第79話 魔力の修行

 ユウヤは剣技の修行を続けて三か月が経ち、季節は春になった。

 ユウヤとイザナミは午前中朝食を食べた後、いつも通りに裏庭で剣技の修行を始めた。

 ユウヤの剣技はこれまでの半年近い修行により、速く正確くに流れに任せて舞うように綺麗に型を繋げられるようになっていた。

 イザナミはユウヤの剣技を見て少し微笑みながら薪を飛ばしていった。


「ん?」


 いつものように剣技を続け薪を斬っていたユウヤは少し違和感を感じて、僅かに目を細めた。

 ユウヤが薪に集中して斬っていると、違和感の正体に気づき目を見開いた。


(薪の速度が少しずつ上がってる)


 ユウヤは飛んでくる速度が上がるにつれて剣技の速度を少しずつ上げていくが、次第に速度についていけなくなり薪を斬り損ねる。

 ユウヤは構えを解いて呼吸を整えてイザナミに視線を向けて問いかけた。


「さっきのはなんだ?」

「今日から魔力増加の修行を始めるからね。剣技の修行も発展させたのよ」

「どういう修行なんだ?」

「剣技を繋げることは十分に出来るようになったわ。だから、これからは少しずつ速度を上げる修行よ」

「なるほどな」


 ユウヤはイザナミの言葉に納得し、刀を構え直した。


「それじゃあ、続けようか」

「ええ、今度はさっきより速い速度から初めてゆっくり上げていくわよ」

「分かった」


 ユウヤは軽く息を吐き、イザナミが薪を飛ばしてくるのを待った。


 剣技の修行を昼まで続けた二人は建物に戻り、昼食を食べた。

 二人は昼食の片付けを終えて、イザナミが舞の練習をしていた広い部屋に来た。


「じゃあ、修行を始めるわよ」

「それはいいが、魔力ってどうやって増加させるんだ?」


 ユウヤがイザナミに問いかけると、イザナミは部屋の中心辺りで正座して座った。


「ユウヤも座りなさい」

「ああ」


 ユウヤがイザナミの前に胡坐で座り、イザナミの顔を見た。


「普通の修行は魔力を体内に留め続けて制御能力を上げるわ」

「普通?」


 イザナミの説明にユウヤは首を傾げた。


「あなた、自分の体質も忘れたの?」

「いや、忘れてないが……ああ、そういうことか」

「ええ、あたなは体内から魔力を排出できない。だから、魔力を少量無理矢理に生成して制御出来るようになったらまた少量生成するの繰り返しよ」

「分かったが、どうやって魔力を生成すればいいんだ?」


 イザナミはユウヤに近づいて胸に手を当てながら話し出した。


「呼吸を整え意識を集中させて」


 ユウヤはイザナミに言われるがままに呼吸を整えて意識を集中させた。


「目を閉じて意識を体の中に向けなさい」


 ユウヤが体の中に意識を集中させると、ユウヤは自分の中を綺麗に流れる膨大な量の魔力をより鮮明に感じた。


「次は魔力の元を探して、そこから魔力を無理矢理生成するの」


 体の中に流れる魔力の元を探し、イザナミの予想より早く見つけた。


「見つけた」

「そこから少しずつ慎重に魔力を生成するのよ」

「分かった」


 ユウヤはイザナミに言われた通りに魔力を慎重に少しずつ生成するイメージを持って生成した。

 イザナミはユウヤが生成した魔力の量に驚き少し冷や汗を流した。


(一般的な魔導士の魔力量を一瞬で生み出すなんて)

「体の調子は大丈夫?制御しっかりと制御出来ている?」


 イザナミの問いにユウヤは目を開けて、体の調子を確かめた。


「ああ、問題ない。この程度なら意識しなくても大丈夫そうだ」

「そう。意識しないと体が少し痛むくらいまで魔力を生成して」

「分かった」


 イザナミに返事を返したユウヤは、目を閉じて少しずつ魔力を生成し始めた。


(あれほどの魔力を生成して問題ないなんて、恐ろしく丈夫な身体。初めて意識的に魔力を生成したのに完璧に感覚を覚えて、より細かい調整まで出来るようになり始めてる)


 イザナミはユウヤの常識外れの魔導士としての才能に驚き、ユウヤの胸から手を離した。


(もし、ユウヤが魔導士になっていたら、私の修行など必要なかったでしょうね。あの呪いが必死になって潰しにかかるわけね)


 イザナミは息を深く吐いて心を落ち着かせてユウヤを見た。

 ユウヤは魔力の生成が終わり、目を見開いた。

 イザナミに言われてユウヤが生み出した魔力量は一般的な魔導士の魔力量の十数倍の極大魔法一発分に近い魔力を生み出した。


「本当に恐ろしい才能ね」


 イザナミはユウヤに聞こえないくらいに小さな声で呟いた。


「それで魔力を生成したが、これからどうするんだ?」

「魔力を制御し魔力を操作して循環させ、魔力操作と制御を鍛えてもらうわ」

「分かった」


 ユウヤは目を瞑り、イザナミの指示通りに魔力を制御し操作して循環させ始めた。

 効率的な身体強化のために魔力操作能力を鍛えていたユウヤは恐ろしい速さで体中に魔力を循環させ、さらに速く正確に循環させようと意識をさらに集中させた。

 イザナミはユウヤを見ながら自分も同じように目を閉じて意識を集中させ始めた。

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