第72話 お祭り

 お祭りの日、当日朝早くからユウヤとイザナミは起きて朝食を急いで食べ、二人は祭りの準備を始めた。

 奉納の舞を舞うための演舞場や屋台の木材を倉庫から取り出して、階段を上がってすぐの建物まで道の横に並べた。

 倉庫の中の木材を運び終わるころにたくさんの男たちと数人のユウヤと同い年くらいの女性が階段を上って来た。


「おはようございます。イザナミ様」

「おはようございます。皆さん」


 上がってきた人たちはイザナミに深く頭を下げて挨拶し、イザナミも軽く頭を下げて挨拶した。

 挨拶が終わると上って来た村の人達はユウヤを見つけて代表者のような男がイザナミに話しかけた。


「イザナミ様、あの男は?」

「ああ、彼はユウヤと言って泊まり込みでいろいろと手伝ってもらってるんです」

「そうなんですか。大丈夫なんですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。彼がいくら強くても私を傷つけることは出来ませんから」

「しかし……」


 イザナミの言葉に男は疑うような目でユウヤを見るが、イザナミは笑顔で話を変えた。


「それより、今日は年に一回の祭りですから皆さん楽しみましょう」

「……そうですね」


 男は少し考えたが、イザナミの顔を見て笑顔で返した。

 そこから男の意地で男たちとユウヤは屋台や演舞場を組み上げていき、昼頃にはすべての組み立て終わった。

 数人の女性たちはイザナミについて建物の中に入り、普段イザナミが着ているのと同じ巫女服を着てイザナミの身の周りの手伝いしに行った。


「いやー、兄ちゃん力強いね~」

「そのくらいしか取り柄が無いもので」

「そんな謙遜しなさんな」

「そうや、その歳でSランク冒険者なんて簡単になれるもんじゃないぞ」

「師匠が良かっただけですよ」


 ユウヤは村の男性たちと屋台などを組み立てている間に仲良くなり、組み立て終わると休憩の間話していた。

 手伝いに来た村の人達は昼になると、皆階段を下りて家に一端返っていった。

 ユウヤは村の人が返るのを見送って建物に入り、イザナミを探した。

 ユウヤがイザナミを見つけると、イザナミはいつも違い髪を豪華な髪留めでまとめ豪華な髪飾りをいくつかつけていた。


「おう、昼食の準備どうする?」

「お手伝いの子たちが作ってくれたわ。一緒に食べましょう」

「そうだな。それにしても綺麗な髪飾りだな」

「ありがとう。けど、この髪飾り重いのよね」

「それ舞のための髪飾りだろ」

「ええ、それより時間もあまりないから早く食べましょ」

「それじゃあ、急ごうか」


 二人はいつもご飯を食べている居間に行くと、机の上に二人分の昼食がすでに用意されていた。

 二人はいつもの通りに座布団に座り、普段より早めに昼食を食べた。


「そういえば、剣技の組み合わせは決まった?」

「いや、まだだ。なかなか上手くつながらなくてな」

「別に最初は上手くつながらなくていいのよ。基本的な組み合わせが決まれば、後は反復練習を繰り返せば自然に繋がるようになるわよ」

「そういうものか?」

「そういうものよ。イメージしやすい組み合わせなら何でもいいわ」

「分かった。明日までに決めておくよ」

「今日はお祭りなんだからゆっくりしてていいのよ。明日片付けしてる間に考えてくれればいいわ」

「分かった」


 二人は昼食を食べ終わり、食器の片づけをしてユウヤはこれからの予定をイザナミに聞いた。


「これから俺はどうしたらいいんだ?」

「もう準備は終わったようだから、後はお祭りを楽しんでいてくれればいいわ」

「それだけでいいのか?」

「ええ、もしかしたら仲間の人も来るかもしれないしね」

「それもそうだな」

「それじゃあ、お祭り楽しんでね」

「分かった」


 ユウヤはイザナミと別れて建物から出てお祭りの会場を歩いて見ていると、少しずつ午前中の村の人達が返ってきて屋台の準備を始めた。

 すべての屋台が準備をして何店か準備が終わった屋台が売る準備をしてお客が来るのを待っていると、子供を連れた女性や男女のグループが上がってきた。


「もう人が来始めたか」


 ユウヤは空を見ると日は傾いているが、まだ明るく日が沈むまでに二時間近くありそうだった。


「あ、ユウヤ~」

「ん?」


 ユウヤは聞き覚えのある声が聞こえた方に顔を向けると、マユリが手を振りながらこっちに向かって歩いて来ていた。

 マユリの後ろにはレティシアやレイラ、ルイスも一緒に近づいて来ていた。


「おう、久しぶりだな」

「久しぶり、ユウヤ」

「今日は祭りを楽しみに来たのか?」

「それもあるが、ユウヤがここにいることは分かってたから情報の共有にな」

「なにか進展があったのか?」


 ユウヤが問いかけると、レティシアは頷いてから話し始めた。


「秘薬が取れる場所はここからかなり離れた場所だってこと、周りに強い魔物が大量にいて取りに行けないってことが分かったわ」

「詳しい場所は分かったのか?」

「詳しい場所は分からなかったわ。だから、実際に行って情報を集めてみようと思ってるわ」

「分かった。出来たら秘薬の確保も頼む」

「ユウヤは来ないの?」


 レティシアと話していると、レイラがユウヤに問いかけた。


「ああ、俺はまだここで修行をしていく」

「ユウヤも一緒に行こうよ」

「悪いな、マユリ。この二か月程度で前より格段に強くなれたが、まだ教わることがたくさんあるからもうしばらく修行させてくれ」

「そう……分かったわ。私も次に会う時までにもっと強くなるわ」

「頑張れよ」


 ユウヤはマユリの顔を見て微笑むと、全員の顔を軽く見て話し始めた。


「今日は祭りだ。楽しんでいこうぜ」

「そうだな。肉食べたいんだが、いい屋台あるか?」

「探せば見つかるだろ」


 ユウヤはルクスと話しながら五人で屋台を見て回り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る