第75話 ユウヤの剣技
ユウヤはイザナミと普段修行をしている裏庭で刀を抜き呼吸を整えて集中していた。
そんなユウヤの姿をイザナミは何も言わずに動きを見逃さないようにただじっと見つめていた。
ユウヤはイザナミが見ていることを一瞬だけ視線を向けて確認して、イザナミの舞の参考に考えた敵を倒すための剣技を刀を力強く握りしめて舞始めた。
ユウヤは左から右へ横一字に薙ぎ払い、横なぎをした刀の勢いを殺さずに右腰下に刀を下げ、右下から左上に斬り上げた。
八の字を描くようにして勢いを殺さずに刀を先ほどとは反対の左腰下に下げて左下から右上に斬り上げを行い再び右腰下に刀を持って来た。
そこから左足を前に出して真下から真上に斬り上げ、刀を返して真上から真下に斬り下ろした。
振り下ろした勢いを殺さずに刀を右腰下に持って行き、また右下から左上に斬り上げ、今度は頭上に弧を描くように右上に刀を移動させて左下に向かって振り下ろした。
振り下ろした刀の勢いを殺さずに左から右へ横なぎをして全く同じように繰り返した。
「これって……」
イザナミはユウヤの剣技を見てユウヤが組み合わせの参考にしたものが何かを理解した。
ユウヤは刀を鞘に納めてイザナミに近づきながら、イザナミに話しかけた。
「ああ、昨日の夜見たイザナミの舞を参考にしたんだ」
「やっぱり」
「それで何か思ったことはあるか?」
「今のところは問題ないと思うわよ。今までに修行したこともしっかりといかせているわ」
「そうか。良かった」
ユウヤはイザナミの言葉に胸をなでおろした。
「けど、まだ実戦で使えるほどの速度では無いから、明日からの修行でもっと速くつなげられるようになってもらうわ」
「あ、ああ、頑張るよ」
ユウヤはイザナミの微笑みながらの言葉に少し引きつった顔で返した。
「それじゃあ、明日からの修行のために今日はゆっくりと休みましょう」
「そうだな」
ユウヤはイザナミと並んで建物の中に入り、昨晩あったお祭りの会場が見えるイザナミが舞を練習していた広い部屋に移動した。
二人は部屋のお祭り会場が見える方向にある戸を開け、戸の近くに座ってお祭りの会場を眺めながらイザナミと話始めた。
「昨日のお祭りは楽しめた?」
「昨日も同じこと聞いてたぞ」
「そうだったかしら?」
「ああ」
イザナミは同じ質問をしたのかと思い出しながら首を軽く傾げた。
そんなイザナミを見てユウヤは少し呆れ微笑みながら頷いて返した。
「そういえば、お祭りが終わった後聞いたわね」
「思い出したか、それにしても珍しいな普段はこんなことないのに」
「昨日は舞を舞って少し疲れてたから、ちょっと眠たかったのよ」
「そうだったのか。言ってくれれば風呂の準備とかしたのに」
イザナミの言葉にユウヤは少し目を見開いてイザナミの目を見ながら少し心配しながら言った。
「大丈夫よ。夕食を買っていてくれたおかげで作らなくて良くなったから、少し休めたわ」
「それならいいんだが、次は疲れてるなら言ってくれよ。お前には鍛えてもらってる上に普段世話になっているからな」
「気にしなくていいのに」
ユウヤは遠慮して微笑み胸の前で両手を軽く振りながら言うイザナミに少し呆れてため息をついた。
「別にお前のためだけじゃない。お前の体調が良くないと、俺の修行がはかどらないだろ」
「……そう、そうね。次からは疲れてたら言うわ」
「ああ、そうしてくれ」
イザナミはユウヤの言い方に余計な気を遣わせたと思い、少し目を瞑って俯き考えた後、次からはユウヤの気遣いを素直に受け入れようと決めながらユウヤに返した。
「ねえ、ユウヤの仲間のこと聞かせてくれない」
「仲間のこと?別にいいが、急にどうしたんだ?」
ユウヤはイザナミの突然の問いに少し戸惑い理由を聞き返した。
「ちょっと気になってね。ユウヤの仲間ってどんな人たちなのかなって」
「そうだな」
ユウヤはイザナミから視線を外して開けた戸から外を眺め、僅かに見える階段の下の村を見ながら仲間のことを話し始めた。
「まず、妹や姉のような家族ような存在が一人、次は付き合いは長くないが親友が一人、そしてその親友を守ってくれてる精霊が一人、後は元々Sランク冒険者だった頼れる奴が二人だな」
「妹や姉のようなってどういう?」
「血のつながった家族じゃないんだ。同い年なんだが、護ってやらないといけない妹のようで、凄い才能を持ってる頼りになる姉のようでもある奴なんだよ」
「へえ、護るってことは弱い子なの?」
ユウヤの説明を聞いたイザナミは気になったことを問い返すと、ユウヤは肩を竦めて首を横に振った。
「いいや、強いよ。大魔導師って呼ばれた母さんが褒めるほどすごい魔導士なのに、昔から俺と近接戦で多少なら戦えるくらいは強かったからな」
「じゃあ、どうして護る必要があるの?」
イザナミの問いにユウヤは少し悩み、少しだけ暗いかを浮かべて返した。
「昔あいつを魔物から助けた後に言われたんだよ。私が死んだ方が良かったって。その時に思っただ誰かが守ってやらないといけない奴なんだって」
「今でもそうなの?」
「さあな。ずっと一緒に居たのに今でもあいつのことを理解してやれない。俺はあいつを護れてるのか、逆に俺が護られてるのかもわからん」
イザナミの問いに微笑みながら返したユウヤの目を少し悲しそうだった。
「どっちでもいいんじゃない」
「え?」
イザナミの言葉にユウヤは驚き目を見開いてイザナミの顔を見ると、優しい微笑みを浮かべて続けた。
「ユウヤが本当にその子を理解しようとして、護ろうとしているならそれでいいじゃない」
「どういう……」
「ユウヤは人間なんだから、何でも完璧に出来るわけじゃないわ。全力を尽くしても出来ないことは最初から出来ないことなんだから、それがどんなに辛いことでも受け入れるしかないのよ」
「それはそうだが……」
イザナミの言葉にユウヤは苦い顔をして俯いた。
「ただ、全力で全てを尽くして出来なかったなら、絶対に後悔することはないわ。全力を出して後悔しなければ、私はいいと思うわよ」
「けど、俺は師匠を殺されたことは今でも辛いし、悔しくて何も出来なかった自分が許せない」
暗い顔を見せないように俯いているユウヤにイザナミは立ちあがって近づき、近くに座りユウヤを優しく抱きしめて頭を撫でた。
「仮にユウヤに師匠を殺した相手に倒す力があったとしたら、ユウヤはこんな風に生きていられる?何もしなかった自分を許せる?」
ユウヤはイザナミに言われたことを実際に考えたことで、息が詰まったように胸が苦しくなり龍壱の死体を見た時以上に辛く苦く吐きそうな感覚に襲われた。
「出来たのにしなかった。それは自分のせいで起きたと変わらない、後悔って言うのは自分の犯した罪を理解し過ちを認めること。だから、後悔しないようにやらないといけないと思ったのなら全力で頑張りなさい」
「俺は全力で頑張れてるのかな?」
「それは私にも分からないわ。けど、頑張った分だけ後悔は減るわ」
「……そうか。ありがとう」
「いいのよ。私は神なんだから、頼ってくれていいのよ」
イザナミは優しく微笑みながら優しい声音でユウヤの頭を撫でながら話した。
「もういいよ、イザナミ」
「そう?もう少し間このままでもいいのよ」
「もう大丈夫だ。これ以上は恥ずかしいからやめてくれ」
「そう」
イザナミは少し名残惜しそうな声で呟いてユウヤを放した。
ユウヤは恥ずかしく赤くなった顔を見られないように、視線を外に向けて顔を逸らした。
それからユウヤは黙っていると気まずいと思い、気を紛らわせるために適当は話を振って日が暮れるまでの間を過ごした。
日が暮れてからはイザナミに抱きしめられていたことを思い出さないようにしてユウヤはいつものように夕食を食べて風呂に入り、早いうちに眠った。
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