
ユウヤはイザナミの返事を聞くと、刀を抜いて黒い水晶を斬るために全神経を集中させ始めた。
ユウヤが集中し始めたのを見てイザナミはユウヤの邪魔にならないように後ろに離れた。
全神経を黒い水晶を斬るための一太刀に集中させたユウヤは刀をゆっくりと持ち上げて勢いよく振り下ろした。
ユウヤの一太刀で黒い水晶は黒く変色しボロボロになっていた祠ごと綺麗に真っ二つに斬れた。
真っ二つに斬られた黒い水晶は粉々に砕け、粉々に砕けたかけらは黒い煙に変わりイザナミが作り出した光の球を飲み、ユウヤの横を通り抜けて洞窟の外に向かってかなりの速さで飛んで行った。
「イザナミ、今のは一体!?」
ユウヤは黒い煙が飛び去った後、イザナミに確認を取るために振り返るが、先ほどまで居たイザナミがいなくなっていた。
イザナミが居なくなっているのを見て嫌な予感がしたユウヤは真っ暗な洞窟の中を魔力感知で探索して全力で走り抜けた。
「イザナミ、無事か!?」
洞窟から出たユウヤはイザナミの姿を見つけて声をかけるが、返事が返ってくる前に辺りの異常に気付いた。
ユウヤとイザナミが洞窟に入ったのは朝食を食べた後で時間はまだ昼前のはずだが、空は真っ暗で星や月の光すらなかった。
「どういうことだ!?」
ユウヤはあまりの異常事態に辺りを見回しながら驚いているが、イザナミに驚いている様子はなくゆっくりとユウヤの方に振り返った。
「ありがとう、ユウヤ」
「!?……お前」
ユウヤは落ち着いていてどこか嬉しそうなイザナミの顔を見て、目を細めてイザナミを睨みつけた。
「死の力に取りつかれたわけではないわよ」
「騙していたのか?」
「ええ、私が力を取り戻すためにはどうしても必要だったのよ」
「じゃあ、お前が……」
ユウヤはイザナミに騙されていたということを聞かされて悲しそうな顔で睨みながらイザナミに殺意を向けた。
イザナミはユウヤの反応にいつもの優しい微笑みとは違い、嘲笑うような見下したような微笑みを浮かべて返した。
「そう、私が死を司る女神イザナミ」
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